第十九話:ユーアー
「さ、次は誰が来る?」
止まった車の隙間から見えるジョンの顔は悔しそうだった
「クソ……俺渾身の三発だったのによ……!」
「いーやジョン、どうやらお前は十分仕事をやり遂げたみたいだぞ」
自緑がそう言いながらジョンの肩に手を置く
「……?」
「あの原木とか言うやつのデュークは、同時に一つまでしか使えないようだ」
そして、さっき空中で弾かれた無数のナイフが再び浮かび上がる
「やべっ」
(流石にもう三本は刺せないよな、この車を盾にして……いや、俺を追って縦横無尽に動くから難しい……それにまだ能力が不明のやつが一人いるんだよなぁ)
「今度こそ終わりだ」
ナイフは俺に引き寄せられて向かって来る、毒島もまだ動きそうにない……てか、動けても助けてくれる気がしない
「絶対絶命、か」
(なら、あれをやるしかない)
俺は深呼吸して姿勢を正す
「ねぇ、まだ何かするみたいよ」
そして
(全力で打開策を考える!!)
頭をフル回転させた
(考えろ考えろ……トンカチとスタンガンは使えない、手持ちにはトランプと扇子とライターと紙、ペン、水鉄砲、マジックナイフ……【大富豪・革命】でマジックナイフとナイフの切れ味を反転……いや、車ももしかして磁力でこっちに来るか?なら、【大富豪・砂嵐】で俺にかかった磁力を解除……大富豪のローカルルール知らない可能性あるもんなぁ。あ、【NGワードゲーム】って書き終わるまで不干渉だったよな……おっさんとアメリカ人が知ってるか……?)
考えてると目線に気づいた。毒島が不安そうな顔でこちらを見上げながら、手を差し伸べようとしているのか、腕が少し上がっている
(そうだよな、俺が負けたらこいつの番だもんな……手、手か……)
俺の頭は、思考とは別に、ここに来てからの事が走馬灯の様に駆け巡ってた。目覚めて、特殊能力が手に入ってて、人を殺して、頭から汁物かけられて、王城と戦って……そして……
(そして?何をした?紙を見た、能力について書かれた紙、王城に要約しろと言われて、黒塗り、違うそれじゃない、触れる能力は、触れる能力が同じ物に発動すると)
思考と走馬灯が同時にそこにたどり着いたタイミングで体は既に駆け出していた、右脚に刺さったナイフが痛いがそれどころじゃない
「毒島!死にたくなかったらそのまま手を出してろ!」
「は、はい?」
少し驚いた様子の毒島が頑張って腕を上げる、そしてその手を勢い良く叩いた
「鬼はお前だ毒島!」
「ローカルルール【氷鬼】!!」
氷鬼:鬼にタッチされると凍ってしまい動けなくなる、鬼ごっこの一種。他の逃げに触れられると、氷が溶けて再び動けるようになると言うルールが一般的。
瞬間、俺の体が光った、そして
「な、ナイフが全部落ちただと……!?」
「お前らは二回目の募集で来たのか?なら一回目からいる俺が良いこと教えてやるよ」
「【触れるタイプの能力が同時に同じ物に発動すると無効化され、しばらく能力の対象に出来なくなる】自緑の【触れた物に磁力を付与する能力】と俺の氷鬼の【タッチした逃げを凍らす】の対象となった俺の体は両方を無効化したんだよ!!」
「全く……私が氷鬼を知っていたから良かったものを、本当に単純で浅はかです」
「氷鬼、か……まさかこの年になって聞くとはな」
「難しくてよく分からないぜ、氷鬼ってフリーズ・タグの事でいいんだよな?」
危機的状況の脱出に三者三様の反応をみせたところで、俺の目線はある一点に行った
「さ、後はお前だけだぜ?えっと……円各?」
「ふん、その様ね」
円各は長い髪をかき上げながら前に出る、そして円が書かれた紙を掲げた
「最初に教えてあげるわ、私のダッチェスは【トンネル】こうやって円を描くと、別の円と繋がるワープトンネルになるの」
(またワープか……)
「ここまで言って気づかないかしら?そこらじゅうの車とか壁に円が描かれてるの」
そう言われると、周りに大小無数の円が描かれている、車に、壁に、よく見たら充電ステーションの機械にも描かれている
「毎日、来たら最初に描いて回ってるのよ?同じフィールドでも何故か二回目には消えてるし」
「ほえー……で、これがどうなるんだ?」
「こうよ」
その瞬間、円各は懐から拳銃を出して手元の紙を撃った
そしてその銃弾はワープトンネルをくぐり抜けて、俺の背後にあった充電ステーションから飛び出した
「危なっ!」
「あら、避けれるの、でもね」
俺が避けた弾丸は、そのまま真っ直ぐ飛び、別のワープトンネルへ
そして、俺の右側にあった壁から飛び出す
「わっ!」
「ほらドンドン行くわよ」
俺の周りを飛び交う弾丸が一つ二つと増えていく、ナイフと違って一直線だが早くて避けるのが難しい
「拳銃って、大体150m飛ぶらしいわよ?ワープトンネルに軌道が合い続ける限り進み、増え続ける弾丸を避け続けれるかしら?」
円各がリロードしながら淡々と話す、あんまり聞いてる場合じゃない
(せめて頭だけ【顔面セーフ】で……あ、【触れるタイプの能力が同時に同じ物に発動すると無効化され、しばらく能力の対象に出来なくなる】……もしかして、顔面セーフも発動しない……?)
