11 もっとレベルアップしたい
いちねえさまが嫁いだ侯爵家はたくさんの援助金をくれたらしい。らしいという理由は2つ。1つは具体的な金額を聞いていないから。もう1つはいちねえさまが結婚してから子爵家の領地の水害復興がスピードアップしたから。
時々視察に出ているのだけれど、行くたびに新しい家が建っていたりして、景色が少しづつ変わっていくのがわかる。
いつも私は馬で移動しているのだけれど、復興の木材を運ぶのには馬車が使われているのを見て、馬車を操れるようになったら楽しそうだなぁと思って、おじいに相談したら、自分は教えられる暇がないけれど、テオができるって言ってたぞ、と情報をくれた。
「そういうことで、私が御者ができるように教えてください」
いつものように市で商売をしているテオのところに行って、頭を下げた。テオは優しいから、いつもだったらいいよと言ってくれると思ったんだけど……
「教えてあげたいけど……母さんの調子が少しよくなってきたから、今まで俺がやってたここの店番を母さんがやることになったんだ。俺は父さんの伯爵領の仕入れに一緒に行くことになったからこれから忙しくなるんだよね」
「そうなんだ。じゃあ今まではここに来たらテオに会えたのが会えなくなるってこと?」
「そうだね」
「そっかー、寂しいねぇ」ちょっとしょんぼりだ。
「……まあ、ずっと仕入れにでているわけじゃないし。こっちの領にいるときに時間があったら教えてあげる。馬車もうちので練習すればいいさ」
「本当?教えてくれるの?」顔を上げると、テオが苦笑していた。
「まあ、エーヴァの頼みだからね。いつになるかはわからないけど」
「ありがとう!」
嬉しくて踊ってしまった。よーし、御者ができるようになったらできることがもっと増えるぞ!
踊っている私を眺めていたテオが、思い出したように、
「そういえばさ、レース工房ができたって聞いたんだけど」と言う。
「わぁ、さすが耳が早いね。引っ越し昨日だったのに」
あのレース職人の女性がが川下から引っ越ししてきたのが昨日。工房の近くの職人の宿舎に家族ごと引っ越してきた。
「子爵家が援助してるんだって?弟子募集中って聞いたんだけど本当?」
「そうだよー。職人を増やして、子爵家の産業にしたいともくろんでいます」ふふん、と得意顔になる。
「もくろむ?」
「うまくいくといいねっていう意味だよ」
「そうなんだ。俺の家の近くに住んでる子で、仕事を探している子がいてさ。そのレース職人の弟子ってどうやったらなれるの?」
「誰でもなれるわけじゃないんだよね。えっとね、面接があるんだ。手先が器用でないといい作品は作れないし、人柄も見るの」
「面接ってどうやってやってもらうの?」
「来週の週末に面接をするんだよ。工房に札を下げてるんだけど、見てない?」
「あー、字が読めなかったのかも」
「……そっか。みんな字が読めるわけじゃないもんね。えっと、面接の条件には字が読めることっていうのはないから、来週末の午前に工房の前に来てってその子に伝えてもらえる?ほかにも面接したいって人がいたら、テオが時間を教えてあげてほしい」
「わかった。興味ありそうな人に声かけとく。ちなみに誰が面接するの?」
「おじいとおばあと私」
にねえさまと、さんねえさまも面接官をやりたいと言っていたのだけれど、私以外の家族は今王都に行っているので、帰ってきてから2次面接に参加する予定になっている。おじいとおばあと私だと、面接でレースをつくってもらっても、あまり腕の違いがわからないからね。
「エーヴァも面接するんだ」
「そうなの。にねえさまが貴女も入りなさいって」
にねえさまが言ってた。1次面接頼んだわよ、貴女の仕事はヤバい人を見分けて、工房に引き入れないことだからねって。にねえさまが言うには、子供だとか女だとか弱そうとかいう理由で相手を舐めてかかってくる人がいるらしい。そういう人は女性のレース職人に教わることができないし、トラブルを持ち込みやすいから、貴女が頑張るのよ!って言われた。
「そういうわけで、来週の週末は忙しいんだ。テオは?いつから伯爵領に行くの?」
「俺も来週からの予定。時間が空いたら会いに行くから。管理人の小屋の方でいいのか?」
「うん」未だに私の主な住まいはおじいとおばあがいる小屋の方だ。
「じゃあ、またね」
「おう。面接がんばれよ」
「はーい」
面接の日、話を聞きつけた人たちがレース工房にやってきた。
私は面接希望者をおじいとおばあが待つ面接室に順番に案内する役目になった。子爵家にあった貴族の服ではなくて、おばあが用意してくれた平民の服を着た。
案内する間に、どうして面接に来ましたか?と聞く。
私より少し年上の女の子は、「大きくなったときに自分で暮らせるようにしっかり働きたい。そういう仕事を探していたの」とニコニコとしていた。
お母さまくらいの年の女性は、「子育てが一段落したから、何か仕事がしたくてね」とはきはきと話した。すごくできる女っぽい雰囲気がある。
若い男の人は、「っ、今緊張してんだから話しかけるな!」と言った。余裕がなさそう。
面接官はおじいとおばあだと思い込んでいる人たちに不意打ちで質問をして、反応を見ていた。私も面接官の一人だと気が付いたような人もいたし、服装でただの下働きだと思った人もいたみたい。
にねえさまの言う、「トラブルを持ち込みやすい人」の中でも、わかりやすい人は私の秘密の面接で不合格にできたと思う。
レース工房がうまくいくかどうかは、子爵領のこれからにも影響がある。合否の決定は慎重にやりました。
レベル1:狩り、解体。
レベル2:山歩き、木工細工、竹細工、刃物の扱い、山の収穫、相場の把握。
レベル3:家畜の管理、木登り、天気読み、おもてなし。
レベル4:乗馬。
第一話で出てきたひょろひょろの男(実はロリコン)を、「なんかやだ」で回避しているので、野生の勘がレベル1くらいあると思います。本人無自覚なので、レベル扱いされていませんが。




