中学生ユーリ~3年生~④
いよいよ卒業式本番です。
今回は1人1人が何かを言わなきゃいけないということもなく、点呼だけで過ぎて行きました。
式が終わり、教室で先生から最後のお話を聞き、アルバムと記念品を貰います。
(アルバム、ほとんど映ってないからいらないのにな・・・あ、でもこの時計は嬉しいや)
行事でもカメラを向けられることはほぼ無く、そもそも編集は生徒たちなのでユーリは省かれてしまいます。
覚悟はしていましたが、個人写真と集合写真しか写っていないというのは少し寂しいものがありました。
しかし、高校に向けて可愛い時計が欲しいと思っていたユーリは、記念品の時計に少しほくほくです。
それに今日は、誰もユーリのことをからかったりはしませんでした。
「ねぇ、寄せ書き書いてー」
「部室でも写真撮ろうぜ!」
「後輩のとこ行って撮ろー」
みんなユーリをいじめるどころではなく、アルバムに寄せ書きをしたり写真を撮ったりに必死です。
(・・・もういいよね。何もされないうちに帰ろう。)
今日は家に帰ったら、ユーリが高校入試に無事合格できたこと、お姉ちゃんのカガリが大学に現役合格できたことお祝いするために、少し豪華な外食に行くことになっていました。
(今日はユイトもお姉ちゃんもお休みの日だし・・・早く帰って、準備でもしようっと)
特にする予定も無いユーリは、そっと帰ろうとしました。
上靴を袋に入れて、靴箱のシューズに手を伸ばした時です。
カサッ。
「・・・あれ・・・?」
シューズを掴んだユーリの指に、かさりと触るものがありました。
引き出して見ると、雑にやぶられ四つ折りにされたルーズリーフの切れ端が入っていました。
最後の最後に、また?とユーリは思いました。
(えぇー・・・今日だけは何も無く過ごせたと思ってたのに・・・)
これまでも散々、障害者、帰れ、来るな、などなど酷い言葉の書かれた紙を入れられてきたのです。
読まないで捨てようかと思った矢先、ユーリは気付きました。
(切り方は雑だけど・・・なんか、違う)
この紙は綺麗に折られています。
悪口を書かれた紙は全部くしゃくしゃにされて入っていたので、ユーリは不思議に思いました。
好奇心が勝ち、カサカサと紙を開けると、これまた雑な字で文章がつづられていました。
『咲野先輩へ。先輩のスピーチに勇気をもらってました。僕も名前が言えません。でも頑張ろうと思いました。ありがとうございました』
(・・・・・・・・・え?)
一度紙から視線を外して何度か瞬きし、ユーリはもう一度視線を落としました。
『咲野先輩へ。先輩のスピーチに勇気をもらってました。僕も名前が言えません。でも頑張ろうと思いました。ありがとうございました』
どうやら、目の前に並んでいる文字は夢ではないようです。
「・・・・え・・・・・・え・・・?」
初めてのことに、ユーリは戸惑ってしまいました。
僕と書いてあるからには男の子でしょう。
このお世辞にも丁寧と言えない力強い文字からしても男の子でしょう。
先輩と書いてあるからには後輩の子なのでしょう。
しかし、思い当たる人がいません。
(部活も結局入れなかったし、委員会も何もできなかったし・・・後輩の男の子とか誰も知らないな・・・ユイトの先輩かな?)
ユイトの先輩にしたって、ユーリは誰ひとり知りません。
当然きょろきょろとあたりを見渡しても誰もいませんが、どうしていいか困りおろおろしているうちに、ユーリはだんだん嬉しくなってきました。
恥をかかされ、嫌な思いをするだけだった3年間。
頑張ってきて・・・あたしは誰かの役に立てたんだと、頑張って良かったと、初めてそう思いました。
うまく喉から声が出てこないこの状態のせいで音読や発表もうまくできず、悪口を言われ障害者と呼ばれ、部活もできず友達も作れない3年間でした。
最後のこの日、初めてユーリは幸せな気持ちになれたのです。
再び紙切れを丁寧に畳むとポケットにしまい、ユーリは校舎を出ます。
一度も振り返らずに、
登校してきた時とは真逆に、胸を張って、校門をくぐりました。
ユイトとお姉ちゃんが、小さな花束を持って、笑顔でユーリを待っていてくれています。
卒業おめでとう!頑張ったね、ユーリ!




