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第六話:いっぱい対いっぱい、そして──

組み伏せられ、覆い被さられた衝撃で過去の記憶がフラッシュバックする、それとも走馬灯?父の、あの男との記憶が


「大丈夫だ、みんなやってる事だからな」


いないのに、ここには。お酒の匂いもしないはずなのに


押し付けられる男の手。違うあの手じゃない、でも、でも


「文毬!おい、文毬!!」


「よしよし、ゆっくりでいいから、な?」


「装呀は良い子だからちゃんと笑えるよな」


忘れたいのに、あの男の声が頭から離れてくれない


「っ……この!どきやがれ!聞こえるか文毬!」


「はぁ、はぁ……装呀……!」


思い出すな、思い出すな、思い出すな


背中に硬い床、荒い呼吸、見下ろされて、違うのに違うのに


「はぁ……装呀はお母さんよりいいぞ、自信を持て……」


「文…り…!」


嫌なのに……嫌、なのに


「っ……あぁ……装呀……!」


「ふぅ……おい、ピル飲んでおけよ」


「あなた……何してるの!?」


お母さん以外みんなそうだ、憐み、蔑み、利用、欲望。みんな眼がそうなんだ、中学校の人も近所の人もあの人もこの人もみんなみんなみんな


お母さん


助けて






「あああああああああああ!!!!!」



「「「叫んでも無駄だよ、すぐに楽にしてあげるから」」」



(この人もそうだ、蔑みの眼、もう死ぬ私を。私死ぬんだ、死ぬんだ死ぬんだ死ぬんだ、ごめんなさいお母さん、ごめんなさ──)


「文毬ぃ!!!」


私に跨っていた分身がトンカチで殴り飛ばされる、それだけじゃない、四肢を抑えてた分身もいつの間にか居なくなっている


「あ、あ……原木さん……」


「文毬!お前が父親と何があったかは知らない!」


私に向かって来る分身を倒しながら叫んでる、自分の身を守るので精一杯のはずなのに


「でも!昨日言ってたよな!お母さんに会いたいって!いるんだろ仲の良い母親が!」


「は、はい……」


「俺にもいるさ!口うるさいけど、もう一度会いたいと思える母親が!!」


「原木さん……」


「それだけじゃない!仲のいい友達、よくつるむ後輩、大切な彼女……なぁ文毬」


原木さんがこっちを見てる。真っ直ぐ、ただ真っ直ぐ


「帰ろうぜ!?こんな施設から!!!」


「っ…………!」


ずっと逸らしてた、決めつけていたから。どうせ他の人と変わらない眼をしてるって、でも


(……違う)


原木さんの眼には憐みも蔑みも利用も欲望も無かった、それでいてお母さんの慈愛とも違う真っ直ぐな


(……信頼?)


(何で!?私、私こんなオドオドしてドジで、すぐ逃げて、何もできないのに……何でそんな真っ直ぐ…………)


「しまっ……腕を捕まれた──」


ズバッ


瞬間だった、体が勝手に動いて、それで


「原木さん……わ、私、戦います!」


もう、迷いは無かったこの人なら怖くないと思えたから


「文毬……!!」


「ぜ、絶対、お母さんにまた会うために!!」


「よーし!その意気だ!」


「……なーんか、万事解決みたいな雰囲気出してるけどさぁ」



「「「僕達に勝てる手段はあるのかなぁ!?」」」



(そうだ、状況は戻っただけ……何かこいつに勝つ方法を考えなきゃいけない!何か……本体を見つける手段か、この人数差をどうにかできるルールを!!)


(人数差……増やし鬼とかなら……!いやダメだ、本体がしれっと鬼側になったら気づかない……もっと、本体に関与したら終わりで、人数差をどうにかできて、なおかつ、相手が知ってなきゃいけない…………)



「「「どうした?もう終わりなのかい!?」」」



「ひゃっ!さ、さらに増えて……」


視界を埋める程の分身の群れ、絶望が形を成す様だった


(っ……猶予がない、こうなったら)


「文毬!」


「は、はいっ!」


「十秒だ!十秒だけ俺を守ってくれ!この状況をどうにかする方法を考える!!」


「じ、十……」


「絶対、どうにかしてみせる!」


「……わ、わかりました!!」


俺はその場に立ち止まる、命はすでに文毬に託した


(考えろ、考えろ考えろ!絶対にあるはずなんだ逆転の一手!!鬼ごっこ、違う!だるまさんが転んだ、違う!缶蹴り、ドッジボール、しりとり、マジカルバナナ、大富豪、ババ抜き、すごろく、オセロ、麻雀、ポーカー…………)


「うぅ……一体を倒すのは簡単なのに……本体を倒せば終わるのに……!」


(一体を倒すのは簡単……それは本体も分身も同じ……)


(……そうだ、あれなら!!)


