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高校生ユーリ~2年生~③

ユイトの病名は、軽度のてんかんでした。

これから数年間、薬を毎日飲み続ければ発作は起きないし、将来服薬をやめても起きなくなるだろう、過度の疲れやストレスも発作の原因になるから規則正しいゆったりした生活を・・・と言われました。



ユイトも退院してすっかり元気になり、元通りの生活で日々が過ぎていきます。



ただ、あの日にユーリがやったことや言ったことについて、お母さんとお父さんはユーリに何も言いませんでした。またユーリも、あの日のことをお母さんとお父さんに話せないでいました。




いくつか残ってしまった首の傷痕は目につきやすく、お母さんはユーリの顔を見るたびにふっと悲しそうな表情をしています。


その顔は、ユーリの心にも刺さっていました。



痛かったね、ごめんね、気付けなかったね、ごめんねと言いながら首の傷跡を撫でてくれるお母さんに、



(ごめんなさい、もうしないからね、ごめんなさい)



と、ユーリは心で何度も思います。



また、お母さんに手を握られたり頭を撫でられることが多くなりました。


寝た後に、そっと様子を見に来ていることも知っています。



いつか、ちゃんと話して謝らなきゃ・・・と、ユーリはずっと思っています。






そして、高校生活も流れていきます。



いつもの朝。いつものクラスメイト。いつもの生活。


変わらないユーリだけの人生のモードです。



「サキ、おはよー!」



「お、お、お、お、お、はよう」



「首の虫さされの痕、何回見ても痛そう・・・ねぇサキ、この後何かやることある?」



ある日登校すると、すっとマイがやってきました。


首の傷のことは、友達には虫さされを酷く引っ掻いて傷がついたことにしています。



「ううん、な、ななななにも、ないよ」



「よし!」



ニヤッとマイが笑うと、がしっとユーリの腕をとらえました。



そのままずるずるとユーリを引きずって教室を出ていきます。



「ど、どどどどこ、いい、行くの?」



「いいからいいから、ついてきなさいサキ」



(え、何・・・?あたし、何かしたのかな・・・?)



やがてユーリは、学年の多目的ルームに押し込められました。



「サキこと咲野ユーリ連れて来たよ!」


「でかしたゆっち!」



(・・・・・・え?)



そこには、マイと同じくにやにやして腕組みをしている春海にとっこ、2年になって仲良くなった蘭、蘭に腕を掴まれている綾乃がいました。



綾乃に、何これ?と視線を送りますが、綾乃もきょとんとしています。



「ふふふ、綾乃とユーリ。ここに集まった私たちの共通点はなんでしょう」



(・・・え。わかんない・・・何?)



綾乃も首をかしげています。



「わかんない。何なに?」



うふふふふ、とマイ・春海・とっこ・蘭がにやにやと顔を見合わせます。




「じゃあ正解は、言い出しっぺの蘭から」



「ふふーん。実はね・・・ここにいるメンツは、全員彼女のいない男子に片想い真っ最中です」




(・・・・・・確かに、そうだけど)



「名付けて、クリスマスまでに告白するぞ大作戦」





「え?」



「うん?」




ユーリと綾乃は、ぽかんとしています。




(告白・・・告白!?誰が!?私が!?誰に!?村田君!?え!?)




「な、ななななななななな」



「・・・サキだいじょぶ?」




一気にユーリは頭がこんがらがり、どもっているのか焦っているのかうまく反応できないでいます。




「ユーリは村田君に、綾乃は新瀬君に」



「な、なんで急に・・・」



「先輩から聞いたんだけど、3年になったら告白の成功率落ちるんだって。2年の内に付き合えたら受験勉強頑張れるし、高校生活をリア充できそうでしょ?」



「うちの学年の男なんてロールキャベツどころか草だしさ、今どきは女子から言わないと駄目ってテレビで言ってたし」



「落とすテクとか今さらだし、使ったらコメディにしかならないよ」



「告白するなら彼女がいない今。言うしかないんすよお嬢さん方!」



4人とも若干変なテンションではありますが、なんとなく説得力がある話です。



「えぇー、あたしまだ新瀬君のアドレスも聞けてないのに・・・」



「まぁまぁ段階踏んででやろうよ綾乃。アド知らないなんてあたしもだし。そのために長い期間設定してるんだからさ」



「う、うん・・・4人とも告白するの?」



「そりゃもちろん。安心して、この3人はともかく私は玉砕するから」



「多賀君だっけ?ライバルめっちゃいるもんねー蘭は。あたしもねーどうかなー」



「とっこは行ける気がするけどなー・・・うーん、クラスも離れちゃったし、新瀬君にあたしも頑張ってみようかな」



(え?え?何、みんな乗り気なの?)



