高校生ユーリ~1年生~⑤
毎回のテストでもそこそこの点を取り、ダンス部でも1年生ながら精を出して基礎練習や創作に励み
毎日毎日、たくさんの友人達とわいわい楽しく過ごし
時々、村田君にときめいて
ユーリはとても幸せな日々を過ごしています。
あっという間に冬がやってきていました。
今日はユーリと村田君、保健委員の仕事で居残り作業です。
3年生は受験、2年生は修学旅行中なので、1年生が全てしなければならないのです。
「よし・・・ストーブの交換終わりっと。あー、腰いって。咲野、整備チェックできた?」
「うん、でででででででき、た」
「さっすがー!俺ら終わるの一番早いんじゃね?寒いし暗いしさっさと帰ろ帰ろ」
(やっぱり、かっこいいなぁ・・・優しいし、明るいし、一緒にいたら話してくれるし)
ちょっぴりぽわんとしているユーリは、うん、と頷くと村田君に少し遅れて歩き始めました。
書いたチェックリストを保健室の先生に提出し、2人は一緒に荷物を持って靴箱に向かいます。
「・・・あ、俺チャリなんだけど・・・咲野は?」
「・・・で、で、で・・・・・・・・・でででででででで、でん、で、でん、しゃ」
(ううぅぅぅ・・・すらすら話したいよぅ・・・村田君の前なのに、恥ずかしい・・・)
「そっか。暗いし、俺の家駅の向こう側だから駅まで一緒に行くわ」
村田君はちょっと待ってて、と言うと、駐輪場から自転車に乗って現れ、ユーリの横に来るとさっと降りました。
「荷物、後ろ置いていいよ。行こうぜ」
(ひえええええ・・・・・・村田君かっこよすぎるよう、だから人気あるんだなぁ・・・)
ユーリは部活やクラスのいろんな友人から、村田君がひそかに人気があることを聞かされていました。
イケメンで身長も高くて、バスケ部でそこそこ頭も良い。話も上手く社交的、加えて男女問わないこの優しさと気遣い。
人気がひそかなものであることが不思議なぐらいの男子なのです。
「あ、ああああ、ああああ・・・・・・・・・あああ、あり、ありが、とう」
そっと、ユーリは手下げカバンを自転車の荷台に乗せました。
そのまま、暗い道をお喋りしながら帰っていきます。
学校のこと。先生のこと。授業の愚痴。部活のこと。最近観たテレビ。好きな芸能人。
村田君は話題の引き出しが多く、いろんな話を自然に振ってくれます。
そして、ユーリがどんなに言葉が言えなかったり続いたりしてしまっても、何も言わず待ってくれています。
普通に会話を返してくれるので、ユーリは普通にお喋りを楽しむことができました。
「じゃあ、俺こっちだから。また明日な」
(うぅ・・・駅着いちゃった)
「うん。あ、ああああああ・・・・・・あああああ、あ、あ、あ、あ、あり、が、とう。ば、ば、ば・・・・・・じゃあ、ね」
「おう、ばいばい!」
ユーリの心中など当然知らず、村田君は颯爽と自転車に乗って駅から遠のいていきました。
(・・・寒い。あたしも早く帰らなきゃ)
ユーリも定期を出して改札を通過し、ホームに上がります。
なんだか異様に人が多い。
(えぇぇ・・・?なんで?いつもこんなにいないのに・・・)
不思議に思っていると、ぴんぽん、と構内放送が響きました。
信号に事故があり、電車が運行できなくなっている、復旧の見通しが立たないので他の公共交通手段を・・・という内容でした。
(えー・・・電車以外どうやって帰れば・・・駅員さんに、聞かなきゃ、だめかな・・・)
ユーリは昔から、店員や駅員と話をするのが苦手でした。
商品の名前や駅の名前は、どんなに言いにくくても他に言い換えようがないからです。
ユーリは、“せ”が言いにくいので、問題の出し合いの時は“正解”を“ピンポーン”と言い
“ば”も言いにくいので、“バイバイ”も“じゃあね”と言い換えています。
どっちを使っても通じるから良いものの、とわちゃん、とっこのような名前や固有名詞は言い換えが効きません。
(うーん・・・でも帰れないしな・・・)
しかたなく、駅員さんのところに向かいました。
「す・・・・すーーーーーーーーーーーーーーーーーー・・・・・・」
ごった返す人ごみの中で突然近づいてきた女子高生に、駅員さんは向き直ってくれました。
でもユーリは、“す”のままの口で息が漏れていきます。
「はい?」
「・・・・・・・・・ああああああ、あの。こっこっこっこっこっこ、こここここここ、こここの駅にいいいい行きたいんです、けど」
考えました、ユーリ。
手帳に挟んでいた路線表で、指をさして行きたい駅を伝えました。
そのまま行き方を教わり、なんとかお礼を言うとユーリは駅を出ました。
(えーと。3番乗り場、3番乗り場のバス・・・・・・あ、あれだ。うえ、めちゃ混んでる)
止まった電車の影響か、バスもとても混んでいました。
着いたバスに乗り込むと、ユーリは人の波に押されて後ろから2列目の窓側の座席に押し込まれました。
(混んでるのはわかるけど・・・後ろの金髪の人絶対怖い・・・隣もおじさんだし、早く着かないかなぁ・・・お金っていくらするんだろう・・・)
きっつきつの車内で、ユーリは参考書を広げたりメールをしたりして過ごしていました。
(・・・ん?)
ふと、ユーリは太もものあたりの違和感に気付きました。
(・・・・・・え!?)
