第一話:開幕 scissorsプロジェクト
「う、頭痛てぇ……俺何してたんだっけ……」
記憶を手繰り寄せながら周りを見る、打ちっ放しコンクリートの無機質な窓のない壁、事務的な机に置かれたモニターと簡素なベッド。見覚えのない景色に困惑しているうちにモニターが起動する。
『やっと全員目が覚めたか、おはよう!!被験者の諸君よ!!』
寝起き直後の頭痛がする頭にどっかで見た事のあるおっさんの大声が響く。
『自己紹介が遅れた!私は生物学の権威、大神 螺旋だ!!』
(大神 螺旋……たしか世界的製薬会社の社長だ)
『私は人間を大きく進化させる細胞を見つけた……公に詳しい情報は出してないが、これを人間に投与すれば非現実的な【特殊能力】が発現できる、そんな細胞だ!』
「ふーん、よくわからないけどスゴイんだろうな」
『そして!それを君たちに投与した!!!』
「ふーん……は?」
訳の分からない状況ながら聞き入っていたら何か耳を疑う言葉が飛び出した。投与した?俺たちに?特殊能力?
『目を覚ました成功体の君たちにはきっと能力が発現しているだろう!私はこの能力をヨーロッパの高位に与えられる称号になぞらえて男女それぞれ【デューク/ダッチェス】と名付けた、君たちにはそれを使って戦い、データとなってもらう!!』
「は、はあぁ!?」
『このscissorsプロジェクトの結果、ひいては人類の未来は君たちにかかっている……』
『それでは、健闘を祈る!!!』
(何が何だかわからない、夢か?夢じゃない方が〔オイ〕おかしいだろ。そうだ、頬をつねって〔オイ〕みよう、痛ででででで!頭も痛いってのに頬まで〔オイってば〕痛くなっちまったよ!あああああ!!!現実かよ!特殊能力?漫画とかでよくあるアレだよな?〔モニターを見ろ〕なんでただの大学生の俺が〔オイ聞こえてるだろ〕こんな事に…………なんかさっきから思考に変な物が過る気がする、モニターを見ろ?)
恐る恐るモニターの方を再び見る、一度電源の切れたはずのモニターにはさっきと別の男が映っていた
『やっと気づいたか』
「な、なんだお前!」
『俺はお前の専属の研究員の石夜見だ……原木 遊だな?』
「俺は原木 遊だが……専属?さっきの博士も確かに複数人に演説するように話してたな……」
『あぁ、お前みたいなやつが何十人いる』
(名前がバレている……それに何十人?こいつらは〔オイ〕いったいどんな規模の〔聞けって〕研究をしているんだ……?)
「うるさいな…………その思考に入り込むのもデュークってやつなのか?」
『そうだ、お前たちの専属になった研究員も全員能力持ちだ、大した物じゃないがな……それで、本題に戻すぞ。まずはお前のデュークの説明だ』
無意識に唾を飲み込む、これが現実である以上この能力に俺の未来の全てがかかっている
『お前のデュークは……【ローカルルール】だ』
「ろ、ローカルルール?」
いしよみ?とか言う男は手元の紙を見ながら淡々と説明を続ける
『【ローカルルール】……物・事象に既存のルールを適用する事ができる、ただし同時に適用できるルールは一つまで。と書いてある』
「えっと……つまりどういう事だ?」
『わからない、俺もこの紙に書いてある以上の情報は知らないからな』
(??????既存のルールを適用?どういう事だ?ファミレスに三ツ星レストランのドレスコードでも設けれるのか?)
