御一献
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鎮護府中央は巨大な木造屋敷群である。これは草薙が粒子によって変質した木々から得ることの出来る材木の採取が容易な為だ。所々に石材だけでなくコンクリート等も用いられるが三つの拠点を除けば古い建物のままで、それは江戸時代から飛び出した大規模な政所とも言える物で櫓まである為に城の様である。
その例外の一つである帯礪総本部に世成は訪れていた。アーチ窓と赤煉瓦に白漆喰が生える巨大な洋館だ。
守衛所でカードを出して正面の庭を進めば洋館の扉の脇で壁に背を預けていた男が片手を上げた。
「おう、立派になったな世成」
「お久しぶりです四目局長。遅くなりましたが局長就任おめでとうございます」
世成は3年間で仕込まれた綺麗な敬礼を返す。それを見て二、三頷きく四目局長。
「男子三日会わざればとは言うが、全く立派な剣衛だな。局長になれたのはお前のおかげでもあるんだぜ? さ、付いてきな。色々とあったんだ。道中話すよ」
「はい」
胸壁の壁と大きなガラス窓が続く。
「お前さんの細胞を培養して色々な実験をしたおかげで粒子の接合プロセスから始まって憶測の証明なんかが出来てな? ま、要は色々と解明されたんだ。
特に結合した粒子と細胞の分離においては一度結合した粒子とお前さんの細胞を分ける事で結合して変質した粒子の変化を確認出来たのは大きかった。それによって純粋な粒子の採取が格段に簡略化できた上、変質させた粒子を人体に取り込んで拒否反応を起こさない事が可能になったんだ。
で、何が出来る様になったかって話だが大紫院様の剣能である回復能力を発動させる剣能粒子。これの制作、保存、利用が出来るようになった」
「要は、回復薬的な……?」
「……回復薬。まぁそうだな。大紫院様の剣能レベルで強力な回復力を持った能力じゃなきゃ難しかった上に、剣能の回復力から比べれば冗談みてぇに低い性能になっちまったが強力なモンだ。
討鏡三式剣能封入薬。略称は三式変若水。これの研究改良が俺の仕事になった訳さ」
「因みにその般若水。回復の程度は?」
「肥大化した妖でやった実験の感じからすると腕を繋げるとかは無理だな。まぁだが繋がってれば割となんとかなるだろう」
「それメチャクチャ凄くないですか」
「ああメチャクチャ凄ぇ。ウンガイキョウの祓滅作戦の時にありゃぁな……。ああ、いやすまねぇ。
未だ未だ制作には時間が掛かる。後は部屋でだな」
四目局長が両開きの扉を開けた。それと同時に世成はとても微妙としか言えない表情を浮かべてしまう。
「よく来……そんな顔をしなくても良いじゃない」
「いや隅立局長。そりゃ無理ってもんでしょうよ」
四目局長が呆れた様に言えば隅立局長は視線を逸らした。
そうなって仕方ない状況ではあったのだが落ち着いてみれば流石に何とも思わない様な行為ではなかったと自省したのである。
だからこそ如何対応するかと言う悩みが生まれて少しの間。
「その、何と言って良いか。申し訳なかったわね。あの時は少し我を忘れてたのよ」
「いや、だいぶ忘れてたでしょアレは。しゃーないとは言え身元不詳の異性にケツの毛毟らせてとか真顔で言ってた口で何言ってんですかアンタ。技術者としても中々にドン引きでしたよ」
「本当にごめんなさい」
世成は気まずさを誤魔化す様に頭を掻きながら。
「えーと、何というべきか……。お気になさらずとは言えませんが、うーん。謝罪を受け取ります、はい」
局長とは凄い偉い。雑に言えば凄い上の立場の人の謝罪ではあるが気にしないと言うにはもう少し時間が必要だった。だって尊厳ヤバかったし。
ただ謝罪を受け入れたのは確かである。そこは違いない。
「さてと、だ。取り敢えず座ってくれ。まぁ説明ってだけだがな」
四目局長が眼鏡を直して着席し隅立局長が傍に控えた。
彼等は鏡台総本部が設立した技術局の長。その技術局というのは目的を実現する為に設立される。四目局長は剣能封入薬研究局であり、隅立局長は粒子総合技術研究局だった。実際に研究開発を行う研究所と研究所の下部組織である研究室の成果を実用的な物に組み立てる立場。
長ったらしく並べたが早い話アホ程に偉い人間が二人もいるのである。
「失礼します」
とどのつまり実感が薄く軽く椅子に座っちゃう世成じゃなきゃゲボ吐くくらい偉い。だいたい各衛戍府の司令官と同等くらいな感じ。そして同時にそれだけの重要案件に他ならないと言う事。
結論として剣能封入薬と言う代物は革新であった。その意味を世成は受け止める必要があるのだ。知らぬが仏と言う言葉そのものたる箱がコトリと置かれる。
「さて呼んだのはこれを任務中に使ってみて欲しいって事だ。世成は既に細胞を採取していて安全性は確認できてる。お前さんの小隊の細胞も健康診断時に採取した細胞で確認済みだ。
要は安全に使える事がわかってる世成がいる分、早急に配給できるお前さんの小隊に先行して利用して貰って、道具の使用するにあたっての問題の洗い出しを頼む訳だな。
粒子の相性試験と薬の生産は急いじゃいるんだが時間がかかる。だが全く作れない訳じゃねぇから配る前に戦闘の中で剣衛の意見が欲しい。まぁ検査が終わり次第に現状の形で増援飛行旅団にゃ配ってくが」
説明を終えると箱を開けて世成に言わせれば無骨な保温水筒にも見える鉄の筒を取り出した。それを更にパカリと開けると円筒形の瓶が出てくる。その中には翡翠色の液体が並々と入っていた。
「軍用水筒の転用を考えたんだが間違えて飲むと面倒だからこうした。ちょん切れた四肢を引っ付けるのは無理だが繋がってりゃ何とかなる筈だ。普通の切り傷や擦り傷には軽くブッかけりゃいい。内臓がやられた時は飲む感じだな。
ただ骨が粉々になってたりすると変な治り方をするから気を付けろ。死ぬよりはマシだがそう言う場合はあんまり使わねぇ事を勧めるぜ」
「開けても大丈夫ですか?」
世成の問いに四目局長は頷き。
「何だったら飲んでみてくれ。渋味と苦味があるけどな」
言われて世成は瓶を鼻に近づけスンスン匂いを嗅いでみれば無臭。もう一度目の前に瓶を持ってくれば揺れる琥珀色の液体。見るには良いが何か飲むとなると若干躊躇しちゃう。
「さ、グイっといっちまいな」
「……ウッス。おぉう、何か、こう絶妙に渋くて苦い、あ」
覚悟を決めて飲んでみれば常飲はしたく無いが薬と思えば飲めない事はない、何とも薄い渋さと苦さが舌の上にジワっと広がり。
「口内炎が治りました……すっご」
「お、そりゃあ良い。ちょっとレポート取らせてくれ。それと細胞の提供頼むわ」
「え、あ、はい分かりました」
世成は説明および支給後はゆっくりと近況報告でもするのかと思っていたが二、三時間ほどアレコレと研究協力をする事となった。




