第五話:二対三十七兆
「戻ったぜ石夜見」
『やっと帰って来たか』
王城、エミリアとトランプしてから食事を終えて部屋に戻ると、今日も既に通話が繋がっていた
『……仲間が増えるのはいいが、俺はお前と話すぐらいしかやる事がないんだ、もう少し構ってくれ』
「何だよ急に、珍しいこと言って」
『それに、だ』
石夜見がこちらを見つめる、空気が変わった
『ここにいる以上、いつ戦っていつ死ぬかわからないからな……覚悟だけしといた方がいい』
「っ……わかってる」
そうだ、今は生かされているが、負けたあいつらがこの後どうなるか分からないし、もう戦わないとは限らない。改めて突き付けられた事実が深くのしかかる
「それに、俺もそうだろ」
椅子に座りモニター越しの石夜見を見つめる、俺は自然と不敵な笑みを浮かべてた
「あいつらとお前のためにも、次の戦いも勝たなきゃな」
『……そうだな』
「よし、そうと決まれば早速明日の武器を──」
『待て』
マウスを構えた瞬間に石夜見が待ったをかける、普段は勝手に画面変えるくせに
「なんだよ」
『次の試合なんだが、ペア戦になった』
「ペア戦……?」
『あぁ、それに当たって今からペアの相手に会ってもらう』
『彼女はお前と同じ、拉致された側の人間だ』
話がドンドン進んで行く。だが仲間が確定でいるのは心強い、しかも同じ境遇ときた
そう思っているとドアが開く、待ってたと思われる女性が入って来──
「ぎゃふっ!」
…………転んだ
「おい大丈夫か……ん?お前どこかで見た気が……」
怯えた顔、学生服、そして転んでいる体勢。既視感があった
「…………あ、思い出した!この前食堂で転んで俺にスープぶちまけたやつ!!」
「ひゃあっ!ご、ごごごごごめんなさい!わ、私、昔からドジで……」
「いや、別にそんなに怒ってな……とりあえず立てるか?」
女性は差し出した俺の手から這った体勢で逃げてく……途中でドアフレームに足をぶつけた
「……何も逃げることないだろ」
「うぅ……ごめんなさい……」
『そいつは文毬 装呀、福岡の女子高校に通う二年生だ』
「です……」
説明する石夜見をよそに文毬は部屋の隅に陣取っている。そんなに怒ってないのに
『……過去に父親が原因で離婚しており今は母親と二人暮らし、おそらくこの経験のせいで男性に恐怖を抱いている』
「は、はい……合ってます」
(なるほど、そのせいで避けられてるのか〔そうだろうな〕〔どうにか仲良くしてみてくれ〕無茶言うな)
今までで一番便利なデュークの使い方をした俺はとりあえず椅子に座る、どうにか仲良くならなければ負けてしまう可能性が高くなる
話かけようと文毬の方を向く、一切目を合わせようとしてくれない
「うぅ……お母さんに会いたい……」
「えっと……まずは自己紹介だよな、俺は原木 遊、趣味はボードゲームで好きなことは遊ぶこと……お前は?」
「ひいぃ……距離感が近いぃ……」
「……文毬さんは?」
「あ、えっと……趣味は無いです、好きなことも…………ごめんなさい」
何だか部屋の空気まで申し訳なさそうになってきた
「そ、そうだ、俺のデューク【ローカルルール】って言うんだ、物・事象に既存のルールを適用する事ができて、ドッジボールの顔面セーフを適用して顔への攻撃を無効化したりできるんだ。文毬……さんのダッチェスは?」
「わ、私のは……その、えっと」
沈黙が降りた、パソコンのファンの音だけが部屋に響く
「あ、あ、あ……【アクセサリー】です……」
「アクセサリー」
「は、はい……」
「……えっと、何ができるんだ?」
「その、えっと………」
文毬は指先をもじもじと絡めたまま固まる
「ゆっくりでいいから、な?」
「ひゃ…………あ、あ、あ、ああああああああああああ!!!!」
少し固まった後、叫びだした文毬はそのまま走って行ってしまった
「……え」
『行ってしまったな』
「何でだよ!?そんな変なことは言ってない……はず」
『一気に質問しすぎたか、あるいはトラウマか……いや、考えても無駄だ』
「はぁー……どうするかな……」
『……原木、俺の口から文毬のダッチェスを説明することはできない。だがローカルルールの能力を解明した知能と、戦った王城とエミリアを仲間にしたお前の人間性ならどうにかできると俺は信じてる』
急にちゃんと褒められる、あまり慣れてない事に思わず照れてしまう
「買い被りすぎだろ……まぁ確かに結構スゴイことしてるのか?」
『少なくとも、俺は評価している』
話していると画面が変わる、見慣れた武器選択画面
『見せてくれ原木、お前の力を』
「ふっ、わーったよ!」
次の日、俺と文毬はクソでかエレベーターに乗り込んだ……文毬が入口側に、俺が対角に立つ形で
(エレベーターがクソでかで助かった……にしても相変わらずの距離感だな)
(……ていうか文毬が持ってるあの袋は何だ?ダッチェスに関係しているのか?)
