第十四話:鳴静 天鏡と言う女
「装呀ちゃんね、よろしく」
鳴静さんはベンチをポンポンと叩いている、座れという事だろうか
「し、失礼します」
恐る恐る隣に座る、鳴静さんは怯える私をニコニコと見つめていた
「あの……鳴静さん……」
「天鏡でいいわよ」
「あ、天鏡さん……」
ニコニコしてた顔がさらに明るくなる
「うんうん、それでいいわ……その方が後で楽だし」
「あ、い、今何か言いました……?」
「ううん、なんでもないわ」
(絶対、小声で何か言ってたよね……楽?)
少し怖いけど、襲ってくる気配はないし、仲間になってくれたら嬉しい。そう思って会話することにした
「ねぇ、装呀ちゃんは無理矢理連れて来られちゃった子?自分から来た子?」
「えっと……む、無理矢理です」
「アタシも。困っちゃうわよね、急に能力者にしました、戦ってくださいって」
「は、はい……」
困ったと言う天鏡さんはそこまで困って無いように見えた。軽くため息をつくだけで、やれやれって感じがする
「あ、あの……天鏡さんのダッチェスって……」
「ダッチェス?そうよね、ここで出会ったら聞きたくなるわよね、いいわ見せてあげる」
そう言うと天鏡さんはおもむろに立ち上がった
「動かないでね、危ないから」
「あ、危ない?ど、どんな──」
次の瞬間、地面から巨大なガラス片が突き出した。公園に置いてあるジャングルジムが小さく感じるサイズ、空を切り裂く鋭利な断面が私の目を奪った
「す、すごい……」
「これがアタシのダッチェス【硝子の靴】私の周り……そうね、半径3mぐらいの中なら好きな大きさのガラスを生み出す事ができるの。でも十二枚出すと全部消えて少しの間使えなくなっちゃう」
「使い方はね、こうやって大きな刃物にしたり、重ねて盾にしたり……あとね」
天鏡さんが振り返った。溜めだ、きっとすごい事ができるんだ
「金属があれば、鏡にできるの」
「鏡……?」
「えぇ、鏡」
「そ、そうなんですね」
(だから何なんだろう)
「ねぇ、装呀ちゃんのダッチェスは?その袋が関係してるの?」
話の主題が私に移った、そりゃそうだ、聞いたら聞き返される
「は、はい……えっと、私のダッチェスはアクセサリーって言って……」
「アクセサリー?」
「その……周りにある物をこうやって変形させて、装備できます……」
宝石を取り出し実演する、冷静に考えると派手さがない能力だなってなる。エミリアさんの炎弾みたいな、天鏡さんのガラスみたいな、派手さもない。原木さんや王城さんみたいな理を覆してる感も
「すごい能力ね」
「え……?」
顔を上げると天鏡さんがにこやかな顔で続けた
「周りにある物を好きな形にできるんでしょう?そうやって宝石を組み換えて……とっても綺麗で素敵ね」
「あ、ありがとうございます……」
褒められた、嬉しくて、嬉しくてダッチェスの制御が崩れて宝石が落ちる
私の足に落下した
「っ……い、いたい……」
「ふふっ、大丈夫?」
空気は和やかだった、でもこのサイズのガラスは目立つらしくて
「おい!やっぱりいたぞ!」
振り返るとサッカーボールを持った男が、さらに奥からもう一人、六本腕の女性が
「ひっ……」
「あら」
この場にいた全員が戦闘態勢になる、一気に空気が乱れた
「装呀ちゃん、戦える?」
「はい……!」
宝石を足して戦える状態に仕上げた時には六本腕も合流していた
四人の真ん中には火花が散り、誰が動いてもおかしくない状況だった
「……来ないのか?ならこっちから行くぜ!」
男がサッカーボールを蹴り飛ばして来た……え、それだけ?
