16 再会
振り向くと、テオがいた。
最後に会った時より、また背が高くなっている。声がなんか違った。前より低くなった声。でも、私の名前を呼ぶ柔らかさは変わらない。
テオ。テオだ。
目からだばっと涙が出てきた。
「ちょ、エーヴァどうしたの?」
「ておぉ……」
「ここ往来の真ん中!こんなとこで泣かないでよ!」
「だってぇ……テオが、テオがいるからぁ」
「俺のせいか!?」
「ちがうけどぉ……」
涙が止まらない。グスグスとしていると、「ああ、もう!」というテオの声が聞こえて、手を引っ張られた。引っ張られるがままに歩く。
気が付くと、知らない場所に座っていた。油のにおい。スープのにおい。食べ物のにおいがする場所だ。
涙をぬぐって周りを見渡すと、テーブルと椅子がある小さな部屋にいた。入り口はドアがなくて、廊下の壁が見える。
まだ止まらない涙にぐずついていると、入り口からテオが現れた。
「ほら、冷やして」
受け取ったのは濡れた冷たいタオル。
「ありがと」
目に当てる。ひんやりして気持ちいい。タオルをずっとあてていると、気持ちが落ち着いてきた。
「テオごめん」
「うん」
「ありがと」
「うん」
「……ここどこ?」
「街の食堂。ここはその個室。往来で泣いてたらまずいだろ」
「うん」
よく考えたら、街中で大泣きしているところは、木登りを見られることより恥ずかしいかも。
「お前、学園の制服着てるだろ。俺のいる宿に連れてったらさすがにまずいだろうから、いつも来ている食堂に頼んで場所借りた」
「お気遣いありがとうございます」タオルを目に当てたまま頭を下げる。
「そうだよ!エーヴァ、貴族のご令嬢なんだからさぁ、もうちょっと、なんていうか、危機感とか?持った方がいいんじゃない」
「おっしゃる通り」
「……なんかしおらしくて調子狂うんだけど」
「貴族のご令嬢なので?」
同時に吹き出した。
タオルを目から外すと、目の前には笑うテオがいた。
「あー、ほんとありがと。落ち着いた」
「なんかあったの?まだ学園の時間でしょ」
「……昼休みにね、やっちゃった」
経緯を説明すると、テオが大笑いした。
「なんで!そこで!木に登っちゃうかなあ!」
ゲラゲラと遠慮なく笑うテオ。
「だって、簡単に登れるってわかっちゃったんだもの。それにすごく高級そうな帽子だったんだよ。これ以上飛ばされたらもったいないなぁって思っちゃって」
「あー、まあ、エーヴァらしいかな。でもさあ、話聞くとちゃんと上級生に礼をしたり丁寧な言葉遣いしたりしてるんだろ?それで木に登っちゃうんだろ?不思議だなー」
「礼を尽くすことは体に叩き込まれてるのよ。そこは考えなくても体が勝手に動いちゃうの」
「面白いな。まあ、その上級生のご令嬢も帽子が手元に戻って喜んでるかもよ?」
「だといいけどねぇ」
「あ、そうだ。これ、おじいから預かりもの」
そう言ってテオは鞄から手紙を取り出す。
「おじいから?ありがと。いつ子爵領に行ってきたの?」
「先週だな。今日エーヴァの家に届けようと思って持ってたんだ」
「ありがと」
「おじいが言ってたよ。お嬢さまがそろそろ学園生活に疲れてるんじゃないかって」
「大当たり」
さすがおじい。私のことよくわかってる。
手紙の封を開けて読む。手紙の文面から、おじいとおばあの頑張れよ、という温かい気持ちが伝わってくる。嬉しくてほろりと涙が出た。
うん、まだがんばれそう。
「明日学園行くわ」
「今日じゃないんだ」
「そろそろ終業時間だと思うし、さすがに気まずいし」
「ま、頑張って」
「うん。がんばる。ありがと、テオ。ねえ、また会える?」
「あー、そうだな。なるべく顔出すようにする。タウンハウスの場所はわかるから」
「絶対だよ。待ってるからね」
「おう」
テオと別れるときは笑顔だった。私の目は少し腫れていたはずだけれど、気持ちはすっきりしていた。
タウンハウスに帰った。学園から退学の通達は来ていなかった。とりあえずホッとする。
明日は学園か。学園の皆の反応が怖いけど……ローリ、私のこと嫌いになってないかな。心配になりながらも疲れていたのかぐっすりと眠れたのだった。