(人数差をひっくり返せて、本体を見つけたら終わりで、相手も文毬も知ってそうなやつ!!)


「文毬!将棋のルールはわかるか!?」


「は、はいぃ!」



「「「将棋ぃ?それぐらい僕にもわかるさ、わかったから何なんだ!」」」



よし、流石だ日本の伝統的な遊び。ここからが逆転だ


「ローカルルール【将棋】!!!」


……静寂が降りた



「「「………………はっ、ははははっあっはははぁ!!何も起こらないじゃないか!!」」」



「いや、起きてる。将棋って言っただろ?こっちの王は俺、そっちの王は本体。王を倒した方の勝利だ」



「「「だからぁ?それはさっきまでと変わらないじゃないか!!」」」



「文毬、適当に分身を殺せ!」


「は、はいっ!」


「なぁ、将棋の醍醐味……知らないとは言わせないぜ?」


文毬が近くの分身達の首を刎ねる、さっきまでなら殺された分身は元の髪の毛やらに戻る……が



「「「……分身が消えない?いや、何だ……何かがおかしい!」」」



「は、原木さんっ!く、首を落とした分身が、他の分身を襲い始めました!!」


将棋:9×9マスの盤面で各20枚の駒を使い、相手の「王」を先に倒した方が勝ちとなる。8種類の駒はそれぞれ違う動きができ、また──


「将棋の醍醐味……倒した駒を自分の駒にできる!!」


叫びながらトンカチをその辺にいた分身の頭蓋骨に叩き込む、頭から血を垂らした分身が他の分身に殴りかかる


「お前の大量の歩兵、いただくぜ!!」



「「「な、待てっ、待て待て待て!!!」」」



「待たねーよ!!」


俺と文毬が殺した分身達が次々とこちらの味方になる、死体と分身が殴り合う様子はさながらバイオハザードだ


「ひっ……やめろ、やめろよ……やめてくれよ!!」


奥の方で本体と思われるやつが必死に分身を増やしている、もう無駄なのだが


「文毬!いたぞ本体!」


「僕はこの力で、あいつらに復讐するんだ!だから、だからぁ!!!」



「「「「「来るなああああああぁ!!!!」」」」」



その瞬間、俺の銀将が本体めがけて飛び出した


「行け、文毬!!」



「「「ひぁっ」」」



「え、えいぃっ!!!」


バゴォーン!!!


巨大な宝石の拳が本体めがけて振り落とされた、そして


『多群 集斗 気絶確認、勝者原木&文毬!!』


「よっしゃああ!」


「や、やりました!!」


文毬に駆け寄って腕を出したところでハッとする、ハイタッチしようとした手を下ろした


「わ、悪い……流石に触るのは嫌だよな」


「…………」


パンッ


下ろした右手への衝撃と同時に、乾いた音が無人のモールに響く。さっきまでの喧騒はもうなかった


「文毬……」


「あ、あの、その……原木さんなら、少しは触るの大丈夫……です……えへへ」


「文毬……!!」


笑顔だ、あの文毬が。初めて会った時からずっと怯えてた文毬が


『ビーッ!ビーッ!』


武器返却口が水を差す、戦いの余韻を壊す電子音が耳に刺さる


「よし、さっさと返して戻ろうぜ」


「は、はい」






『……まさか本当に文毬と協力できるとはな』


「自分でもそう思う」


部屋に戻るといつも通り石夜見が通話を繋いで待っていた


『持ち上げといてなんだが、正直今回はダメだと思っていた』


「おい!」


『冗談だ、でもお前は本当に俺の予想をことごとく上回るな』


『さてと、今回の勝利報酬だが……待て、どこに行く気だ』


さりげなく立ち上がった俺に石夜見が尋ねる


「王城が試合終わったらすぐに来いってうるさいから……今日こそはすぐに戻るから、な?」


『待て原木、おい!』


「本当にすぐに戻るから!」


石夜見の静止を振り切ってドアを開ける


(〔おい!〕〔原木!〕〔まだ話は終わ……って……〕)


ある程度進んだところで石夜見の声が頭から消える、大体50メートルだろうか


(あいつの能力にも有効距離があるのか)


(それにしても悪いことしたか……?)


