第三話:一緒に遊びましょ
「ここは……」
自室だ、視界に広がる既に見慣れた無機質な天井、そうだ
(我はあの男に……!!)
最後、気を失う寸前に言われた事を反芻する、我のデュークを利用しての一撃
いや、その前からだ、NGワードゲームで我が焦った時点で負けていたのだ
(次に合った時は必ず……!)
決意を固め起き上がる、まだ頭には痛みが響くがそんな事はどうでもいい
「あ、起きた」
……誰かの声が聞こえる、機械越しじゃない肉声
「おーい」
気絶する直前まで聞こえてた声と同じ声、そんな訳ないと恐る恐る首を傾けると
「おはよう、さっき戦ってた原木で──」
「何故ここにいるんだ貴様あああ!!!!」
「……なるほど、戦った我と話がしたくて来たら鍵が開いてたから中で待っていたと」
「はい、そうです」
「全く、貴様は人の部屋に勝手に入ってはいけないという事も知らないのか?」
「ごめんなさい」
さっき倒した相手に詰められている、勝手に入った俺が悪いから何も言えない
「それで、話とは何だ?それ以前にまず自己紹介であろう、名乗れ」
「原木 遊です」
「我は王城 覇道だ、それで何の用だ原木 遊」
フルネームで呼んでくるのが少し気になるが、とりあえず本題に入ろう
「俺と取引しないか?」
「取引、だと?」
よし食いついた、このまま押し切ってやる
「俺の手元には二回戦勝利の報酬としてもらった【実験概要】の資料がある、これを読ませるかわりに俺のデュークの解明を手伝ってくれ!」
「断る、我は負けた相手と馴れ合いほど落ちぶれたつもりはない」
「ぐぬぅ……まて、他にもお前にメリットがある」
「ほう?」
「お前のデューク、自分に使えないだろ」
指をさされた王城の顔が少し曇ったように見える、当たりか?
「ふん、根拠もない戯言を」
「えっと主導だっけ、それが自分にも使えるならさっきの戦いで殴るときも近づいて来るときも何で使わなかったんだ?」
「…………」
「あと武器コスト低いだろ、何でもいいから刃物があれば最初に引き寄せた時点で死んでたからな」
王城が一歩、二歩と後ずさり奥歯を噛み締めている
「っ……貴様の言う通りだ、我のデュークは我と我の使用している道具には使えない、それに我の武器コストは2だ……まぁ、我は元よりこの拳以外の闘い方を選ぶ気はないがな」
「戦ってる時も格闘家とか言ってたな……まぁいいや、そこで提案だ」
「何だ」
「さっきの資料に加えてお前のデュークの解明も手伝う!この条件でどうだ?」
「断る」
「ぐぬぅ」
「我のデュークは前任者により解明が済んでいる、今さら貴様の力を借りる必要はない」
「……と、言いたいところだが気が変わった、手を組んでやる」
「本当か!?」
「あぁ、史上二人目である我を倒した実力と、先の試合と見せたその知略……そして何より、話していて貴様という人間に興味が湧いた」
そう言いながら王城は部屋を出る、交渉でも俺の勝ちだ
「行くぞ原木 遊、地下五階訓練室へ」
「あぁ!」
「ここが訓練室……」
試合に使っている人工街と同じほどの大きさの空間には、砂上・海中・街中・森林、様々なフィールドが小規模に再現されていた、入口には武器の貸出機械もある
「さて原木 遊、デュークの解明と言っていたが、そもそも貴様のデュークはどういった力だ」
王城がその辺の小石を遠くに投げながら訪ねてくる
「えっと……俺のデュークはローカルルールって言って、物・事象に既存のルールを適用する事ができる、ただし同時に適用できるルールは一つまで。それで、鬼ごっこを適用してタッチするとかNGワードゲームでNGワードを言わせるとかの勝敗がつくもので勝つとダメージを与えられる。あと、ドッジボールの顔面セーフを適用して顔への攻撃を無効化するとか、横断歩道の白線以外を踏んだら落っこちるみたいな搦め手で戦ってきた」
「ふむ……本当に戯れだな、それで解明とか言っていたが何が知りたいのだ」
「あぁ、お前と戦ってるときに横断歩道の白線以外を踏んだら落っこちるが発動しなくて……」
「待て」
王城の小石を拾う手が止まってこちらを見ている
「?」
「さっきから思っていたが横断歩道の白線以外を踏んだら落っこちるとは何だ」
「やった事ないか?子供の時とかに横断歩道の白線以外を奈落に見立てて、落ちたらアウト~みたいな」
