高校生ユーリ~2年生~④
あっという間に夏休みが終わり、まだまだ暑さが厳しいのに2学期が始まってしまいました。
(うぅ・・・暑い・・・)
今日も夕方まで授業を受け、ユーリは片づけを終えるとスクールバッグを片手に立ちあがります。
「ユーリ―、城址公園行こー」
「うん、い、いい、今行くね」
一週間の中で一番授業が長いこの日、クラス全員に城址公園に集まるようにと学級委員から連絡メールが回っていたのです。
「何なんだろうねー」
「んー、学級委員の玲ちゃんもし、し、し、知らないって言ってた。な・・・何があるんだろうね・・・」
「あ、ユーリ、髪ほどけそうだよ」
「あ、ああ、ありが、とう」
みんなでわいわいしながら公園に向かいます。
何故かユーリは、夏休みが終わるとだいぶ吃音の症状が軽くなってきていました。
(なんか最近、喋りやすいな・・・このまま治ればいいのに)
ひそかな、ユーリの願いです。
「はーい、2年B、C、D組のみなさーん。ようこそ私たちの舞台へ!」
「存分に楽しんで帰ってくださいね!」
(うう、嘘だ嘘だ嘘だ嘘だぁぁぁぁ・・・・・・)
公園にクラスみんなが集まると、お化けに仮装した人が何人か出てきてメガホン越しに話し始めました。
「ね、あいちゃん、なな何、こっこっこっこここ、れ」
ユーリは、単純に怖いのが嫌で早くも震えが出ています。
隣にいたあいちゃんにすがりつく勢いで尋ねました。
「なんだろうね・・・ごめん、私もわっかんない・・・」
(生徒会のあいちゃんでも知らないことなの・・・?)
仮装お化けの説明は進みます。
「私たちは、本校の心霊現象研究会というものです!」
(そんなものあったの!?)
「卒業を控えた3年生が、魂込めてみなさんを怖がらせます!」
(い、いらないいらない・・・!)
「卒業公演の成功に、どうぞご参加ください!さぁさぁ、早速ですが男女でペアになっていただきます。そのためのくじ引きがこちらです。早いもの勝ちですよー!」
何人かがわっとくじに向かって行きますが、説明を聞くうちに強制参加でないことを知ったユーリは、帰ろうとしました。
しかし。
「どこ行くのユーリ」
「ひ、ひい・・・」
マイ、とっこ、春海につかまってしまいました。
「せっかく片想い相手とペアになれるチャンスじゃない。こんだけいるんだから誰か村田君引くって。そしたら交換ね」
「あ、あたしこっこっこここここ、こここ怖いの・・・・・・ほ、ほ、ほ、ほほほんとにダメで・・・」
「だからいいんじゃん!」
「むしろ怖くて泣いてるユーリが見たい」
「任せなさいユーリ、村田君引くんだからねえええ!」
叫びながら、3人がくじに突進します。
呆然としているユーリの肩を、後ろから蘭と綾乃が、ぽん。と叩きました。
「帰れないネ、ユーリ」
にっこり。
結局、くじを引いてくれた3人に申し訳なくなり、ユーリも渋々くじを引きました。
そこまでしたのに、村田君とのペアくじは引けませんでした。
「ちっ、作戦メンバーでペアになれたのは春海だけか」
(村田君は・・・莉莉亜ちゃんとか・・・何回見ても可愛いやあの子)
莉莉亜ちゃんはロシアと日本のハーフで、去年の文化祭では1年なのにミスコングランプリに輝くぐらいの容姿を持っています。
黒髪に反して白すぎる肌、引き込まれそうな青い目の、人形のような容姿。日本語はもちろん英語、ロシア語もぺらぺら。
加えておしとやかで控えめな性格。
村田君と同じように、学年男女問わず人気がありました。
(うぅ、絵になってる・・・悲しくなってきた)
「あ、咲野さん?」
「はっはは、はい」
「8番だよね。よろしく」
「よ・・・・・・ろしくおおおおお、おお願い、し・・・します」
ユーリのペアは、渡井涼平君。サッカー部の人でした。
「はぁーい、じゃあ1番から順番に行きますよー」
(・・・こんなに明るいんだもん、平気だよね・・・)
「あ、公園の講堂を借りてまーす。冷房ついてるのでみなさんそこで待っててくださいねー。進んでもらうのはそこの大ホールになりまーす」
(あそこの大ホール広いよぉぉぉ・・・しかも暗いってこと・・・?嫌だあああああ)
最後のユーリの望みは、打ち砕かれました。
「咲野さん知ってた?うちの学校にこんな研究会あったって」
「ううん、し、しししし知らな、かった」
「俺もだよ。普段何してんだろなあの人ら・・・」
「ででも、こ・・・・・お・・・こここ子瀬山さんとか、入ってそう」
「あー、わかる・・・」
待ち時間の間、ユーリはぽつぽつと渡井君と話をしていました。
作戦メンバーはあいちゃんやとっこ、マイらはほとんどがユーリより前に行ってしまい、残った子達は最後の方なのです。
「はーい、次8番の方―」
「行きたくねえけど、行くか・・・」
「う・・・」
「はいどうぞー。よい恐怖を」
入り口で懐中電灯を渡され、渋々中に入ります。
(ひぃぃぃ・・・何これ真っ暗・・・)
不気味な音楽が低音で鳴っています。
「あ、ああああ、ああの、わた、渡井君」
「お、おお?」
「とっとっとっと・・・・・・とととと中で泣いたり逃げたら、ごごごご、ご、ご、めん、ね」
「恐ろしいこと言うなよ咲野に走られたら俺追いつ」
べしゃっ。
「ぎゃぁぁぁぁ!!」
「ひゃああああ!!」
全身にスライムをまとったお化けがぼてっと急に目の前に落ちてきて、うめきながらすり寄ってきました。
(怖い怖い怖い怖いもう嫌だぁぁぁ・・・!!)
