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第二話:最低と最高

「馬鹿と鋏は使いよう、か……いいぜ、このデューク(ローカルルール)で勝ち上がってやる!!!」


『ビーッ!ビーッ!』


勝利に酔いしれる俺をよそに後方でブザーが鳴り響く、いいところなのに……眉をひそめながら振り返るとさっきまではそこに無かった箱が現れていた、ワープでもしてきたのだろうか


「なんか書いてあるな……【武器返却口】、ね」


余った手榴弾、ハンドガン、トンカチ、スタンガン……後で時間があったら暇つぶしに使おうと思っていたトランプとルービックキューブ。全部一番コストが高い物を選んだはずなのに2000も行かなかった事実と武器を返却口に投げ込む


「ほら、全部入れたぞ」


手を挙げて待っていると箱が地面に吸い込まれていき、その穴から来た時と同じエレベーターが出てくる。


「戻れってことか……」






『原木、見事な勝利だった』


「おう……」


『ルールの適用、ああいう能力なのか……よく前被験者の遺言書から導き出してくれた』


「どーも……」


『勝者には報酬が与えられる、約束通り俺が話せる事を教えよう』


「おー……」


『……その前に俺に教えてくれ、何故お前は部屋に戻って来てからうなだれているんだ?』


ベッドにうつ伏せになって丸めた紙くずの様な返事を投げる俺に石夜見は当然の問いを投げ返す


「心読めばいいだろ……」


『長い付き合いになる可能性があるんだ、直接話したい』


「……さっきまではハイになってたから気にならなかったけど俺、人を殺したんだよなって……」


「俺は対話しようとしたし、先に襲い掛かってきたのはあっちだけど……それでも……」


『なるほど…………お前の対戦相手エリオット=キーエルは現地の裏社会では有名な殺し屋だった』


「は?」


空いた俺の口に石夜見は情報を詰め続ける


『俺たちが調べた限りでも50は殺してる、4年前の政治家の射殺事件もこいつだろうな、それに……』


「ちょ、ちょっと待て!なんでそんなやつがここにいるんだ……ていうか、一般人の俺がどうしてそんなやつと戦って……」


『会話する気になったみたいだな』


「まぁ少し……」


不満そうに椅子に腰掛けると石夜見の口角が上がった気がする


「……でもだからといって殺していいわけじゃないだろ?」


『俺は事実を並べただけだ、それでどうなるかはお前次第』


『そして現にお前の心は少し軽くなっている』


「ズルいなテレパシー」


確かに、殺し屋と言う情報が出てからさっきまで重くのしかかってた鉛が消えた気がする、我ながら自分の単純さに呆れてしまう


「はぁ……それじゃあ色々聞くぜ?まずなんで俺はここにいるんだ?」


『第一に、この実験で集められた被験者には二種類の人間がいる』


『自ら人体に強化細胞を埋め込む実験に志願した奴らと、何も知らない一般人だ』


『前者は殺し屋に若い格闘家、有名作家にとある貴族の令嬢……才能を持った者をターゲットに集められている』


『そして後者、お前みたいな奴らだ』


突然指をさされ空気が張り詰める


『思い出してみろ【3月21日】、お前がここに連れてこられた日に何をしていたか』


「3月21日…………あ!!あれだ!ボドゲ同好会の旅行!」


目が覚めてからの連続する非現実の中で手放しかけていた日常を引っ張り出す


「えっと……夜行バスでサービスエリアに寄って、トイレ行って、バスに戻って、寝て、起きたらここにいた!」


『ほぼ正解だな』


「ほぼ?」


『お前はそのサービスエリアでトイレから戻って来たときに乗るバスを間違えたんだ』


「ほう」


『そのときお前が乗ったのが、一般人拉致用の我が社の偽物のツアーバスだ』


「なるほど、つまり俺は選ばれたとかでもないのか……待てよ、じゃあ旅行はどうなったんだ?てか外での俺の扱いって今どうなって……ていうか今は何日だ?」


『今は5月の半ばだな』


「大学始まってるじゃねぇか!」


『落ち着け、まずお前は旅行中に突如帰宅し、その後は稀な感染症にかかり我が社に入院しているという事になっている』


