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神様蒐集帳  作者: 鈴神楽
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崩れる世界の泣く踊り子

紫縛鎖との最後の戦い

 陽気な声が広がるカーニバル。

 去年のダンスコンクールの優勝をした少女、ピアの所に幼馴染のテリがやって来た。

「今年も気合が入ってるな」

 ピアは、握りこぶしを作って言う。

「もちろんよ! あちきの連覇を阻む者なんて居ない!」

 テリは、そんなピアに少し気後れしていた。

 しかし、踏ん切りをつけて言う。

「俺も今年は、牛追い大会に出るんだ」

 それを聞いてピアが楽しそうに言う。

「大人の仲間入りだね。頑張って完走してね」

「ああ」

 緊張した面持ちになるテリにピアが首を傾げる。

「どうしたの?」

 テリは、覚悟を決めて告げる。

「もし、完走したら結婚してくれ!」

 言葉を無くすピアにテリが堰を切ったように喋り始める。

「うちの両親には、もう言ってある。牛追い大会で完走できたら町でも一人前の男の仲間入りだ」

 ピアが俯きながら言う。

「いきなりそんな事を言われても……」

 テリは、ピアの手を握って言う。

「結婚するならピアしか居ないと思っていた。一緒になってくれ!」

 ピアは、涙を流し始めるのを見てテリが言う。

「泣くほど嫌だったのか?」

「馬鹿! うれし涙よ! あちきだってテリの事が好きだったんだから。テリに相応しい女になる為にダンスコンクールにも出たんだから!」

 ピアの言葉に安堵の息を吐くテリ。

「良かった。断られたらどうしようかと思ってたよ」

 それを聞いてピアが言う。

「そんな事より、牛追い大会は、ちゃんと完走してよね。もしもこれでリタイヤなんて事になったら来年までお預けよ!」

 テリが胸を張って言う。

「任せておけ! 死んでも完走してやる!」

 ピアも頷き言う。

「だったら、あちきもダンスコンクールを優勝して、クィーンの冠かぶってゴールで待っててあげる」

 二人の未来は、夢と希望に満ち溢れていた。



 牛追い大会も終盤。

 何人もの選手がゴールするのをピアは、約束通り、クィーンの冠をかぶってゴールで見ていた。

「もう、テリって遅いんだから」

 そうしている間にテリがヘトヘトに成りながら牛を追い立てながらゴールに向かって進んでくる。

「テリ! もう少しよ!」

 手を振るピア。

「おう! 待ってろ!」

 テリも手を振り返し、ラストスパートをかける。

 そして、テリがゴールしようとした瞬間、世界が壊れた。

 ピアの目前を紫の鎖が乱舞して進んでいった。

 紫の鎖が通り過ぎた後には、何も無かった。

 現実が受け入れられない人々。

 その中、ピアが叫んだ。

「テリ!」



 ヤオンの前にホーリースクエアの一柱、大天神天包布の分身が居た。

「紫縛鎖が暴走を開始した」

 それを聞いてヤオンが言う。

「今度は、何を始めたのですか?」

「無差別に世界を破壊している。そして紫縛鎖と交戦した神の話では、八百刃の分身を全て滅ぼすまで止めるつもりは、無いそうだ」

 天包布が答えにヤオンが言う。

「あちきの責任ですかね?」

 天包布が頷く。

「そうだろうな。あれは、滅ぼしてやるべきだったのだ」

 そしてヤオンが立ち上がり言う。

「それでは、行って来ます」

 そんなヤオンに天包布が言う。

「これ以上情けをかけないでやってくれ。奴は、限界なのだ。もうお前の期待には、答えられない」

 ヤオンは、答えずに紫縛鎖が暴れる世界に向かう。



 ヤオンは、紫縛鎖の力で荒れ果てた世界に降り立った。

『ヤオン、勝てると思うか?』

 白牙の言葉にヤオンが困った顔をする。

「難しいかもね」

 白牙は、少し沈黙した後、告げる。

『俺は、天包布と同意権だ。もう無理なのだ』

 その声に答える様に紫縛鎖が現れる。

「待っていたぞ!」

 その姿は、とても極神と呼ばれる者の姿には、見えない。

 無数の紫の鎖は、無秩序に動き、中には、紫縛鎖自身の体を傷つけるものすらあった。

「最後にもう一度だけ言わせてくれる。実名(ミナ)様は、貴方に自分の生き方をして欲しかったんだよ」

 ヤオンの言葉に紫縛鎖の鎖が爆発的に広がっていく。

 しかし動かないヤオンに当たることは、無かった。

「言いたいことは、それだけか? 私は、桃暖風(トウダンフウ)様と一緒にいきたかったのだ!」

 紫縛鎖の言葉にヤオンが悲しそうな顔をして告げる。

「そう、止まらないんだね」

 ヤオンは、白牙に右手を向ける。

『八百刃の名の下に、白牙よ、刀と化せ』

 刀に変化した白牙を握りヤオンが動く。

「桃暖風様が滅ぶ切掛けになったお前だけは、絶対に許さん!」

 紫縛鎖の鎖がヤオンに向かって飛んでいく。

 ヤオンは、紙一重でかわし、接近する。

「はっきり言ってあげる、戦いでは、貴方に勝ち目は、無いよ!」

 ヤオンの言葉を証明するように紫縛鎖は、振り下ろされた白牙を避けきることが出来なかった。

「もとより、勝つつもりは、ない!」

 体に食い込んだ白牙に異常な手応えを感じ、ヤオンは、近くの鎖を掴んで、腕の力で強引に間合いの外に出る。

 手から侵食する紫縛鎖の力にヤオンが膝をつく。

「本気で後を考えてないね!」

 ヤオンが睨む先では、体の中にまで鎖を張り巡らせた紫縛鎖が居た。

「自分の存在を肯定する肉体にまで象徴の力を埋め込んだら、力を使い続けなければ貴方の存在が維持できなくなる。神が強力な力を使い続けると言う事は、自分の存在を削り続ける事を意味する。使い続けても、使うのを止めても、行き着くのは、滅びの運命だけだよ!」

