第七話:開幕 Scissorsプロジェクト第二部
「……朝、か」
目が覚めると無機質な部屋、いつの間に届いた所望した武器、そして
『よく寝れたか原木』
勝手に繋がる通信と、聞き慣れた声
「まぁまぁだな。王城に基礎訓練と言われてしごかれて眠りが深かったから、武器が落ちてくる音も気にならなかったし」
『単純に中身が軽いからじゃないか?』
「あー……そうか、今日からコスト9か」
武器が入った箱を開けると、目に見えて中身が少ない。ハンドガンと手榴弾はもちろん、スタンガンもトンカチも無理だった
水鉄砲やトランプ、ライター等のコスト1が並ぶ様は福袋のハズレ枠だ
「トンカチが無いのは痛いな……」
『前から思っていたが、何故トンカチなんだ?手頃な近接武器ならナイフでも手斧とかでもいいんじゃないか?』
「刃物だと殺しちゃうかもだろ、それにトンカチだからな、願掛けだよ」
『……そうか』
すごい真面目な顔で受け止められた、バカにされてるのだろうか
装備をコートにしまい終わった俺はドアにデバイスをかざす、今日も命がけの戦いが始まる
「行ってくるぜ、石夜見」
『生きて帰って来いよ』
「当たり前だ!」
部屋を出てクソでかエレベーターに向かっていると、知っている顔が見えた
「あら原木様、おはようございますわ」
「よ、エミリア。今日も頑張ろうぜ」
朝から気品溢れる佇まい、これから殺し合いに行く朝一の人間の姿にしては輝きすぎてる
「そういえば、原木様はもうご覧になりましたか?ポイントと交換できる物の一覧表」
「あ、忘れてた」
「こちらなんですけど……」
エミリアが差し出した紙を見る、低いものから順に書かれていた
「お、ポイントでコストが買えるのか」
「9999に戻せますわね」
「そんなにはいらないな……金?1ポイント50万円?ここで貰っても意味無いだろ」
少しずつ目線を下げて行くと、とある一点で目が止まる
「家族に電話できる券 50ポイント……?」
四日、いや拉致されてからゆうに二ヶ月、ずっと連絡を取れてなかった家族と電話ができる
「原木様は自分の意志で来られた訳ではありませんものね……」
エミリアが眉を下げて俺の方を見る
「これは最有力候補だな、他には……研究資料?前貰った奴の完全版か?」
そして一番下の欄を見た時、無意識に呟いていた
「大神 螺旋と謁見できる券 100ポイント」
一般人を何人も拉致して、人間に特殊能力を付与するなんてふざけた実験を始めた諸悪の根源の元に行ける券。それが最高額の所に待っていた
要するに、止めたかったら勝ち残って来いと言うことらしい
「…………」
「原木様……?」
「ふふっ……ははっ!やってやるぜコンチクショウ!」
「絶対100ポイント溜めて、このイカれた研究者を倒してやる!」
「やはり……そう言うと思って見せましたの」
目標が決まった、100ポイントを貯めるそして倒す。なんてシンプルなのだろう
そんな事を考えながら歩いているとクソでかエレベーターに到着した
「なんか張り紙がある……えーっと、一人ずつ乗らなきゃダメみたいだな」
「では、僭越ながら私が先に」
エミリアがデバイスをかざしてエレベーターに乗り込む
「フィールドが同じだったら一緒に、違くても絶対生き残るぞ!」
「えぇ、もちろんですわ」
扉が閉まりエレベーターが音を立てながら落ちていく
(……そもそも一人ずつ、多くても昨日のペア戦の二人ずつ使うならこんなにデカい必要ないよな。元々は違う用途で使われてたのか、設計当初とは違う形式で戦闘によるデータ収集を始めたからこうなったのか……)
適当な事を考えてるとエレベーターが帰って来た
(考えるだけ無駄か)
エレベーターに乗り込む、今までと違う戦闘形式だがやる事は変わらない……生きて戻る、それだけだ
(初っ端から横、次に下……知らないルートだな)
そしてエレベーターの扉が開いたそこは
(……砂漠だ)
エレベーターから踏み出すと砂に沈む足、一面広がる金色の丘、ぽつぽつと並ぶサボテン、少し遠くに見えるオアシスと町……イメージ通りの砂漠だ
人口太陽も心なしか他のフィールドより強く照っている気がする
(なんか、景色だけで暑く感じてくるな……いや、本当に暑いのか?)