「じゃあ大丈夫、なのか……?」


『全く、落ち込んでいると思ったら今度は大学の心配か』


石夜見は呆れながらも今まで見せたことない笑顔になる、こいつこんな顔もできるのか


「し、仕方ないだろ」


『さてと……話は変わるが勝利したことにより使える施設が増えた』


「施設?」


ゲームのチュートリアルの様な説明文が飛び出す


『今お前が行けるのは食堂と訓練室だな』


石夜見が話している途中で武器の箱が出てきた天井が開き何かが降ってくる


「うわっ、なんだこれ……腕時計?」


『そのデバイスが施設内を移動するために必要だ、時計、鍵、健康測定、マップ、メモ、電卓、etc……色々な機能を兼ね備えていて便利だぞ』


怪しいが、恐る恐る腕時計をはめると、腕にヒンヤリとした感触が走った後、黒い画面に淡い光が灯る


「おぉ、こういうの買ったことなかったから少しワクワクするな」


『……お前は何というか、子供っぽいな』


「うっ……否定できない」


『だが、ローカルルールを使っていくに当たってはその童心は武器になる』


「フォローになってるか、それ?」


『俺は褒めてるつもりだが?』


石夜見の意見が少し喉に突っかかったまま立ち上がる


「せっかくだから施設とやらを見て回って来るか」


『変なことするなよ』


「お前らの研究よりかは変なことしないさ」


軽口を叩きながらデバイスをドアにかざす


「お、本当に開いた」


廊下に出て改めて周りを見ると近未来的な内装と、真っ白な壁に波のように揺れる光沢が目に付く


「誰もいないな」


呟きが反響して廊下に響いた


(マップによるとこの辺にあるドアは全部被験者の部屋なんだけどな……)


マップを見ながらコツコツと靴音を鳴らしながら歩く。さっきまでの戦闘とは真逆の静寂が嫌に纏わりついてくる中、普段見かける様なエレベーターが現れる


(これでさっき言ってた施設に行けるのか)


エレベーターが普通に下に降りて普通にドアが開くと普通の食堂が出てくる、そういえば起きてから何も食べてない


(近未来的なのに券売システムなのか……)


試しに唐揚げ定食を押してみる、出てきた券を投入口に入れて待っていると唐揚げ定食が出てくる。


「ありえないくらい普通だな……」


とりあえず近くに座って食べてみる……おいしい、衣はサクサク、味噌汁もあったかいし米も炊き立てだ


(……ここには俺以外にも人がいるな)


年代も性別もバラバラのやつが数人、ポツポツと座っている


(話しかけてみるか……?いやリスキーか……?うーん…………)


悩んでいると後方で金属音と悲鳴が鳴り響き、それに反応する間もなく熱湯が降り注ぐ


「熱っ!!!」


「うわああああ!すいませぇん!!!」


叫び声に振り向くと飛び散った食器とうつ伏せの学生服を着た女性が目に入る、まぁ転んだのだろう


「だ、大丈夫か……?」


「ひいぃぃ!殺さないでくださいぃ!!」


「ころっ……」


いや、こんな所にいるのだからそういう発想になるのも納得できる


「とりあえず起きて……」


「ひっ、あっ……ご、ごめんなさいいいいい!!!」


女性は火傷した俺とは真逆に顔を青ざめ、蜘蛛の子を散らすように逃げて行ってしまった


「ちょ……」


(片づけるのは俺か……)






『それで戻ってきて早々風呂に入ったのか』


「そうだ……全く散々な目に合った」


『散々続きで悪いが明日に試合が決まったから武器を決めてくれ』


「っ……わかったよ」


風呂上がりの熱も引いたはずなのに、胸の奥だけがじわりと熱い。さっきまで少しあった日常がまた音を立てて崩れる……いや、崩さないとやっていけない


(能力の使い方が分かった今、選ぶ武器も考え直すか……まず普通に凶器〔なぁ〕類を……)


「……どうした」


『何を選ぶんだ?』


「一回目は通話切ったのに今回は普通に話しかけてくるんだな」


『最初はあのタイミングで通話を切るとマニュアルに書いてあったからな』


(こいつ、初見は堅物の印象しかなかったけど、接してみると悪いやつじゃない……のか?)


