天を目指して
塔は、螺旋階段が延々と続く構造をしていた。
時折広い部屋に出ることもあり、そこで休憩を挟みながら、イルとイシスは高い塔を少しずつ登っていった。
イシスが移動のタイミングを図ってくれているお陰か、彼らが移動する間、衛兵に発見されることはなかった。
地上が随分と離れた頃──
今までの部屋とは、少々構造が変わった場所に2人は到着した。
外に繋がる出入り口があり、そこから別の建物に続く屋外通路が伸びているのが見える。
道幅は、かなり広い。柵の類はないが、万が一此処で戦いになっても、足を踏み外すことはまずないだろう。そのくらいの広さがある。
通路の果ては別の塔に繋がっており、そこから更に、上層に行けるようになっているようだった。
「……此処までで、大体半分くらいだ」
イシスは屋外通路を指差して、そちらに行くようにイルに促した。
移動している間に、多少は体力が戻ってきたのだろうか。現在のイシスは、イルと出会った頃と比較すると随分と足取りがしっかりしていた。
「此処まで来れば、衛兵はいない。多少はゆっくり登っても大丈夫だ」
「イシス兄」
室内を移動しながら、イルはイシスに尋ねた。
「武器は……どうしたんだ? あれだけ色々あったのに」
「…………」
訊かれたくないことだったのか、イシスの表情が曇る。
2人が部屋の出口まで足を運んだ時、ようやく、彼は開口した。
「……命の代わりに武器がなくなっただけで済んだのは、運が良かったことなんだろうか」
「……何か、ごめんな」
「いや……構わない」
部屋の外に出ると、高所ならではの強風が2人を包み込んだ。
改めて足場の高さを実感し、イルは深く息を吸う。
衛兵がいないとはいえ、それが戦う相手がいないという意味には繋がらない。いつ何処から襲撃されても良いように、イルは大剣を召喚して、それをしっかりと握り締めた。
「……それが、お前の剣か」
初めてイルの武器を目にしたイシスが、感心の声を漏らす。
「……良い武器だな」
「──イシス・プライウェル」
「!……」
降って沸いた声に、イシスの表情が強張った。
2人の行く手。通路の中央に。
セーフェルを攫って姿を消したはずの老賢者が、杖をついて佇んでいた。




