第九話:繋ぎ目
「ここは……」
目が覚めると知らない天井。我は先程まで十柄 一平と戦っていたはず……
「あれ、起きちゃった?」
「誰だ貴様」
謎の女の声に飛び起きた、その衝撃で左腕と脇腹に痛みが走る。そうだ、我は銃弾をくらい出血によって意識を失って……
傷を確認しようと袖を捲る、しかし撃たれたはずの場所に傷は無かった
「そんな警戒しないでよ。ここは医務室で私は譜塚、怪我人の治療が主な業務なの」
譜塚はそう言うと白衣のポケットからメスを取り出す
「見ててよ?」
そして、勢い良くメスを自分の腕に突き刺した
「な、何をしておるのだ貴様……」
「この傷、私が手をかざすとあら不思議!」
手が退くとそこには傷はおろか、血の一滴も残っていない
「ふっふー、凄いでしょ私のダッチェス」
「確かに凄いが……これ、痛みは残るであろう」
「うん、めっちゃ腕痛い」
この者、恐らく馬鹿である
「あ、そうだ!もっと凄いの見せてあげる」
そう言うと今度はメスを自分の指に当て始めた
(まさか……)
「えいっ」
(本当に切り落とすのか……)
「それでね、えっと……あ」
譜塚の顔が段々と青ざめていく
「……治さぬのか?」
「そ、その……私のダッチェスじゃ治せなくて……」
「は?」
ちゃんと大馬鹿者であった
「助けてー!連君ー!」
譜塚が叫ぶと、少しして勢い良く扉が開いた
「もー!また切ったんすか!?」
「ごめんごめん」
「能力自慢したいんは分かりますけど、せめて俺呼んだ後に……あーもう取りあえず手ぇ出してください」
連と呼ばれていた男が切り落とされた指を拾い、譜塚の手に近づける
「……はい、くっつきましたよ」
「わー……ね、凄いでしょ!」
繋がった指を動かしていた譜塚が思い出したかの様にこちらを見る
「確かに凄いな……二つの意味であるが」
「全く……王城 覇道くん、やんな?俺は綱義 連や、よろしくな」
綱義 連が我に向き直り手を差し出してきた。この二人、葉梨に負けず劣らずの距離の近さだ
差し出された手を握って尋ねる
「それで、我はこの後どうなるのだ」
「本当は気絶してるうちに治療して自室に戻すんやけどな、君みたいにたまーに目ぇ覚める奴がおるんよな」
綱義 連は話ながら扉を開ける、着いて来いと言いたいのか
「あ、私も行くー!」
「まだ試合終わってへんさかい、譜塚さんは残っててください」
「えー目が覚める人なんて珍しいんだから、もっと話した──」
扉が閉められた、無情である
「ほな行こか」
言われるがままに着いて行く。普段の少し近未来的内装とは違う、打ちっ放しの事務的な壁の通路を
「なぁ王城君、怖ない?これからどこに連れてかれるか」
「なんだ急に」
綱義 連はニタニタしながら続ける
「君は今イレギュラー的な立ち位置におって、こんな怪しい通路進まされとるやん?怖ないの?」
「怖くはない、行き着く先がどこであってもこの拳を振るうだけである」
「ご立派やんなぁ……ほら、着いたで」
目の前には壁しかない、何を言っているんだこの者は
「ほら、押してみ?」
恐る恐る壁を押すとゆっくりと回転し始めた、そして迎えたのは
いつもの廊下であった。窓の無い真っ白な壁と、等間隔に並ぶ被験者の部屋
「……普通に帰されたではないか」
「ビックリした?あんな事聞いたのに、何もないんかーいて」
「ビックリではなく拍子抜けである」
「あっはっはっは、そっかそっか」
不意に綱義 連の手が肩に触れる
「王城君の試合見てたんやけどな、すごいかっこようて。こないして話せて嬉しいわ」
「……そうか」
「もうこのまま部屋に戻ってえぇよ。試合ももうすぐ終わるやろうし……あ、鉄分だけ摂るようにしてな」
「色々と世話になったな」
「ええってええって、また来てな」
「……それは負けろと言う事であるか」
「っふ、冗談や」
軽い調子で手を振る綱義に背を向け、自室へと歩き出す。廊下を進んでいるとき、妙案を思いついた
(……やるか)
「はー疲れた」
「そうですね……」
「でも、有意義な時間でしたわ」
俺と文毬、エミリアは試合後に合流して一緒に歩いてた
「それにしても、王城だけ通知くれなかったな」
「もうお部屋に戻ってるんじゃないでしょうか?」
「だったら一言そう言ってくれればいいんだけどなぁ」
「……もしかして、やられちゃったんじゃ」
文毬の一言で空気が凍る。まさか、そんな
「あ、いや、えっと……もしかしての話で……」
「とりあえず、また後で王城の部屋に行くか」
「それがいいですわね」
そうやって歩いているうちに、一人また一人と部屋に着く
「じゃあまた後でな、文毬」
「は、はい……」
ドアにデバイスをかざして開ける、するとそこには石夜見に繋がったモニターと
「やっと戻ってきおったか」
「うわっ!王城!」
してやったりと言った顔をした王城が待っていた
「これで勝手に部屋に入られる気持ちが分かったか、原木 遊」
「いやまぁ、確かに驚くな……」
「ふん、そうであろう」
満足そうな王城はそのまま自室に帰っていった
「……え、このために音信不通で待ってたのかあいつ」
『みたいだな、十五分前からいたぞ』
