歴戦の感は予知のソレ
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完結まで書けましたので今から30分置きに8時30分まで投稿します。
暇つぶしにでも見てってくれたら幸いです。
「凛宇創世」
響いて天地がひっくり返る。凡そ半径100㍍の球体。丸く削れた空間。削れた地は空で、削れた地は空だ。
その中心で世成は光の刀を手に持って蠢くことしか出来ないシロウカリと相対していた。
握る刀の切先を右から左へ。バチッ!! などと、そんな静電気が炸裂した様な音を立てて切先のなぞった空間を雷の様な形で水が迸って過ぎていく。
シロウカリは一撃で上下に分かれて声も出せずに動きを止めて水の中に力尽きたように沈んでいった。
「納刀」
瞬く間に円が消えて地が地に、天が天に戻った。
「ッ〜〜ツァアアアアアアアアア。疲れたぁ。妖多過ぎだろ」
シロウカリの亡骸の前で世成は崩れ落ちる様に草原へと腰を下ろし大きく息を吐いて項垂れる。
祓滅は基本的には最低でも小隊単位で行う物だ。一定以上の例外的強さが有れば話は変わるが今の世成くらいで有れば絶対の事である。しかしここ数ヶ月は余りの妖の多さにそうも言ってられない。
今回も倒せるからやらせたのでは無くやらざる終えないからやっていた。
「お疲れ様です中尉殿。引き続き見張はしておきますので如何か休息を」
「軍曹、ハァ……。悪いが頼む。割と確り力が入らない」
休息の後に中隊と合流して更に妖を祓い鎮守府に帰ったが増援飛行旅団宿営地第五中隊の面々は例外なく疲労困憊の様相を呈していた。
兵達を早めに帰してやり小隊長達も報告と事後検討をとっとと終わらせたなどと考えていたくらいである。
「ちっと良いかい」
しかし報告の最後に軍歴の長い源氏車曹長が声を上げて注目を集めた。
「どうしたんです? 源氏車曹長。何かヤベェ事でも思い出したんで?」
この場で最も偉い六鱗大尉がまるで生徒の様に問う。それは漠然とだが経験からくるのだろう真摯と言うべき対応の様に見えた。実際に三持合中尉も姿勢を正している。
「感って言いたい所だが、あん時と似過ぎてやがらぁ」
「模倣化妖っスね……あ。だな」
おそらく昔の癖が出た六鱗大尉は己の頬を叩いてからチラッと世成に一瞬視線をやって。
「ウンガイキョウかは如何かわかんねぇが強力な妖なのは間違いねぇか。そうじゃ無くても妖が大きく移動する事もあるっちゃあるが。まぁそりゃ珍しい事だし源氏車曹長は今回は違ぇと思うって事だよな」
「ああ、あん時と似てまさあ。背中がゾワゾワしやがる。良くねぇ感じだ」
全くもって不合理にも思えるが経験と言うのは割とマジでバカにならない事がある。優れた人物の経験とは即ち情報の含蓄であり違和感は言語化出来ない変化を察知しての物。早い話が大量のデータを集め微量の差違を感知しているのだ。
そして源氏車曹長の予感という物は聞くに足物なのだろう。戦友であった二人の対応が世成にそう思わせた。
それは今この時、証明される。
《第二衛戍符にて模倣化妖の出現を確認。種別はウンガイキョウ。国家祓滅作戦を発令する》
館内放送によって。
源氏車曹長が見た事ない様な、ドン引きと言うべき顔をしていた。他の全員が信じられないと言った表情で彼を見ている。何というか誰もが思った事を偶々。
「曹長、あの……解放とかしてましたっけ。予知系の能力とかお持ちだったりします?」
「無茶言うなや世成坊」
そう言いながらも源氏車曹長は自分の小太刀へ一瞬だが視線をやり、当然の如く刀身が伸びている訳もなく内心ヤレヤレと首を振った。
