勇者の決意
イルは、これまでに身の上に起きた出来事を全てイシスに話した。
自分が、セーフェルに見初められた神の力の継承者であること。
この姿は、ドミヌスの能力によって手に入れた特別な姿であること。
イシスの旧友と名乗るゼノヴィアの協力を得て、此処まで来たということ。
此処に来た目的は、イシスの救出と、魔王討伐のためであること。
「…………」
全てを聞き終えて、イシスは視線を伏せた。
苦悩と、後悔。そのような負の感情が入り混じった表情をして、座り込んだ己の膝の辺りに目線を這わせる。
「……俺が、不甲斐ないばかりに……お前まで、そのような目に遭わせてしまうとはな」
「そんなこと言わないでくれよ」
イルはかぶりを振った。
「イシス兄……オレが、絶対に魔王を倒してみせるよ。約束する」
イシスの背を労わるように撫でて、辺りを見回した。
「セーフェルが攫われたんだ。悪いけど、オレ、行かなきゃ。イシス兄は、安全な場所に隠れててくれよ」
人が身を隠すのに丁度良さそうな物陰を探すが、廊下にはその都合の良さそうな隙間はない。
かといって部屋に身動きが取れない状態のイシスを置いておくのにも、抵抗があった。
やはり此処は庭の植え込みの陰が妥当か、と腰を浮かしかけたところで、イシスの掌がイルの手を掴んだ。
くっと引き寄せられ、イルは動きを止める。
「……イシス兄?」
「……俺も、一緒に行く。行かなければならない……頼む、連れて行ってくれ」
「……え?」
唐突の申し出に、イルは間の抜けた声を発した。
イシスはゆっくりと、眼前に伸びる廊下の先に目を向けた。
「武器は全て失ってしまったが……まだ、知識がある。俺なら衛兵に気付かれずに、お前を上の階まで運んでやることができる」
上の階、というのは、おそらく神がいるであろう場所のことを指しているのだろう。
「頼む。イル」
「…………」
イシスは本気だ。
何が彼をそこまで動かそうとするのかは、イルには分からない。しかし大切な兄の本気の申し出とあっては、イルは断るに断れなかった。
本当は、戦いが終わるまで安全な場所にいてほしかったのだが──
分かった、とイルは頷いた。
「オレの傍から、絶対に離れないでくれよな」
「……ありがとう」
ふらつきながらも、イシスは立ち上がる。
気分悪そうに胃の辺りを手で押さえ、頭を振り、彼は自分が歩いてきた方向を視線で指し示した。
「向こうに、中庭に抜けられる道がある……そこから中庭に出て、中央塔まで移動するんだ。そこの最上階──そこに、王の間がある」