『それではないと思うが……お前の頭の中は愉快だな』
「!?思考の割り込み以外に聞くこともできるのか?」
『いや、コレは……あーまだ言っちゃいけないから忘れてくれ』
「はぁ……?」
疑問と落胆に包まれる俺をよそに説明が続く
『次に戦闘で使う武器の説明だ、能力に応じてコストが決まって、そのコストの中で好きなだけ武器を要請する事ができる』
『強かったり能力自体に殺傷力があるとコストが低くなって大した武器が使えない、逆に能力があんまり戦闘向きじゃないとコストが高くなって強い武器とサポート系の能力で戦える、という訳だ』
(なるほど、確かにこのルールだとコイツのテレパシー?みたいな能力でも戦いが成り立つのか……無駄にルールが考えられてるな)
「で、俺のコストは?」
『9999だ』
「は?」
『9999だ』
「いや聞き取れてない訳じゃない」
(待て、もしかしたらナイフ一個でも9000コストする可能性がある、聞いてみるか)
『ナイフは物によるが平均50ぐらいだ』
「やっぱり心読めるんじゃ……50?」
『あぁ50、一番高い物でも120だな』
間接的に能力に殺傷力が無い事を告げられる。それにしても9999、明らかに異常な数値に驚愕している俺をよそに説明が続く
『それじゃあ武器のリストを送るから好きに選んでくれ』
「ま、待てよ!それってつまり能力に殺傷力が全く無いってことか!?」
『……と言うより、分からないんだ』
「分からない……?」
『それじゃあ、健闘を祈る』
「ちょ……おい!」
無慈悲な音を立てて通話が切れ、画面が切り替わる。斧、ナイフ、銃、どこかで見たことある【武器】と形容出来る物が並んでいる
「……手榴弾、弓矢、竹槍まであるのか」
文句を言っても仕方ないと自分に言い聞かせ画面をスクロールする
「ん?何だこの辺、トランプ、ダイアモンド、掃除機、カロリースティック、花、本?変な物もあるな……まぁ俺は?9999あるから割と好きに選べるんだけどな?……ははっ」
能力の詳細は分からない、しかも釣り合いを取る数値が9999の能力……笑うしかない状況だが取りあえず使えそうな物をリストアップしていく
ウィーーン……ガッシャーン!!!
「うわあぁ!」
武器を決めて部屋を探索していると天井が開いて箱が降ってくる……当たったらどうするんだ、そんなことを思いながら箱を開けると選んだ武器が入っている。
「……これが本物の銃か、それに手榴弾も……」
『届いたみたいだな』
「うわっ急に出てくるなよ!」
無音で繋がる通話に驚くが、こいつが出てきたという事は状況が進むということだろう
『今ドアの鍵を開けた、武器を持って部屋の前にいる俺の部下に付いて行け』
「それってつまり……」
『……戦闘だ』
覚悟はしていたが、いざその時が来ると体が固まる、足が震えて動かない
『……原木、これだけ言わせてくれ。俺は別にお前に死んで欲しい訳じゃない、でも出来る事も限られている、だから……健闘を祈っている』
「……!」
説明してた時とは違う。石夜見の感情が入った声に、ここに来てから初めて感じる想いに体は動いていた
「お、おい!」
『なんだ?』
「なんでこんな事になってるかも分からないんだ、俺が……俺が勝って戻ってきたら色々聞かせてもらうからな!」
『……あぁ、待っている』
さっきまでビクともしなかったドアを開け一歩を踏み出す……やってやる、何も分からないまま死んでたまるか。そんなことを思いながら石夜見の部下に付いて行く
(にしても広いなこの施設)
「乗れ」
(でかいエレベーター?まぁ乗るしかないんだが)
言われるがままにエレベーターに乗るとドアが閉まり下がって行く
(……ん?横に移動し始めたぞ…お、今度は上か…………止まったな)
エレベーターのドアがゆっくりと開くとそこには……
「なんだこれ……街!?」
並ぶビル群、舗装された道路、横断歩道、街路樹、外にしか見えないこの景色それを否定する人工にしか見えない太陽と肌に当たることのない風、天井に書かれただけの空
「広すぎるだろ、俺の位置を真ん中としてざっと半径1㎞ってとこか……?」
そんな事を考えてるうちに少し遠くに別のエレベーターが上って人が出てくる、おそらく俺の対戦相手だ
(背高いな、外人か?)
『A-3ブロック:原木 遊VSエリオット=キーエル、移送確認。それでは今からルールを説明します』
人工街に無機質な機械音声が響く
『制限時間はありません、相手を気絶させるか殺した方の勝ちです』
(やっぱりそういう【戦い】か)
『それでは……スタート!!!』
(まずは……)
「そこのあんた!!話をしよう!!!」
(対話に持ち込む!!)
きっと相手も俺と同じ状況!無益な殺し合いをやめれるかも知れない、そんな俺の思いは文字通り一瞬で消えた
(あれ、いない!?)
