未来からも来て無いし殺戮マシーンでも無い
鎮護府の司令部訓練場では増援飛行旅団の結成式が行われており世成も新任少尉の一人として参加している。
高所に立つ笹竜胆泉岳斎國綱の激励を代表として受けているのは連隊長月輪少将と三星大佐だった。
増援飛行旅団は飛行船を用いて衛戍府の戦闘補佐を行う部隊である。
任務としては大隊規模の兵と物資を乗せた飛行船団を交代制で衛戍府へと派遣し、衛戍府のリソースを維持したまま衛戍府戦力を増強するのが目的だ。
飛行船には中隊を乗せ三隻を纏めて運用し大隊とする。中隊は4小隊129名を中隊長が指揮し、即ち1大隊は3中隊390名を大隊長が指揮する。
その大隊が6部隊、計2346名と飛行船九隻を麾下に置く。その内の1小隊30名の統率者が世成の仕事だった。
訓令を受けた後は中隊長および指揮部隊員との顔合わせだ。上司というか上官である中隊長と同じくらい先任下士官との顔合わせは重要である。何はともあれ先ずは直接の上司である中隊長との面会だ。
「三持合中尉および井桁少尉ならびに飛鶴少尉、加えて源氏車曹長。参上しました。
中隊長室の前に並んだ四人の小隊長。一番若い世成は三持合中尉に言われ井桁少尉に追従する形だ。尚、その背に控えている最も年長で最も強そうな源氏車曹長は補給小隊長だった。
尚、三持合中尉は30代半ば男性、井桁少尉は20代半ば女性、源氏車曹長はおそらく50代で男性である。
「はいンなァッ!!」
ゴロツキの様な声に世成は驚くが誰もリアクションする事なく三持合中尉が「失礼致します!」と言って入室してしまう。
「三持合であります!」
「井桁です」
「飛鶴です」
「源氏車です」
小隊長達が揃って敬礼する。その先には軍帽どうやって被ってんのか分からんレベルのトンデモねぇ頭の兄チャンが中隊長室の椅子に座ってた。歳はたぶん30ギリいってないくらいだろう。
雰囲気はパンクロックとでも言おうか。何より毬栗、いや栗は栗でも海栗の一種ガンガゼの如き刺々しい針の様な髪が放射状に伸びている。中指突き立てて舌ベロベロしてた方が様になる感じ。
不適で狂人の様な笑みを浮かべ片目をカッ開き立ち上がる。その胸には大尉の階級章と異形化以上の妖の個人討伐者に授与される大業物の勲章が輝く。少なくとも戦闘能力においてはバケモノ並みの人物だった。
「中隊長の六鱗。大尉だ。頼りにしてるぜ!! ケェハハハハ!!」
信じられないくらい綺麗な敬礼を返された一人である世成は思う。「笑い方マジか」と。ケハハとかアニメかなんかぐらいでしか無い笑い声をガチで聞くとは思わなかった。
「まぁゴタゴタ上官が喧しく言わなくても大丈夫だろうが各員、中隊の剣能確認だけはしっかりやっといてくれや。釈迦に説法って具合だろうがな。
あ、それと軽い合同演習までには部下連中と顔を合わせとけ。んで、まぁそれまでは確り休んでくれ。特に飛鶴少尉は先任軍曹の言う事をよく聞いて確り頼れよ?