ユーリは必死でみんなの会話を追っています。




あたしが、村田君に、告白する・・・?




「ユーリはどーお?ほんとに嫌なら無理にとは言わないから」




「・・・こ・・・・・・ここ告白なんて、め、め、め、迷惑じゃないかな・・・むっむむむむむ村田君に・・・」




「んなことないない、好かれて嫌がる人なんていないって」




「ユーリ、去年から村田君と同じクラスだし委員会一緒だし、よく喋ってるし一緒にいるじゃん」



「でででででも、あああたし変な喋り方だし、こ・・・・・・・こ、こ、こ、っとっとば、詰まっちゃうし・・・つつつつつつ続いちゃうし」



(・・・言語障害者、だし)



すっかり自信を無くしている様子のユーリに、みんなは顔を見合わせました。



「うーん。サキの話し方、独特だけど変だと思ったことはないし、あたしは好きだよ?」



「うん、私も。気にしたことないや」



「なんか同じこと言っててもさ、私が言うよりユーリが言う方が可愛いかったりするもん。むしろずるい」



「あたし的には、今E組にいるばりばり博多弁の子と同じぐらいの感じなんだよね・・・1人1人話し方なんて違うんだし。まぁそんな子いるよねーくらいにしか思ってなかった」



「むしろそんなことで自信無くしてるの、もったいないよ。ユーリ他にも良いとこいっぱいあるんだもん」



1人1人の言葉にうんうんと頷きあいながら、みんなが言ってくれました。




(・・・みんな、そんな風に思ってくれてたんだ・・・)




自傷事件から頑なだったユーリの心に、ぽわんと温かい灯をともしてくれるような、みんなの言葉。



(みんながあたしの喋り方変だと思ってるって、思ってたけど、違うんだ・・・方言と同じってことは、あたしみたいな・・・吃音症の人も、アリってことだよね)



(ユイトも言ってたけど、これがあたしの装備だから・・・装備を気にして何かを諦めちゃうのは、もったいないこと、なのかも。これが、あたしの特徴、なのかも)



ユーリは、じわじわ胸があったかくなっていくのを感じています。




「・・・・・・あ・・・ああ、あああああり、がとう・・・あああたしも、っこ・・・・・・・・・ここここここここ告白、して、みる」




おぉっ!とみんなも笑顔に戻ります。



「頑張るか、ユーリ!」



「が、がががが、がんば、る」



「よし、6人で頑張ろ!みんなで告白するぞー!」




ぐっと握りこぶしを作り、ユーリも心を決めました。




(よ、よし・・・やるぞ、頑張るぞ・・・好きって言うぞ・・・)




「ねぇねぇ、クリスマスまでに告白するぞ大作戦決行の円陣組もうよ!気合い入れ、私がやるから!」



完全体育会系のマイの提案に、5人は輪になりました。肩を組み、頭を寄せ合います。



(こういうの、なんかスポーツもののドラマっぽくて好きだな・・・)



実はユーリはずっと、こういうシーンにひそかに憧れていました。



体育祭の時も、みんなで「おー!」とやるのが楽しくてたまりません。



普段なら“お”から始まる言葉は続いたり出て来なかったりするのですが、みんなで一斉に“おー!”は何故か言えるのです。




「片想い実らせるぞー!」



「おー!」



「うちらの本気見せるぞー!」



「おー!」




「後悔なく告白するぞおおおおおお!!」



「おーーー!!」




みんなが笑顔で、顔を上げました。



気のせいか、みんなの顔がきらきらしています。



「よし!とりあえず今日の席替え楽しみだね!ユーリは放課後に委員会あるもんねーあたしは今日中にアドレスゲットしよっと」



(・・・あ。今日委員会だ。また村田君と一緒に校内点検だー緊張するなぁ・・・)



「うぅ・・・は、ははははは恥ずかしくなってきた・・・」



「今年中には愛の告白するのに何言ってんのユーリー」



みんなできゃははと笑い合います。




吃音症を知った時はあまりの衝撃に傷ついて、悲しんで、落ち込んで、自信も無くなって、死にたくて、心を痛めていたけど



少しずつ、受け入れて、向き合えるようになるといいね、ユーリ。


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