増援飛行旅団は第二衛戍府の増援防衛部隊として駐屯。乗ってきた飛行船は偵察と物資輸送および若年者を避難民として後送。続々と各所より集めた剣衛や物資などを下して各任務についた。
増援飛行旅団が当てがわれたのは外層の一区画。足軽長屋という有様だが周囲のバラックハウスに比べればマシだった。既に外層の住民は壁の内側に避難している。
一室で寝そべる世成は様々な感情に翻弄されていた。何せ敵はまさかのウンガイキョウであったのだから。あくまで家庭だがウンガイキョウが倒された事をトリガーとして異世界に来た。であればウンガイキョウを倒せばもしかしたら帰れるかもしれない。そんな思いを抱えて戦ってきた。感情に振り回されて当然である。
一番大きな帰りたいと言う感情、他にも帰って良いのか、勝てるのか、死ぬかもしれない、様々な感情が面倒で。メチャクチャ寝る事にした。一先ず爆睡してた。悩むだけで疲れるから。もう鬱陶しいまであるから凄い不貞寝した。
そうすれば仕事である。悩む暇もない仕事が始まった。ウンガイキョウを倒す前に周囲の妖を駆逐するのだ。
「このまま前進!! 挟み撃ちにする!!」
《は!》
箙兜軍曹の声が通信機から帰ってくる。自然に飲み込まれつつある懐かしのビル街をバイクの群れが進んでいた。戦闘音が聞こえてくる。
《飛鶴中尉!! 一個西の通路に移った!!》
「了解しました大尉!! 聞いたな?! 曲がるぞ!!!」
バイクの群れが唸り右に曲がって左に曲がれば小豆に四肢が生えた様にも見える妖。顔の様に見える垂れた脂肪によって顔にも見えるブヨブヨとした真っ白な胴。そこから同じくブヨブヨとして真っ白な短い四肢の様な何かが付いてるヌッペラポフだ。
ソレが六鱗大尉のトゲトゲに思いっきり殴りつけられていた。
「お待たせしました!!」
《すばしっこい!! 気をつけろ中尉!!》
「は! 小隊各員散開!! 壁を作れ!!」
殴りつけられ吹っ飛んだヌッペフホフは壁に叩きつけられる直前に瞬く間消えた。消えたと同時に世成の真横に気配がして横にスライドする様に回避する。元いた場所にブヨブヨの白い腕の様な何かがズムと落ちていた。
ヌッペフホフが腕を長く伸ばして振り落としていたのだ。だがその腕は半ばで切り落とされる。切り落とされた先はネヴァと溶けて切り口からはズモモと手の様な何かが伸びていく。
ヌッペフホフは合間に物体がないと言う条件下で行える瞬間移動を能力とし、ブヨブヨの身体による耐久性を持つ。しかし攻撃は伸び縮みする四肢の振り回し程度であり異形化の妖としては非常に狩りやすい類だ。
「総員、気を抜くな! 逃げられるなよ!!」
箙兜軍曹が小隊員に注意を促す。狩やすいと言っても耐久性故の長期戦の中で気のぬいた一瞬で逃げられる瞬間移動という特性を持った妖の相手をするのだ。神経を使うどころの話ではない。
戦時教訓も多く基本的には対峙する小隊が凡そ三、四人で一班を作り交代で攻撃、他班は周りで壁を作り交代要員として警戒、他小隊は逃げられた際の予備と、戦闘小隊の周りで壁を作り補助をする。そう言った手堅い戦い方が剣衛で共有されていた。
世成の小隊は入れ替わり立ち替わり切り刻んでいく。その間に三持合中尉と井桁少尉の部隊が回り込んで壁を作る。彼等も泥に塗れており既に一戦交えていたのは明白だ。
「三班変われ!!」
世成は疲労が見えれば直ぐに交代させる。そうして凡そ1時間ほど切り続け。
「御苦労だオメェらァッ!!!」
最後に六鱗大尉がヌッペフホフをトゲトゲで殴り潰して討伐を終えた。
一息。だが。
「感有り! 5時方向! 2キロメートル先地面! 此方へ進行中!」
世成が嫌そうに報告すれば中隊全員が「またかよ」と言う共通の表情。