……三持合さんやオジキに上司として振る舞うのやりにきぃな。あ、いや、すんませ、あ“ー。以上、解散」
「失礼致します!!」
微笑ましさを混ぜた薄い苦笑いを浮かべた三持合中尉の言葉。それに押される様に世成は退室した。
「中尉殿と曹長殿は大尉とお知り合いで?」
紅一点である井桁少尉が移動の無聊を嫌ってか問う。
「ウンガイキョウ討滅作戦でな。そこの中尉さんトコで戦った戦友よ」
源氏車曹長が答えた。三持合中尉が慇懃に続く。
「私は作戦当時、少尉でしたがね。大尉殿は麾下の准尉でして。恥ずかしながら何度も命を救って頂きました。
近況は聞いていましたが直属の上司になるとは思いませんでしたよ。私の一方的な物でなければ戦友と言うのが該当するでしょう」
「違ぇねぇな」
中尉と曹長が懐かしそうに笑う。
「雲外鏡……」
「気になりますか飛鶴少尉」
「はい。酷い戦いだったと伺ってます。それと個人的に雲外鏡を倒すのが目標なんで」
「ウンガイキョウを、ですか。祓滅学校で情報は習っていますよね」
「ええ。蜘蛛が人形を模った様な妖で顔にも見える鏡の様な腹部と八本の腕。跗節の部分が非常に大きく発達していて人の足の様に使うと。
妖術は推定で空間を操る事と八歩の腕を用いた格闘および鏡部分からの粒子砲。また空間を捻じ曲げたり遠くへ強制的にワープさせたりと多彩だと習いました」
「おお……。流石です。新任少尉試験を突破なされるだけの事はありますね。
ただ、中々な大言壮語と言わざるおえない。それだけの理由はあるのでしょうが」
「ええ。結構デカい理由があるんです。諦める為ってのが正しいかな?」
新任少尉が出していい物ではない。複雑な感情を乗せた言葉に納得する。当然だが理解はできないけども。
「成る程。生半可では無さそうですね。ともかく同部隊としてよろしくお願いします飛鶴少尉」
「此方こそお願いします中尉。曹長も少尉も」
「よろしくお願いします」
「ああ。頼むぜ。
飛鶴少尉は後で装備類。特にバイクの確認をさせてくれや。初期不良があるといけねぇからな」
「ありがとう御座います曹長」
少しの関わりを持って中隊長との顔合わせと同僚である小隊長との顔合わせを済ませて世成は小隊室へ向かった。
軍曹。軍事に疎くとも聞いた事くらいはあるフレーズだと思う。最近だと金塊探して額にモス乗せられた人とかが有名だろうか。おそらく知名度で言えばカエルだ。戦争映画を見る様な人であれば全鉄製上着の心臓男あたりだろうと思う。敬愛を込めてアシダカ蜘蛛もそう呼ばれた。んで祓滅学校入学までは世成の認識も大体がこんな感じだったのである。
下士官がどうこう言いだすと面倒クセェので端的にいえば兵を統率し、古参ともなれば新米将校の補佐役を務める様な立場である。
「えっと、35歳。軍歴は17年か。参加作戦多くね? んで良業物か」
世成は小隊室のデスクに着席し事務書類を確認の後に部隊員の情報をみていた。早い話が兵士との繋ぎ役で先生に相当する軍曹の情報を再確認していたのだ。それが終わるとちょうど時間が来てノック。
「どうぞ」
「失礼致します。箙兜。着任致しました」
入室した箙兜は鉄面皮だった。慇懃と言う言葉を絵に描いたよう。だが敬礼は何処か機械じみて正確であり何か、ンな訳無いのにカクカクと動いて見える。顔は面長で角張っており、何かこう、やっぱりカクカクしてた。髭とか生やしてるが長方形にしか見えない感じだし。
世成は立ち上がって敬礼を返し。
「飛鶴少尉です。宜しくお願いします。箙兜軍曹。お座りください」
促された軍曹は世成が座るのを待ちカクカクと座った。そして鉄面皮のまま顎を支える様に手を添えて首を傾ける。
目だけは世成を見ているが見られた側としては監視されている様な感覚を覚えてしまう。見定められると言うよりは解析されていると言いたくなる視線だ。精巧なロボットの方がまだ人っぽい。
「失礼ながら飛鶴少尉殿。話す時は私の事は呼び捨てで、加えて年上相手でも口調は敬語を控えて頂きたい。と、言うよりも命令口調が望ましいです」
「あー。そっか。指揮統制が乱れますか」
「正に。飛鶴少尉殿は随分と礼儀正しい様ですが兵が錯覚してはいけません。特に若い新任少尉が相手となると戦歴を積んだ兵ほど違え易い物ですから」
「分かりまし……分かった軍曹。これで良いだろうか」
「は! 一先ずは、と注釈は必要ですが。飛鶴少尉殿」
「では軍曹。練成および連携訓練前に兵達と顔を合わせておきたいが可能か」
「可能です飛鶴少尉殿」
「有難う」
「……そこは感謝する、で」
「感謝する」
ウィーン……カクカクって感じで箙兜軍曹は無表情だが満足気に頷いた。世成としては随分とコミカルな人が先導してくれるとホッと安堵した心地である。
箙兜軍曹が上官に対して不遜な態度を取ったと言う理由で鉄面皮で兵士30名を追いかけ回し割とマジで泣かすまで凡そ30分。