『ブロックE-2:定員人数の移送確認。それでは今からルールを説明します』
『制限時間は二時間、相手を気絶させるか殺害するとポイントを入手できます』
『気絶から目覚めた際の途中復帰は認められており、気絶している者の故意な殺害はルール違反とします』
『また、戦闘継続が不可能とみなされた気絶者は自動で回収されます』
『それでは……スタート!!!』
(今は12時だから……終わりは14時か)
(さてと、まずは……)
周囲に敵がいない事を確認してデバイスを起動して、チャット機能のグループを開く
『俺はE-2だった、誰かいるか?』
すぐに全員から返信が届く、ひとまず全員接敵してないみたいだ
『我はFである』
『私はB-1でしたわ』
『わわ私もB-1でした』
初日から一人か……というか王城とエミリアが口調のままなのは分かるが、文毬がチャットでも吃っているのは何でなんだろうか
(震えてるからか?まぁいいや、後で本人に聞くか)
改めて顔を上げ、周りを見渡す……誰もいない
(出来れば誰とも戦いたくないが……戦わないとポイントが手に入らないんだよなぁ)
「おい」
逡巡しながら砂丘を歩いていると、丘の上から声をかけられる。急いでトンカチを構えて向かい合う
「妙な真似するなよ」
脅している相手の指先に目が行く、金属っぽくなっていて穴が空いていてまるで
(銃口みたいだ)
「俺のデュークは【ハンドガン】、指先を銃口に変える能力だ」
指先の銃口がこちらに向けられ、無意識に両手を上げてしまう
(銃……そしてこの立ち位置……よし、ローカルルール【高鬼】!)
知っているならダメージ、知らなかったらプランB。そんなノリで発動した高鬼と向けられた銃口……まるで初日を思い出す
「そうだ、それでいい……抵抗しないなら殺しはしな──」
「お前、大富豪って知ってるか?」
(3……)
「は?」
突然の俺の発言に相手が止まる
「大富豪だよ、トランプの」
(6……)
「知っているが、それが何だ?」
「じゃあ革命は分かるか?同じカード四枚捨てたら強さがひっくり返るやつだ」
(9……)
「知ってたら何なんだ!お前の命は今俺の判断に委ねられて──」
「10!!」
バチィィ!!!
「ガハあああ!!??」
どうやら、高鬼も知っていたらしい
相手が怯んだ隙にコートからトランプを四枚投げ捨て、水鉄砲を取り出す。王城・エミリアとの戦いが思い出されるな
「ローカルルール【大富豪・革命】!!これも一種の銃だよな!!」
「うぅ……抵抗と見なした!射殺する!!!」
しかし、構えられた相手の銃口からは
「……な、なんだ?俺の指先から銃弾が出な……何で水が出てくるんだ!!!???」
「なんでだろうな!!!」
叫びながら水鉄砲のトリガーを引くと銃弾が飛び出す、そして
ズドッ!!
「うわああああ!!!」
「お、肩に当たった。銃の素人だから当たらないと思ってたけど……意外と当たるんだな」
感想を述べながら相手に近づく、既に戦意は無い様だ
「や、やめ……殺さないで……」
「殺しはしないさ、ただ」
俺はトンカチを振り下ろした
「うっ──」
『朱重 輝 気絶確認、原木 遊にポイントが加算されます』
「ふぅ……まずは1ポイントか、先は長いな」
同時刻、フィールドB-1
プァーン、キキーッ、キーッ
「あら、戦闘用のフィールドなのに電車は来ますのね」
腕のデバイスから顔を上げると誰も乗っていない電車が止まっていますわ、フィールドのギミックでしょう
「早く文毬様と合流しなくては……それにしても日本の地下鉄駅というものは複雑な構造ですわね」
同じフィールドだと分かった私と文毬様は合流することにしましたの。電灯の光と時折聞こえる電車の轟音、低い天井と無機質を広告で彩った壁が広がる大規模地下鉄駅の時計塔前で
(マップを見たところ、商業施設と地上の駅も繋がっている様ですわ。上に下に複雑で私、困ってしまいますわ)
(それにしても、日本の電車は定刻通りに来ると有名ですわね。我が国の電車は遅れるのが普通ですから凄いと思いますの)
そんな事を考えながら階段を登りきりますと
「あ、エミリアさん……」
「文毬様!無事に合流出来ましたわね」
「花冠してる……そ、それをたべるんですか……?」
「えぇ、そうですわ。それにしても、お友達と一緒というのはやはり安心しますわね」
「友達……わ、私が……?」
文毬様が恐る恐る尋ねます、わざわざそんなこと聞き返さなくてもよろしいのに
「ふふっ、昨日一緒に過ごしましたでしょう?私はもうお友達だと思ってますわ」
「そ、そうですか……友達……えへへ」
「さてと、合流しましたがこれからどうしましょうか」
二人で周囲を見渡しますが、誰もおりません
「む、無理に戦わなくてもいいですし……ね」
「そうですわね……それでは行きましょうか」
