第十一話:ハッピー
「はぁ……」
朝、起きてから試合に行くまでの少しの暇
『四十三』
「……何の数字だ?」
いつもは起きて準備したら割とすぐクソでかエレベーターに向かうが、石夜見が話たいと言うからギリギリまで残る事にした
『お前が昨日、訓練室から部屋に戻って来てからのため息の数だ』
「数えてたのか……」
『あまりにも多いんでな……そんなにエミリアが心配か?』
「仕方ないだろ、あんな……毒食ったって言われたら」
『気持ちは分かるが、うちの医療班は優秀だからな、大丈夫だろう』
「そうは言ってもなぁ……俺は気絶したことないから行ったことないし……」
『確かにな……もうすぐ試合開始か、準備は出来てるか?』
「一応な、エミリアが戻って来た時に一人欠けてますなんてシャレにならないし」
『それでいい、ちなみにエミリアは既にフィールドに行ってるぞ』
「ほーん……え?」
『どうやら昨晩のうちに普通に回復して部屋に戻った様だな。デバイスに通知が来てるんじゃないか?』
「本当だ……エミリアからメッセージが来てる……これ通知音鳴らないの不便だな」
『元々音を出す予定が無かったからな、メインは健康測定だ』
「はー……まぁ元気なら良かったか」
『四十四』
デバイスをドアにかざす、いつもより少し遅い出発だ
『原木』
「なんだ?」
(生きて帰って来いか?言われなくてもわかって──)
『無茶、するなよ』
「無茶?わ、分かった」
廊下に出てクソでかエレベーターに向かう中、石夜見の言った事が引っかかっていた
(いつもと違ったな、無茶……無茶ねぇ……そういえばエミリアが言ってたな、リスクがあれば強大な力がなんちゃら……あ、エミリアにメッセージ返さなきゃだな)
歩きながらデバイスをいじる。褒められた行為ではないが、他に人もいないしいいだろう
(なになに……『昨日は私の軽率な行動により多大なるご迷惑をおかけしたことをここに謝罪致します』か、律儀だなぁ)
(まだあるな『医務室は面白かったですわ、お医者様と言っても本物の方は一人で、他は能力を持った方が処置していましたの』ね、確かにそういう能力があってもおかしくはないか)
なんて返そうか、そう考えるうちにエレベーターに到着してしまった
まぁ、フィールドに到着するまでに返せばいいやと思いエレベーターに乗り込む
(うーん、まずは……)
ガゴンッ
(ん?今、何か音が……)
その瞬間
ガガガガガガガガガッ!!!
異音を立てながらエレベーターがすごい速度で落下し始めた
「うわうわうわっ!?なんだこれ……故障か!?」
(えーと落下してるエレベーターで助かるには着地と同時に落下速度と同じ速度でジャンプして……なんてできわけないもんなぁ、もっと現実的な……えっと、とりあえずローカルルール【顔面セーフ】で頭だけ守って……)
ガガガガガガ……ガ、ガガ……
(ん?止まった?)
エレベーターの扉が開く、降りてみるとアナウンスが流れた
『ブロックK:定員人数の移送確認。それでは今からルールを説明します』
(……K?)
『制限時間は二時間、相手を気絶させるか殺害するとポイントを入手できます』
『気絶から目覚めた際の途中復帰は認められており、気絶している者の故意な殺害はルール違反とします』
『また、戦闘継続が不可能とみなされた気絶者は自動で回収されます』
(おかしいな……前整理した時はJまでしかなかったはず……実はEは3までなくてKが……いや、それにしては)
辺りを見渡す、薄暗い真っ赤な照明とコンクリートの壁。人の気配は全く無いが、どこからか見られてる気がする
(Jは旧研究施設で病院と研究所と工場がくっついてるフィールドって言ってたけど……似たような雰囲気を感じるな)
(……とりあえず、返信考えるか)
同時刻、フィールドH
(あら、原木様からご返信が……グループの方にも)
『無事に治ったならよかった。でも、次から無茶な事試す時は先に言えよな!』
『今日はなんかフィールドKにいる』
『我はGであった』
『私A-2でせ』
(……せ?打ち間違えでしょうか)
『私はHでしたわ』
(今日は皆様バラバラですのね……にしても)
顔を上げますと、綺麗に並べられた机と椅子、そして黒板にロッカー……ここは
(日本の学校ですわね、探索のし甲斐がありますわ)
(とりあえず全体を把握するために上の階へ行ってみましょう)
二階、三階、と階段を上がって行きます、戦況を把握するためと理由付けていても喜々とする足取りは隠せずに
四階に上がったとき、廊下の向こうに見える人影に気づきました
「なんだぁ?なんでこんな所にドレス着たご婦人が居やがるんだよ」
「そちらこそ、戦うにしては随分ラフな格好ですこと」
「私はエミリア=F=シュヴァルツ、貴方様は?」
「俺ぁ荒波 災俄、これがお前が最後に聞く名だ」
「随分と物騒ですわね」
脅しに屈せず薔薇の花を食べます、まずはご挨拶程度に
「フラム・カノーネ!!」
廊下いっぱいの大きさの炎弾、さぁ、どう出ますか
「こんなもんで俺を倒せると思ってんのかぁ?幸せそうな頭してるなぁ」
そう言った荒波様が右腕を振るいました、たったそれだけで
バシュン!
