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物理法則「喧嘩売ってんのかテメェ」世界法則「そうは言われましても……」

 増援飛行旅団が乗る飛行船は草薙で一般的に用いられる双胴飛行船である。全長300㍍を超える二つのミサイルの様なガス袋に蒸気機関車を運ぶ為に500㌧もの重量を運搬出来るゴンドラを吊るすファンタジー極まる性能をしている。推進器であるプロペラは左右と中央を合わせて十七発。

 また稀な事だが流れ弾を防ぐ為に下部および側面に増加装甲が取り付けられていた。陸路と水路を失った人類に無くてはならない輸送手段だ。

 運営人員は吏道十三室逓信省空路寮が行い実際の運用人員は三路技術開発研究局航空機操縦教育所操縦技士室が出している。という訳で軍人が運用する物では無い為に特務制度という物が用いられる。草薙においては特務制度とは要は軍人では無い人が軍の麾下で働く際に仮で与えられる階級だ。


「ようこそお客さん! 船長の特務少佐だ。宜しく頼んます」


 幾つもの懸架された飛行船が並ぶ飛行場でガハハと笑って中隊長より一個上の階級の一般人が出迎えた。

 特務制度で階級を受けた飛行船乗組員は相手が下位階級であっても指揮権はない。だが飛行船の操作に関しては直接の上官の命令以外は無視出来た。それ程までに飛行船とその乗組員は貴重な存在なのである。

 また剣衛のと言うか一般的な常識として特務という端的に言えば協力者を死なせる事は何よりの恥であった。


「中隊長の六鱗(むつうろこ)大尉っス。危険な任務への助力感謝します!!」

「いやいやアンタらが命はって守ってくれてんだ。俺達も協力しなきゃ恥ってもんよ!! 大船に乗った積もりでいて下さいや!!」


 挨拶の奥では飛行船のゴンドラへ入替用の蒸気機関車が剣衛のバイクや数日分の食糧や燃料を積んだ貨車を押し込めていた。

 中隊長以下130名が乗り込めば懸架が解かれゆっくりと、しかし実際は随分な速さで浮上を始める。

 そして高度1200㍍付近で推進器を唸らせ進む。安全航行高度と言われる例外を除けば先ず安全な範囲。


 《こちら操舵室。こちら操舵室。船長より通達致します。本機は高度上昇を完了。これより第二衛戍府へ向かいます》


 世成(せな)は小隊長個室で部下達の状況を確認していた。体調や装備に加え状況の確認である。それは箙兜(えびらかぶと)軍曹から報告を受ける形でだ。


「御苦労軍曹。大部屋から出るのは構わないがモメないよう注意を払ってくれ。特に跳ねっ返り班」

「連中には腕立て伏せでもさせておきましょうか?」

「何かやらかしちゃったらお願いしま」


 箙兜(えびらかぶと)軍曹のロボットの様な前が向いていた。世成(せな)はユックリ3秒固まって。


「……頼む」

「少々、育ちが良すぎます少尉殿。それは得難い事ですが今は注意を。特に戦闘が始まるまでは」


 無表情の鉄面皮だが世成(せな)を案じた様に雰囲気で言った。だからこそ世成(せな)は己に言い聞かせる様に。


「戦闘で活躍すれば兵は勝手に従う。戦闘を共にすれば兵は話を聞く。戦闘で資質を疑われれば兵は消える、だったか」

「は。初陣とは小隊の将が将足り得え、兵が兵足り得るか。その分水嶺。

 ここで躓いては誰も幸せになりません。くどい様ですが」

「いや、感謝する」


 箙兜(えびらかぶと)軍曹は敬礼を返した。


 《中隊長より通達だァッ!! 全隊戦闘準備。目標シロウカリ。降下後祓滅すんぞ!!》

「軍曹!」

「は!」


 世成(せな)が帯剣ベルトに刀を吊るして立ち上がる。廊下を進めば兵士達は既に廊下に待機していた。三持合(みつもちあい)中尉と源氏車(げんじぐるま)曹長は流石で既に配置を終えた通信が入った。

 世成(せな)は兵達を見る。横の箙兜(えびらかぶと)軍曹の目が光ったのが分かった。頼もしく思いながら。


「諸君御苦労。これよりゴンドラへ向かう。格納庫通路で待機だ」


 世成(せな)の指示に全員が敬礼と返答を返し車両ゴンドラへ通じる通路へと向かう。ゴンドラは列車六両を搬入出来る広さを持ち線路も敷いてある。荷積みの手間から中身満載の貨車をそのまま入れて運ぶのだ。

 飛行船の辺りで既に飽和していた重量とか強度とかって飽和ツッコミ所がエゲツないだろうが粒子技術金属原子合成冶金という技術が関連している。まぁ金属と粒子を結合してアーダコーダしてドータラコータラの上でウンタラカンタラと関係ないし面倒なので省略。便利に使わせて貰えば佩刀式で握った刀を制作するのと同じスキルツリーのファンタジー技術。

 グダグダ言ったが要はバカ広いのだ。マジで体育館どころの話ではない。そうせざる終えない理由があったとは言え蒸気機関車を飛行船で運ぶんだから当然である。だが、中隊が揃えば凄い狭かった。当然である。


