4 家族の帰領
社交シーズンが終わり、4か月ぶりに家族が領地に帰ってきた。
お父さまとお母さまは元気にしてた?ごめんね、と抱きしめてくれた。
お姉さまたちは頭をなでていった。よんねえさまだけはバシッと頭を叩いて「あんたがいないから王都の散策もちょっとつまらなかったじゃない」と言って屋敷に入って行った。
ええっと、よんねえさまは私がいなくて寂しかったのかな?そういうことだよね。私は顔がニマニマと笑うのを押さえられなかった。私はおじいとおばあと忙しく過ごしてたから、ぜんっぜん寂しくなかったもんねー!ちょっとよんねえさまに勝てた気がして嬉しすぎる。
家族は領地に帰ってきたけれど、私はおじいとおばあの家が居心地良くなってしまったのでそちらで過ごしていた。たまに家族とご飯を食べたりしたけれど、おばあの味が恋しくなってしまって屋敷にはあまり行かなくなってしまった。
おじいとおばあは相変わらず私を色々なところに連れ出して鍛えてくれたし、順調にレベルアップしている。最近はニワトリ小屋のボスを上手に避けて卵を取ることができるようになったので、家畜の管理がレベルアップした。
あと、ちょっと嬉しい再会もあった。
市に行ったときに、知った顔が店を広げているところを偶然見つけた。
「あれ、貴方、商人の息子だよね。今日はここで商売をしてるの?」私が話しかけると、彼は私の顔を見て思い出したらしく、
「お嬢さま。お久しぶりです。しばらく子爵領にいることになったんです」と言った。
前に王都にいる家族から手紙を届けてくれた商人の息子に遭遇した。彼の話では、彼のお母さまが腰を痛めてしまって、馬車の移動が難しいため、療養することになったんだって。
彼のお父さまが近くの伯爵領まで仕入れに行って、息子のほうは子爵領で店を広げることになったらしい。
「そうなのね。お店は毎日出してるの?」
「いいえ、もうこれが売れたらしばらくは売るものがないのでお休みです。父親が帰ってきたらまた店を広げるけど、うーん、2,3日は休みになりそうです」
彼の目の前に置かれているのは麻袋に入った麦。袋の大きさに対して、中身はずいぶんと減っている。あとは乾燥した豆がざるに広げられている。こちらも残りは少なそう。
価格を聞くと、普通の値段だった。高くはない。
今日は食材の買い出しに来ていた。おじいとおばあは山に行かなくてはいけないけれど、危ない仕事をするからと連れて行ってくれなかったのだ。代わりにパンを作るための麦を買ってきてと言われた。壁に掛けられている木札の、「相場の把握」をおばあは指さして、「お嬢さまはもう一人で買い物ができるだろう?頼んだよ」と言ったのだった。
「相場の把握」はこの間おばあと買い物していた時にぼったくりをしているお店を見分けられたときに追加してもらったスキルだ。賢い買い物をするためには大事だよね。
「じゃあ、残っているもの全部買うわ。ちょっと多いから家まで運ぶのを手伝ってもらえる?」
そう言うと、商人の息子はちょっと驚いて、「承知しました」と言って、広げた荷物をまとめ始めた。
それぞれ荷物を持ちながらおじいたちの家に向かって歩き出す。
商人の息子はテオと名乗った。私はエーヴァよ、と名乗る。
「エーヴァさまは子爵家の人なんですよね。これは子爵のお屋敷にもっていくんですか?」
「これはあなたが前来てくれたおじいとおばあの家で使うものよ。テオ、貴方さっきからずっと丁寧な言葉遣いをしているけれど、普通に話して?私7歳だけど、テオも同じくらいでしょう?」
「あー……一つ上、だけど、エーヴァさまはお嬢さまでしょう?貴族相手に普通の言葉遣いなんてできませんよ」
「私、普通の貴族じゃないから大丈夫。最近よんねえさまもあまり遊んでくれないし、お友達になってくれたら嬉しいんだけど」
「お友達って……ほんとですか?」
「ほんとだってば。えっとね、じゃあ、一生のお願い!こっちの領で遊んでくれる友達が欲しいの」
「お嬢さま、一生のお願いはこんな風に軽々しく使うものじゃないですよ」テオが呆れたような顔になったけど、私はそれくらいではあきらめない。
「じゃあ、一生のお願いじゃなくて、普通のお願い!テオの商売がない日によかったら一緒に遊びましょ」
「わかった。普通に話す。よろしく、エーヴァ」
「そうこなくっちゃ!」
ちょっと重い荷物を運んでいるけど、足取り軽く管理小屋のほうへ向かった。
管理小屋に着くと裏のほうでがやがやと人が話している気配がした。荷物を玄関に置いて、テオと一緒に小屋の裏に回ると、嗅ぎなれないにおいと共に黒い大きな山があるのが見えた。周りをおじいとおじいの仲間が囲んでいる。
「おじい!麦を買ってきたよ。これなあに」
「おお、お嬢さまお帰り……って、そこの坊主はこの間の手紙を届けてくれた商人の息子か?」
「はい、テオと言います。お久しぶりです」
一緒にいる経緯を話すと、おじいはなるほどな、と頷いた。
「それで?これはなあに?」黒い山を指さして聞くと、
「クマを仕留めたんだ。最近山で目撃されていてな。おばあやお嬢さまが遭遇したら危ないから刈ってきた」
クマは板に乗せられていたので、山から運んできたらしい。よく見るとおじいと一緒にいる仲間たちは大きな剣や斧を持っていた。
「これからここで解体だ。毛皮も使えるし、肉は食べられるぞ。」
「解体!解体もできるようになったらレベルアップできる?」新しいスキルを身に着けるチャンス!
「あー、そうだな。お嬢さま、今気持ち悪くなったりしていないか。テオも大丈夫か?」
「ぜんぜん」首を振ってテオのほうを見ると、テオも首を振っている。
なんでそんなことを聞くんだろうと思ったけど、普通の貴族のご令嬢は狩った獲物を見たら気を失っちゃったりするんだった。私はぜんぜん平気だけど。
「お嬢さま、やる気があるのはいいんだが、クマの解体はちょっと上級者向けすぎる。やる気があるなら今度もっと小型の獣を仕留めてからだな」
「せっかくなら仕留めるところからやってみたいなあ。テオは?やったことある?」
「旅をしていると時々狩りをすることもあるよ。小型の獣は解体したことある」
「うわあいいなあ。私もやりたい。ね、おじい、明日は?明日山で狩りできる?」
「お嬢さま、気が早すぎる。まずはクマの後始末してからだ。肉は近所の者たちと分け合うから、その時は配る手伝いをしてくれ」
「はーい」
けっこう野蛮なこともしながら、時々テオと一緒におじいに鍛えられていく私だった。
特に木登りはすごく上手になった。節がある木はうまく手や足を使って登れるし、節がないまっすぐな木だってロープを使って安全に登れるようになったよ。
レベル1:山菜取り、竹細工、刃物の扱い、おもてなし、相場の把握、狩り、解体。
レベル2:山歩き、木工細工、天気読み。
レベル3:家畜の管理、乗馬、木登り。
順調に子爵令嬢らしさがなくなっていきます。