(あの後寝るまで考えたけど、仲良くなる方法は何も思いつかなかったな……)
「あ、あの……昨日は逃げちゃってごめんなさい……その、昔の事思い出して……」
文毬が壁を見たまま話しかけてきた、声だけでなく手も震えている
「別に気にしてないって」
「あ、ありがとう……ございます」
文毬は小さく肩を震わせながら一度だけ頷いた、少し進歩か?
そうこうしている内にエレベーターが止まる、今日のフィールドはショッピングモールだ
(室内オンリーか、これまでに比べると少し狭いな……)
『Fブロック:原木&文毬VSビスタ&多群、移送確認。それでは今からルールを説明します』
『制限時間はありません、相手二名を気絶させるか殺した方のチームの勝ちです』
『また、片方が意識がある状態で気絶から目覚めた場合、戦闘への復帰を許可します』
『それでは……スタート!!!』
(相手が見えないな、フィールドが狭い分初期位置が遠いのか)
見渡す、服屋、靴屋、ドーナツ屋、無人のショッピングモールと言うものは人工街よりどこか寂しい。最初から人がいる前提の建物だからか、そこにあるべき者が居ないと寂しい
「さてと、とりあえず……文毬さんその袋の中身は?」
「あ、きょ、これは……」
袋を置いて中身をガサガサし始める、腕を引き上げるとその手には
「ダイヤモンドです……」
(ダイヤモンド!?)
叫ぶとまた怖がられてしまう、必死に叫びを抑えるが目はダイヤモンドに釘付けだ
「あと、ルビー、サファイア、アレキサンドライト……」
ひょいひょいと普段見ないような拳ぐらいの大きさの宝石が出てくる、形は歪だが輝きは本物だ
「えっと、何で……?」
「あ、それは──」
その瞬間、少し遠くからドタドタと足音が聞こえる
「ギャハー!見つけた見つけた!」
「っ……敵!」
腕と脚が獣の様になっている女の子が走って来た
「ぶち殺す!!」
「まずいっ、文毬!」
飛来してくる爪をよそに文毬は袋に手を突っ込んだ
「おい、避け──」
その瞬間、引き抜いた腕には宝石が纏わり付いていた
爪と腕に纏った宝石がぶつかって火花を散らす
「な、何だそれ……」
弾かれた女の子がクルクルと回転して着地する、その顔には三日月の様な笑みが張り付けられていた
「ギヒヒ!あなた強いね!」
「あ、あ、あの……あなた、私をこっここ殺すんですか……?」
「うん!絶対殺す!」
その瞬間、文毬の震えが止まった
「じゃあ、殺さなきゃ。やられる前にやられる前にやられる前にああああああああああああああ!!!」
発狂する文毬のアームカバーの様だった宝石が蠢く生物の様に形を変えていく、袋の中の宝石も足して禍々しい爪に育ち切った
「ギャハハハ!!いいねいいね!やる気だねええぇ!」
それに呼応して獣女子の人間の輪郭が減っていく、爪はさらに鋭利になり腕も脚も既にただの獣だった
「ギヒッ!ねぇ、あなたの名前は?」
「あ、あ、文毬──」
「私はビスタ!文毬ちゃん!いっぱい楽しもうねぇ!!」
そう言うとビスタは飛び出した、踏み込んだ床にヒビが入る
(早っ!)
「ひっ!ああああ!!」
文毬も飛び出す、昨日逃げたときよりも早い
(こっちも早っ!)
「ギャハハハハハハハァァァ!!!!!」
キン、ガン、ガキン、ゴキン、ガ、ガガン
「きゃあああああああぁぁぁ!!!!!」
真っ白な獣の爪と色んな宝石が混ざったギラギラの爪が踊り狂う、俺の入り込む余地はとっくに無くなっていた
「いいね!いいね!あなた最っ高!!」
「ひゃっ、あ、あっここ」
「ギッ、やばっ──」
ガキンガキンと鳴り響いていた衝突音は、突然の肉が裂ける音で終演した
「ゴハッ……ギャ……ア……」
獣女子の腹に宝石の爪が突き刺さっている、綺麗な宝石に血が付いて少し映えて見える
「ギヒッ……楽しかっ……た……ぁ」
『ビスタ=キルバンノ 死亡確認!!』
「あ、ああ、やったよ……お母さん……」
「え」
絶句してしまった。一瞬のうちに殺害、それなのにどこか誇らしい文毬の顔
「あや……まり……?」
文毬は肩で息をしながら、その場に立ち尽くしていた
「原木さん……い、行きましょうか、まだ一人いますし……」
「あ、その前に説明しなきゃですよね……わ、私の【アクセサリー】は自分の周囲にある物を好きな形に変形させるって言う力で……」
「ま、待ってくれ」
「はい……?」
文毬は何も気にしてなさそうだったが、俺には気にせずにはいられなかった
「はい……?」
俺は地面に倒れたビスタを指差す、腹を貫かれたまま動かない
「……お前、人を殺したんだぞ」
「……はい」
返ってきた声は、あまりにも静かだった。無人のショッピングモールに響く音としては十分うるさかったが
