第二十二話:粉砕
ディストスが振り下ろした腕を紙一重で避ける。雪が飛び散り、地面が割れてクレーターが生み出された
我の後退に合わせてディストスは前進しながら次々と腕を振り下ろす
「まるで駄々っ子であるな」
(だが、この駄々一撃で我の体はいとも簡単に砕ける。どう戦うべきか……そもそも攻撃は効くのか?)
物は試しである、そもそもどんな生命かも分からぬのであるから
「拒否」
腕の動きが一瞬にして止まる、そしてその隙を突いてディストスの腹に蹴りを一撃
(…………?)
そこにあったのは豪錬 武勝のときの様な耐久や屈強の類ではない何かであった。蹴りが当たった感触はあるのに攻撃が通った感触は無い。質量と柔軟性を兼ね備えた物体を蹴ったら同じ感想が出るであろうか
(グダグダ考えたが結論は一つ、体への打撃が通らぬ。なら次の手である)
拒否が解け、再びディストスの腕が振り下ろされる。クレーターまみれの地面が悲鳴を上げ、崩れそうになっていた
(やはり狙うなら目であるか、しかし何個あるのだあれは)
(ひーふーみー……七つか、しかしよく見ると瞬き一つしておらぬな)
その瞬間、ディストスの腕が大きく横薙ぎに飛んで来た。どうやら主を攻撃させられた駄々は終わったらしい
我は大きく後ろに飛び出し、雪をすくい上げて玉にする。そしてそれをディストスの顔めがけて投げ飛ばした
「木くずの次は雪玉である。さぁ、目に入るのが嫌なら防ぐがよい」
ディストスはその場で腕を振り回して雪玉を弾き落とす、我も負けじと雪玉を投げ続けていく
「許可」
許可されたディストスの腕は、雪玉が来る前に振り終わってしまった。そして雪玉はディストスの顔、目が大半を占めるディストスの顔に直撃する
(今!)
ディストスが顔に付いた雪を落としているうちに接近する、さらに
「拒否!」
手が顔に固定された、これで大半の目が我を捉えることができぬ
ある程度近づいた我は勢い良く跳ねる。そして拒否を解除し、あらわになったディストスの目に回し蹴りをぶち込んだ
(決まった!!)
そのままディストスの顔を踏みつけて再び距離を取る、体を蹴った時と違い明確な手応えがあった
ディストスは顔を抑えてもがいている、やはり目が弱点の様だ
(七つ潰せば消滅するか、しなくても目を攻撃し続けていればいずれは……む?)
顔を上げたディストスの目、先ほど蹴った場所の目に違和感を覚えた。白目のところに変化は無いのに、黒目の部分のみが真っ赤になっている
そんな事を考えていたのも束の間、ディストスの背中が裂け、二枚の大きな羽が現れた
「な……」
「ギイイイアアアアアアアア!!!!」
そのまま仰け反り大きな咆哮を上げる。豪錬 武勝に勝るほどの声量が鳴り響いた後、我を凝視し
「まさか、飛ぶのであるか……?」
ディストスは、後方にあった木を引き抜き始めた
「……飛ばぬのか、驚かせおって」
そして木を五本小脇に抱えたまま空に飛び上がった
「っ、結局飛ぶのか!」
(しかし、まさか目を攻撃すると成長するとは……あの高さにどう攻撃を仕掛けるか……そもそもあっちはどう攻撃する気で──)
気づいた時には遅かった、空中から木が投げつけられている
「拒──」
ドガシャアア!!