飯だけ食ったら戻るか、なんて考えてると文毬の姿が見えた


「あ、あ、原木さん……」


「文毬!文毬も飯食いに行くのか?」


「えっと……それもあるんですけど……」


文毬が廊下の隅を見ながら言葉を探してる、目を合わせて話すのはまだ難しいらしい


「よ、よかったら一緒にご飯食べたいなー……とか思ったり……」


「おー!いいけど、俺の友達と一緒でもいいか?」


「原木さんの友達……?」


話しながら歩いてるうちに王城の部屋の前に着く


「男だけど別に悪い奴じゃ……」


「だから離せと言っているであろう!エミリア=F=シュヴァルツ!!」


ドアの向こうから怒声と知った名前が聞こえる


「……ほ、本当に悪い人じゃないんですよね?」


「…………まぁ」


ドアを開けると嫌がる王城の手をエミリアが握ってブンブンと振っていた


「ですが、王城様も見ていたでしょう原木様の戦い!私、興奮が収まらなくて!」


「だからといって我の部屋に押しかける事はないだろう!」


「こんな話できるの王城様だけですわ!」


「それと手を握るでな……来ていたのか原木 遊」


「やっと気づいたか……それで、何してるんだ?」


エミリアの手を振り払った王城がこちらにズカズカと歩いて来る


「どうしたもこうしたも無い!試合が終わった途端にエミリア=F=シュヴァルツが押しかけて来たのだ!」


「だって私、本当に感動しましたの!あの人数差から勝つなんて!原木様、あの時使っていた将棋とはいったいどの様な遊びですの?」


そういえば王城が敗者は試合が見れるって言ってたな、それでか


二人の勢いに圧倒されていると、エミリアが俺の後ろで怯えていた文毬に気づいたらしい


「あら、貴方様は先ほど原木様と一緒に戦っていた……」


「文毬 装呀であろう、先ほどの戦いでの動きは見事であった」


「あ、ありがとうございます……」


流れるように俺と文毬が部屋に入れられる、流石に四人だと狭い


その時、王城の部屋のモニターが起動する


『王城君……よかったまだいるわね、それに……』


『原木!全く、話は終わってないと言ってるのに無視とはな』


「げ、石夜見!なんでそこに……」


葉梨の横に映っている石夜見の姿に思わず声が漏れる


『お前が無視するからな、俺も移動したんだ。エミリアと文毬もいるのか……まぁいい、それじゃあ四人で見てくれ』


「見るって何を──」


言い終わる前にモニターの画面が変わる、そこに映ったのは


『やぁ、被験者《モルモット》の諸君よ!!』


「っ……大神 螺旋!!」


全ての元凶だった


『四日ぶりか?研究に没頭すると時間を忘れてしまうな、だが喜べ諸君!君たちの戦闘データによってθ細胞は進化した!今では直接の投与でも寿命を副作用とせずに能力を発現できる!これも全部諸君のおかげだ、ありがとう!!』


これほどまでに嬉しくない感謝があるか、こっちは人を……


『だが、まだ私の目標到達には至らない……そこで新しい戦闘方式でデータを取る事にした!明日からは第二招集被験者も交えて更なる進化のために尽力してくれ!!』


『それにしても、やはり研究は面白いな!!最初は一般人ごときに貴重なθ細胞を使うのは気が進まなかったが、こんな結果を残してくれるとは!』


『特に君だよ原木 遊(ローカルルール)!!』


大神がこちらに向けて指を指す、画面越しだと思わせない迫力で


「お……れ?」


『一般人だと侮った私は深く反省した!また、無名だからこその能力による発展力があることを知った!全て君のおかげだ!!』


『よって第二招集では一般人の比率を多くした!ぜーんぶ君の功績だ!!喜べ!!』


「俺の……?俺のせいで巻き込まれた一般人が増え……」


『もちろん他の被験者《モルモット》もよく尽力していた!まぁ、少しばかりの尊い犠牲もあったが……彼らも偉大な一歩の糧となれたんだ、本望だろう!!』


『それでは、明日からも頑張ってくれ諸君!!!』


初日と同じく、言いたいことだけベラベラと垂れて画面が石夜見と葉梨に切り替わる


「は、原木さん……」


「原木様……」


「原木 遊」


三者三様心配した顔でこちらを見ている、だけど


「……大神ぃ!!」


落ち込んでなんかいられない、俺のせいなら俺が止めてやるあのイカれた研究者を


『どうやら、へこたれたりはしてない様だな』


「当たり前だ!!」


「心配するだけ無駄だな」


『それじゃあ明日からの戦闘形式について説明する、簡単に言うとバトルロワイヤルだ』


石夜見は淡々と説明を続ける、横の葉梨の私が説明したいという顔も意に介さずに


『被験者は20あるフィールドにランダムで移動、その後一定時間そのフィールドで戦ってもらう……大体二時間程度だ』


『そして、終了後に戦闘成績によってポイントが与えられる』


「ポイント?」


『あぁ、ポイントは色々な物と交換できる。また後で一覧表が送られるから目を通してくれ』


(なんだか、よりゲームらしさが増したな)