「え、行くってどこに……」
怪訝そうな顔でこちらを見る文毬様に、私は笑いかけて
「探索ですわ、この様な施設初めて来ましたもの」
「え、えええ…………?」
「わ、すごいですわ文毬様、この様な物が売っていましたの」
キラキラした目で龍の巻き付いたキーホルダーを差し出される、まさか高校生になってからこれの話をするなんて
「こ、これは割と日本のどこでも売ってます……」
「そうなのですね、ここを出たら買いに行きたいですわ」
(うぅ……いつどこから敵が来るかわからないのにお店巡り……宝石重いから移動辛いし……)
(で、でも……友達だもんね、えへへ……)
エミリアさんの方を見るとまだお土産ショップの棚で目を輝かせてる
(この人の眼もそんな嫌いじゃない……かな?よくわかんないけど……)
「文毬様!次はあちらに行きましょう!」
「は、はい」
言われるがままに店を出たその時
「おーっと、可愛い子ちゃん二人発見」
声のした方を振り返ると、上下を青のジャージで包んだナイフを持った男が一人。普通に通り魔にしか見えない
「え、エミリアさん、敵です……!」
「えぇ、その様ですね」
エミリアさんの顔つきが変わって、既にフォークを構えている。お花を食べるためだろうか
「おいおい、そんな怖い顔するなよ。折角の美人が台無しだぜ?」
「じゃ、じゃあそのナイフを下ろしてください……!」
「そいつは聞けない相談だなぁ、これが無いなら俺は何で君たちを倒せばいいんだい?」
ひらひらとナイフを振って煽っている男、睨む私をよそにエミリアさんは一歩踏み出した
「私はエミリア=F=シュヴァルツ、ドイツの貴族シュヴァルツ家の令嬢ですわ」
「これは親切にどうも、俺は面土 裂気だ」
「裂気様、あなたは巻き込まれた一般人でしょう?私達は無意味な戦いはしたくありませんの、貴方様引くなら後追いはしませんわ」
エミリアさんが淡々と言葉を並べる。そうだ、相手も戦うメリットは無いはず……
「嫌だね。確かに俺は一般人さ、夜中歩いてて拉致られた時は死んだと思った」
男は語りながらその場を行ったり来たりしている
「でも目が覚めたら特殊能力が貰えて?一人倒せば50万貰えるときた……これはチャンスなんだよ」
「50万……?」
そういえばあった気がする、1ポイント50万円で交換できるって
「俺はここで変わる!お嬢ちゃんにはその踏み台になってもらうぜ」
「っ……来る!」
袋の宝石を取り出し、爪に変形させる。やるしかないらしい
「う、ああああああ!!!!」
勢いよく振りかぶった爪は
「あらよっと」
「!」
空を切った
「う、えいっ、やっ!」
右から、上から、フェイントを交えて左から、全部避けられてしまう
「無駄無駄、一発も当たらないって」
(な、なんで!?適当に振ってるわけでもないのに……!)
「文毬様、お下がりください」
瞳が赤くなったエミリアさんが炎を自在に操っている。あれが【エディブルフラワー】……
「フラム・カノーネ!」
通路いっぱいの大きさの炎弾が男に向かって行く、これはさすがに──
「ほいっと」
「!?」
男は大きくジャンプして天井と炎弾のわずかな隙間に体を通した。一般人にこんな芸当ができるわけがない、つまり
「デュークで回避してる……!」
私の呟きに男が指を鳴らす
「ビンゴ!俺のデュークは【条件反射】特定の物・行動が自分に向かって起きた時に自動で体がとる行動を予め設定できるのさ」
「分かりやすく言うと、剣で切られるのをトリガーにして、回避を行動に設定しておくと絶対に回避できる」
男は自慢げにデュークの説明を続ける
「もちろん設定できる上限はあるが、俺が設定した行動は必ず実行される!俺の体の動きの限界を超えてな!」
「つ、つまりあなたが思いつくような攻撃は全部……」
男の口角が上がる
「そう、ぜーんぶ回避に設定してるってわけ」
それは、難攻不落の宣言だった
第七話 完
原木 遊
12月19日生まれ 19歳 玖素広大学二年生 男 東京住み
ひょんなことから怪しい人体実験に巻き込まれた大学生。生きて帰るために謎の多い能力と共に突き進む!
コスト:9
トランプ、白紙、ペン、水鉄砲、ライター、扇子、マジックナイフ
デューク:ローカルルール
物・事象に既存のルールを適用する事ができる、ただし同時に適用できるルールは一つまで。
NGワードゲームなど他に道具が必要なルールを適用するには該当の道具を用意しなければならない。また、そのルールを知らない相手には発動できない
好きなもの:ボドゲ・遊ぶこと・頭を使うこと全般・バカみたいな味の食べ物
嫌いなもの:一方的な勝負「自分が勝ってても」
得意なこと:頭を使うこと・切り替え
苦手なこと:退屈
性格:前向き・お調子者・素直
信念:大神 螺旋と、この実験を止める