天鏡さんのガラスの板が地面から三重になって突き出てくる、それだけで防げると思われた
「気を付けな、そいつはただのサッカーボールじゃない」
「っ!?」
サッカーボールがガラス板を全て砕いた、そのまま天鏡さんに一直線に向かって──
「危ない!」
宝石を纏った腕を突き出しながら天鏡さんの前に飛び出す、サッカーボールはそのまま宝石を砕いて跳ね返って行った
「ふーん、やるじゃんか」
「ありがとう、装呀ちゃん……でも」
「だ、大丈夫です」
急いで砕けた宝石を纏おうとする、しかし敵は待ってくれなかった
「そーれもう一発!!」
二人で咄嗟に避ける、サッカーボールは背後にあった柵に当たり
「初めから狙いはそれなんだわ」
勢い良く跳ね返って私の背中に命中した
「がはっ……!?」
「装呀ちゃん!」
そして中に浮いたサッカーボールは
「…………えい」
六本腕の掌から糸が飛び出し、サッカーボールにくっついてそのまま引き寄せられていった
(痛ったい……何あれサッカーボールの痛さじゃない!まるで、鉄球みたいな……)
(とりあえず、新しい宝石を……!)
しかし
「…………だめ」
糸が、六本腕の糸が宝石の入った袋を持っていってしまった
「あ……」
「はっ、悪根は悪い奴だなぁ」
「…………羽住こそ、説明して……あげたら」
サッカーボールを持っている羽住と呼ばれていた男がこちらを向く、そして持っていたサッカーボールを落とすと
ドスン!
全く、跳ねない
「こいつは鉄球だ、表面をサッカーボールみたいにペイントしたな。じゃあなんで跳ねるのか……答えは簡単だ」
羽住が足でその辺の石に触れてから蹴り上げる、すると、落下した石はスーパーボールの様に跳ねた
「俺のデュークは【ホップステップ】!足で触れた物に弾力を付与する事ができる、つまり鉄球も俺が蹴れば……」
再び鉄球が蹴り飛ばされた。避ける、柵に当たって
「弾力を与えられ、跳ね返る!」
分かってるから避けようとした、しかし、悪根と呼ばれた六本腕の女から糸が飛び出し私の足を絡め取って──
「装呀ちゃん!」
ガラス片が地面から飛び出し、糸を断ち切る。なんとか避けた鉄球は空を切り、羽住の方に飛んで戻って行った
「あ、ありがとう……ございます……」
「ううん、さっきのお返し」
再び四人が睨み合う、だが状況は最悪だ。宝石は取られてしまったから、ほぼほぼ二対一だ
(ど、どうしよう……このままじゃ……)
「さぁ、次は防げるかな!!」
来た、もう一発、今度は天鏡さんの方に
「いいえ、防げないわ」
「じゃあ避けれ──」
「でも、避けない」
「は?」
そう言った途端、地面からガラスが六枚。三重になったガラス板の盾、別の三枚のガラス板で作られた滑り台の様な何か……もしかして
「防げないって、さっき言ったろうがよ!」
「えぇ、でも衝撃は弱まるわ」
ガラス板三枚で衝撃が弱まった鉄球が、そのままガラス板の斜面に乗り上げた
「え」
そして、そのまま鉄球にかけられた回転と勢いを動力に斜面を駆け上がって空中へ
「…………させない」
「私もさせない」
さらに、悪根が鉄球を取ろうとした糸をガラス片で切断。これで無力に
「させるかぁ!!」
羽住の体が勢い良く飛び出し、さらに空を蹴って鉄球に追いついた
(なんで……あ……地面とか空気に弾力を付与して飛び出したんだ……!)
「オーバーヘッド ダミードロップ!!!」
そして空中で蹴られた鉄球は天鏡さんへ。そして気付く、悪根の糸で足を取られている事と
(……あ、十二枚……!)
紹介の時に披露した一枚、最初の攻撃に盾にした三枚、私の足に絡まった糸を切るのに一枚、鉄球を上空に追いやった時に六枚、そしてまた糸を切るのに一枚
もう、防御できない、糸も切れない
「あ、う、え……あ、天鏡さんっ!」
飛び出してしまった、策無し宝石無しどうしようも無し。でも、飛び出してしまった
(あー何やってんの私!ただの肉壁にしかなれないのに!!)
鉄球が飛んでくる、顔面直撃コースだ
(…………あれ、なんかゆっくりに見えてきた。あ、学校で習ったっけ……タキサイキアだ、なんか事故の間際に時間間隔がゆっくりになるやつ)
(痛いよね、気絶しちゃうよね、死にはしないかな……でも、なんか申し訳ないかも……天鏡さんもだけど、原木さん、王城さん、エミリアさんに……こんな私に良くしてくれたのに負けちゃうんだ)
文毬の頭は既に諦めていた……だが、原木の諦めない姿勢が、王城の稽古が、エミリアの友達という言葉が、ここでの経験全てが!彼女の体を無意識に動かしていた!!