「知らぬ、我は幼少期を鍛錬に費やしたのでな。貴様の言う遊びと呼ばれる物に触れたのは最近からだ」
「そうか知らないのか…………ん?」
(知らない……)
俺の頭の中に一つの可能性が現れた、まさか、そうなのか
「王城、そこの横断歩道に立ってくれ」
「む?こうか」
「ローカルルール!」
発動した瞬間、王城が落ちていった
「うわあああ!」
「よし!発動した!」
可能性が少しずつ答えに近づいて行く音がする
「分かったかもしれないぞ王城!」
「何でも良い!早く出せ原木 遊!」
ローカルルールを解除すると穴が底から盛り上がってくる
「やる前に言わぬか、全く貴様という人間は……それで、何が分かったのだ?」
「まぁ待て、まだ仮説だ」
何かもう一例試してみたい、何かないかと考えていると空き缶が目に入る、フィールドの一部か誰かがポイ捨てしたのか
思いついた俺は空き缶を持って砂上フィールドに向かい、地面に円を書く
「なあ王城、缶蹴りのルールって知ってるか?」
「名前は知っているが、ルールは知らぬ」
「OK……ローカルルール【缶蹴り】!」
缶に足を乗っけて王城を指さす、怪訝な顔でこちらを見ていた
「王城みーっけ!」
「……何も起こらぬ」
知ってる、ここまでは計算通り
「じゃあ今からルールを説明するからな」
缶蹴り:鬼は逃げを見つけたら缶を踏んで「○○みーっけ」と言って全員捕まえたら勝ち、逃げは全員捕まるまでに缶を蹴り飛ばせば勝ちのかくれんぼと鬼ごっこの複合アクティビティ。
「ほう、そういったルールだったのか」
「わかったか?じゃあもう一回」
もう一度缶に足を乗せる、俺の考えが合っていれば……
「王城みーっけ!」
バチィィ!!!
「ぐはぁ!!」
衝撃が走る!
「分かったぞ王城!百パーセント理解した!」
「原木 遊……貴様ぁ……」
恨めしい眼でこちらを見ている王城には悪いが、俺は今それどころじゃないぐらいハイテンションだ、心臓がうるさいし笑顔が止まらない
ローカルルールの発動条件、それが分かったのだから
「げほっ……だが、我も分かったぞ」
きっとそうだ、これに違いない
「ズバリ!ローカルルールは、そのルールを知っている者にしか適用できない!」
「……そうであろう、だから我は説明された後に被害を被っていたのか、なぁ?」
「ごめんなさい」
大きな疑問を解決した俺たちは飯を食ってから王城の自室に戻ってきた
「さてと原木 遊、約束通りその資料を見せてもらおうか」
「いいぜ、俺もまだ見てないから一緒にな」
「……平然と人のベッドに腰掛けるな」
文句を言いながらも王城は横に腰かけた
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【機密指定:S】 文書管理番号:SP-B-0417-Rev.3
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Scissorsプロジェクト 生体実験観測報告書
(Bio-cellular Adaptation Observation Report)
作成部署:第三研究棟 特殊細胞適合実験班
主任研究者:大神 螺旋
文書取扱区分:関係者外秘・複製厳禁
閲覧許可対象:本プロジェクト所属研究員および専属担当者のみ
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1. 実験概要
主任研究者大神螺旋が発見した特殊細胞(コードネーム:Θ細胞)を被験体へ投与し、
特殊能力(以下、通称「デューク/ダッチェス」)の発現を確認する実験である。
被験者は下記二群に分類し管理する。
A群(志願者) 能力獲得を目的として本実験へ自発的に参加した者
B群(非志願者) 拉致・誘拐等の手段により収容された一般人
※B群の収容手順および対外的な偽装工作(失踪処理等)については別紙SP-A-002を参照のこと。
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2. 能力共通性質(観測項目①〜④)
①一能力保持の原則
能力者は固有の能力を一つのみ所持する。
また、能力は長期的使用により上位種【グランデューク/グランダッチェス】へ進化し、