 紫縛鎖が平然と答える。

「もう一度言おう。私は、勝つつもりは、ない。お前を犠牲に共に滅びられればそれで本望なのだ」

『捨て身の攻撃か……』

 苦々しい声で呟く白牙にヤオンが言う。

「正直、勝ち目が遠のいた」

 それでもヤオンは、紫縛鎖が繰り出す鎖を避け続ける。

 そんなヤオンに紫縛鎖が告げる。

「お前は、勝ちを捨てれば私を滅ぼすことは、容易かろう?」

 ヤオンは、答えない。

『本当なのか?』

 白牙の言葉に紫縛鎖が答える。

「これから私が滅びるまでに道連れになる世界の犠牲を容認すれば、お前が戦わずとも私が滅びる」

「それが勝利って呼べるわけ無いでしょうが!」

 ヤオンの目付きが鋭くなる。

 紫縛鎖が頷く。

「そうだろう。お前だったらそうなんだろう。お前がそうだからこそ私は、お前を認めないのだ!」

 怒声と共に襲ってくる鎖をヤオンは、白牙を使って凌ぐが、動けなくなる。

『どうした!』

 白牙の言葉にヤオンが答える。

「力の象徴の鎖を直に触れて侵食を受けた。力の総量じゃ、あっちの方が完全だから押し返せないんだよ」

「終わりだな!」

 紫縛鎖がヤオンに止めをさすため近づいた時、九本の矢が飛んできた。

「それは、私の一部だ、滅ぼされたら困るのだ!」

 エーゼットが九尾鳥の弓を放っていた。

 そして、今放たれた技は、金色覇を滅ぼしたのと同じ技である。

「残念だが、それは、通じない」

 紫縛鎖が、九本の鎖を伸ばし、正面から矢を受け止める。

 受け止めた鎖は、根元から砕かれ、それに伴って紫縛鎖の力の一部が失われたが、それだけだった。

「下手に避けるから力を分裂させられて、止めを刺される。正面から受ければ問題は、無い」

 それには、エーゼットも驚く。

 そして、紫縛鎖の力が一部でも失われたおかげでヤオンが動けるようになった。

 しかし、鎖を弾いた時に白牙を弾き飛ばされてしまう。

 そんなヤオンをサポートするようにエーゼットが矢を放ちながら言う。

「あれを滅ぼすいい方法は、ある?」

 制限された動きの中で必死に鎖を避けながらヤオンが言う。

「解っているでしょ。自分で考え付かないことが同じ八百刃の分身であるあちきが思いつくわけが無いって」

 エーゼットが舌打ちする。

「そうだったわね。ここは、さっき奴が言った方法がベストなのかもね」

 その言葉を聞いてヤオンが溜め息を吐く。

「それが出来るんだったらやれば良い。残念だけどあちきには、出来ないよ」

 今度は、エーゼットが溜め息を吐く。

「本当に貴女は、面倒ね」

 それを聞いてヤオンが言う。

「それは、あちきなんだよ」

 それを聞いてエーゼットが戸惑う。

 そんな中、紫縛鎖の鎖は、確実にヤオン達を追い詰めていった。

「終わりだ!」

 紫縛鎖が全ての鎖を束ねてヤオン達に放とうとした。

「テリの仇!」

 その声と共に、紫縛鎖の胸から白牙の刃が突き出ていた。

 紫縛鎖が振り返るとそこには、紫縛鎖の暴走で大事な人間を失った八百刃の分身、ピアが居た。

 呆然とする紫縛鎖。

「お前だけは、絶対に許さない!」

 白牙から放たれるピアの憎しみが紫縛鎖を倒した。

 倒れた紫縛鎖の横でピアがなき続ける。

 そんなピアに近づきエーゼットが言う。

「その憎しみと悲しみ、そして絶望をもって私と一つになりましょう」

 ピアが頷き、エーゼットと一つになる。

 そして、ヤオンは、倒れた紫縛鎖に近づく。

「私を滅ぼしたのは、私を憎む八百刃だった」

 どこか満ち足りた表情を見せる紫縛鎖にヤオンが言う。

「何がそんなに嬉しいの?」

 紫縛鎖がヤオンの顔を汚物でも見るように言う。

「お前は、八百刃は、ずっとそうだった。私など敵とすらしなかった。お前は、最初から誰も敵にしていない。それでは、駄目だった。私は、お前の、桃暖風を滅ぼした者の敵として滅び行きたかった。その願いが今叶ったのだ」

 そのまま消えていく紫縛鎖。

 紫縛鎖から開放され、虎の姿に戻った白牙が言う。

『お前は、強すぎる。それが他者を歪めさせる。しかし、それでもお前は、必要とされている』

 ヤオンは、何も答えなかった。

 そして、エーゼットがヤオンの前に来て言う。

「貴女だったら解るでしょ? 今の分身で最後。残ったのは、貴女と私だけ。どっちがメインになるか、勝負よ!」

 こうしてヤオンの最後の戦いが始まろうとしていた。

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