直撃だけは回避した、木が左半身を掠め後方に着地、衝撃で体が吹き飛ばされる
「がっ……は……」
(肋骨が数本折れたな、腕も痛む……力の入りが鈍い)
呼吸をするたびに鈍い痛みが走る、動けなくはない……だが、あれを相手するには少々心許ないと言ったところか
顔を上げると二本目の木が構えられている
「ぐっ……拒否!!」
二本目が宙に停止し、その間になんとか立ち上がる。足には負傷はないが、それでも喋ると肺が苦しみ、動くと左半身が荒れ狂う様に痛い
口に溜まった血を吐き出し、上空のディストスを睨みつけながら距離を取る
「解除」
宙に停止した木を一度降ろす、これで拒否の枠が空いた
(さてと、羽の動きを拒否して落とすか、それとも次に投げて来た木を駆け上がって……)
「やっぱりいたわね」
「……なんだ貴様」
声のした方を振り返ると、全く知らない女が一人立っていた。こちらに向かって歩いて来る
「私は鳴動 灯、さっきから騒がしい方に来てみたら化け物と戦ってる人が……」
「去れ、これは我の戦いである」
鳴動 灯とか言う女は我に睨みつけられ一瞬足を止める。だが再び歩みを進め、こちらに向かって来る
ディストスも面倒事の空気が読めるのか攻撃して来ない。あの感じで人間ぽさがあるのか
「そうは言ってもアンタ、ボロボロじゃないか私が協力し……」
「去れ、三度目は無いぞ」
「悪い話じゃないと思──」
「許可」
「え?」
瞬間、鳴動 灯の体が超高速で我の元まで引き寄せられる
「な、何」
そして、その体を蹴り上げ、両腕で宙に投げ飛ばす。左腕が痛むがこの女の排除が急務である、仕方がない
「んぐっ……わああっ!!何すんのさっ──」
宙に放り投げられた鳴動 灯にディストスが木を投げつける。まさか、この者……我と同じことを
「がはっ……」
『鳴動 灯 気絶確認、豪錬 武勝にポイントが加算されます』
「ふん、片付いたか」
ディストスを見上げる、赤くない六つの目全てが我を見ている
「貴様、まさか我と正々堂々戦いたのか?」
この生物と意思疎通が取れるとは思ってない。それでも我は聞いていた
「……いや、忘れろ」
拳を構える、口なんかよりよっぽど簡単なコミュニケーションツールがあるではないか
「さぁ、再開と行くか」
一瞬、ほんの一瞬だけディストスの目が細く、三日月と表現するよりも刃と言った方が適切な程、鋭くなった
(笑み、か)
そして、木を放り投げて来た
我はそれに合わせて後退する、バックステップで回避しながらディストスに狙いを定めて
「拒否だ、落ちて来い」
羽の動きが止まり、ディストスが真っ逆さまに落ちて来た
ズシンとした衝撃が地面に走る、それが決め手となり地面が崩れ始めた
(っ……このままだと崖下に……)
「拒否!」
崖が崩れる事を拒否する。しかし、このままだとまたディストスが飛び上がってしまう
(木を抜かれなければ、宙に飛び上がったディストスにも攻撃手段は無くなる。かくなる上は……)
地面を踏み込む、左半身の痛みは一度忘れるとしよう
ディストスはやっと起き上がった、きっと今から状況を確認するであろう。混乱している今、この瞬間に距離を詰めて
(近接戦を仕掛ける!!)
(目以外の攻撃は無意味!一撃でもくらえば敗北!だが木を抜く隙を与えたら泥試合!)
懐に飛び込み顔目掛けて蹴りを叩き込む。それと同時にディストスに目が六つ我を捉えた
「遅い!!」
目一つに蹴りが命中、先程と同じ様に黒目の部分のみが真っ赤になっている
(ここで隙を与えれば更なる力を解放してくる!このまま全ての目を潰せ王城 覇道!!)
両側から迫って来る剛腕を飛び上がって回避し、そのまま回し蹴りを次の目に叩き込む
(……っ、羽で防がれたか、なら)
そのまま盾にされた羽を掴む、ディストスが焦って羽をはばたかせたタイミングで手を離し、後方に体が飛ばされる
(ぐっ……着地の衝撃で体が……)
うるさい、そんな事考えてる場合かと、自分に問いかけ再度飛び込む。ディストスはまだこちらを見ていない、見失っている様だ
背中側から飛び上がり、裏拳を目に叩き込む。今度は羽も間に合わず、また一つ目が真っ赤に染まった
(これでやっと半分であるか…)
カウンターを貰わぬ様に少し後ろに下がる、咆哮をあげ、進化するか。我に襲いかかって来るか
(さぁ、どっちだ)
ディストスはこちらにゆっくりと振り向き、襲いかかって来た
(前者であるか、これで我の勝ちに近づいた)
右腕の薙ぎ払い、左腕のストレート、全てを紙一重で躱しながら後退していく
(よし、このままあの位置へ)
今度は右腕のチョップ、右腕のストレート……2回とも右腕?