一応発動して顔を叩いてみる、痛い
「何をしてるのかしら?ほら、もっと増やすわよ」
地面に落ちたり、壁に当たったのより、周りを飛んでる弾丸の方がまだまだ全然多い。全て計算して円を描いてワープトンネルを作ってあるのだろうか
そんな事を考えながら必死に避けていたが、ついに一発腹を掠めて行った
「っ!!」
「ほらほら、気を取られてると他のが来るわよ」
円各が言った通りに左脚に一発直撃する。かなり速度が死んでる弾丸だったが、それでも痛い
(っ……なんか色んなとこが痛いし、弾丸全然減らねぇし──)
その瞬間、腕を掴まれた。三人の方を見ると自緑がワープトンネルに手を突っ込んでいる……つまり今俺の腕を掴んでいるのは
「しばらくってどれぐらいだろうな?もし、もう発動するなら……」
ナイフが浮き上がった、非常にまずい
「ジョン、今よ」
「よし来た!」
奥で二人が何かを確認し合うと、左側の壁にあった大きな円がワープトンネルになる。その奥には、おそらくスローになった車が控えていた
(腕を掴まれた状態で無数のナイフと弾丸と突っ込んで来る車をどうにかする方法を考えろ…………いや、さすがにどうしようもないか?)
なんとか掴まれていた腕を振り払う、が、磁力で全ての弾丸とナイフが俺をめがけて来る現状は何も解決していない。どうやら車のスローも解除された様だ
(一か八かで【砂嵐】を……いや【顔面セーフ】で生き残る可能性にかける方が懸命か?)
既に思考が諦めの方に走っていた、さすがにどうしようもなさすぎる
(…………いや、ここで諦めるのか?違うよな?答えがないなら作り出してやる、頭一つでここまで生き残って来たんだ!!)
もう一回氷鬼を、弾丸とナイフが当たる前に発動できたら、そう思って毒島の方を見る……しかし、さっきまで充電されていた毒島はそこにいなかった
(!?なんでいな……まさか!)
そして、瞬き一つのうちに、俺の体の周りをシロツキノホネが漂い、突っ込んで来る車を
ガシャァァン!!
「No:00001毒島 浮利、完全復活です」
毒島が体当たりで止めていた
「毒島!」
「……シロツキノホネで原木さんに付与されてる磁力を狂わせ、相殺しています」
周りを見ると、確かにナイフも弾丸もその場で止まって宙を漂っている
「た、助けてくれるのか?」
「勘違いしないでください、あなたに借りを作りっぱなしなのは嫌だったのと……悔しいですがあなたもそうだからです」
「そう?」
「あなたが死んでも、石夜見様が悲しんでしまう……私はそれが防ぎたかったんです、悔しいですが」
「……!!」
毒島の表情が充電する前と違って見えた。それは、焦燥もなく、俺を仲間として受け入れた様だった
「……なら、二人であいつのとこ戻らなくちゃな!」
「仕切らないでください、私は最初からその気です」
三人の方に向き直る、どうやらまだやる気の様だ
「はっ、元々そこの機械ちゃんが動く前提で来てるんだ、かかって来いよ」
「では、遠慮なく」
毒島が右腕の銃を撃つ、それに対抗して自緑は持っていたスーツケースに磁力を付与したらしく、毒島の弾丸もナイフもシロツキノホネも全てがスーツケースに吸い込まれていく
「その白いのも赤いのも磁力で浮いてんだろ?ならもう使えないな!?」
「まずい……」
「ジョン!円各!今だ!」
自緑が声をあげた瞬間、毒島の足元からジョンの手がワープトンネルを通って出てきた
「!、まさか……」
「その機械の体もスローにしてやるよ!」
「させねーよ!」
俺はその腕めがけて蹴りをいれた、能力も道具もないただの暴力である
「痛っ!」
それでも効果てきめんで、ジョンの腕が戻っていった
「ちょっと!何してるのよ!」
「仕方ないだろ!」
「……原木さん、私はあの磁力の前では何もできない、少しでも力を抜いたら私も引き寄せられます」
毒島がアカツキノハネを手で持ちながら足元の円をレーザーで消している