進化前後の能力を同時使用可能となることが複数例で確認されている。
※進化条件は現在特定に至っていない。実戦経験数との相関が観測されるが、
初戦闘後の進化例(被験体No.031、他2件)も報告されており、条件の再現性は低い。
継続観測が必要。
②発動分類(三分類+複合例)
接触発動:対象への接触を要する能力。
例)触れた水を操作/触れた物体をトラップ化 等
※同一対象が複数の接触発動対象となった場合、既存の効果は全て解除され、
一定時間新たな接触発動の影響を受けなくなる現象を確認。詳細機序は未解明。
非接触発動:視界内・周囲の物体に対して発動する能力。
例)視認物体の引き寄せ/周囲物質の自由再構成 等
生体発動:自己の体組織を変位させる能力。
例)指先の銃口化/腕部の万力化 等
複合発動:上記のうち複数の発動条件を併せ持つ例も少数確認されている。
※また、上記いずれの分類にも該当しない███████████████。
③前任者
能力付与薬剤の直接投与は被験体の寿命を著しく消費する副作用を伴う。
一方、既存能力者の細胞を非能力者へ移植した場合、寿命消費を伴わず、
かつ移植元と同一の能力が発現することを確認済み(再現性:良好)。
④身体強化
能力の強弱に関わらず、能力保持者は身体組織の強靭化・身体能力向上が
一律に確認されている。
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3. 実験内容
被験体は本施設内に監禁の上、定期的な戦闘実験(以下「試合」)を実施し、
その際のバイタルデータおよび能力発現状況を計測、Θ細胞の解析に供する。
試合には地下施設内の専用フィールド(全20区画)を使用する。
各フィールドは実環境を模した人工建造物・地形により構成され、様々な状況での能力の使用をテストする。
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4. 実験中死亡被験体の取扱い
死亡が確認された被験体は速やかに回収の上、下記手順に従い処理する。
1)Θ細胞培養液(代替名称:ジロロスホルセキド液)の原料として、
被験体血液を全量採取する。
2)採取後、必要に応じ細胞組織の保管処理を行う。
3)残存遺体は施設規定に基づき処分する(詳細は衛生管理課マニュアル参照)。
※本手順は倫理審査対象外(大神主任研究者権限による特例運用、承認番号:EX-00)
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5. 本実験の最終目標
本実験の最終目標は████████████。
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「ふむ、字が多いな……原木 遊、要約しろ」
「多いって言っても千文字程度だろ……まぁ特に大事なのはこの三つだな」
俺の指先を王城が目で追う
「まずこれだな、【触れるタイプの能力が同時に同じ物に発動すると無効化される】王城のデュークは関係ないが、戦闘の知識として覚えておいて損は無いんじゃないか」
「次はこれだ、黒塗りになってる所があるだろ?最終目標は予想がつかないから置いとくとして……この三種類に該当しない能力、分類できない力……気にならないか?」
「確かにな」
「触れるとか触れないとかじゃない……透明化とかか?いや、生体発動になるか……なら……」
「原木 遊、早く三つ目を言わぬか」
「あ、悪い」
資料に目を戻す、これが最重要だ
「最後がこれだ、【能力は長期的使用により上位種【グランデューク/グランダッチェス】へ進化する」
(そして、俺はこれを既に見ている!)
「ほう、進化……この力には先があるのか」
「そうだな、それで──」
その時、腕の機械からブザーが水を差す。朝に貰ったデバイスが何かを告げているらしい
画面に文字が出てきた
「えーっと、帰室時間……部屋に戻れってことか?」
『そうよ』
気づくと王城のパソコンが点いていて、画面に三十代半ばの女性が映っていた
「この人が王城の専属研究員か」
『えぇ葉梨よ、よろしくね原木君』
「どうも……」
(名前がバレてる、やっぱり研究員は全被験者の事を知っているのか?それとも対戦相手だからか……?)