「えぇ……」
『それはそうと。どうだった、今日からの戦闘形式は』
気を取り直して椅子に座る、王城が座っていたせいで生暖かい
「どうって言ってもな……試合の様子は見てたんだろ?」
『あぁ、お前がオアシスの民家でトランプタワー作っているのもな』
「うっ、それは……自分から攻めるか考えてるうちに手癖で……な?」
同感を求めたが、石夜見には伝わらなかったらしい
『まぁいいが……それよりポイントは確認したか?』
「確認?二人倒したから2ポイントじゃないのか?」
『いや、倒したら確定で1ポイント、それにプラスして倒した相手の合計ポイントの半分のポイントが貰える。倒された側のは減らないがな』
『さらに、能力を使いこなして倒した場合はプラスで貰える。確認してみろ』
言われるがままデバイスを開くと、そこには【4ポイント所持】と書いてあった
「おー、4ポイントもある……それと通知が二十軒……」
『またあいつらだろ、本当に人気者だな』
『それで、4ポイントは何に使うんだ?』
「うーん……100貯めようと思ったけど、一旦武器コストが欲しいかな」
『わかった、1ポイントで武器コストを100増やせるぞ』
(トンカチが100でスタンガンが300か……とりあえず全部武器コストに変えておくかな)
『了解だ、申請しておく……それより、あいつら待たせていいのか?』
デバイスに目を向けると通知が倍になっていた
『今日はもう行っていいぞ』
「悪いな」
石夜見の許可を得た俺は立ち上がって廊下に出る、既に三人とも待ち構えていた
「遅いぞ原木 遊」
「お前らが早すぎるって……王城なんてさっきまで俺の部屋にいたじゃんか」
「葉梨と話す事なぞ無い、すぐに戻って来たわ」
「文毬とエミリアは?エミリアは分かるけど、文毬は俺より部屋遠いだろ」
「わ、私の専属研究員の方……あまり話してくれなくて」
こうやって聞いてると確かに馴れ馴れしくする方がおかしい気がしてくる
(俺の性格もあるだろうけど、でも石夜見も凹んでる時に励ましてくれたりするよな……まぁ気に入ってくれてるって事でいいのか?)
「ま、何でもいっか。飯食いながらどんな戦いしたか話そうぜ」
「ふふっ、いいですわね」
「我の栄光を聞かせてやろう」
「今日はハンバーガーが食いたいな」
「我は……レバニラである」
「「「レバニラ!?」」」
少し不服そうな顔をしながらレバニラの券を取る王城に三人全員が驚く
「あの野菜嫌いの王城が……?」
「私、ステーキ以外選んでるの初めて見ましたわ」
「あ、頭打ったんじゃ……」
「別に、我が何を食べようと自由だろう」
そんな事を言う王城は券を投入口に入れる寸前まで渋っていた
「文毬様、私あれが食べたいですわ、今日見たあの……」
「味噌カツ……ですよね」
「そう、味噌カツ!一目見て食べたいと思いましたの」
「私も味噌カツにしようかな……」
「お揃い、ですわね」
「お揃い……!ふ、ふへへ……」
待っていると料理が順番に出てきた、各自それを持って席に座り四人で手を合わせる
ハンバーガーをむさぼる俺の横で王城が真剣にレバニラを睨みつけている
「……食べないのか?」
「ぐっ……」
レバニラを掴んだ箸がプルプルと震えながら口に向かう、そして──
「拒否!」
「あらら」
拒否されてしまった、レバニラは悪くないのに
「お米と食べてみてはいかがでしょうか?」
「こ、こうであるか……」
レバニラがお米を引き連れて再び口へ、そして──
パクッ
「た、食べた……!」
「どうだ王城、味は?」
「…………不味くはない」
そう言うと王城は少しずつレバニラを食べ進めていった
「成長ですわね」
「……それで、今日どんなやつと戦った?」
メモとペンを取り出して尋ねる、情報は立派な武器になるからな
「大半が有象無象であったな、素人に毛が生えた程度であった……一人を除いて」
「私達は一人としか戦っていませんの、【条件反射】という能力でしたわ」
(エミリアさん、歩いてた時間よりお土産見てた時間の方が長かったなぁ……)
「俺も二人としか戦ってないな、まぁ初日だし全員様子見って感じか」
それぞれ見た範囲で能力の詳細をまとめていく、オリジナルの能力図鑑が出来ようとしていた
「こんなもんか……あ、そうだ。どんなフィールドだったか教えてくれよ」
「確かに、そちらも覚えておいた方がいいですわね」
全員が今まで行ったことがあるフィールドを書き出していく、A-1・A-3・B-1・C-2・E-1・E-2・F・J
「うーん……意外と被りがあって分からない方が多かったな、八個か」
「で、でもこれ……最初と最後がでてますね……」
「確かに、20フィールドでJまであるって事は……A~Eは三種類あって、F~Jは一種ずつって事か」
こうして、和気あいあいと情報をまとめた俺たちは訓練室に向かった
「よし、それじゃあ今日も王城式トレーニングするか」
「待て、原木 遊。今日は別の事をするぞ」
「別の?」
聞き返すと王城は拳を構える
「実戦である」
「じ、実戦……?」
戦いの火蓋が切って落とされた
第九話 完




