13 大おばあに相談
「大おばあ!聞いてー」
北の集落に向かった私は、いつものように家の前で座っている大おばあを見つけて声をかけた。
「お嬢さま。久しぶりだね。元気そうだ。すっかり日に焼けてるね」
「お姉さまたちには日焼けしないようにって言われるんだけど。外で過ごしてるんだもん。しかたないよねぇ?」
「ふつうのお嬢さまはこんな平民しかいない集落に遊びに来ないから日焼けもしないだろうね。さて、今日はなんの話かな?」
「真面目な話なの。将来のこと」
「将来か。お嬢さまも悩むような歳になったんだね」
「そうだよ。私、今みたいにずっとこの子爵領でみんなと一緒に過ごしたいのに。大きくなったら貴族の行く学園に行かないといけないし、卒業したら結婚したりして、そうしたらここにいられなくなっちゃう」
「そうか。子爵家はたしか一番下にご子息がいたね。じゃあお嬢さまの弟君が跡継ぎかい?」
「うん」
弟とは1番歳が近いのに私はあまり接することがない。弟は跡継ぎだから放置されている私と違って大事に育てられているからだ。
「そうなると、ずっと家にいると小姑になってしまうからね。結婚するのがいいかも知れないね」
「ふつうは結婚するんだよね。それくらいわかってるよ。でも、貴族の令嬢は結婚したら夫のところに行かなきゃいけないんだよ。私この領地が大好きなの。その前に学園に行かないとだけど。行きたくないなぁ」
「そうか。領地が大好きなのはいいことだ。大おばあも嬉しいよ。でもね、学園は真面目に行くといいよ。前にも言ったかも知れないけど、学んだことはどう役立つかわからないんだ。学ぶ機会があるなら逃さないほうがいいよ」
「そういうもの?」
「そういうものだよ」
「大おばあがそういうなら学園は頑張るけど。卒業してからもずっとここで暮らしたいなぁ」
「そんなにここがいいのかい。……まあ、やりようはあるけどね」
「ほんとに?」大おばあの言うことなら間違いない。
「お嬢さまが覚悟があるなら。平民になればいいんだ」
「……平民」それこそ、考えたことがなかった道だ。
「もしかしたら、お嬢さまはそのほうがのびのび暮らせるかもしれないね。苦労はするだろうけどね」
「……よく考えたら私、いま平民の暮らしをしていない?」
おじいとおばあは子爵家に雇われているけれど、平民だと聞いている。おじいとおばあと暮らしてたら、それは平民の暮らしと言うものではないのだろうか。
「部分的にはそうだろうさ。だけど、気がついていないかもしれないけど、子爵家の娘だから持っている恩恵があるだろうね」
「そうなのかな?」
「そうだろうさ。まあ、お嬢さまはこれからを選べるんだ。まだ急いで決める時期でもないだろう。いろいろなことを体験して、考えて、ゆっくり決めたらいいと思うけどね」
「わかった。考えてみる。ありがとう、大おばあ」
「役に立ってたら何よりさ」
大おばあに将来の相談をした話をしたら、おばあが木札を取り出して、「相談力」と書いてレベル1のところに下げた。
「おばあ?」
「困った時に人に相談するっていうのも立派なスキルだよ。相談相手もいい相手を選べたみたいだしね」
テオは予告通り、お父さんについて商人として仕入れに出かけることが多くなって、会えることが少なくなった。でも、テオのお母さんが市場で店を広げている。テオのお母さんの体調は、長旅はできないそうだ。それで、テオのお母さんだけは子爵領でずっと暮らしていて、テオのお父さんとテオが商品の仕入れをして子爵領を通った時に何日か滞在することがある。それで、私はテオのお母さんが広げている店にに買い物に行って、テオがいつ子爵領に来るのかテオのお母さんに聞いて、会えそうなときに 訪ねてみたりする。
テオは会うたびに身長が伸びていたり、大人っぽくなっていて、びっくりすることがある。私も少しは成長しているけれど、テオとの身長差は離れるばかりだ。
家族に置いて行かれて以来、水害があったりしてずっと子爵領で暮らしていた私だけれど、お母さまに、「そろそろ社交シーズンくらいは王都に行くわよ。貴女、貴族の娘だってこと覚えてる?」と言われてしまった。
そして、にねえさまの結婚が決まったと聞いたおばあは、私に料理を仕込み始めた。今まで苦手意識があって取り組んでいなかったのだけれど、おばあ曰く、「上のおねえさま二人が嫁いでしまうと王都で家のことができるのが三番目のお嬢さまだけになってしまうだろう。エーヴァお嬢さまができるようにならないと、向こうで困るよ」だそうだ。よんねえさまは勘定に入っていないらしい。うん、よんねえさまと私は家のことしなくてもおねえさまたちに任せっぱなしだったものね……
おばあがつきっきりで教えてくれたおかげで、それなりに料理はできるようになった。おばあの味と同じとまでは言えないけれど、王都でおばあのご飯が食べられなくても恋しくならないくらいには腕を上げられたと思う。
3年ぶりに王都に行く。領を出て、一日目の夜は、領から見て2つ向こうの町に宿泊する。そういえば3年前、置いて行かれた私をこの町の宿のひょろひょろの男が私を迎えに来たんだっけ、と思い出したけれど、その男はどこか違うところに行ったらしく、今は宿にはいなかった。うん、なんか変な奴だったからいなくてほっとした。
久しぶりに王都のタウンハウスに戻った。王都の景色は記憶にあるものと変わらない。変わったことと言えば、よんねえさまが前みたいに私と隣の家の男の子と一緒に街に繰り出すことがなくなったこと。婚約したから前みたいには遊べないらしい。
3年も平民と暮らしていたら、貴族としてのふるまいなんてすっかり忘れていた。マナーや所作などをお母さまとおねえさまたちに修正されて、すっごく頑張るとなんとか令嬢らしい動きができるようになってきた。よんねえさまは「猫を被りなさい。根はどうにもならないけど、表面くらいとりつくろえるわ」と言う。お母さまに連れられてお茶会に参加したりもした。同年代の子供たちも参加していたけれど、みんな立派な紳士淑女に見える。私はおとなしく猫を被って、お母さまの隣でほほ笑んでいた。
レベル1:狩り、解体、御者、相談力。
レベル2:山歩き、木工細工、竹細工、刃物の扱い、山の収穫、相場の把握、料理。
レベル3:家畜の管理、木登り、天気読み、おもてなし。
レベル4:乗馬。