「飛鶴小隊。配置完了」

 《配置完了了解》


 六鱗(むつうろこ)中隊長の応答。


 《井桁(いげた)小隊。配置完了》

 《配置完了了解》


 四小隊が揃った。世成(せな)は手摺を掴んだ。そして通信。


 《こちら操舵室。展開降下を開始。手摺に掴まり動かない様に》

「聞いたな。もし従わなかった場合はそれなりの覚悟をしておけ。妖に追われるより恐ろしい目に合わせてやる」


 箙兜(えびらかぶと)軍曹が淡々とよく通る声で言った。それだけで兵達は反射的に手摺を掴む。誰だって無表情鉄面皮に喋られなく程追いかけ回されるのはゴメンだ。

 それを見計らったかの様にズン……と。世成(せな)に言わせればエレベーターの様な。いや遊園地のフリーフォールに近い重力。

 飛行船が降下しているのだ。それは推進器をも用いた高速の物。粒子合成不燃性水素ガスをボンベに戻しガス袋を縮小、代わりに酸素ボンベを開けて酸素袋を肥大させる。


 正直ほぼ落下。


 操舵室では当直士官(船長)、昇降舵手、方向舵手、機関士が全神経を集中させて操船を行なっている。だが兵達は戦闘の緊張を紛らわせるのに丁度いい。と言うか戦いより現状の落下のが怖いと言うべきだろうか。


「結構早いな」


 ただ世成(せな)としては「うわ早ぇー」くらいの感じであった。今回の事が初めての事でこう言う物だと思ったのがそう。遊園地の経験もあれば飛行機の経験もあり余り騒ぐほどではない。

 あとは祓滅学校で違幣(ちがいへい)大瀑斎だいばくさい忠剛(ただたけ)のボディブロー。アレで飛ばされた時の速度のがヤバかったっていうかアレ経験したら大体が大丈夫になると思う。

 ともかく飛行船は降下し高度100㍍程で推進器を止める。方向を上から下に変えて再起動し降下速度を落とす。そして地面まで数㍍の所でゴンドラを降ろす。


 《中隊長より三持合(みつもちあい)小隊へ連絡! バイク乗車!! 俺と共に周辺警戒!!》

 《了解!!》

 《以降、飛鶴小隊、井桁(いげた)小隊、源氏車(げんじぐるま)小隊の順番で飛行船より降りろ!!》

 《《「了解」》》


 世成(せな)は通信を終えて扉の前に控えれば物音がしてエンジン音。それが止めば。


 《飛鶴小隊出ろ》

「了解!! 小隊、行くぞ!!」


 扉を開けて進めば飛行船の作業員である操機手達が控えていた。彼等に敬礼して世成(せな)は前回状態の貨車の扉を潜り有害貨車一階の並ぶバイクに跨る。ゴンドラ底面は地に着き車輪とボギー分の高低差はタラップが斜面を形成していた。

 世成(せな)は手早くエンジンをかけて並んで外に出る。世成(せな)を含め縦列を作ったバイク31台がゴンドラから順次出ていく。


「小隊! 警戒を怠るな!!」


 周辺警戒配置に着いた世成(せな)はそれだけ言うと通信を入れる。すると他小隊もゴンドラより出て来て最後に飛行船はゴンドラを再度持ち上げて急浮上して空へと戻った。その光景を見てみたい気持ちもあったが既に妖が何時出て来てもおかしくない。


 《こちら操舵室。安全高度に浮上完了。監視警戒に移る》

 《中隊長了解。シロウカリの位置は?》

 《十時方向から十二時方向へ移動中。目標は第二衛戍府に向かってる》

 《中隊長了解。操舵室通信終了。中隊進発!》

「了解!! 行くぞ!!」


 バイク94台トラック6台。中隊長を先頭に剣刀士小隊三体が三角を作り、その真ん中に6台のトラックが進む。中隊は飛行船の降ろせる平野から森林地帯に向かっていた。

 森林地帯に入る前に補給小隊のトラックと護衛役の井桁いげた小隊が分離。森林に入ってシロウカリを追った。それとはすぐに会合する。


「妖の見た目もうちょっと何とかならんかな」


 世成(せな)は真顔で言う。

 全体像を言えば人魚が近いか。ただし人に近い部分は全長15㍍前後の白いキモさ百割り増しにしたハダカデバネズミの様な肌にヘビの様なシルエット。その下に続く部分は深海のヌタウナギがサナダムシの様に細長い。尚その長い体は人で言えば鎖骨の部分まであり腕は枝の様に長いのだ。

 顔は毛を毟られたネズミの様で目の様な位置はデメキンの様に膨らむ。ただその目に当たる部分は眼球ではなく黄色い人の顔が二つ並んでいた。

 控えめに言ってキモい。カサカサと腕を使い様々な物を鷲掴みヘビの様な体を巨木の合間にウニョウニョ通して進む。デメニギスのがよっぽど可愛げがある。まるでトカゲの様に目の位置にある顔が上下を向くのだ。マジ本当に気持ち悪いったらない。


 《各小隊解放後に誘引攻撃!! 針球所化(しんきゅうじょか)!!》

「了解。飛鶴小隊、戦術級行術を発動します」

 《あ? 分かった。やれ》

「は、行術発動。数形一線」


 ド。と。水の柱が直進した。シロウカリに直撃しギョロギョロと二つの顔が動き二小隊に向く。


 《戦闘開始!!》


 中隊長の号令が降った。

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