パンチパンチ えいえい 怒った?
「討伐開始じゃあ!!」
違幣大瀑斎忠剛の号令に従い世成は刀を抜いた。
眼前にはキシュァ……と唾液的な何かを垂らし身体をギチギチ言わせるクソデカダンゴムシ。
一回身をブルリと震わせて足先のグレイ型宇宙人の顔面を人に寄せた様な。爪の顔にある口の様な部分がグパァと開いて目玉がギョロギョロ動く。そしてケキャキャャキャと怖気立つ様な嘲笑に似た声を響かせれば傷が塞がっていく。
凄いキショかった。武者震いでは無く嫌悪に震える。もうダンゴムシ嫌いになりそうだった。
「関節を狙え!!」
立葵班長の言葉の返答する前に世成は指を二本掬い上げる様に上にあげた。小隊の前面に波の様な形で土の壁が競りあがりジュァ……と音をたてる。溶解液である。
「助かった。爪の顔の口からも出る。気を付けろ!! 戦闘開始!!」
立葵班長が改めて言い輪入道に向かってくる輪入道に向かって前進し世成達もそれに続く。そして巨体であるが故に転がっていなくても速い怪物の足元へ。無茶な話だが一般的な剣刀士では足くらいにしかダメージを与えられないのだ。
最大の弱点は腹だが腹を狙うと丸まるし、その時に巻き込まれてミンチになる。7㍍のダンゴムシの腹に圧殺されるとかイヤすぎる死に方。だからセオリー通りに駆け寄って切り掛かる。
だがウゾウゾ蠢く爪の顔の目からはビーム的な何かが発射され、着地を狙った溶解液が迫り行術で防ぎこそしたが責められない。
「これ無茶じゃ無いぁっブネ?!」
溶解液を防いだ世成が叫ぶ。別小隊を追う輪入道と並走する形で攻撃を入れようとするが足の動きが早過ぎた。実際に追撃ビームが降ってきて慌てて避け。
「うお! せめて、動きを、止めねぇと!!」
「それが出来りゃ苦労しねぇだろ!!」
「だよな!!」
小乃字小三治にド正論で返された。世成は打開策はないかと考えながら。
「クッソ捕物もこのデカさだとなぁ! 班長は輪入道討伐の経験は御座いますか!」
「あるけど3メートルくらいだったね! こんなに硬くも早くも無いし!」
全く与えられていない訳ではない。だがどれもこれも浅いのだ。そのせいで徒労感が余りにも酷い。
ただ輪入道の方も鬱陶しさは感じる様で足で薙ぎ払ったり身体で押し潰すなど身体も使い始めた。
おかげで近付けない状況にさえなる。ハッキリ言ってこの状況が続いても倒せない事はない。だが被害と時間を考えると難しい状況。
《待たせたのう》
違幣大瀑斎忠剛からの通信。彼は6年前の大規模祓滅作戦で片足を失い一線を退いた多くの軍人の一人である。個人で言えば足を失った事で戦闘能力の半分を喪失した。
だが同時に全く戦えなくなった訳では無いのだ。義足を換装し杭のような其れを地面に突き刺す。
「殴術噴拳」
握っていた刀が消え代わりに唯でさえ剛腕と評するべき腕が鉄の籠手に覆われ正拳突きの構え。
「此方に誘導せい。スゥ……」
即座にバイクの音が聞こえ其れを追う輪入道の音が塗り潰す。違幣大瀑斎忠剛の左右をバイクが抜けていった。鉄籠手が赤熱化して煙を出す。
「……ッフ」
輪入道が直撃するのと合わせて突き出された拳は赤熱を杭の様に射出させ妖の鉄のような殻を穿って大穴を貫通させる。
慣性のまま転がり一度大穴の中に違幣大瀑斎忠剛を隠すがそのまま転がり過ぎ去れば、反動でダメになった義足が外れ片足一本で立ち両腕の籠手から煙を漂わせる古豪の姿。
輪入道はそのまま進んで大木にぶつかり一度ビクリと蠢いてから丸まったまま動きを止める。
「7メートル級とは言え、老いたものよ」
輪入道を見るでも無く己の掌を見て違幣大瀑斎忠剛は溜息を漏らした。
「連隊長より全隊に通達!! 今、輪入道を滅した!! 撤収し索敵警戒体制に戻れ!!」
輪入道討伐から3日後。世成達は小隊で動いていた。小隊長は砲兵出身の筒乃守丸曹長である。
「良し此処だ。工兵さん、剣衛さん。頼めるかい?」
そんな筒乃守丸曹長が言えば世成達は敬礼してから工具を手に陣地を作る。
砲撃支援護衛に関しては砲兵は絶対であり、陣営陣地構築においては工兵は絶対であり、戦場で死にたく無ければ整備兵に逆らってはいけない。
だから工兵の指示を受けて木を切り倒して道を増やして簡易な隠れ蓑や雨除けを作っていく。
「さて、御苦労様。じゃあ後は俺たちの仕事だな。砲兵以外は乗車待機」
筒乃守丸曹長が指示を出して大砲を設置する。偵察班から情報を受け取り試射を行って弾道と着弾地点の確認。キルゾーンならぬ誘引地を形成した。
大砲は衝撃と音と匂いによる妖の誘引及び間隙の形成が目的だ。砲撃は祓滅において火力で行術に劣るものの音と匂いによる誘引効果で勝る。
また剣衛兵士を逃す囮として大砲を置いておき叩き壊されても後で回収すれば良い為、剣衛兵士一人を育てるコストに比べれば端金に他ならない。
それが砲兵部隊が無くならない主たる理由である。
《中隊長より砲兵小隊に告ぐ。輪入道牽引中》
