3 実家からの手紙
一晩ぐっすり寝て、起きた。
今日はおばあと山登りの日。顔を洗って、朝ご飯を食べて片づけたら山登り用の服と靴に着替えなきゃ。
支度が終わって、かごの準備をしていると、玄関のドアがノックされた。
おじいとおばあは近くにいなかったから私が玄関ドアを開ける。
玄関にいたのは私と同じくらいの年齢に見える男の子。領内では見たことのない顔だ。マントを付けているから、旅行で来た人かな?
「こちらは子爵領の管理人さまのおうちですか?」ちょっと緊張した顔で男の子が言う。
「はい、そうです。ご用はなんですか?」丁寧に聞かれたので、私もちょっと丁寧に対応する。
「子爵さまからのお手紙を預かっています。管理人さまにお渡ししたいです」男の子はマントの下から手紙を取り出した。
「お父さまから?」封筒の宛名を見ると、おじいの名前が書いてあった。
「お父さま?」男の子が驚く。
「あ、おじいを呼んでくるので、中でお待ちください」
とにかくおじいを連れて来よう。私は丁寧な来客対応をして、外にいるおじいを呼びに行った。
おじいと、おばあと、手紙を持ってきた男の子と、私の4人はダイニングテーブルに座って顔を合わせていた。男の子のために飲み物を用意した私、ちゃんとおもてなしができる子だ。あとでおばあにレベルアップしたか聞いてみよっと。
男の子は商人の息子で、王都で露天商をしていたときに、この後子爵領のほうに移動する、ということを言ったら、私よりすこし年上の女の子に手紙を預けられたらしい。手紙を預けたのはたぶん、よんねえさまだ。商人に預けたのは、郵便を使うより安く届くと思ったからだと思う。
お父さまからの手紙を読んだおじいが言う。
「お嬢さま、直接読んだほうがいいな。そういえばお嬢さまは字は読めるのか?」
「ねえさまたちが教えてくれたから読めるよ」
じゃあ、と言っておじいは手紙を私に渡してきた。
便箋2枚の長くない手紙だ。読んでいくと、私が元気にしているか、と案じる言葉と、いい子にしているんだぞ、という釘をさす言葉と、おじいとおばあにしばらくよろしく頼む、と書いてある。
「おじい、おばあ、私いい子にしてるよね?」おじいとおばあの言いつけを守って、ケガしないで元気に過ごしているもの。
「ああ、もちろん。お嬢さまはとってもいい子だな」
「じゃあ、お返事の手紙を書く。元気にしているよって。おじいもお父さまに手紙を書いて。私がいい子にしてるって書いてね」
「ああ、とってもいい子だって書こう」おじいはうんうん、と頷く。ところで、とおじいは横に座る商人の息子に「君はこの後王都に戻るのか?」と聞いた。
「この先の伯爵領まで行って、仕入れをしてからまたこの子爵領を通って王都にもどる予定です」商人の息子ははきはきと答えた。
「そうか。また手紙を託したいと思ったらどうやって会えばいいかな」
「一週間くらいしたら伯爵領からここに戻る予定なので、その時にまた僕がこの家に来ます」
「わかった。そうしてもらえるとありがたい。それまでに手紙を用意しておこう」
「わかりました。では今日はこれで失礼します」
去ろうとする商人の息子に、ちょっと待って、とおばあが声をかけて包みを渡す。
「少ないけどお駄賃。干した野菜だよ。おやつになるよ」
干し芋かな。おばあの作る干し芋、噛めば噛むほど味が出ておいしいんだよねぇ。
「ありがとうございます」
商人の息子は笑顔でまた来ます、と言って去っていった。感じのいい子だったな、という印象を残して。
「さあ、今日は山の斜面に行くよ!転がり落ちないように気を付けるんだよ」
「はーい」
山の中の、足元がすごく斜めになっているところで、キノコをおばあが採ってきて私に見せた。キノコは根元をカットして採取するから、小さなナイフを使う。
「キノコは絶対に食べられるものだけを覚えるんだ。少しでも違うと思ったら手を出さないようにね。あと、ナイフは刃先を自分に向けてはいけないよ。指のあるほうもだめだ。刃先は体の外に向けて使うんだ。そうすればけがはしないからね」
「はーい」注意点が多い。
言われた通り、おばあが採ったキノコと同じ形のものを見つけて、本当に同じかよく確認する。ナイフの刃先は自分ではないほうに向ける。ナイフでキノコの根元近くをカットすると、大きな塊のキノコが取れた。
背中に背負っているかごにキノコを放り込む。周囲を見渡すと同じキノコががちらほら生えているのが見える。おばあは私よりも斜面の下に行ってどんどん収穫しているのが見えた。
「よおし、今日もいっぱいとるぞー」
キノコを見つけ次第、ちゃんと同じかどうか確認をしてからナイフでカットしてかごに入れていく。山の斜面だから、平たいところより少し歩きづらいし、ずっとかがんでキノコを採っていると体が固まってきてしまう。うーん、と伸びをしようとしたところで体がぐらりと傾いだ。
「えっ、うわあ!」
びっくりして手を振ったからナイフが手から飛んでいく。背中から倒れたので、背中のカゴがぐしゃっと音を立てた。足元は斜面、このまま転がる!と身構えたところで、
「大丈夫かい」という声と共におばあに体を押さえられた。
「だい、じょうぶ。びっくりしたあ」
「おばあもびっくりしたよ。ケガしてないかい」
そういっておばあは私を立たせて、髪や腕をはたき始めた。あー、落ち葉まみれになっちゃった。あっ、背中のかごに入れたキノコは。
足元を見ると、採ったキノコがかごから少し落ちてしまっていた。かごを背中から降ろしてから、落ちたキノコを拾ってかごに入れなおす。転んだせいで丸かったかごの入り口がちょっと歪んでいた。
「おばあ、ごめん。かご、壊れちゃった?」
おばあはかごをちらっと見て、
「まだ完全には壊れてないね。家に帰ったら修理しようか。ナイフは?どこにある?」
「あ、さっき転ぶ前に手から飛んで行っちゃった」
大体の場所を指さすと、おばあはナイフが飛んで行っただろう場所を探して、ナイフを見つけてくれた。ナイフを私に渡しながら、
「危ない時にナイフから手を離したのはいい判断だよ、お嬢さま、ぶつけたところはない?」
「うーん、腕のここら辺を強くぶつけたかも。ちょっぴり痛いけど大丈夫」
手を握ったり開いたり、腕をブンブン動かしたりしたら、おばあはほっとした顔になった。
「大丈夫ならもう少し収穫してくよ。お嬢さまは休んでてもいいけど」
「元気だよ!おばあに負けないくらい採るからね!」
「あぁ、夢中になって転ばないように気を付けるんだよ」
「はーい」
かごに山盛りになるくらいキノコを採ってから下山した。
家に帰ってから腕まくりをすると、腕にあざができていた。おじいの顔が青くなった。ごめん。
ちなみにおばあにスキルアップは?と聞くと、斜面の作業ができるようになったけど転んだからレベルは1のまま。
ナイフの扱いは上手だったから、刃物の扱いレベル1認定してもらった。よし。
レベル1:山歩き、山の収穫、木登り、天気読み、木工細工、おもてなし、竹細工、刃物の扱い。
レベル2:家畜の管理、乗馬。
おばあは万が一、転がった時に備えて、お嬢さまの下のほうで作業していました。