炎弾がかき消されました
(今……何をされました?腕を振っただけで私の炎が……)
「でっかいだけの炎出して終わりかぁ?ならこっちから行ってやるよ!」
荒波様はそう言うとまた右腕を振ります、何も起こらないと思ったその瞬間
バシィィ!
「がはっ……!?」
体に鈍い衝撃が走ります、何もされてない、腕を振っていただけなのに
「分かってねぇみたいだから特別に教えてやるよ、俺のデュークは【衝撃】腕を振ると見えない衝撃波が出せんだよ」
「だから腕を振れば攻撃はかき消され、お前に衝撃波を飛ばす事もできる。どうだ?お前のハッピーな頭でも理解できたかぁ?」
「親切にどうもありがとうございますわ、でしたら」
今度は蓮の花を、水の力ですわ
「シュテルベン・レーゲル、数で攻めますわ」
「無数の水の弾丸、腕二本で捌ききれますか?」
「……どうやら理解してねぇみたいだなぁ?」
私の水の弾丸は荒波様の一振りにかき消されてしまいました
「そんな……」
「いいかぁ?衝撃波なんだよ、衝撃が面になってお前に向かってんだから数とか関係ないんだわ」
「ついでにもう一個教えてやるよハッピー女……俺の攻撃、なんで全部右腕しか使ってないんだろうなぁ?」
その瞬間
バチィィ!!!
「きゃああ!!」
先ほどの数倍の衝撃が私の体を貫きました、荒波様は腕を振ってなかったのに
荒波様は壁に手をついて余裕そうに話し始めました
「お前と会った時から左腕の衝撃波は出してあったんだよ、ゆっくりと窓から外に出てぐるーっと回ってお前に当たる様になぁ!」
「さぁ、どうする?まだ足掻くかぁ?それとも尻尾巻いて逃げるかぁ?」
「もちろん立ち向か──」
「まぁどっちでも結果は同じだけどなぁ」
「それじゃあハッピー女、応用問題第二問だ、なんで俺は急に壁に手を着いたと思う?」
「……?」
すると
「答えは、微弱な衝撃を送り続けて」
校舎の一角が崩れ始めました
(!?このままだと落ちてしま──)
「こうやって隙作るためだぁ!!!」
崩れる床に気を取られた私に衝撃波がゼロ距離で
「死にやがれえええぇぇ!!」
バッチィィィン!!!!
「ぎゃああっっ!!」
私の体は勢い良く校舎の外に飛び出し、四階の高さから地面に叩きつけられ──
「ッ……プールに落ちやがったか」
「はぁ……はぁ……げほっ……日本の学校にはプールがありますのね……おかげで助かりましたわ」
(でもどうしましょう、彼岸花……いえ、まだ試合が始まって十数分、一人で動けなくなるのはリスクが高い……)
(プール……水……前から沢山飛ばすのが無意味なのでしたら)
穴の空いた四階から飛び降りた荒波様が、着地と同時に地面に衝撃波を放って無傷で迫って来ます
「あーあ、やっぱり生き残っちまったか」
(能力で作れる水には限度がありますわ……ですが)
私の能力で出した水とプールの水が混ざり、全て私の武器に
「タイスフー・ヒュドラ!!」
大きな水のうねりが荒波様の四方八方から、これなら腕二本では捌け──
「ちったぁ頭使ったじゃねぇか、でもこの水の大元は今お前の浸かってるプールだよなぁ!?」
荒波様が叫びながらうねりの一つを両腕で叩きました。すると、そのうねりから衝撃波が伝播して、全ての水と浸かっていた私の体が吹き飛びました
「きゃ……あ……」
「見えねぇが、さすがに落ちたかぁ?いや、アナウンスが無ぇな……まだ起きてやがるか」
(何度も衝撃波をくらって既に視界が……)
薄れゆく私の視界に映ったのは、花冠から落ちたいくつかのお花でしたの
吹き飛ばされた時に落ちて、水でびしゃびしゃになったお花。それが何か……愛おしく思えて
落ちた全てのお花を手ですくって
食べましたの
第十一話 完