『俺はできるだけお前の味方であるつもりだ』


「あー!テレパシー!」


……崩した日常がこいつに直されてる気がする






『おはよう原木、昨日は眠れたか?』


「……寝かけてるタイミングで武器が届いた音に起こされてからうまく寝れなかった」


『そうか、それじゃあ昨日と同じルートでエレベーターに乗ってくれ』


頭はボケボケとしているが昨日と違い覚悟は既に決まっている


「行ってくるぜ」


『死ぬなよ』


「あぁ!」


クソでかエレベーターに乗って地獄に落ちていく。鼻につく鉄の匂いも、無機質に唸るモーターの轟音も今日は気にならない


(お、着いた)


ドアが開くと少し向こうに見える同じぐらいの背丈の派手な格好の男と、俺たちを包む人工的な住宅街が現れる、前とは違う街だ


(ポスト……公園……前のが都会だとしたら郊外の住宅街だな)


『A-1ブロック:原木 遊VS王城 覇道、移送確認。それでは今からルールを説明します』


『制限時間はありません、相手を気絶させるか殺した方の勝ちです』


『それでは……スタート!!!』


(しめた、横断歩道の上にいる!落としてスタンガンで終わらしてやるぜ!ローカルルール!!)


走りながらの期待を込めた俺の一撃は意味をなさなかった


(…………発動しない!?)


一試合目と同じ条件と状況なのに何も起きない、目に映る光景は微塵の変化を起こしてくれなかった


(何でだ!?考えろ原木 遊!おそらく前任者も研究員も知らない発(・)動(・)条(・)件(・)があって、それで……)


「許可」


「え?」


対戦相手の王城が何かを呟くと同時に、走ってた俺の体は一瞬で相手の眼前に引き寄せられた


脳が超高速の移動に微塵も反応できないまま


バキイィ!!


「痛っでええ!」


殴り飛ばされた


(クソ……そういえばここに来てからダメージ負ったのってこれが初めてか……いや、それよりも距離を……)


「拒否」


「へ?」


今度は体の動きが止まる、いや違う


「誰が逃げて良いと言った?」


(あいつから離れられない……!)


戸惑う俺をよそに一歩、また一歩と王城は近づいてくる


(落ち着け……拒否って言ってたな、拒否……俺の行動をか?)


「なら!」


コートの懐から出したハンドガンに王城が反応したその刹那、思考より早く弾丸を放つ


「ッ……拒否!」


届くことを文字通り【拒否】された弾丸が空中でピタリと停止する


今ならと、後方に踏み出した足はさっきと違い進むことを許されていた


(よしっ!こいつのデュークも同時に一つまでしか適用できない!)


距離を取り、静かに王城を睨みつけながら呼吸を落ち着かせる


(整理しろ……拒否で動作を止められた、最初に何か……許可?って言ったときはあいつの目の前に引き寄せられた……)


「許可と拒否で相手の行動を操作するデューク……?」


「許可した行為は超高速で終わり、拒否したらその行為は出来なくなる……」


一瞬、王城の動きが止まる


「ほう、ただ殴られるだけの人形では無いようだな、正解をくれてやる」


「我のデュークは【主導】、全ての行動を支配する力。この能力と格闘家として鍛えられた体で頂点に立つ!」


自信満々に説明される、シンプルだけど強い、発動条件のわからないどっかの誰かさんのデュークとは大違いだ


(次だ、なんで俺のデュークは発動しない?条件……)


「来ないのか?なら我から行くぞ」


(まずい……!)


悩む俺に警戒しながらも突き進んで来る王城、距離が縮まる、もう時間がない


「なぁ、ちょっと話さないか?」


「断る」


「だよなぁ」


王城の勢い良く振りかぶった拳を一か八か顔で受ける、ローカルルール【顔面セーフ】!


ガンッ!!


(弾いた!!)


腹にめがけて飛んできている二撃目を必死の思いで手で押さえる


「お、【鬼ごっこ】!!」


バシィィ!


