8 食料を集めよう
お父さまは昔から、うちは貧乏だ、と言っていたけれど、最近はすっごく貧乏だ、というようになった。
水害が起きてから、被害が起きた集落に必要な援助を届けたりしている。それはつまり領地の税金から賄われているわけで、もともとあまり税収が多くない子爵領では被害に対する援助が領地の経営をひっ迫させている、と、にねえさまが言っていた。正直、にねえさまの話は難しくて全部はわからなかったけれど、うちが貧乏だということだけはよーくわかった。
すでに王都では社交シーズンが始まっているけれど、子爵領は水害の被害の対応に追われていて、王都に移動できていない。なぜ子爵が王都に来ていないのか、という理由を知った貴族たちの中には、復興支援として食料を送ってくれたり、家の立て直しのために木材を送ってくれた人たちもいる。お父さまはそれをありがたいと言って、被害を受けたところに振り分けているそうだ。
私はというと、今日は山に登っている。おじいとおじいの仲間たちは復興のための木材を切り出すために最近はよく山に登っている。おばあと私は山の恵みが採れるシーズンが来たので、一年ぶりに採りにきた。珍しいことに、よんねえさまも一緒に山に登っている。
子爵家の娘たちは山登りは禁止されていたから、去年私が山登りをしたのをよんねえさまは「うらやましい」と言っていた。
そしてよんねえさまは、去年の末に王都のタウンハウスの隣の男爵家の跡継ぎと婚約をした。それは私が、よんねえさまの腰巾着と認識していたお兄ちゃんだった。いちねえさまたちは、よんねえさまに、嫁ぐのが決まったのだから淑女らしく過ごしてね、と言っていたのだけれど、水害が起きて事情が変わった。食料の不足である。
食べ物が流されてしまった集落に必要な援助をした結果、自分たちが食べる分まで少なくなってしまった。だからお父さまたちの許可を得て、よんねえさまは、食料を調達するというミッションを背負って山に送り出されたのだった。
食べ物なんて買えばいいというのもそう単純な話ではない。
商人の息子、テオは未だにお母さんの調子が良くならないらしく、テオの家族はあれからずっと子爵領にとどまっている。テオのお父さんが近くの伯爵領から食料を買い付けてはテオが子爵領で売る、という商売をしていて、私はテオに会いに行くついでにテオの店で買い物をしているのだけれど。
「テオ、また値上がり?」
「僕たちだってほんとは値上げしたくないよ。でも、子爵領で買いたい人が多いっていうのがわかっているから、伯爵領で売る人たちが強気で値段を上げてくるんだよ」
「ひどい!人の弱みに付け込んで……」
「俺もそう思うけど。必要だから買うしかないだろう?」
「ううー、せちがらいー」私はすっぱいものを食べたみたいな顔になった。
「よくわからないけど、うん、せちがらいんだね」テオはまじめな顔で頷いた。
「しょうがない、買える量が減っちゃうけど。いつものこのお金で買える分ください」そういってお金を払う。
「まいどあり。……これ、おまけでつけるよ」テオがポケットから取り出した瓶から飴玉を一つ、私の手の上にのせてくれた。
「ありがと。また来るね」飴玉を口に入れた私はちょっとだけ気分が上向いた。
「今後ともごひいきに。……ね、エーヴァ、次に山に行く予定の日はある?俺も一緒に行きたいんだけど」
「山?明後日登る予定だけど……」
ということで、今日はテオもいる。山菜を入れるためのかごを背負っている私たちと違って、テオは弓と短剣とナイフを装備していた。
「食べるものが欲しかったら、狩りをすればいいじゃないか」テオは得意げな顔をした。
山の恵みを集めるのは2年目。今日はジャムにもできる赤い実を採っているけれど、去年よりも素早く収穫できるようになっていた。年上のよんねえさまよりも上手にできることが嬉しくて仕方ない。けれど、よんねえさまは筋がいいらしく、どんどん慣れるにつれてスピードアップしていて、おばあに褒められていた。私はよんねえさまに抜かされないように頑張って集めた。
私たちが赤い実を集めている間にテオも獲物をを仕留めていた。テオは手際よく解体も済ませた戦利品を重い、と言いながら下山する。
テオは獲物の肉を自分たちで食べる分を取って、残りを子爵家の屋敷に置いていく、と言ってくれた。
「テオが獲ったんだから、テオのものだよ」さすがに申し訳ない。
「こないだのエーヴァの顔があまりにもしょんぼりしてたからさ。今日はエーヴァのために獲ったの。受け取って?」テオが照れたように言う。
うわーテオ良い奴!良い奴すぎるじゃん!
「嬉しいけど!」嬉しいよ!でもさ!「さすがに悪いってば」
「……うーん、そうだなぁ。じゃあ、俺のお願いを聞いてくれる?」
「当り前じゃない」
「エーヴァに、っていうより、おばあにお願いになるんだけど。おばあが作ったご飯、食べたい」
「おばあのご飯?」
「そうだよ。エーヴァ、いっつもおいしいおいしいって俺に自慢してただろ?俺も食べてみたいなって思ってたんだ。昔もらった干し芋もおいしかったし」
ああ、最初に手紙を届けに来てくれたときか。おばあが干し芋あげてたなぁ。
「よーし、ご指名を受けたらご期待に応えなくっちゃね!」おばあはテオの要望に二つ返事で引き受けてくれた。
翌日。おばあはテオの獲ってきた肉を絶品料理に仕上げて、テオとテオの家族を招待したのだった。私と子爵家の皆もおばあのおいしいご飯をおなか一杯食べた。
その日の夜、管理小屋の方でまったりと過ごしていた私は、お昼のお肉たっぷりのおいしいご飯を思い出しながら、
「いいなぁテオは狩りが上手で。私、狩りはできるようになったけれど、なかなか上達しないよね」とおばあに愚痴った。
おばあはそうだねぇ、と言う。私が狩りが上手じゃないのは否定しないんだ。……ちょっと落ち込みそう。
でもね、とおばあは言った。
「人には向き不向きってものがあるんだよ。テオとお嬢さまは向いているものが違うだけで、それぞれいいところがあるんだから比べなくていいんだよ。自分が苦手なことは上手な人にやってもらう。それでいいじゃないか」
レベル1:狩り、解体。
レベル2:山歩き、木工細工、竹細工、刃物の扱い、山の収穫、相場の把握、おもてなし。
レベル3:家畜の管理、木登り、天気読み。
レベル4:乗馬。
テオは毛皮や羽毛を売ってお小遣い稼ぎをしました