「みたいだな」
「ですが、まだ出来ることがあります」
「できること?」
その瞬間、毒島の右腕が開いた、スザクノイブキを撃った時よりも開いてる箇所が多い
「三十秒、稼いでください」
毒島が、あの毒島が充電があるのに俺を頼ってきた
「ふっ、わーったよ!」
「それと、後であなたも石夜見様にごめんなさいしてくださいね」
「まて、何する気だ」
「奥の手を使います」
とんでもない事をすることだけが分かった、俺は拳を構えて三人の方を見る
「ふん、その負傷で三人を足止めする気か?」
「そうだぜ!」
確かに今の俺は全身ズタボロだ、ナイフが三ヶ所に刺さり、弾丸か掠めた跡と直撃した跡が体中にある。その上トンカチとスタンガンは使えない
そんな俺に向かってジョンと自緑の拳が飛んでくる
「ローカルルール【氷鬼】!!」
「な……」
俺は、飛んでくる拳を優しく手で受け止めた
「今度の鬼は俺だ!」
そして、ジョンと自緑の動きが止まった
「やっぱり、さっきの反応から知ってると思ったぜ、アメリカにもあるんだな」
「もう!何してるのよ!」
隣に止まっている車に描かれた円から円各の手が伸び、自緑に触れる、が
「はいタッチ」
「ちょ、ズルいわよ!」
「はっ!作戦だっての!」
小学生ぶりのカスみたいな作戦によって、いとも簡単に三十秒が稼げた
「原木さん、チャージが終わりました、下がってください」
「よしきた!」
毒島の方を見ると、開いた右腕にアカツキノハネが六個全て装着されている
俺は毒島の背後まで下がる、だが発射してくれない
「もっとです」
「もっと?これぐらいか?」
「……まぁいいでしょう」
結果10mぐらい距離を取らされた
「本当に何する気だ──」
「最終光線兵器、セイリュウノイブキ!発射!!!!」
瞬間、光が辺りを包んで
ギュイイイイン!!!
轟音と共にフィールドに大きな穴が空いた、明らかにスザクノイブキの上位互換だ
『自緑 鋼 死亡確認、毒島 浮利にポイントが加算されます』
『ジョン=フローリー 死亡確認、毒島 浮利にポイントが加算されます』
「……一人逃げましたか、まぁもう来ないでしょう」
「…………」
「原木さん?」
「いや……とんでもない威力だったから……」
「80%の電力を消費して放てる文字通りの最終兵器です……まぁ、見ての通りフィールドの損壊が激しいので、使うなと石夜見様に言われていたのですが」
「……これは確かにごめんなさい物だな」
「殺した事については私も悪いと思っています」
何を考えているかバレた、また目の前で人が死んだ事にショックを受けてる事が
「石夜見様に聞かされてますよ、そういう人だって」
「ぐぬぅ……三回目とはいえ、慣れる様なものじゃないだろ……?」
「それも、そうですね」
毒島は再び充電ケーブルを背中に差した、80%も消費したんだ、仕方ない
「0になっていないので充電の中断ができます、原木さんの手当てをしましょう、コート破りますね」
「ちょ」
「部屋に新品何個も置いてあるからいいでしょう」
「別にいいけどさ……」
毒島が俺の傷を手当てしている、最初に会った時とは見違える程親しくなれた
「……なんですか顔ジロジロ見て、これは石夜見様が悲しまないためにやってるんですからね?別に原木さんがどうなろうと私は構いません」
……やっぱまだ遠いかもしれない
第十九話 完
scissors×scissors ローテンション ⑦円格
「ふぅ、なんとか逃げれたわね。あの二人には悪いけど、どうしようもないの」
何十メートルも先のターミナル内までワープしたから、逃げ切れたはずね
「……?何かしら、何か音が──」
ギュイイイイン!!!
瞬間、極太の光線が目の前を更地にしていった
「…………あら、もしかしてさっきの機械の子の?」
どうやら、喧嘩を売る相手を間違えた様ね