『それと原木、お前にいいニュースと悪いニュースがある』


「な、なんだよ」


急な名指しにドキッとする、さっきの大神の演説のせいもあるだろう


『お前たちのデバイスにチャット機能を追加した、明日からの試合はランダムな位置からのスタートだからな、フィールドが一緒なら連絡を取り合って集合できるだろう』


端末を開くと確かに新しいアイコンが増えている、石夜見の計らいか、王城・エミリア・文毬、そして全員の入ったグループが最初から登録されている


「おぉ!便利!」


「これがあれば帰室時間後もお話できますわね」


ワイワイしていると石夜見が続きを話し始める


『……ここからは悪いニュースだ、ローカルルールの能力が判明したからコストの見直しがされた』


「それで?いくつになったんだ?」


『9だ』


「は?」


『9だ』


「いや聞き取れてない訳じゃない」


『相手が知っているという条件を満たせば実質何個も能力を持っている事になるからな、会議の結果これが妥当となった』


「そんなぁ……」


『それに前までが破格すぎたのもある、文毬は3000と高いが、エミリアは80で王城なんて2だぞ』


「別に良い、我には拳がある」


「私もお花とカトラリーだけですので」


『……それじゃあ俺からは以上だ、帰室時間まで自由にしていてくれ』


『あ、待って私も話した──』


切れた、無情にも


「じゃあ飯食いに……いや、その前に自己紹介するか」


「自己紹介だと?」


「な、なんでですか……?」


「文毬は二人と会うの初めてだし、王城とエミリアもお互いの能力は詳しく知らないだろ?明日から協力して戦うならちゃんと知っておいた方がいいんじゃないか?」


「なるほど……良い提案ですわね」


王城と文毬も納得してくれている様子だ、よかった


「じゃあ俺から……原木 遊 玖素広大学二年生 19才、趣味は遊ぶことで、デュークは既存のルールを物や人に適用できる【ローカルルール】!」


「……全員原木 遊とは戦っているから必要なかったのではないか?」


「いいんだよ、はい次王城」


王城が渋々立ち上がる、別に立てとは言ってないんだが


「我は王城 覇道 20歳である、得意な事は武術全般、デュークは相手の行動、物の動きを【許可】で超高速で終わらせ、【拒否】で封じる【主導】」


決めポーズまでとった王城が座り直す、格闘家の癖なのだろうか


「許可と拒否……例えば私が立とうとするのを……」


「拒否」


「すごい!立てませんわ!」


「時間で解除されてしまうがな、十分強力な力だろう」


王城が誇らしげに腕を組む、褒められて嬉しそうだ


王城が能力を解除すると、立ち上がったエミリアが一礼した


「私はドイツの貴族シュヴァルツ家令嬢、エミリア=F=シュヴァルツですわ、年齢は17歳でダッチェスはお花を食べるとお花に応じて能力が変わる【エディブルフラワー】ですわ」


「お花を食べる……?」


「今は手元にありませんが、例えば薔薇を食べると炎が出せますのよ」


「な、なんか可愛らしい能力ですね……」


「ふふっ、ありがとうございますわ」


昨日俺との会話を投げ出した文毬が積極的に話しに行っている、女性同士だからか、今日の戦いで成長したのか


(後者だと嬉しいんだけどな)


「さ、最後……私は、文毬 装呀って言います……ダッチェスはアクセサリーって言って、ひ、表皮15センチ程度の周囲にある物を自由に変形させて装備できます……」


「文毬 装呀、貴様は先の戦いで良い動きを見せていた、何か武術を嗜んでいたのか」


「い、いえ……」


「ほう……天性のものか」


王城が人に興味を持っている、文毬が男と話せてる、二重の感動に襲われてしまう


「よし、それじゃあ飯食いに行くか!」


「良いですわね」


「その後は訓練室で鍛錬である、文毬 装呀の武術もより磨き上げたい」


「は、はい……」


「その後はトランプしようぜ!」


「……まぁ、少しなら我も付き合おう」




目覚めて四日目、俺たち四人の戦いが本格的に幕を開けた


第六話&第一部 完

石夜見 伝(いしよみ でん)


7月18日生まれ 27歳 大神製薬研究員 男 東京住み


原木 遊の専属研究員!全てを読み取るクールな瞳で何を思う──


コスト:なし

ハンドガン・ナイフ


デューク:伝達

相手の思考に自分の考えてる事を差し込む事ができる。


グランデューク:テレパシー

最後に目を合わせた人間の考えてる事を知る事ができる。映像越しでも使用可能。


好きなもの:マニュアル


嫌いなもの:想定外の事態


得意なこと:情報検索・機械いじり


苦手なこと:噓をつくこと


性格:不器用だが誠実


信念:自分の研究を完成させる

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