6 水害予告
「長ー!いるー?」
川の下流に着くころには雨が降り出していた。天気のいい日は外にいる集落の人たちも、雨が降ると屋根がある家の中に入ってしまう。私は集落の長の家のドアをどんどんと叩きながら呼び掛けた。
ドアが開いて長が顔を出す。
「お嬢さま!おひとりですか?どうしました」
「あのね、川の水があふれるかもしれないの。この集落の川の近くにいる人たちが危ないから、川から離れたところにみんなを非難させて」
「川ですか?べつにいつもと変わらない感じがしますけど……」ここの集落の長は半信半疑だ。
「あのね、川が危ないっていうのは北の集落の大おばあが言ったの。大おばあがまだ子どものころに、今日みたいにまだ春には早いのにすごーくあったかくなった日があったんだって。その日の夜に川の水がすごーく多くなって、お友達が流されちゃったんだって。大おばあ、すっごく悲しそうだった。ねえ、長。集落のみんなを守ってあげて」
「北の集落の大おばあか。わかった、あれだけの長老が言うんだ、信じるよ、お嬢さま。ただなぁ、川の水はあふれる「かもしれない」なんだろ。何もなかったら俺はどうしたらいいんだ」
「みんな安全だったねって、何もなくてよかったねって笑えばいいんだよ」私はニカッと笑った。長がふっと笑いを漏らした。
「わかった。そうなったときはお嬢さまがそう言ってたって言うことにしよう」
「お願いね。みんなを守ってね」
「わかった。任せてくれ」
「じゃあ、私は隣の集落に行くから。よろしくね」
そういって私は馬に乗って、川の上流に向かって馬を走らせた。
急いで移動したけれど、川は長い。すんなり話を聞いてくれる集落の長だけではなかったので、ちょっと説得に時間がかかった所もある。それにかなり距離があったので、お母さまと合流するころには日は落ちていた。屋敷に戻る道中は闇の中だ。道を間違えないように馬を急がせる。
無事に屋敷に戻り、馬を馬小屋につないで、水と餌をあげた。お疲れさま、と馬の鼻をなでると顔を寄せてくる。いっぱい走ってくれてありがとね。
子爵家の屋敷に入ると、姉たちが湯を用意してくれていたので、体を清める。着替えてから食堂へ行くと、ご飯が用意してあった。このメニューはおばあも一緒に作ったかな。滋養のある味が体に染み渡る。
食堂にはお母さまもいたので、情報交換をした。
予想していたとおり、すぐには信じない長たちもいたらしい。けれど、北の集落の大おばあの名前を出すと、みんなが、あの大おばあか……といった顔になった、と言っていた。私のほうも同じだった。
「あの大おばあ、何者なの」
「私が嫁いできた時からおばあちゃんだったけど、みんなに慕われてて、困ったときとか聞いてみるといい答えを返してくれる人だって評判だったわ」
「そうなんだー」
おなかがすいていたはずなのに、いつもの半分も食べないうちにスプーンを置いた。
「疲れたわよね。用意できているそうだから今日はこっちの屋敷のほうで休みなさい」お母さまに促され。
「はーい」瞼が半分くらい落ちた状態でかろうじて返事をした。
うつらうつらしていた私、半分夢の中でいちねえさまに歯磨きを手伝ってもらった。ふらふらとベッドに到達した私は一秒で眠りについた。
外で雨がたくさん降っていたのも気が付かなかった。