悩む俺をよそに王城は露骨に嫌そうな顔をした
「葉梨、貴様また勝手にモニターを起動したな」
『仕方ないじゃないこの時間になったら勝手に繋がるんですもの。原木君も、石夜見君が待ってるわよ』
「わーったよ……わっ」
立ち上がる俺の腕を王城が掴む
「原木 遊」
「な、なんだよ」
「貴様を倒すのは我だ、他の者に負けるのは許さぬ」
最初目を覚ました時の俺を見る目と違う、あと笑った……気がする
「あぁ、わかったよ」
廊下に出るとドアが閉まる、さてと、戻るとするか
『…………だから、試合から戻って来るなり報酬だけ受け取って部屋を飛び出した、と』
「あぁ、ローカルルールの発動条件も分かったし、仲間?友達?もできた、上出来だろ?」
部屋に戻ると既に繋がっていた石夜見に何をしていたかを説明する。施設内のカメラで俺の様子なんて見れるだろうに、なんでわざわざ聞いてくるんだ
『王城 覇道、元は金持ちの道楽である地下格闘技場のチャンピオン。よく親しくなれたな』
「そんな野蛮なところの出身だったのか」
言われるとあの矜持も派手な服装も納得がいくな
「そうだお前のテレパシー、グランデュークってやつなんだろ!」
『……正解だ、俺のデュークは【伝達】、グランデュークは【テレパシー】』
「やっぱりな!」
『他にもグランまで進化している例はある……もしかしたら明日の対戦相手がそうな可能性もあるな』
『さてと、というわけで明日の試合に使う武器を選んでくれ』
そう言った途端画面が見慣れた武器選択画面に変わる
『今回はどれを選ぶんだ?』
(平然と繋いだままにしてくるなぁ……さっきの葉梨とか言うやつもこうなのだろうか)
『そもそも王城は武器を選べないだろう』
(確かに)
もうテレパシーにも慣れてしまった。逆に、考えてるだけで進む会話は楽かもしれない
『おはよう、王城君』
「む……朝か」
朝は苦手である、寝てる間が好きというのもあるが
「さて葉梨、昨日と一昨日のこの時間は戦いに興じていたが、今日は何をさせる」
画面が切り替わる、戦闘用のフィールドを写したカメラに
『好きな試合を選んで、その試合を見ることができるわ』
「ふむ……あったぞ、原木 遊の試合だ」
『いいの?知らない人の試合を見た方が情報増えるけど……』
「構わぬ、我を倒した男の行く末は見届けなくてはならない」
そうだ、あの時あの者に負けた時も父上に同じことを言ったか
「む、エレベーターが出てきたか」
原木 遊の対戦相手は緑色のドレスに身を包んだ貴族の様な女だった
試合が始まったが二人はまだ動かない、何か話しているようだ
『あんた、結構裕福な家系の出だろ』
『えぇ、私はドイツの貴族シュヴァルツ家令嬢、エミリア=F=シュヴァルツですわ』
(ちゃんと貴族だったか、しかしあの頭に乗ったドレスに似つかわない花冠は何なのだ)
『じゃあ鬼ごっことか、かくれんぼとか、知ってるか?』
『申し訳ありませんが、私は生まれてから勉学に励んできましたので……その様な遊びと呼ばれるものは名前しか……』
(ローカルルールはそのルールを知らない者には使えぬ、そして相手は遊びに縁のない貴族……)
「お手並み拝見だ、原木 遊」
『じゃあ、俺とトランプしないか?』
「は?」
ドストレートに頼む原木 遊に開いた口が塞がらなかった
(馬鹿なのかあの者は!?そんな頼みが通用すると──)
『いいですわよ』
「何故そうなるのだ!!!!」
第三話 完
王城 覇道
8月23日生まれ 20歳 御那久李大学三年生 男 東京住み
我こそ絶対!全てを蹴落とすために力を求めた格闘家
コスト:2
武器なし
デューク:主導
自分以外の生物の動作、物の動きを「許可」「拒否」で操作できる。同時に許可できるのも拒否できるのも一つまで。
許可するとその動作が超高速で終わる。拒否するとその動作が出来なくなる。
発動するには相手がその動作をしているところを見なければならない
好きなもの:勝つこと・肉
嫌いなもの:負けること・野菜
得意なこと:武術全般
苦手なこと:武器を使った戦闘・朝
性格:負けず嫌い・高飛車・威圧的
信念:過去に自分を倒した唯一の男を倒す