(あれ、鉄球がなんか変形してる)
文毬の表皮15㎝に入った鉄球はダッチェス【アクセサリー】によって変形し、顔を通り、体を通過、腕に回って
「な?、は?、なにが、なにが起きてるんだ!?」
「…………わあ」
彼女の武器になった!!!
「装呀ちゃん……」
天鏡さんが私の手を握ってブンブンと振る
「もー!そんな事できるなら言ってよ!アタシ死んだと思ったのに!」
「違っ、わ、私もなにが起きたか……」
「いい気に……なるなよ!!」
空気に弾力を付与した羽住が勢い良く降って来る、でも鉄球より遅い
「え、えいっ!!」
鉄を纏った拳でタイミングよく顔に向けた鉄拳は、クリーンヒットした
「ごふぁあっ!!」
『周戸 羽住 気絶確認、文毬 装呀にポイントが加算されます』
「や、やったぁ!」
悪根の方を向く、宙に舞った羽住の体を糸で回収した悪根は……その場に土下座した
「…………ごめん……なさい。もう襲わないから……許して」
「あ、えっと……は、はい」
はいと言った瞬間、悪根は逃げて行った
「装呀ちゃん!?逃がして良かったの?」
「い、いいんです……その、か、可哀想かなって……」
「……そう、確かにそうかもね」
「それにしても……すごいじゃない!あの速度の鉄球を冷静にいなして!アタシ感動しちゃった!」
頭を撫でられる、優しい手付きだ
「な、なんか、あの時全部ゆっくりに見えたんです……それで……」
「ふふっ、なんでもいいわ。これで装呀ちゃんの能力は矛を作るだけじゃない、盾にもなる能力になったわね」
「盾にも……」
その時
『戦闘終了 戦闘終了 ただちに戦闘を止め、近くのエレベーターから帰還してください』
「あら、終わりね……あなたのおかげで楽しかったわ、装呀ちゃん」
「あ、は、はい……あの、天鏡さん」
「ん?何かしら」
「その、戻った後も仲良くしたくて……その、仲間みたいな……」
天鏡さんは少し考えた後、微笑んだ
「えぇ、そうね……戻ってまた会えたら」
「はい……!また、会えたら」
居住区・食堂・訓練室は全て合計しても四人で探し回ればすぐに見つかる広さだ、いける
「それじゃあ、またね」
天鏡さんは私に一礼して近くのエレベーターに乗り込んだ、紫色のロングヘアとスカートを靡かせて
(ふふっ……ふへへ)
戻った私は昨日と同じでエレベーター前で他のみんなを待った、最初に来たのは原木さん……と、知らない女の子だった
「原木さん……え、えっと……その女の子は……?」
「全員戻って来たら話すけど……まぁ一応仲間だ」
「私は不本意ですが」
(本当に仲間なのかな)
「な、仲間と言えば私も……鳴静 天鏡って人と仲良くなったんです……ふへへ」
原木さんのことだ、誰かと仲良くなった私に「やるじゃんか」みたいなことを言ってくれる、そう思った
でも原木さんは無表情になった、何かを考えている顔
「は、原木さん……?」
「鳴静……?本当にそう言ったのか?」
「はい……知り合いでしたか……?」
「いや、名字が一緒の知り合いが居て……外見は?」
原木さんがいつになく真剣な顔をしている、珍しい
「む、紫色のロングヘアで女性の……」
「うーん……じゃあ違うか……?」
(違うんだ)
「でも鳴静か……あいつに兄弟はいないはず……」
「原木様、難しいお顔をしてどうかなさいましたか?」
いつの間にか戻っていたエミリアさんが原木さんの顔を覗き込んでいた
「お、エミリア。いーや、多分思い過ごし」
「なら良かったですわ。それより、私、すごい事になりましたの!」
どうやら、この人も何かあった様だ
「俺もだぜ、王城が来たら飯食いながら報告会だな」
「えぇ!」
「は、はい」
「うむ、そうであるな」
「うわあぁ!いつの間に!」
合流した私達は食堂に向かった、今日は全員揃って……なんなら一人追加して
第十四話 完