「怖く、ないのか?」
俺なら、きっとまたあの時みたいに気持ち悪くなる。エリオットを倒した後みたいに
「でも、でもでもでも」
「やらさなきゃ、やられるから……こ、ここまでの戦いで……それだけは理解したんです……」
その声は、どこか諦め切っていた
文毬の言いたいことは分かる。こいつは恐怖を飲み込むために敵を殺して乗り越えて来たのだろう
俺は運が良かっただけ、こうなっていた可能性だってあるんだ
「……俺も悪かった、お前にはお前の考えがあるよな」
「あ、私も……なんか、ごめんなさい」
また空気が沈んできた。今回は逃げられなかったが踏み込み過ぎるとまた昨日みたいになるかもしれない。もう少し気を付けて発言するか
「それじゃあ、文毬……さん、こいつが来た方向に行こう。もう一人の相手がいるかも」
「ひゃ、ひゃい……」
二人でビスタが現れた方向に歩き出す、爪が引っかかった跡や勢い良く踏み込んでヒビが入ったタイルを頼りに進んで行く
すると、痕跡が途切れた所に一つの影が待っていた。茶髪にジャケット、普通の日本人っぽい男が一人
「やっと来たか。全く、匂いでどこにいるか分かると突っ走って行ったくせに負けるなんてね」
やれやれと言わんばかりに首を振っている、二対一の不利な状況なのに余裕そうだ
「……なぁ、俺の武器にはスタンガンがある、今引き下がるなら気絶で終わらせてやるよ」
「引き下がるぅ?何故そうなるんだい?」
「なぜって……二対一だぞ?圧倒的に不利なのはお前の方だから……!?」
話してる途中、物陰から容姿の同じ男が出てくる。髪色、背丈、佇まい、全てが同じ男が
「一つ問おう、君達は人間の細胞の数を知ってるかい?」
「さ、さんじゅ……」
「知らな……てか、そいつは誰だよ……!?」
また一人、また一人と同じ姿の男が出てくる。五人、同じ姿の男が五人。
「答えは約三十七兆、そして俺のデューク【クローン】は俺の細胞を含む物体を俺の分身に変える……つまり」
本体以外の四人が一斉に襲い掛かってきた、引き下がる気は無いらしい
「「「「「二対一とか言ってたな?訂正させろ、二対三十七兆だ」」」」」
「っ……文毬さん!」
俺がトンカチで分身一体を倒してる間に文毬は三体を切り裂いていた、相変わらずの戦闘力だ
感心している間、既に文毬は本体に向かって駆け出していた
「ひゅ~、中々やるじゃないか……なら」
男の手から髪の毛、唾液、爪、フケ、その他もろもろが飛び出し、形を変えていく
「ひいいぃ……気持ち悪い……」
一、五、十、三十、ドンドン数を増していく
「「「さぁ」」」
「「「どれが本体か」」」
「「「「「分かるかなぁ!?」」」」」
無数の分身が俺たちを囲む、既に本体は見失ってしまった
「た、倒しても倒してもキリがないです……!」
「ちっ……くしょう!何か弱点を……」
(状況整理だ、まず殺した分身は髪の毛とかに戻るから死体が邪魔になることはない。次に分身にはデュークがないと考えられる、今俺たちを囲ってる分身たちがデュークを使う動きをしてないからだ。てことは本体の出せる物が無くなるまで粘れば……)
無理だ、文毬の戦闘力でも捌き切れない分身の応酬、正直身を守るので手一杯だ
「文毬……さん!こっちは手榴弾を投げて対処する!だからそっち側は──」
「ぎゃふっ!」
…………また転んだ
転んだ文毬を分身が組み伏せる、文毬の戦闘力ならあれくらい跳ね除けれる……はずだった
(ん?動かな……っ、まずい!)
その文毬の顔には見覚えがあった、昨日逃げる前に見せたあの顔。トラウマが目の前まで来たときの
「あ、あ、あ、おとう……さん……」
(お父さん?)
硬直している間に四肢も抑えられてしまっている、絶体絶命だ
「ごめんなさい、私が悪いから」
呼吸ができない
「もうやめて、嫌、嫌嫌嫌」
視界が狭くなって頭がぐるぐるする
「ごめんなさいお父さんごめんなさいごめんなさいやめてやめてやめてあああああああああああああああ!!!」
第五話 完
文毬 装呀
9月3日生まれ 17歳 病牙女子高等学校三年生 女 福岡住み
完璧に巻き込まれた一般人……のはずが、思わぬ戦闘の才を見つけたドジっ子JK!
コスト:3000
宝石55個・入れるための袋
ダッチェス:アクセサリー
自分の周囲にある物「表皮15センチ程度」を好きな形に変形させて装備できる。
好きなもの:お母さん
嫌いなもの:男の人・人の眼
得意なこと:ない……と思っていたが戦闘の才能あり
苦手なこと:人前に出ること・目を見て話す
性格:臆病・人見知り
信念:お母さんが幸せならそれでいい




