第二十話:人間じゃない
少し前 フィールドD-2 Side王城
「寒い」
フィールドD-2、そこは雪山であった。見渡す限りの白に所々生えた木々、一面に広がる真っ白な地面が人工太陽を反射して目が痛む
(この雪も人工雪であろうか、はたまたデュークでこの地形ごと作って……そういえばフィールドは毎回綺麗に整えられたものがでてくるな)
(整える専門の人員……いや、能力者同士の争いの痕跡を整えるのに一般人では難しい、やはり能力で整えられているのであろうか)
それにしても歩きにくい、こんな山を好き好んで登ろうとする者がいるなど、我には理解できぬ
そんなことを考えながら山道を歩いていると、崖下から爆発音が聞こえた
「む、下の方で戦ってる者がおるのか」
落ちないように下を覗き込む。そこには仁王立ちする屈強な男と、体の周りで火花を散らす女が立っていた
「ふむ、爆発に関するダッチェスか……何か話している様だが聞こえぬな」
そして女が喋り終わった瞬間
「いいだろううぅ!!!かかって来いいぃ!!!」
「ぐっ……!なんなのだこの声量……!」
思わず耳を塞ぐ、下手したらフィールドの端から端まで届くのではないかと思う様な大音量が、人間からお出しされている
爆発女も耳を塞いでいる、あの距離なら我より耳へのダメージも大きいであろう
「なんだああぁ!?来ないのかああぁ!?」
「っ……あれは本当に人間なのか……?」
困惑していると、爆発女が耐えかねて攻めに出た。雪をかき集めて雪玉にして屈強男に投げつける
屈強男に命中した雪玉は連続して破裂した、触れた物を爆弾にするダッチェスであろうか
(雪玉が崩れた瞬間に爆発させることによって一つではなく複数の爆発を……使いこなしておるな)
煙が晴れる、直撃した屈強男は先程までと同じ様に仁王立ちしていた
(ほう、耐える……それどころか膝も着いておらぬか。あの男のデュークが関係し──)
「どうしたああぁ!!その程度かああぁ!?」
「ぐっ……声量も健在であるか……」
効いてないことに狼狽えた爆発女は次々と雪玉を投げる、全て命中するが屈強男は倒れない
(……負傷していない訳ではない、爆発をくらう度に火傷してる箇所も増えている)
(無敵でも再生でもない、ならあの男のデュークは?そして爆発に耐え続けるあの体は本当に人間であるのか?)
「ふん、62と言ったところか、それじゃあ行くぞおおぉ!!」
(62?一体何の数字……)
疑問に思ったのも束の間、雷が屈強男の右腕に落ちる
そして、雷が形になったかのように、さっきまで何もなかった屈強男の右腕に小手がはめられていた
「小手か、使い方はこうかああぁ!?」
屈強男が右腕を振ると、電流が周囲を迸る。明らかに能力で生み出された武具だ
爆発女が驚いて何かを言っている、もしくは口をパクパクさせて何も言えないのであろうか、この位置では聞こえぬ分からぬ
「どうあああぁ!!!」
屈強男が腕を振り回すと、無数の電流が爆発女を囲む。そして屈強男はそこに飛び込んで
「ふんぬあああああ!!!!」
小手をはめた拳が爆発女に直撃した、一際強い電流が迸り
『爆烈 妙 気絶確認、豪錬 武勝にポイントが加算されます』
「ガッハッハあああぁ!!!」
「豪錬 武勝……であるか」
我の体は未知の強者に震えていた、歓喜である
(動きは素人であるが、あの耐久力と肉体……そして謎の武器……)
気づくと体が飛び出していた、あの者と戦いたい、その一心で下に降りれる斜面を探しに
「待て」
「んんん???」
なんとか追いつき声をかけると、豪錬 武勝はゆっくりと振り返る。それだけで辺りの気配が動く様であった
「誰だお前はああぁ!!」
「我は王城 覇道、貴様の先の戦闘を見ていた。手合わせ願いたい」
そう言うと豪錬 武勝は腕を組んで堂々と仁王立ちを決めた
「いいだろううぅ!!かかって来いいいいぃ!!!!」
(っ、近くで聞くとなんて爆音であるか、本当に耳が壊れそうであるな)
これ以上喋らすとマズイと思い飛び出す。そのまま回転蹴りが顔に命中するが、豪錬 武勝の体は動かない
(やはり、凄まじい耐久!)