ずっと見てたはずの相手はいつの間にかいなくなっていた
(ッ……相手は戦う気満々って事か!この感じ、透明化かワープってとこか……?)
必死に辺りを見渡していると、何かが空を裂く音がしたと思ったのと同時に足元のアスファルトにヒビが入る……弾丸だ
「おやぁ?外してしまいましたか、慣れませんねワープと言うものは……フフフっ次は当てますよぉ」
突然訪れた死の恐怖に震えることしかできなかったが、どこかから聞こえた声でハッとする
「弾……丸……」
(一つだけ分かった、このままだと殺される。けど相手がどこにいるかわからない以上、むやみに逃げ回っても無駄……)
「あらら、動きませんねぇ、諦めてしまったのでしょうか?まぁ最初に話し合いなんて行為に出るひよっこじゃ仕方ないですか……では、死んでもらいましょう!」
「……ローカルルール、か」
(ずっと考えていたローカルルールの能力……ルールの適用……)
(ルール……規則とか法則性、または遊び等で設けてる縛りの事だよな)
(一か八かだ、【これ】が正解であることに賭ける!!)
放たれた弾丸は真っ直ぐ原木の頭をめがけ、当たり──
「フフフっ!勝っt──」
カァァン!!
そして、弾いた!!!
「な、何いぃ!?」
「はぁ……はぁ……生きてる!」
(これがローカルルール!!わかってきたぞ!)
「な、何で生きて…もう一度頭を!」
パシュッ──カァァン!!
「なぜ!当たっているのに!」
(今のうちに建物の中に!)
生きている、生きている、感情の昂ぶりが抑えられない、体が熱い、震えはいつの間にか止まっていた
(上手くいった……!【ドッジボールの顔面セーフ】のルールを俺の体に適用させる!)
ドッジボールの顔面セーフ:ドッジボールにおいて球が顔にヒットした場合、外野に行かなくてよいというルール
(だけどこのままじゃ相手は倒せない……!何か他のルールで……そうだ!)
「あの建物の中に逃げられてしまいましたかぁ……なら当たる位置を探すまでです」
(なぜ弾丸が弾かれるかはわかりませんが…おそらく彼のデュークのせい…)
「フフフっなら、わかるまで撃ってあげますからねぇ!」
人工街の小ビルの屋上で叫ぶ彼は、既に原木の策略にハマっていた
「10─9─」
「さて、あの建物は二階建てで窓の位置は……」
「8─7─6─5─」
「おそらく向かいのあのビルの4階なら……」
「4─3─2─1─」
「それじゃあさっそくワープを……」
「0」
バチィィ!!!
「ぐっはあああああぁ!!?」
「今の叫び声……上手くいったな【高鬼のルールの適用】!」
高鬼:地面より高い場所にいる間は鬼にタッチされないという、鬼ごっこの一種。一ヶ所の高い場所には十秒など制限時間を設け、それを過ぎたらアウトというルールが一般的。
「何なんだぁ今の痛み……あいつのデュークはぁ!」
(あいつは……建物から出てスクランブル交差点にいますねぇ……弾丸は当たっても意味ない、待ってたらまたさっきみたいな痛みがくるかもしれない……なら!)
シュンッ!!
(接近戦で仕留めてあげます!)
死角にワープした彼はまだ原木に気づかれてない、だが──
ボコッ
「なんだぁ!?急に足元が!!??」
既に負けていた
「後ろにいたのか【横断歩道の白線以外を踏んだら落っこちる】……お前も子供の頃にやったことあるだろ?」
横断歩道の白線以外を踏んだら落っこちる:子供の頃に多くの人がやる遊び、溶岩のパターンの人もいる。
「こんなのワープのインターバルが終わればすぐに脱出して──」
カシャンッ
「?なんか降ってき──」
ドカアアン!!!
「手榴弾だよスナイパー」
『エリオット=キーエル 死亡確認、勝者原木 遊!!』
「しゃあああああ!!!!!」
生きて勝った事実に無意識に声が出て、掲げた拳が人工太陽に照らされる
「馬鹿と鋏は使いよう、か……いいぜ、このデュークで勝ち上がってやる!!!」
第一話 完