猛攻の中ディストスを観察する、左腕の薙ぎ払い、その左腕を超えて、奥から左腕のストレート……
(腕が増えている……!)
一度大きく下がってみると、ディストスは4本腕になっていた。ただでさえ紙一重の攻防が更に地獄へ
(だが、まだ慣れてない様子……逆に言えば慣れられる程、勝機は遠ざかっていく)
「どうした?腕が四本になっても我にはかすりもせぬぞ」
(先程の様子から声は聞こえているはず、挑発してどんどんこちらへ向かわせる!)
ディストスは簡単に挑発に乗った、巨体を震わせながら突っ込んで来る
攻撃を避け続けながら我は少しずつ後退していく。木が生えていた崖の上、坂道、そして何もない所へ
(もう少し……)
その時、ディストスの動きが止まった。遠くから我を見つめている……我の策が気づかれたのか?
「どうした?攻撃が当たらず拗ねてしまったのか?」
挑発する、それに呼応する様にディストスはその場で拳を構えた
「?、何をして──」
何故気づかなかったのか、二つだったのだ、我が潰した目は。そしてまだ腕が増えるという一つの進化しか見せていない
ディストスが真っ直ぐ伸ばした腕は伸びた、十柄 一平の刀の様に
(っ……少し遠いが、やるしかない」
「拒否!」
我を目掛けて伸びていた腕はその場で静止する。そして新しいものに拒否をしたため、前に拒否されたものは解除される。そしてここは
「一つ良いことを教えてやろう。ここは先程我等が戦っていた所の崖下である」
崩れる事を長らく拒否されていた崖が崩れ、雪崩がディストスを襲おうとしている。しかし、ディストスも羽を羽ばたかせ逃げようとし──
「許可」
今度は崩れる事を許可された雪崩が一瞬で、ディストスが羽ばたく前に飲み込んだ。もちろん、この様な攻撃であの生物が死ぬとは思っておらぬ
雪を掻き分け出て来たディストスの目は、更に一つ赤くなっていた。雪崩の最中、岩石が目に当たったか、取り敢えず好都合である
「ギ、ギア、ギアガガガアアアアア!!!」
咆哮を上げているが、お構い無しに我は突っ込む。残り三つ
「今、黙らせてやろう!」
我の右ストレートが目に命中、残り二つ
「はあっ!!」
左ストレートも命中、残り一つ
「トドメであ──」
振り上げた右腕を掴まれる。万力の様な力で締め上げられ、骨が砕けていくのが分かる
そのまま持ち上げられた、このままだと我は死ぬ
「このままであればの話であるがな」
「許可!!」
右腕を掴まれる事を許可した。動作には必ず終わりがある、歩いてた者は止まり、飛んでいた銃弾はどこかに命中し、掴むという動作には離すという終わりがある
我の右腕は超高速でグチャグチャに砕けた。だが、ディストスの手は開き、我は解放される
「貴様に勝てるのだ、右腕ぐらいくれてやろう!」
そのまま蹴りをぶち込む、最後残った目に命中。全ての目が赤くなったディストスは後退りし、そして
「ギ…グガ…グガガガギゴゴゲアアアアアガガガーーー!!!!」
ドカアアァァンン!!!!
爆ぜた、勢いよく
「ふん、最後までうるさいやつであったな。子は親に似るという事であるか」
「……ともあれ、我の勝利である。我が覇道に一片の曇り無し!!」
第二十二話 完




