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祓滅

「キィッアアアアアアアアアアアアア!!!」


 劈く女の悲鳴の様な鳴き声を上げた鼠人魚とでも言えようシロウカリは浮いていた。二本の長い腕で木や地面を掴み、掻き分ける様にして浮いた身体を進める。それは寄生虫の様に蠢かせて揺蕩う様でホバー移動と言うには高さがあり、何より早くて悍ましい。

 それに追われながら33台のバイクが唸り声を上げて木々と根っこの間を進んで行く。時折だがシロウカリの周辺に石や木などが浮かび上がり射出されるがスイスイとバイク達は避ける。苔と地面に轍を残し来た時間より僅かに早く森を出た。


 《井桁(いげた)少尉!! 補給小隊の退避は!!》

 《既に出来ています大尉》

 《よし!! 戦闘開始だ!! 全員死ぬんじゃねぇぞ!!》

「了解」


 六鱗(むつうろこ)大尉が自身を中心にウニの様なトゲトゲの玉を漂わせるていた。それをシロウカリの頭に叩きつける。女の悲鳴じみた声を上げてシロウカリが威嚇するがそこに三持合(みつもちあい)中尉以下が斬りかかり傷を負わせていく。

 5名程に分かれて入れ替わり立ち替わり切っていく形だ。六鱗(むつうろこ)大尉の猛攻によって圧倒している。シロウカリは周辺に土や岩を浮かせて振り回したりもするがトゲトゲの玉に砕かれて終わるのだ。


 《三持合(みつもちあい)小隊と飛鶴小隊、交代だ!!》

「了解!!」


 バイクに乗って周辺警戒をしつつ待機いた世成(せな)達が下車して通信を行い待ち構える。すると六鱗(むつうろこ)大尉が誘引する形で走り出した。


「気合い入れろよ!!」


 世成(せな)は叫び走り出した。あくまで凡そになるが妖に対する攻撃は肆字解放の攻撃を100とすると弍字解放の斬撃が30、普通の斬撃が10、行術が3、砲撃で1となる統計がある。要は妖を倒したいなら頑張って切らなきゃいけないのだ。


「オラァ!!」


 だから世成(せな)六鱗(むつうろこ)大尉を追うシロウカリに突貫して腹(?)に刃を叩き込み着地後間髪入れずに飛び退く。シロウカリの畝る胴体が目の前を過ぎて着地点に叩きつけられた。当たってれば普通に死んでおかしくない。

 ただ世成(せな)に限らず剣刀士は三回転ジャンプくらい軽くこなす。剣刀士であれば対応可能な範囲だった。即死の大縄跳びみたいな物で偶に地面から石や岩が射出される程度の事。

 それもこれも六鱗(むつうろこ)大尉の周囲を回転するトゲトゲ三つがシロウカリを殴り続けてるからだ。もう大尉の拳に合わせてトゲトゲが叩きつけられ悲鳴じみた鳴き声さえ上がらないレベルでボッコボコにしてる。ただそれでも死なないし暴れ続けるのだから妖はやっぱりヤバい。


「キィッアアアアアアアアアアアアア!!!」


 悲鳴の様な鳴き声が放たれ傷が塞がり周辺の土が波の様に競り上がりシロウカリの周りを包んで巡る。

 更に石や岩が土の球体と化したシロウカリの周りを高速で周り時折射出されて世成(せな)達は石や土塊を避け斬り払う。

 兵に見せる為の一太刀は入れたので指揮官として世成(せな)は距離を取って即座に動ける様に控えながら全体を見つつ。


「クッソ面倒だな……」


 長い体と周囲を漂い周り射出される石や岩。自身も含めて入れ替わり立ち替わり切り込んで攻撃をするがもどかしい。時折だがシロウカリが森へ向かえない様に指示を出す。


「キィッアアアアアアアアアアアアア!!!」


 カッと二つの顔の四つの目が光り咄嗟。世成(せな)はシロウカリを中心に円形の置楯行術を発動させ土の壁を作る。すると六鱗(むつうろこ)大尉が飛び降りて来た。


「おう、良い判断だぜ飛鶴少尉。行術が得意なのは知ってたがここまでたぁな」

「大尉殿。恐縮です」

「さぁて……こっからだ。逃げるかキレるか」


 ドっと土の球が炸裂し世成(せな)の置楯行術が砕け散る。中からシロウカリが二つの顔をギョロギョロさせながら現れた。二つの細長い腕の先の掌に極光の様な玉。


「避けろォッ!!」


 世成(せな)の半ば絶叫。通信機がキィーーという音を立てる程のソレ。兵達が反射的に回避運動を取る。その僅か一瞬が生死を分けた。極光が発光して閃光。

 迸った後は深い蛇腹の痕跡に似た断裂を地面に刻み込む。周辺の空気の焼けこげた様な香りが漂う。


「被害は!!」

「六班、権之助の腿に掠りました!!」

「分かった!!」


 世成(せな)は即座に。


「権之助の小隊は一時後退。曹長と第二第三班の三班を分隊とする。シロウカリを逃すな。第四第五班は六班の後退支援!! 指揮権を一時、曹長に委任!!」

 《了解》

「支援してやるぜ!!」

「感謝します大尉殿」


 六鱗(むつうろこ)中隊長がシロウカリの光線や石礫を避けながら進みトゲトゲの玉を叩きつける。


「来い六班!!」


 その合間に世成(せな)に続いて太腿を半円形に抉られ真っ赤に染めた兵が引き摺られて来る。


「行術発動!! 帯剣ベルトを噛め権之助二等兵!!」


 世成(せな)が一際に厚い壁を作って命令すれば第六班の班長が直ぐに動く。足を抉られた兵は同班員にベルトを剥ぎ取られて畳んだそれを口に突っ込まれた。その横で世成(せな)は腰に吊るした鉄筒を開けて班員達を見て。


