高校生ユーリ~3年生~④
ユーリはセリフが無くなった代わりに、衣装製作や小道具の修理など、雑用を積極的にこなしました。
「いいのにー、ユーリはキャストなんだからー」
「俺らキャストが嫌でこれ作ってんのに、手伝ってもらっちゃってありがたいわー」
「いいの、いいの・・・・・・あ、あ、あ、ああたしが、やりたいから」
そして文化祭の劇は無事に終わり、ユーリ達のクラスは劇部門の最優秀賞に選ばれました。
裏で売っていたパンケーキも大好評。
担任の先生が購買部で全員分のコロッケをお祝いに買ってくれ、ジュースと合わせてみんなで乾杯しました。
「・・・えーと、この有機化合物の電気分解の式は・・・」
「この地域の名前、なんだっけ・・・」
「うっは、ここの文法昨日やったのに思い出せん・・・」
文化祭が終わると、ユーリ達3年生は一気に受験モードです。
学年で見ると、ポツポツと私立の指定校推薦で決まる子が出てきているのですが、E組からは滑り止めの専門学校に合格する子が出ているくらいです。
国公立の推薦入試のための選抜が、もうすぐあります。
3年の校舎は、心なしかぴりぴりした空気が流れています。
「ねーユーリー・・・明日模試だねぇ・・・今月2回目の」
「あ、あああ明日は、ああ朝7時に駅集合、だよね?」
「うん!朝はやーい寝坊しそう・・・」
(今月2回目かー・・・なんか時間経つの早いなぁ)
明日は、地域にある大学で、みんなそろって模試を受けなければならないのです。
志望校に届くか届かないかという成績のクラスの大半は、どよーんと不安げな様子です。
(うぅ・・・この前の模試悪かったから、私は頑張らなきゃ・・・なのに)
「おい大雅、バトルしようぜ!」
「ふっ、カードマスターの俺に勝負を挑むか・・・いいだろう挑戦者裕也、お前の勝負買ってやるっ!」
「流と俺が組んだデッキ、見て驚くがいい・・・ふふ、ふふふふ・・・・はっはっはっはっは」
「フン、闇の力の恐ろしさの前にひれ伏すがいい・・・」
(・・・なんで?なんなの?この差・・・)
・・・偏差値的に余裕のある男子の間では、カードバトルと中二病ごっこが大人気です。
「たまにさ、無性にあいつら殴りたくなる時があるんだよね、私」
「わかる、わかるよ紅葉。私は止めない」
離れて見ている女子たちの心は荒んでいきます。
「いっそ偶然装ってバトル繰り広げるあの机ひっくり返そうか」
「やめなって楓、中二病同士の争いが始まってめんどくさいだけよ」
「よしユーリ、あの男子群の中にダイブしてこい」
「い、いいいいいいいい、む、むむむ、無理!」
3年E組医療クラス、今日も平和です。
翌日、ユーリは駅でクラスメイト達と待ち合わせ、みんなで試験会場に向かいました。
「学校ごとに進路の種類別かー・・・ほんっとE組以外と顔合わせないよね、医療系うちだけだし」
「ほ、ほほんとだね」
(村田君とか、あいちゃんとか、春海とかマイとか、全然会えなくなっちゃったもんな・・・)
黒板に貼ってある座席表を確認し、ユーリは自分の座席に座って準備を始めました。
前後は、出席番号の前後の子です。
(えーっと、鉛筆と、消しゴムと・・・)
すると、ぽんぽんと肩を叩かれ、
「ねぇ」
と声をかけられました。
(・・・?)
ふっとユーリが顔を上げると、どこかで見たような気がする・・・女の子が、立っていました。
(この制服・・・どこだっけ)
「・・・ユーリ?」
「え・・・・・・」
ユーリが返事に困っていると、女の子は机の上に置いてあるユーリの受験票に気付き、覗き込みました。
「・・・ユーリ!やっぱユーリだ!ねぇあたしのこと覚えてる?とわだよ、とわ」
「・・・っ・・・と、と、とぉ・・・っ・・・と・・・わ、ちゃん?」
小学校で一緒だった、祭都和ちゃんです。中高一貫の有名な私立高校に通っています。
「わー!ここで会えると思わなかった!さっきトイレであいに会ってね、ユーリがこっちにいるよって教えてくれたの!」
「と、ととととと、わちゃん・・・ぉわちゃん、だ・・・」
「ユーリ看護師さんになるって言ってたもんねー。夢叶えるんだ、いいなぁ」
「ととととと・・・ぉわちゃんは?」
(確か・・・調理師になりたいって、言ってた気がするけど・・・)
「あたしは、調理師はやめた。一応獣医目指してるんだけど、ちょっと家で揉めててねー・・・」
「そ、そそそうなんだ」
祭家は、先祖代々引き継いできた神社で宮司を務めています。
都和ちゃんは4兄妹の3番目なのですが、一番要領がよく成績も良いので、親戚たちは都和ちゃんを後継ぎに・・・と考えているようです。
「両親は、獣医応援してくれるんだけど・・・じい様ばあ様がうるさくて。兄貴が継ぐ覚悟決めてるんだけど、まだあたしが目をつけられ続けてるの」
(・・・いろんな家があるんだなー。大変だぁ・・・)
咲野家は、カガリが国公立大学に進学できたのでユーリもできれば国公立に・・・そうすればユイトが私学でも大丈夫、というくらいです。
カラカラ、と音がして、試験監督の先生がたが入ってこられました。
「あ、先生だ。じゃあねユーリ、受験終わったら遊ぼ!」
都和ちゃんは、スカートをひるがえすと自分の席に帰って行きました。
「・・・ユーリ、友達?」
「う、うん」
後ろの席の、清水美紀ちゃんが小声で話しかけてきてくれました。
「はー千峯学院かー・・・めっちゃ頭良いとこじゃん。ほら見てみ、いっぱいいるよ。あれ半分以上医学科志望でしょ?すごいよねぇ」
(うわぁ・・・あんなにいるんだ。看護科目指す子もいるよね、勝てるのかなぁ・・・)
離れたところに並ぶ優秀な高校の制服に、ユーリは少し緊張してきました。
「ほれ咲野!千峯は千峯、うちはうち。とりあえず頑張ろうぜー」
前の席の紺屋翔くんが、そう言ってパンと一限目の問題冊子を置きました。
「そ、そうだね、あ、あ、あ、あ・・・りがとう」
(よーし、今年も残り少ないし、がんばろっと)
ユーリも一冊取り、美紀ちゃんに回します。
「・・・・・・はい、始めてください」
ユーリ達は、志望校めがけて、一斉に問題冊子をめくりました。