昨日程ではないが衝撃波が走る、発動しているんだ


そんな事実を噛み締めている内に王城は遠ざかっていた


「なんだ今のは……」


衝撃波をくらった手を冷ますように振っている、あんまり効いてなさそうだ


「ビビったかよ、これが俺のデュークだ!」


「ふん、戯れだな」


「あーそうだな、俺のデュークは文字通り戯れだよ」


「は?」


「ローカルルール!!」


(これも発動してくれたら……いける!!)


「【NGワードゲーム】!!」


NGワードゲーム:お互いにNGワードを書いた紙を用意し、会話をしてそのワードを言ったら負けというゲーム。大人数でやったり、何か他の事をしながらやったりする。


紙とペンを投げつけながら言い放つ俺と、投げられた紙とペンを交互に見た後、王城は無視して進み始める


ダメかと思ったそのとき、王城の歩みが止まる


「進めない……?見えない壁の様な物が……」


「ハハッ、発動してる!!」


「貴様、何をした?」


王城の問いを無視し返して自分の分の紙にNGワードを書く


「拒否」


手が止まらない、どうやらNGワードを書くまでお互い干渉できないようだ


自分のを書き終わった俺は王城に向き直る


「NGワードゲーム、やった事あるだろ?」


「NGワードゲーム、弟子とやったあれか……ほう」


理解したらしく、王城は紙とペンを拾ってNGワードを書く


「さっきも鬼ごっことか言ってたな?戯れ…………貴様のは遊びで戦うみたいなデュークか」


「それでNGワードゲーム、ふん、面白い……発言しなければ使えない我(・)の(・)デ(・)ュ(・)ー(・)ク(・)を(・)封(・)じ(・)よ(・)う(・)と(・)い(・)う(・)こ(・)と(・)か(・)!」


その瞬間、王城の書き切りと言い切りが重なったその瞬間


バッチィィィン!!!!


「ガハァ!?」


稲妻が走った!!


「許可でも拒否でもねーよ」


俺が投げつけた紙には【我のデュークを封じようということか】と書いてある


「は、はぁ!?」


(バカな!?この短時間の会話でこんな長文を!こんなピンポイントで当てたのか!?)


(何なのだ、この男は!!)


今しかない、とコートからトンカチを持って駆けだす、ここが分水嶺だ


「ぐうぅ……来るか原木 遊!!なら来い許してやろう!!許可ぁぁ!!!!」


「待ってました!」


「は──」


王城が声を上げた瞬間、許可を降ろした瞬間、俺の持ってたトンカチが超高速で王城のこめかみにめり込む


「お前が……お前が許可したんだもんな、俺がこのポストに行くのを!」


一瞬の出来事だが、確実に倒したと勝ち誇りながら振り返ると、王城は倒れている


『王城 覇道 気絶確認、勝者原木 遊!!』


「よっし!俺はポストへ走る途中だった。お前が許可したからその移動が超高速で終わって、途中にいたお前は轢かれたって訳よ!」


小さくガッツポーズをしながら、上手くいった作戦を何度も味わい酔いしれるように説明する、聞こえてるかどうかはどうでもよかった






叫んでる俺はまだ知らない、この時の戦いが後々の運命を変えると


第二話 完

原木 遊(はらき ゆう)

12月19日生まれ 19歳 玖素広大学二年生 男 東京住み


ひょんなことから怪しい人体実験に巻き込まれた大学生。生きて帰るために謎の多い能力と共に突き進む!


コスト:9999

基本武器のトンカチ2つ、当たらないけどハンドガン、手榴弾4つ、スタンガン、能力発動用のトランプ、白紙、ペン、水鉄砲、ライター、扇子、マジックナイフ


デューク:ローカルルール

物・事象に既存のルールを適用する事ができる、ただし同時に適用できるルールは一つまで。

NGワードゲームなど他に道具が必要なルールを適用するには該当の道具を用意しなければならない。


好きなもの:ボドゲ・遊ぶこと・頭を使うこと全般・バカみたいな味の食べ物


嫌いなもの:一方的な勝負「自分が勝ってても」


得意なこと:頭を使うこと・切り替え


苦手なこと:退屈


性格:前向き・お調子者・素直


信念:好きなことして生きる


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