暫しの別れ
剣衛祓滅兵学では全ての課程を終えた候補生達へ別個辞令を渡す。世成も呼び出しを受け学長室で着席していた。対面の違幣大瀑斎忠剛が辞令書を出し。
「飛鶴世成候補生。配属先は再設置された鎮護府所属各衛戍府増援飛行旅団。少尉任官だ」
「は! 有難う御座います!」
「これより先は他言無用だ」
「は」
「増援飛行旅団に於ける機動遊撃中隊の内の一隊を任されることになるだろう。
特に第二衛戍府は雲外鏡祓滅作戦の被害により戦力低下が著しい。また復旧の目処は立っているが食料プラントの被害で養える軍の総数が減っている。これは対応可能な範囲の被害だが市中に不安を広げたくない。
おそらく初期任務は第二衛戍府への出向任務となる。飛行船を用いた監視および即応部隊だ。健闘を祈る」
「有難う御座います。一つ質問を宜しいでしょうか」
「何だ」
「私の成績は少尉任官される候補生の中では余り特筆した物は無かったかと。少なくとも中央に配属される程の結果を示せたとは考えていません。
第二衛戍府所属である所を状況故に鎮護府へ配属となったと考えれば良いのでしょうか」
「鏡台だ」
世成は文字通りケツの毛まで毟られそうになった記憶が薄ら蘇り、それをメチャクチャ頑張って表情に出さない努力をして。
「成る程……理解しました」
「話が早くて助かる。加えて言わせて貰えば周りの能力が高い為に自覚がない様だが、能力的評価が低い訳ではないぞ。特に軋轢を産まない人格は評価している。
さて話の続きだが飛鶴世成候補生には技術局へ出向し技術局に協力して貰いたい」
「は!」
違幣大瀑斎忠剛はズッシリ頷き。
「健闘を祈る」
「有難う御座います!!」
退室すればガチガチの同期達が廊下に並べられた椅子に着席している。その先頭でやはりガチガチの小乃字小三治に。
「教室で待ってるぜ」
「お、おう。行ってくるわ」
そう言って学長室へ入る小乃字小三治を見送った。
「ブリキ人形かな?」
思わずそんな事を言ってしまう程ガッチゴチで。
「えーい。黎明、三蔵。そっちそうだった。ってドヤ顔似非メガネ……」
ドヤ顔で眼鏡をクイクイしまくってた笹竜胆黎明がンガっと愕然。
「似非メガネでも大概なんだぞ飛鶴。ドヤ顔まで付けるなんて、なんて奴だ」
「鏡でもあればグウの音も止めれたんだがな」
いつも通りの世成と笹竜胆黎明のやり取りに三階菱三蔵が苦笑いを浮かべて。
「そんな息の根みたいに……」
戯れ合いが長くなると本題が流れそうなので三階菱三蔵は直ぐに。
「因みに僕は一等兵だったよ」
「やっぱりか! 流石だな三蔵」
剣衛祓滅兵学校を卒業すると二等兵に配属される。しかし戦闘能力及び資質に於いて優れている評価を受けると一等兵として配属された。
故に嬉々と言う世成 に笹竜胆黎明がやれやれと首を振って。
「飛鶴。少尉任官された君が言う事かい? まぁおめでとうとは言っておくけどね」
尚、幹部としての資質を備えていれば少尉として配属される形である。
「おう。ありがとよ。まぁ今年は戦力補充が必要って理由がデカいだろうがな。黎明も一等兵だろ? あのドヤ顔だしな」
「ああ。先生のおかげだな。まさか掛け算が出来るようになるなんて思わなかったよ」
「突っ込んで良いのか微妙に判断に困る事を言うんじゃねぇよ。
で、配属先の方は? 府が違うとなかなか会えなくなっちまうしな。俺は一応此処だったぜ」
「何? 飛鶴もか。それは良かった」
「マジか黎明!!」
「え! 二人とも鎮護府なの?! 僕もだよ」
「三蔵もかよ!!」
笹竜胆黎明は首を傾げる。
「二人して驚いているがそんなにか? この班で三年も活動しているんだ。連携なんかを考えればそうバラバラになるとは思えないけど」
「どの衛戍府も疎かには出来ないから。そう言う意味で戦力均衡なんかを考えて班がバラバラになる事は良くあるらしいよ。噂程度の話だけど今年が特例なんじゃないかな?」
「そう言うものか」
三階菱三蔵の説明に納得した。将来の展望やら各々が弐字解放した事からの剣能の予測などで時間を潰していると小乃字小三治が帰ってきた。