2人とも走り出すこともお互い服を掴むこともなく、ただただ耳を塞いで目をつぶって叫びまくって進んで行きます。
「わぁぁぁぁぁ!!」
「ひいいいいい!!」
・・・意外と、似たもの同士なようです。
ばばばばばっ。
「ぎゃあああ腕があああああ離せ離せ離せええええええ!!」
「ひいやぁぁぁぁぁ!!」
なにもないと思っていた壁のような作り物から、腕が一面に生えて2人に伸びてきます。
渡井君は足首を掴まれ半狂乱です。それを見てユーリもパニック寸前。
出てきた頃には、2人ともすっかり息が上がっていました。
2人とも電車なので、呆然としながらも一緒に歩いていきます。
「やー・・・やばかった・・・」
「・・・・・・こ、こここおここここおこここここ、怖、かった」
渡井君はかっこいいところ、ユーリは可愛らしいところなどほぼ見せられずお互い叫び続けたので、なんとなく話しやすい空気になっていました。
「あ、あんなんが卒業制作とかアホだろ・・・だいたい金払って怖がる奴の意味もわからんのに・・・!」
「じ、ジェットコースターの方がいい」
「咲野そういうの平気なんだ?なんか意外」
「え、へへ、へへへん、かな」
「大人しいイメージしかないもん。俺とかこう見えて絶叫系ダメだし」
「・・・意外」
なんでもない話をしていると、ふいに渡井君が言いました。
「あのさ、ちょっと・・・聞きたいことあるんだけど、いい?」
「う、うん」
「舞原さんってさ・・・彼氏とか、いるのかな、知ってる?」
(・・・え?マイ?)
ユーリは渡井君を見上げました。心なしか、恥ずかしそうです。
(うーん・・・作戦メンバーだから、いないけど・・・好きな人は、渡井君じゃなかったはず・・・どうしよう)
「ううん、マイはかっかっかかかか彼氏、いいないよ」
少し悩んだ末、ユーリは隠すことに決めました。
(今後何が起こるか、わからないし・・・嘘は、言ってない)
「そ・・・そか。そっか。さんきゅ、悪いな変なこと聞いて」
もしかして、とユーリは思いました。
「すーーーー・・・すすす好き、なの?」
「・・・これやるから、誰にも言うなよ」
国民的お菓子を一袋ユーリに渡しながら、やっぱり渡井君は恥ずかしそうにしています。
「やっぱ交換。咲野の好きな人言ってみ?」
「・・・やだ」
「ずるい!フェアじゃねえ!」
なんやかんやでじたばたしているうちに、駅につきました。
電車の方向が違うので、ここで別れることになります。
「じゃあね、渡井君」
「くっそ、勝ち誇った顔しやがって・・・」
結局聞き出せなかった渡井君は悔しそうです。
「ま、想像つくからいいけど」
「え?」
「村田だろ」
いきなり言い当てられ、ユーリは一気に顔が熱くなるのを感じました。
「そ、そそそそそそそそ、そそそんなこっこっこっこっここここ」
「図星かい。わかりやすいな咲野」
腕もぶんぶん振って否定しようとしたのが仇になりました。
「まぁ頑張れよ。見た感じあいつもフリーだし」
「・・・う、うぅ・・・・・・」
「なんだよその顔。お互いさまじゃん」
さっきと形勢逆転です。涼しい顔の渡井君に、悔しさ恥ずかしさ全開のユーリ。
「ほれ握手。お互い絶対内緒な」
「こ、こ、こ、ここここここ、こここういう時って、ゆびきりじゃないの?」
「・・・細かいこと気にすんな!」
大人しく、ユーリは渡井君と握手しました。
(・・・何の握手だろう、これ・・・)
最後に、ハイタッチのようにパンっと手を合わせると、じゃあなと言い残して渡井君はホームに上がって行きました。
(明日から、マイに言わないようにしなきゃ。・・・でも今日の村田君と莉莉亜ちゃん、お似合いだったなぁ・・・あたしももっとかわいかったら良かったのに)
今では普通に男の子とも話せるようになっているけど
少し前まで全然話せなかったもんね
毎日少しずつ、進歩しているんだね。