「多過ぎるだろクソが!! 五匹目だぞ?! もういい!! 相手によっちゃ飛鶴中尉に任せて帰投だ!! わりぃが頼むぞ!!」
六鱗大尉が半ばキレながら言った。ぶっ通しで既に半日以上も戦っており回復薬なども心許無い。中隊員の状況を見て一度弾くべきと判断したのだ。
「任せてください。流石に休みたい」
世成が若干キレ気味に頷き応えて中隊員がバイクに跨る。唸るエンジンは怒号の様だった。中隊の進んだ先には人間の顔を押し付け潰した顔を持つ四足の獣の様な灰色の体色をした妖。
遠目には目が三つの割れ頭で像の様な耳がついている。しかし近づけば三つの目に見える物は人間の顔で鼻は巨大な団子っ鼻がメリ込んだようであり口は下を向いていて八目鰻の様だった。
胴体はズングリとさせた獅子舞の様で極端に短くした布を被せた様に見える胴から人のものにそっくりな足が伸びている。異形化妖の中でも防御力の高いヌリカベだった。
「凛宇創世」
音が響いて妖に線が引かれた。
「納刀」
半分ズレて左右に分かれ落ち。
「……エグい疲れた」
世成は自分の刀を杖代わりにして身を支えた。
《御苦だ中尉。少し休もう。小休止だ》
「やはり小隊長の解放は使い所は難しいですが強力ですね」
近付いてきた箙兜軍曹が周辺への警戒を切らさずに言った。そして直ぐに世成の代わりに兵へ注意を促しながら支える。
「ああ、すまん軍曹。やっぱダメージを全く受けてないのを切るのは疲れる。粒子結合がカチカチだ」
「ですが一撃です。准佐相当の稀有な能力ですよ小隊長。おかげで助かっております」
「普通に照れる。助かってるってのは軍曹にせよ隊員にせよそのまま返すよ。さて」
世成が一人で確りと立ち上がれば帰還である。ビル街に隣接する形で建設された大規模祓滅作戦用の拠点だった。飛行場に加えて装甲列車を停め物資を搬入する駅まである大規模作戦における前線駐屯基地。
ビル群の一角を解放能力者達を集めて急場で拵えた物だ。正四方の壁が連なり廃ビルの廃材や草木に苔などを撤去しただけの基地。広く高く明るいので意外と住み心地はいい。
その基地中央の司令塔では第二衛戍府司令官にして天下五剣である折敷一鉄中将が副官である三文字右京少佐と顔を突き合わせていた。
「で、右京。妖の数は?」
「各地点で数十。百は超えませんが迫る場所はあります。此処の保持が精一杯かと」
「何と最早、輸送路を守れるかも怪しいな。各府の防衛戦力を考えると仕方がないが増援が来ても厳しかろう。全く以て模倣化妖などがなぜこうも現れる」
豪放磊落たる折敷中将が副官以外に見せる事の無い精神的な疲労の滲んだ言葉を漏らす。逞しさを絵に描いたよう様な軍人であっても模倣化妖の出現期間が短すぎて不満の一つも出てしまう。前回の作戦では2,537名の剣衛将兵が死んだのである。
これは模倣化妖を相手にした作戦としては少ない方だ。だが軍学校の毎年の卒業生が年間凡そ3,000程という事を加味すればどれだけの被害か分かるだろう。また当然にして前提の話として人として戦友や部下上司の死を喜べるはずが無い。
「戦力の方は如何か。前作戦で優れた者達も多く死んだ。新兵も多いだろう」
「やはり練度と言う指標で見れば前回には劣ります。ですが作戦遂行に障害となる様な者はおりません。それで言えば飛鶴君も大業物として参戦していますよ」
「おお、あの子か。別世界に渡るなど驚天動地のことに巻き込まれた。
立ち直れるか案じていたが強い子だな。剣衛になり中尉となり大業物とは。当時は残党討伐で顔も見れなかったと言うのに幾度か手紙を貰ったぞ」
「閣下にもですか。私もです。筆マメですね」
「……何とか、生き残ってほしいものだな。彼に限らずだが」
「はい……」




