大戦
山嶺が蠢く。天地が割れる。死にかけの電球が明滅するように世の在と凡ゆる物が消えては現れた。
「バグってんのか」
そんな光景をビルの下バイクの上で世成は評した。まるで世界というゲームデータが破損したかの様だ。そして自身がゲームシナリオよりも余程意味不明な状況だったと薄く笑う。
火が壁を作り、天から星が落ち、山河が砂へと変わる。雷が天へ遡り光の塊が炸裂した。
燃える様な立髪を持つ獅子の様な巨人が現れ拳を叩き落として咆哮が迸る。
視界の右端から左端へ銀光が過ぎていく。
天下五剣の内の三振りが戦っている。
『気を抜くなよ』
六鱗大尉の通信が入る。ハッとした。誰もが見るだけしか出来ていなかったのだ。
現在は発見したウンガイキョウを囲み、天下五剣率いる精兵が祓滅を担う。他は逃走阻止もとい実態としては何方に移動したかを監視するのが任務。加えて言えば他の妖の乱入阻止である。
当然だが世成を含む中隊は監視組で戦闘域の外周に駐屯していた。現在は名称を外周第七地点配属旅団麾下西部監視ビル上陣地中隊だ。
『そろそろ交代だ』
「了解。今向かいます。行くぞ」
世成の小隊がビルの屋上に向かう。それは一っ飛びの事で井桁少尉の部隊と交代し周辺監視を厳とする。
高所に登った。剣刀士の視力。故にに世成は見た。
「アレがウンガイキョウか」
丸い手鏡。鏡面の下から生える取っ手は人の首から下。相違は六腕。
その実態を端的に言えば逆立ちした蜘蛛が人の真似事をしている様だった。また薄く青みがかった様な水晶がアンバランスに人を模った様にも見える。全長で言えば4から5㍍程だろう。
上から先ず頭にも見える巨大な正円の鏡の如き腹部があって、その下の頭胸部は人の胴体を模した水晶のマネキンの様だ。頭胸部からは人に近しい腕が三対六本と異常に長い蜘蛛の足が二本、それこそ人を真似した様に伸びていた。そして足の間というか股に見える部分は首などなく目が八つの異様に整った人の顔が逆さに張り付いている。
妖は大抵が怖気立つ様な外見をしているが世成としては最も悍ましい印象を受ける妖だった。
「……エグいな」
見てくれはまぁ、いい。だがその戦闘力は悍ましいと言う段階を超えていた。瞬間移動を繰り返し鏡から極大の光線を吐き散らかす。周辺には時折だが様々な物が瞬間移動で引き寄せられて唐突に現れていた。
唐突に現れた瓦礫や、何かの機械、大木。それらにぶつかって、または重なり削り取られて剣衛が死ぬ。
知らない相手だ。だが、口の中に苦味が広がる。舌の上は空っぽだが生じる味覚は錯覚だろうとても苦味を感じるのは事実。吐きそうになる不快感。不愉快。
天地を割るのが当然の猛者達に囲まれて、体を所々砕かれている。だが押しているのはあくまでウンガイキョウだった。
世成は見る。見続ける。監視役として周辺一帯の気配を探りながらもウンガイキョウからは目を離さない。
だから動けた。
鞘ごと軍刀を掴み即座、僅かに抜いて戻す。
「凛宇創世!!!」
カッと白。目が潰れるほどの光。それは攻撃ではなく牽制だった。妖にとっては牽制の、人にとっては致死の一撃。
ビル一つ。その半分から上を光の柱が飲み込み消し去ってそのまま蒼天の白雲を丸く削り取った。世界の一部を真っ直ぐ円筒状に切り取ったのだ。
ウンガイキョウが浮く。そして豪速で浮上した。飛び立つと言うべき光景かもしれないが羽もなければ八つの手足も微動だにしない。故に浮上。
重力など無視した妖が自身の一撃をなぞる様に真っ直ぐ進む。
「凛宇創世」
進んでいた蜘蛛が直角に落ちた。地面に突き刺さる様に、着地か落下か判別の付きにくい形で。そう、ダーツを垂直に落とした様にウンガイキョウが地の上。