「暴れない様に拘束。傷を負った足は気を付けろ。妙な治り方をすると拙い!」

「っ、はは!」


 班長が即座に答え六班の四人が体重をかける形で四肢を固定する。そして即座に瓶を取り出しダクダクと血を流す太腿にブッかけた。


「ンっぐゴあ“あ”あ“あ”あ“!!!!!」


 兵が絶叫と共にのたうち熱く焼けた鉄板に水をかけた様な音がする。血が泡立ち激しい炭酸の気泡に似た物に変わり最後は瘡蓋の様に変わった。


「緊急処置だ。六班は補給小隊の方へ。預け次第戻れ」

「承りました小隊長殿!!」

「気を付けていけ。飛鶴小隊より補給部隊護衛小隊へ。負傷者の回収を願う」

 《三持合(みつもちあい)了解》


 通信を行いながら世成(せな)は既に走り出していた。少し離れた位置にいて全体を俯瞰できるが故に気付いた危機。

 シロウカリの長くボヤけた胴体と呼称すべきか尻尾と呼称すべきか、その不明瞭な部位を叩きつけられそうになった兵を間髪、小脇に抱え跳ねて攻撃を避ける。

 追撃だろう石礫を二度避ければシロウカリの肩にトゲトゲが落ちた。それによって三度目は無くなって。


「しょ、小隊長!!」

「気を付けろ雪也二等兵!!」

「は、はは!」


 ボッコボコ殴られたシロウカリの悲鳴じみた威嚇の鳴き声に負けない程に世成(せな)は半ギレで兵に怒鳴る。兵士一人の育成費用とかそれっぽい理由じゃなくて普通に部下が死ぬのは嫌だったから。


「慎重に動いてくれ」


 それだけ言って地に降ろし世成(せな)は一っ飛び斬撃を叩き込む。剣刀士の脚力をもって半ば直線上に空中を進み膂力をもって叩き切る一撃。馬上から刀で叩き切る様なソレは深々とシロウカリを刻んでみせた。

 劈く悲鳴の様な鳴き声と妖特有の異常回復は無い。六鱗(むつうろこ)中隊長が獲物を見つけた獣の様に双眸を光らせ舌をペロリと出してから。


「ケェハハハハ!! あと一押しだァッ!!」


 六鱗(むつうろこ)中隊長がパッと拳を広げればトゲトゲ玉が広がり棘付きの布の様に。更に広げた手を向かい合わせれば棘の壁がシロウカリを挟んだ。


「くらいなァ」


 パンと手と手を合わせれば棘付きの壁が互い違いシロウカリを左右から串刺しにした。


「やっちまえ!!」


 動けないシロウカリに六鱗(むつうろこ)中隊長が突貫する。棘の壁の一つが球体に変わり拳に合わせてシロウカリに叩きつけられた。残った壁に尚深く叩きつけられ昆虫標本の様に。


「中隊長に続けェッ!!」


 世成(せな)も号令を下しながら駆け出す。ジグザグと礫の雨を避けてそのまま胴の一部を切り上げる。後は小隊全員で滅多斬り。

 それでもシロウカリは長い体を生かして追い払おうとするが如何んせんトゲトゲが体を固定して離さない。周囲に浮かせた石礫の威力と速度も落ちており如何にかなる。

 凡そ光景としては15㍍の蛇に三十余名が寄ってたかってリンチする様な光景。ただそれを成している側は必死であり随分と長い時間をかけて漸くと言った形。


「だァッ!!!」


 世成(せな)の半ば我武者羅の一太刀が止めになってシロウカリの首元から脇を切り落として漸く動きを止めた。


「警戒を怠るな!!」


 半分自分に言い聞かせながら世成(せな)が号令を発する。


「納刀」


 六鱗(むつうろこ)中隊長が言えばトゲトゲが消えて軍刀に戻る。それによってシロウカリの死骸がズンと地に落ちた。中隊長が通信機に手を添えて。


「飛鶴小隊は補給部隊の護衛に回れ。監視は三持合(みつもちあい)小隊。解体作業は井桁(いげた)小隊だ」


 シロウカリの解体を終えたのを確認して飛行船を呼び中隊はゴンドラへ帰還。戦闘よりも様々な物資へと変わる妖の解体と素材集めの方がキツいものがある。第二衛戍府を眼下に収めて警備を続け他中隊も妖を祓滅し鎮護府へと戻った。

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