スカートでもずれたのかと思い、読んでいる参考書に目をやったまま手を伸ばすと、なんと人の手が触れました。
そろそろと、ユーリの太ももを撫でるようにしてきます。
(待って、待って、待って・・・え、これもしかして・・・痴漢!?)
びくりと手をひっこめたものの、ユーリは参考書から目が離せません。
じわじわ汗が出てきます。怖くて怖くて、喉はきゅっと締まって声も出ず、息苦しい感じがします。
(どうしようどうしようどうしよう・・・怖い怖い怖いおええ気持わっるい気持ち悪い)
手は、太ももを這うようにして上がってきます。
(ひいいいいいい!!!!)
叫ぼうにも声が出ず、体も動きません。
ユーリはパニックでした。
・・・とその時。
「おい痴漢してんじゃねえぞ、おっさん!!」
若い男性の声がして、誰かがユーリの肩をぐっと窓側に押しのけ、ユーリの太ももを撫でている手を掴みました。
(た、助かっ・・・・・・ひいえええええ・・・)
ユーリの真後ろに座って寝ていた、金髪の怖そうな人でした。
物凄い怖い目で、ユーリの隣に座ったおじさんを睨みつけています。
「い、いや、私は、何も痴漢しようとしてなんか・・・」
「ごたごたうるっせぇ、次で降りるぞ!咲野も!」
「はっは、ははははい・・・」
(え、この人、知り合い・・・?でもこんな怖い人知らないし・・・)
降りたこともない賑やかな街中のバス停で、ユーリはバスを降ろされました。
痴漢の犯人は、ぐったりとうなだれています。
「交番あれか。突き出してやるから覚悟しろじじい」
「わ、私には、家庭があるんだ・・・頼む、見逃して・・・」
「知るか!お前はこいつの人生汚したんだぞわかってんのか、あぁ!?」
(は、早く帰りたい早く帰りたい・・・!!)
ユーリは、もう何が何だかよくわからなくなっていました。
痴漢犯も怖い、助けてくれたお兄さんも怖い。ここはどこかもいまいちわからなくて怖い。
結局犯人は警察に突き出され、ユーリと金髪のお兄さんもそのまま事情聴取を受けました。
時間がかなり遅くなってしまったので、ユーリは家に電話をして迎えに来てもらうことになりました。ついでに、警察の人が話をしてくれるそうです。
しばらくここで待っててと、2人は交番の奥の一室にいれてもらいました。
金髪のお兄さんは、ぱちぱちとメールを打っています。
(お、お礼・・・言わなきゃ・・・助けてもらったんだし・・・)
ユーリは、意を決して話しかけました。
「あ、ああああああ、あああああ、の・・・・・・」
「ん?」
金髪のお兄さんが顔をあげ、ばっちりユーリと目線を合わせました。
「ああああああ・・・・・・ああ、あ、あ、あ、あ、あ・・・・・・・・・・あああり、がとう、ご、ざいました・・・」
金髪のお兄さんは、あぁ、と納得したような顔をしました。
・・・と思いきや。
「・・・じゃねーよ!お前な、あんなくそじじいに触られてんだからちっとは騒げよ!たまたま俺が起きて気付いたから良かったようなものの!」
「はっはいっ!」
思わず背筋が伸びます。
「ったくな、前からお前は我慢ばっかしやがって!何でも我慢してりゃいいってもんじゃないんだぞ!?別に何言えなくていいからとにかく騒げああいう時は!」
(・・・この人、あたしのこと知ってるのかな?)
「おい聞いてんのか咲野!」
「はいっきっきききいいいい聞いております!」
「・・・お前さ、何で同級生に敬語なの?」
・・・・・・え?
「同、級、生・・・?」
(え、誰?・・・誰!?)
全く思い出せずぽかんとしていると、ユーリの迎えが来たことを警察の人が教えてくれました。
交番から出ると、お母さんが立っていました。
「ユーリ!心配したんだから・・・大丈夫なの!?」
「お、お騒がせしました・・・だだ大丈夫です・・・」
「・・・お前家では喋れるんだな」
ぬっと、ユーリの後ろから金髪のお兄さんが滑り出ました。
少し離れたところに、迎えが来たようです。
「あら、もしかしてこうた君?久しぶりねー」
「こんばんは、お久しぶりっすね、咲野のおばさん」
「ユーリを助けてくれて、ほんとにありがとう」
「いえ、通学に今あのバス使ってるんすけど、もともと多いんで・・・早めに気付けてよかったっす」
(こ、こうた君・・・え、これが!?)
小学3年生の時に悪口を言われて以来、苦手で近づかなかったこうた君。
どこかの中学で荒れているらしいという話しか、ユーリは知りませんでした。
きょとんとして、ユーリは2人を交互に見つめます。
「すいません、俺、もう行きますね」
「ほらユーリ、お礼言った?」
「え、あ、ああ、ああああ、あああありが、とう・・・」
んじゃ、と手をひらひら振ると、こうた君はさっさと行ってしまいました。
ユーリも、お母さんに連れられて車に乗り込みます。
「いやーこうた君たくましくなったわねー、頭は中学のころから変わってないけど」
「お、おお母さん、し知ってるの?」
「知ってるの、って・・・中学一緒だったでしょユーリ」
「・・・え?」
「ユイトが言ってたよー?こうた君・・・若宮先輩は卒業しても伝説なんだって。荒れてて有名だったんでしょ?」
「・・・えぇぇぇ!?」
中学に入って即いじめに遭ったため、全く周りを見ていなかったとはいえ・・・今年一番の驚きでした。
(いじめっ子で、嫌だったけど・・・こうた君、本当にありがとう・・・)
ユーリは、心からぽそっと呟きました。
・・・こうた君に、届いたかな?




