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手紙の主②

僕は・・・・・・結局、足を動かせなかった。




・・・急に、火災報知機が鳴り響いたから。




「ちょっと、マキ、火事じゃない!?」



「やばいよ、逃げなきゃ!!あたし教室にケイタイ置きっぱなしだし!!」



「あたしも!!」



障害者用トイレから、ばたばたといじめっ子達が走り出ていきます。



咲野先輩・・・大丈夫かな・・・?



すると、どたどたと足音を響かせて、渡り廊下から先生が数人現れました。




「おい男子トイレ!!若宮だろう、出てこい!!!!」



物陰に隠れている僕は先生たちに見えていないようで、先生はトイレが三つ並ぶ前に立つと大声を張り上げました。



すると、男子トイレから金髪の男子生徒が出てきました。バッジは3年生。



(わ、わわわわわ若宮先輩!?)



学校で知らない人はいないぐらい、一匹狼の不良として有名な若宮先輩。




「なんっすか、センセ」



「若宮紘太ぁ!!お前これで何回目だ!!」



「言うの5回目ですけど、俺、吸ってないっすよ。持ってるだけですよ」



先輩の手には・・・え、たばこ!?



この人トイレで何してたの!?



「吸ってないなら何で報知機が鳴るんだ!!」




「さあ?誰かが何か燃やしてんじゃないっすか?」




「大体なんでたばこなんか持ってるんだ!!」



「兄貴に借りただけっすよ。没収するならどーぞ?吸ってないっすから停学もクソもないっすよね。ちなみに今俺の家誰もいませんから」



若宮先輩が、ニヤッと笑って先生の方にたばこを投げてよこします。



・・・やっぱり怖そうな先輩・・・・・・まあ、いじめっ子は行っちゃったし、いいのかな・・・




「・・・保護者には連絡するからな!!ったく、お前そのずる賢い頭はもっと有意義なことに使え!!」



先生方は、たばこの箱を拾うと、これまた足音荒く職員室に帰って行きました。



「あーあ・・・怒鳴ってばっかじゃ大事なもの見えないっすよ、センセ。この状況が無くならない限り、俺は何回でもやらかしますよ。それくらい安いっすわ」



指先でライターをくるくるもてあそびながら、若宮先輩の目は障害者用トイレを見ていました。




「たばこ単品で報知機鳴るわけないでしょー・・・バカだなぁ」




この人、もしかして・・・?



思いきって、声をかけてみよう・・・!




「あ、あの・・・」



「うっお!ななななんだお前、いつからそこいたんだ!?」



物凄くびっくりした顔で、若宮先輩が後ずさりました。



「あ、ああああああの、せせ、先輩は、なんで・・・?」



ちょっと照れたような顔をしながら、若宮先輩は人差し指で頬を掻きました。



「聞かれたかぁ~恥っず!めっちゃ恥っず!・・・そこのトイレ、咲野、いるだろ」




「え・・・ぁ・・・」




急に、ここで頷いたら僕は変態扱いされるのでは?と思ってしまい、頷けませんでした。




「・・・俺さ、小学校の時、咲野のことからかって泣かしちゃったんだよ。あいつの喋り方まねして・・・。


それ家に帰って言ったら兄貴にぶっ飛ばされてさ、めっちゃ叱られて・・・それはいいや。


俺そん時小3だったかな、先生に言われてなんとなく謝ったけど、今じゃ本心から謝りたいって思ってる。マジで悪いことしたって思う。


でも今はあいつの味方すると、その後あいつがどんな目に遭うかわかんねえ・・・だから俺は、裏でいいから、見えなくていいからあいつを助けてやりたいんだ。もう一回、笑わせたい」





第一印象ほど怖い人じゃない、と僕は思いました。




この人は・・・からかってしまったことを後悔してから、ずっと咲野先輩を見てたんだ。




「あいつがなんでいじめられなきゃいけないのか俺にはわかんねえ。


あいつはさ、めっちゃ頑張ってんだよ。めっちゃ我慢してんだよ。俺が知ってる。でもそれはアイツらにはわかるわけねぇし・・・俺も、情けねぇけど巻き添えは怖い。


だからこういう方法で、騒ぎを起こすしかねぇんだ」




これまで、咲野先輩が集団からいじめを受けている近くでわざと火災報知機を鳴らしたり、ガラスを割ったり、爆竹に火をつけたりして、人目を集めて咲野先輩を助けてたんだ・・・と、僕は気付きました。




それに比べて、僕は・・・・・・




「・・・お前2年か。竹中ってのか。お前も咲野みたいな感じなのか?喋り」



「は・・・はい・・・」




「ふーん。ま、俺みたいなヤツもいるんだから、1人で抱え込むなよ。嫌なら嫌って言え。できねえことはできねえって言え。なんでもできるヤツなんかいねえし、絶対見てくれてるヤツがいるんだから・・・おおっ!」



僕は急に若宮先輩に腕を掴まれて、さっきまでいた物陰に引きずり込まれました。



トイレから、咲野先輩が出てきたのです。


おどおどと辺りを見回し、僕たちには気付かないまま、そろそろと教室の方に戻っていきます。



「若宮先輩、ななん、で、かかかか隠れて・・・」



「ななななんでだろうな!?おおおおれもわかんねえ!!」



・・・よくわからないけど、めっちゃ、焦ってます、若宮先輩。



「また報知機・・・教室行っていいのかなぁ・・・?」



よかった。咲野先輩、何もされてないみたい。


それに、独り言は言えてる。僕と一緒。



咲野先輩の姿が渡り廊下に消えてから、若宮先輩は物陰から出てくれました。




「あー・・・焦ったぁー・・・ま、お前も頑張れや」




ばつが悪そうにニヤッと笑いながら僕の肩をぽんぽんと叩くと、若宮先輩は渡り廊下を見つめて、独り言のように言いました。




「お前にとって俺は、嫌なことを言うこうた君なのかなぁ・・・。俺はお前を泣かせちゃったから、俺がお前を笑わせたら、チャラな。それまで負けんじゃねーぞ、咲野ユーリ」




そして、先輩方の卒業式。


参加はしなかったけど、気持ちを伝えたくて、若宮先輩と咲野先輩の靴箱に、手紙を入れました。




“若宮先輩へ。先輩が言ってくれた通り、僕を見ていてくれた人がいました。まだまだ頑張ります。僕は、先輩の強さが羨ましかったです。”



“咲野先輩へ。先輩のスピーチに勇気をもらってました。僕も名前が言えません。でも頑張ろうと思いました。ありがとうございました。”



こっそり靴箱に入れて、学校を後にしました。



なんだかとてもすっきりした気分です。



来年は僕も、スピーチ大会、エントリーしてみようかな。


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