「お疲れさん小三治」
「おう世成。二人も、待たせたな。俺は此の鎮護府で少尉人官だったぜ」
「オメーもか!! やったぜオイ。皆んな取り敢えずだが任地は鎮護府なんだよ」
「……マジか。ああ、まぁ良いや。心強いぜ」
世成 は一瞬だが周りに目を向けてから声を抑えて。
「小三治はどう見た?」
「際どかったんだろうな。だが、まぁ不安がる程じゃねぇだろ。俺達を育てる余裕はあったんだからよ」
「そうか。少し安心したぜ。さ! 明後日のパーティーの前にオッティモ行こうぜ!!」
世成の言葉で四人揃って教室を後にした。
「皆さんおめでとうございます」
扉を開けて穏やかに言うマスター。貸切のカフェー・オッティモに世成達の呼んだ同輩達を招く。軍服の野郎とめかしこんだ女性一同。
新たな剣衛達が急急と着席すればリナルド料理を並べてくマスター。
「マルゲリータピザだ!!」
世成が思わず言った。
「流石です世成君。
ピザはリナルド料理定番の一品ですがピザ自体がケーキに比べて火力が必要な上、特にこの古の王妃の名を冠したとされるピッツァ・マルゲリータ。このモッツァレッラと呼ばれるチーズの新鮮さが命で全くと言っていい程に出回りません。
よくご存知でしたね」
そう言いながらマスターはメッツァルーナと言う半月形の、二箇所の取っ手がついたナイフを所謂ピザカッターとして用いて分けていく。
「さ、召し上がれ」
意図せず「頂きます」と言う言葉が唱和されて手が伸びる。世成の舌でトマトの酸味とチーズのコクが混ざり濃厚に滑らか。バジルが清涼を残して無限に食えそうな程に単純明快で美味い。
額物の意であるコルニチョーネ。所謂ミミでさえ外はパリと言う小気味良い小さな音と共に麦が香ばしく迸り内は雲の様にモッチリとしていた。ミミまで美味いのだ。
年齢的にも良く食える歳。その上で彼等は軍人である。更に軍人の中でも剣衛と呼ばれる類。人数分に切り分けられた一枚で足りるわけがなく空の皿に手を伸ばしてしまう。
「まだまだお代わりはありますよ」
そこにマスターが次を。酒というかアルコールは万一の際の飲料である為に軍の授業で慣らされているが飲めない者が居るのでビールではなくコーラやサイダー。ビザを喰らい甘い炭酸飲料で流す。
全員が一枚は無理だが空きっ腹に心地良い重みが増した。それから黙々とマスターの腕に寄りをかけたリナルド料理を楽しむ。最後にティラミスとカフェラテを味わって漸く口を開いた。
「あぁ美味かった……」
世成は満足と言うよりも明瞭な感情を乗せて一息。ふと皆が思い思いにカフェラテを飲んでるのを見て、そう言えば飯を食うのに集中してて何も話してない事に気付く。思い出話も展望も聞いてないのでは味気ない。
「俺達は鎮護府勤めになったんだんけど青海波さん達はどうだった?」
そう言われた女性陣は驚く。
「私達も鎮護府勤務だよ」
青海波乙姫が言えば男性陣も吃驚だった。
「軍の維持。そのリソースを鎮護府で背負ってでも各府の規模を広げたいんだろう。それだけ人口も増えてる」
そう言ったのは非常に目つきの鋭い鷹乃羽鷂だった。青海波乙姫と同班で鷹の様な眼力の強い目と刺々しい髪の猛禽類的ワイルドな印象を受ける女性である。そんな彼女は最早ジャリジャリするだろう程に砂糖を入れたカフェラテに口をつけた。
鋭い目を閉じて吐息を漏らす姿は鷹と言うよりは脱力したちっこい梟の様である。マジで猛禽類かオマエ? って感じ。
「鷂の叔父さんの話?」
二頭波万里が問えばコクリと頷きまた口をつける。
「吏道室長のお墨付き、ね。良い事じゃない? 私達も気心の知れた相手が近くにいた方がやり易いわ。
それに、此処にも来やすいし」
そう言ってティラミスに舌鼓を打った。
「それは嬉しいお言葉ですね」
そう言ってマスターは小さなコーヒーカップを並べた。食後酒ならぬ食後コーヒーの非常に濃いエスプレッソだ。
「そんじゃ、互いの無事を祈って」
世成が言って揃って飲み干しお開きとなった。
今回の連続投稿はここまでです。ご覧頂き有難うございました。暇つぶしにでもなれていれば幸いです。