「砲兵小隊了解。小隊麾下エンジンかけよ。耳塞ぎ発射逃走準備」
それから息を潜める様な小さく唸るエンジンの音と草木が風に揺れる騒めきだけが場を支配した。
《砲撃要請ぇーーーーー!!》
「ってェッ!!!」
紐が引っ張られ爆音。それを合図に砲兵はトラックへ駆け込み立葵班長と小乃字小三治に三階菱三蔵が先導して進む。兵達のトラックがそれに続いた。
トラックが退路を進めば世成と笹竜胆黎明が刀を振るって巨木を二つ倒しバイクのハンドルを捻り追従。
入れ替わる様に木が倒れて退路を隠して三匹の輪入道が唯一残された大砲に向かって転がってきた。
「小隊長、三匹釣れました!!!」
世成が関知したままを通信機を使って言えば通信に乗って《おぉ》と嬉しそうな声が聞こえた。
《そりゃ本当か訓練生! こりゃ大漁だ! 小隊喜べ!! 群れの分断に成功したぞ! 後は剣衛小隊に任せて引く!!》
で、更に3日後。
「オラァ!!!」
三階菱三蔵見た目に相応しいドスの効いた厳しい声と共にバイクの勢いと図体に任せて刀を振るう。それによって漸く輪入道の足の一本が斬り飛ばされた。
輪入道は「キシァ……」と怖気立つ鳴き声と共に身体をギチギチ言わせて丸め転がる。
「クッソ!!」
小乃字小三治が予想通りの行動に悪態をつき。
「そっち行ったぞ!! 頼むぜ!!」
「任せてくれ先生」
笹竜胆黎明が上段の構え。丸まって直径3㍍はあろう輪入道に目掛けて。
「キィエエエエエエエエアアアアア!!!」
一刀叩き落とした。その刃は鋼の様な輪入道の殻を真正面から捉え縦断。行術を準備していた世成は唖然。
「いや大分ダメージ重なってたとは言え。切っちゃったよ。輪入道を」
笹竜胆黎明がドヤ顔で眼鏡をクイってした。ちょっと腹たつ顔だがそれだけの事をしたのである。実際に世成以外もギョッとしてた。
立葵班長が感嘆して溜息を漏らし。
「座学の方は分からないけど准尉にはなれそうだね」
その言葉に笹竜胆黎明はドヤ顔を深めて眼鏡をクイ。
「掛け算は余裕ですよ」
「え、ああ、うん。……そっか」
世成 は立葵班長が余りにも困っていたので思わず。
「班長困らすなよ似非メガネ。いい加減に通信機の設定覚えろ。あと各種報告書の書き方」
「……似非メガネ言うな」
燥いだ子供が握ってたお気に入りのオモチャ壊したみたいな空気になった笹竜胆黎明 に立葵班長は苦笑いを浮かべて。
「まぁその強さなら肆字解放はすぐなんじゃないかな」
「准尉って肆字解放と何でしたっけ」
笹竜胆黎明 がマジで聞いてきたので立葵班長は若干不安に思ってしまった。小乃字小三治が刀を収めながら。
「剣衛准尉は肆字解放と推薦状。それと解放後3回の異形化滅妖作戦成功か、解放後10回以上の祓滅妖作戦参加だ。基本はこの二つだって習ったろ?」
「そうなのか先生」
「いや……覚えとけって。准官の制度は悪い事いわねぇから、ほんと覚えとけ」
「う、うん。そうしよう」
小乃字小三治は凄く念押しした。准官と言うのは笹竜胆黎明 の辿る道の可能性が非常に高い昇進過程であるからだ。基本的に少尉以上の者は戦闘技能だけではなく人事や物資などの管理業務も付随する。
酷い極論を言えば兵士は体育だけで良いが将官になると五教科も必要になるのだ。
そして剣衛には剣衛准尉、剣衛准佐、剣衛准将と言うものがある。世成 のいた元の世界では准尉と准将はあったが説明が面倒なので省略。
早い話がメチャクチャ強いから戦場で生き残る可能性が高く、また何度も生き残った経験があり、何より味方を生き残らせる能力のある者に対して贈られる地位だ。
平時は兵と同じ立場であくまで指揮下あるが戦時での特に緊急時。上層部や指揮官が指揮不可能な状況で指揮官として率いるべき階級者が居ない状況に限り、准尉であれば少尉、准佐であれば少佐、准将であれば少将として指揮を代行する役職である。
スッゲェ雑に言うと管理業務は任せられないけど(戦闘)技術と(戦闘)経験がバカ高い者が任命される緊急時代理指揮権を有する地位であった。
「小三治の言う通りだな。黎明が先ず目指すのは准尉だろ? 管理業務なんぞより刀振ってたいって何時も言ってるしな」
世成 が笑って言えば笹竜胆黎明 は大真面目に。
「ああ。得手不得手はあるからね。飛鶴に言われるのは癪だけどその通りさ。そうか、准尉を目指せば良いんだな……」
候補生達は戦場であるのに少々感慨に耽ってしまった。この訓練の後に筆記試験を受けた上で配属希望を聞かれる。要は3年間を過ごした剣衛祓滅兵学を卒業するのだ。
だが乾いた拍手。パンパンという音。立葵班長が苦笑いで。
「気持ちは分かるけど此処でソレは死ぬよ。衛戍府に帰るまでは気を抜かない事。基本中の基本だろ?」
「は! 忠告感謝いたします」
「はは、さ、解体を急ごう」
そうして世成達は実地試験を危なげなく終え、尉官試験の筆記試験を受ける事になる。




