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最強育成計画  作者: くりーむ童話
5/6

#5

「―――で、あるからして、そもそも王族としての上に立つものとしての自覚が必要になってくるのです。

 アルマ様も十を超えられたのですから、いつまでも子供のような真似をなさらず人々の先陣を駆ける者として―――」


 アデーレに引きづられるように部屋まで戻ってきた俺を待っていたのは説教の嵐だった。

 さっきから1時間以上も大声を出しているのに全く声に張りがなくならないのは何でだろう?と現実逃避しかけるが、何とか意識を繋ぎ止める。もし、説教が終わる前に聞いてないのがバレたら一から説教がリピートされるのは学習済みだ。ちなみにアデーレは部屋に入った瞬間、俺を盾にして目にも止まらない速さで逃げて言った。

 ふう、と意識を戻しながら、更に説教が加熱していってる声の方に意識を集中しなおす。そこには褐色の肌に色素の薄い灰白色のストレート、磨かれた琥珀のように輝く蜂蜜色の瞳に眼鏡を掛けた女性が、話ががどう飛んでいったのか人と動物の歴史について真摯に語っている。

 この背が高く如何にも第一線で働く知的なできる女といった感じの女性はイルマと言う名の半闇妖精族(ハーフダークエルフ)で俺付きの教育係だ。

 一見すると20代後半に入るかくらいの整った容姿だが、その実、齢100歳を超え、城に働く者の中でも比較的古参に入る。宮廷に入るだけの実力者だけあってイルマは能力的にはかなり優秀だ。大陸各地を放浪していた期間が長かったため見識も広く、そこを買って教育係として俺のお側つきになっている。

 また彼女の本来の役職は宮廷魔術士の第4位と、この国でも五指に入る魔法の権威者でもある。

 ただし、彼女、幾つか悪癖がある。

 一つは説教をはじめ、物事について語りだすと自分の世界に入ってものすごく話が長くなる。

 あまりに話が冗長すぎるため、宮廷魔術士長に、「おまえ、会議で発言するときは3行な」と命令されたという逸話が残ってるくらいだ。

 他にもイルマは幾つかの逸話を残しており、優秀なんだけど癖が強いことから、『魔術省のがっかり美人』や『かわいくないほうの宮廷魔術士』などと不名誉な二つ名が付けられている。

 しかし、それさえ除けば真面目で信頼できる人格者で、多くの実績もありため好感の持てる人物である。


「―――-アルマ様?ちゃんと、話聞かれていますか?」


「はいっ!聞いています!犬ってスゴイ生き物なんですね!」


 鋭いナイフのように目を細めて、氷のように底冷えする声で不意を打ってきたが、かろうじて応える。

 若干、意識がブレ始めていたから、受け答えが不明瞭になったが、イルマはその言葉を吟味するように、目を閉じる。


「まぁ、今日のお説教はこれくらいでいいでしょう」


 その言葉に安心して、ふぅ、と息を吐いて、体の姿勢を弛緩する。

 だけど、ここで油断してはいけない。


「ありがとうございました」


 そう言って俺は頭を下げる。

 こういう説教は最後に下手な姿勢を見せると、相手に再び燃料投下する恐れがあるため、きっちりシメに態度でしめさなければ、また同じことの繰り返しになる。

 頭を上げると、イルマは一瞬目を閉じると、一瞬微笑んで険しい表情を崩す。


「ええ、では、次からは気をつけること、いいですね!?」


「はい!」


 説教に耐え切ったという妙な達成感を胸に、俺は挨拶をして部屋を出ようとする。


「あ、殿下、一ついいですか?」


 イルマはそう言い、俺に一つの紙を渡してくる。

 この世界には一応、羊皮紙以外にも草を使って作った紙が使われている。

 現代に比べるとあまり上質な紙ではないが、それでも江戸に使われていた和紙なみの品質を誇る。


「祭?」


「はい、殿下に祭祀を行う際に出席してもらいたいと奏上がありまして……」


「ですが、今の時期に何の祭ですか?

 月光祭にしてもまだ2月もありますよ?」


 俺は口調を公務のものに切り替えて問う。

 プライベートならともかく、公式では彼女の上に立つものとしてフランクな言葉を使うのはマズイ。

 若干、苦手意識がある相手に質問をするのは抵抗というか、妙な威圧感を感じるのだが、それを押さえ込むように強い口調を心がける。


 この国で祭と言うと、地方で行われている小さいものを除けば3つしかない。

 春に行われる国の建国を祝う竜火祭、年の瀬を祝う星振祭、秋の収穫を祝う月光祭の3つだ。

 今の時期は暦の上では夏、しかし、この時期には王族が出張ってまで大々的に祝う祭はなかったはずだが……。


「ルシナの開拓村に先日、『精霊の落とし子』が現れたそうで、是非、王族の方に祝ってもらいたいそうで……急遽、精霊を送る祭を行うそうです」


 なるほど、と思う。

 『精霊の落とし子』は別名、『光包果』とも呼ばれる、宝石のように光る果実だ。

 この果物、1000年以上樹齢を重ねた大木や澄んだ湖、大輪咲き乱れる花畑の中など自然あふれる場所に突如として現れることから『精霊の落とし子』と呼ばれている。

 いつどこに現れるかも分からない謎の果実だがとてつもなく貴重なもので、この果実を一口かじっただけでどんな不治の病も治り、大地に還すことで数年間の豊作が約束されるなど言われている。


「ですが、よく発見者が名乗りでましたね。

 昨年、メクレンの運河で見つかったときは、その場にいた人間で刃傷沙汰になったと聞きますが?」


 『精霊の落とし子』を手に入れられるのはありえない程の幸運だ、現実世界で言えば、いきなり目の前に一等の宝くじが舞い込むようなものだ。

 当然、その場に人間が複数いれば奪い合いになることは必至、場合によっては手に入れた人間を殺してでも奪い取ることを考えるだろう。

 そんなものを手に入れて、『精霊を送る』つまり、町全体のために大地に還すために使うのは中々出来ることではないと思う。


 イルマは、ええ、と前置いて、試すようにこちらに言葉を投げかける。


「ですが、彼らは開拓民ですから」


 試すような口調で、こちらを楽しげに見る。

 彼女が俺を試すように問いかけるのは、生徒の出来がどれくらいに達しているのかテストを出すようなものだ。

 聞けば教えてくれるだろうが、それでは意味がない。

 何よりもあっさりと負けを認めるのは癪に障るため、俺は必至に頭を回転させる。


“開拓民ならば何故、無条件に『精霊の落とし子』を……否、本当に無条件か?”


 そこまで考えたところで答えが浮かんだ。

盆前の仕事全部終わったー!と思ったら、追加依頼が来ててんやわんやになっています。

どうしてこうなった。


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