21 エピローグ 大おばあ
管理小屋に帰ると、静かな空間が私たちを出迎えた。
さっきまでのにぎやかな時間が嘘のように静まり返っている。
今日からここでテオと暮らすんだなぁ、としみじみしていると、テオが壁にあるスキル表を指さした。
「ねえ、今日の結婚式のときに考えてたんだけれど、このスキル表に一つ、俺は追加したい項目がある」
「えー、なんだろ」
私はスキル表の端にある何も書かれていない木札を手に取って、テオに渡した。
「なんて書いてくれるの?」
「ちょっと待ってろ」
テオは奥の部屋に入っていく。リビングには書くものがないので、ペンがあるところに移動したのだろう。
テオはすぐに戻ってきた。木札に書かれていたのは、
「人たらし」
その木札をテオはまだ一つも達成していないけれど用意されていたレベル5の場所に掛けた。
「なにこれ? スキルなの? しかも高レベル」
「侯爵家の夫婦からあんなにたくさん贈り物をもらって、辺境伯家からもすごいものをもらって、貴族の友達がわざわざ引っ越してくるんだぞ!?」
「あ、そーいうのか」
「……俺もエーヴァにたらされた一人だし」
「……えへ」
嬉しくて顔が緩んでいる自覚がある。テオがたらされてくれたのが一番うれしいかも。テオの顔を見ると私が愛おしいって顔に書いてある。テオの顔が近づいてきたので目を閉じると、唇に柔らかいものが触れて、離れていった。
目を開けると、テオが私の肩を抱いて歩き出す。向かうのは寝室の方だ。
ねえさまたちは初夜にいろいろあったらしい。詳しくは聞いていないけれど、初夜と言うのは想像もしないハプニングが起こることがある、と複数の姉が言っていた。
まあ、姉は姉、私は私だ。私とテオはねえさまたちとはまた違う、二人だけの思い出を作れたらいいな。
寝室の扉が軽い音を立てて閉じたのが聞こえた。
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時は過ぎて。
管理小屋の前に置かれたベンチに座って日向ぼっこをしてる老女がいる。
老女の前で遊んでいた子どもが近づいてきて、ベンチの隣に座った。
「ねえ、大おばあって何者なの?」子どもが無邪気な声を出した。
「どういう意味?」老女は質問の意図がわからず聞き返す。
「えっとね、物知りだし、狩りが上手だし、何でもできそうだから。どうして?」
「大おばあはただの年寄りだよ」
「ほんとにぃー?」
「そうだよ。ただの年寄りだ。ちょっとばかし若いころは元気だったけどね」
「げんき……?」子どもは怪訝そうな顔をする。
「まあ、気にしないでおくれ」
笑うと、不思議そうな顔の子ども。目を細めてみていると、子どもの顔は若いころのテオにそっくりだった。
ガタンと音がして、管理小屋のドアが開く。顔を出したのは、テオだ。
「エーヴァ、そろそろ出かけられるぞ」
「はーい」
立ち上がった老女に、曾孫が「どこに行くの?」と聞いた。
「山に行くんだよ。そろそろおいしいキノコが採れる季節なんだ」
ベンチの脇に置いてあったかごを手に取り、背負う。
「おいしいキノコ?僕も食べたい」
「たくさん採って来るから、待ってなさい」
「ついてってもいい?」
「山はあぶないところなんだよ。もう少し大きくなったらね」
「ちぇー」
曾孫は走りだした。2人で見守っていると、領主館の方へ走って行った曾孫の姿が見えなくなる。
どちらともなく顔を見合わせて、どちらともなく手を差し出した。
「さぁ、行くか」
「ええ、行きましょう」
私はテオと手をつないで、のんびりと山の方へ歩き出す。
かごにつけられた鈴が、ちりんと楽し気な音を鳴らした。
ありがとうございました!