そこに銀線一条突っ込んで来た。ウンガイキョウの片腕を砕いて止まらず遠く遠くで爆裂した粉塵と砂塵。ビルがドミノ倒しに崩れていく。折敷一鉄中将の肆字解放だった。
「ミ°イイイイイイイイイイイイイイ!!!」
腕一本を持って行かれたウンガイキョウが劈く様な奇声を発して無くなった腕を生やす。水晶の様な身体は煙と共に氷が溶ける動画を逆再生するかのように。
世成はソレを見上げていた。肆字解放で部隊の前に盾を作り着地。移動しようとしたウンガイキョウを肆字解放で足止め。今は通信機に手を添えて。
「小隊退避。指揮は軍曹に」
横に立って同じくウンガイキョウを見上げていた箙兜軍曹が信じられない者を見る目を向けてきた。世成は見向きもせずにウンガイキョウに視線を向けてただ刀を握り。
「軍曹」
「……は。小隊、撤退する」
『中隊も一時退避だ。三持合中尉が指揮を取れ。俺も足止めに残る』
小隊が消えるように退避し六鱗大尉が黒いトゲトゲを浮かせながら現れた。
「感謝します大尉」
「おう」
肩から腕まで。まるで人間の様に、下の頭では無く上の腹で確認する様に動かして波打つ様に手を握り開いたウンガイキョウは足元を見た。
六本の腕を元となっただろう蜘蛛が巣に張り付ける様に広げて更に指まで広げた。
「来るぞ!!」
六鱗大尉の絶叫。合図に走り出す二人。雨の様にウンガイキョウの指先から光線が降ってくる。二人が走る後に光線の雨が続き地面に灼熱の帯が出来ていく。音さえないが背中から熱波が追ってくる。
「クソが!!!」
六鱗大尉が一瞬にも満たない踏み込みを行い跳躍。微動だにせず雨を降らしていたウンガイキョウに飛びかかる。それで尚も動かなかったウンガイキョウに黒い棘の玉を振り落として一撃を叩き込んだ。
ミシ。そう音が鳴る。鏡がヒビ割れ、しかしそれは罅の隙間から漏れ出る白煙と共に巻き戻した様に戻った。雨を降らせていた腕の一本を六鱗大尉に向ける。
「ッ!!」
直感的に空中を蹴って退避。元いた場所、水晶の掌の先、空間が捻じ曲がって時空が渦巻いていた。そしてウンガイキョウの鏡が波打つ。
そのウンガイキョウの背に影。大上段に刀を構えた世成。一刀叩き落とせばガラスの様に鏡から頭まで切れ割れる。そこに六鱗大尉の追撃が入りウンガイキョウが殴り飛ばされた。
「ミ°イイイイイイイイイイイイイイ!!!」
身体中から煙を撒き散らし奇声を吐き散らしながら瓦礫を丸く削りウンガイキョウが飛び上がる。六つの腕を蝙蝠傘の様に広げて、その中心で鏡をグルグルと回す。一体の時空が渦巻き周りの物が消え、或いはさまざまな物が溢れ出る。
出てくる物は全て削り取られた跡がある。機械や岩に木などに始まり何に使うかも分からない物の一部。そしてウンガイキョウが消えた。
「は?」
次の瞬間には六鱗大尉の目の前にウンガイキョウの指先。カっと光って貫く。
「ギっ!!?」
耳が焼け消えた。
「大尉!!」
「問題ねぇ!!」
ダバダバと溢れる血をそのままに飛び退いて三式変若水をかける。血は止まり片耳は消えた。そして二人は走りウンガイキョウの攻撃を避けながら接近。
二人の一振りと一撃。しかしウンガイキョウは周辺の物を浮かし回して防ぐ。それは防御というより攻撃だった。
世成は瓦礫を避けざるおえず、六鱗大尉も何かの機械の一部を殴り潰す。フードプロセッサと見紛う程の回転。数メートルの物が高速で回る中から光線の雨。避ける以外の手立てがない。
二人のスタミナがどんどん削れていく。特に瞬間火力と万能性に優れるが体力を多く使う世成は息切れを起こしていた。だが二人であるが故に辛うじて立っている状況。
「拙……」
世成の足が回る石にぶつかる。ゴと足払いをされた様に身体が地面に叩きつけられた。ウンガイキョウの掌が広がり。
「宇下点星」
空から隕石が落ちてウンガイキョウに着弾した。