「そうだああぁ!!もっと打って来──」
「拒否、少し黙っていろ」
喋ることを拒否し、乱打を放つ。腹に一撃、二撃、そのまま飛び蹴り、顎に掌底
少し後ろに飛び勢いをつけてみぞおちに蹴りをぶち込む、流れる様に人中を殴り、脳天に踵落としを決める、我のここに来る前からの十八番【天下御免】である
(今、少し揺らいだ)
「んおお、喋れる!喋れるぞ!いい蹴りだったなああぁ!!!」
「効果が切れたか、再度拒否である」
「んんぐうううぅぅぅ……」
(さて、体も温まってきた……しかし我の十八番を叩き込んで揺らぐだけであるか……なら、さらに上、十九番を出すまで)
拳を構え距離を図る、思い出せ父上の言葉
⦅覇道、壁ってのはなぁ乗り越えるもんじゃねぇんだよ⦆
⦅壁ってのは──⦆
「壊して通るものである!!」
地面を蹴る音すら置き去りにする速度で相手の懐に飛び込み、体中の筋肉を拳を振るうためだけに使う文字通りの全力
全ての勢いを乗せた拳は豪錬 武勝の腹に直撃し、鈍い音を鳴らす。そして豪錬 武勝は弾き飛ばされた
「ぐぬおわああぁぁ!!!」
「我の全力【王臨牙】今までくらって立ち上がった者はおらぬが……」
「ガッハッハあああぁ!!!お前、いいなああぁぁ!!!!!」
豪錬 武勝は勢い良く立ち上がった、空気を引き裂く爆音を鳴らしながら
「さてと、今ので大体127ってところか」
「……先も言っておったが、その数字はなんだ」
「気になるか?特別に教えてやろうううぅ!!これは痛みを数値化したものだああぁ!!」
少しずつ耳が慣れたのか壊れてきたのか分からぬが、爆音が気にならなくなってきた。いや、それ以上に話が気になるのもあるか
「痛みの数値化だと?」
「俺の体感だがなああぁ!!そしてこれは俺のデュークを使うに当たって重要となるううぅ!!!」
「デューク……!」
無意識に体が拳を構える、雷の小手がまた出て来るのか
「俺のデュークは【逆襲】!!!感じた痛みを武力に変えて顕現させることができるううぅ!!何が出てくるかは分からないがなああぁ!!」
豪錬 武勝は指を二本立てて突き出しながら説明を続ける
「出て来るものは二つ!!特殊な武具か従順な生命だああぁ!!」
「ちなみにこれは60を二つに7を一つといった出し方もできるが、俺はそんなみみっちいことはしないいいぃ!!!お前から受けた痛みを一つの武力として顕現させてやるぞおおおおぉぉ!!!!!!」
その瞬間、空気が変わった。ずっと人工太陽に照らされて夜なんて無いはずのフィールドに、帳が降りる様に周りが闇に覆われる
「62で雷が落ちて雷の小手、なら二倍近い127のこの闇から一体何が……」
そして、闇は一点に集まる。空間が歪み、黒い亀裂が何も無い宙を裂いて、そこから腕が飛び出した、紫色の腕が
飛び出した腕は亀裂をこじ開け、全身を通す
…………我はここに来てから様々な異常現象を目にして来た。花を食べて炎出す女、切れ落ちた指をくっつける男、機械の少女……もう人生で何が出てきても驚かないで受け入れることができると思っておった
しかし、顕現したそれは違った。紫色の体、赤黒い牙、剛腕、歪な目が顔中に点々と付いてるそれは……まるで……
(悪魔……!!)
人間としての本能が訴える、敵わない、生物としての格が違うと
「ふん、今回はコイツか。よし行けええぇ!!レベル127 ディストス!!!その男を倒せええぇ!!!」
豪錬 武勝の掛け声と共に、紫色の巨体が動き始めた
第二十話 完




