ガスバスダスでバクダス……レンジャー!!
もす……もす……。擬音表現と言うよりは、そういう効果音をつけたくなる様な絵面。
魚肉以外の食事の凡そ半数は大半が合成品だが肉には敢えて合成と表記されて売られる。それは水中生物の様に変化が少なかったわけでは無い。実際に食べる肉というものが残っているからだ。
味は割と良い。事もある。運だ。当たりを引くと今の時代で食べた事のある人間は居ないが大味を通り越した味と極めて筋張った様な硬い海老や蟹の身に近いと鏡台所管の電子記憶基盤。通称、古文書には書いてある。
言ってしまえば肥大化した昆虫系妖が肉として売られる事があるのだ。獣系の妖は倒すのが難しいが肥大化最初期の妖なら何とか倒せる事が無い事も無い。そう言ったものを緊急の事態やタンパク質を必要とした外層の者達が売買する事があった。
同時に尉官候補生は最悪の場合に備えてそれらを調理し食べる経験も必要である。
「つってもキツイって」
世成が数十㍍の木々が生える大森林中の野営キャンプで、外骨格を剥いたバッタっぽい妖の足をフライドチキンの様に握り食べ、極めてゲンナリとした顔で言う。
まだ前の世界にいた頃に昆虫食のニュースを見て「海老とかの養殖で良くね? 何でよりによって虫?」と一瞥した記憶はあるがこんな目に遭うとは思わなかった。
幸いなのは尉官候補生や一部の尉官候補者は全員が葬式みたいな顔で食ってい事だ。要はそれだけコレを食べるのは日常茶飯事では無いと言う証明なのだから。
「あー……懐かしい。この糸食ってるみてぇな食感。糸の方が貴重だったけど……」
小乃字小三治が遠い目をして噛み締めている。三階菱三蔵も嫌そうにだが食べていた。せめて団子など加工できればまだしも生存技術と言う要はサバイバル訓練ではそうもいかない。
尚、何気に普通に食ってるのは笹竜胆黎明と青海波乙姫だったりする。前者は貴族として感情を表に出さない事くらいは偶にだけど出来るのだ。そして後者は、すごいね。
「尉官訓練生になってからは碌に行けてねぇしコレ終わったらオッティモ行こうぜ」
世成が辟易と言えば分隊の凡そ半数が頷いた。青海波乙姫はすごく嬉しそうに「わぁい!」って言ってる。今は尉官試験の一つである実地試験の最中である。
少尉候補である小候の受ける実技試験は状況により変わるが今年は第三衛戍府への増援だった。第三衛戍府に到着の後に通常の見回り範囲の外に当たる生存圏外へ衛戍府精兵と同道して山狩り作戦である。当然だが物資補給はほぼ無くサバイバルの必要も出る過酷な作戦だ。
祝勝会という意味でも息抜きという意味でも良いが楽しみの一つでも重い浮かべなければやってられない。
「あ、待った。あー、ペリック・ペリカンズ言語教官は話せりゃあ最悪許してくれるし何とかなるか?」
頷いていたメンバーのうち小乃字小三治がハッとして言い、視線を向けてわれた笹竜胆黎明は頷く。
「大丈夫だ先生。教官とは仲も良いしね。リバティの人とは昔から付き合いがあるし喋るだけならギリギリ何とかなる」
話し終えれば世成は頷きバッタの足を食いきって。
「そろそろか……」
世成がそう言って立ち上がると共に食事を取っていた他の者達も時間である事に気付いて立ち上がる。
それは剣衛尉官候補生と剣衛尉官候補者を合わせた剣衛小候20名で構成された分隊規模の人員。シオシオの顔で続くのは二頭波万里の班と尉官候補生のもう一班。
あとの二班は尉官候補者で要は軍歴を積んだ上で少尉候補となった者達。社会人になら専門学校生と主任、学生であれば親より僅かに若い相手とバイトするノリだろうか。
「ああ、一班。いや皆んなだ。いいかい?」
移動中に年長者集団の一人が言う。一番近くに居た為に世成が敬礼した。自分の班も班長でもあったからだ。
「は! 立葵班長殿」
「もう少し気楽で良いよ。自分は硬いの苦手だから。あ、その方がやりにくいかな。ま、楽に行こう。楽に」
30前後の年齢で死んだ様な目。半分長髪半分五厘の独特な髪型。体型は細身である。更に小柄であるが立ち姿に隙が無い。業物と曹長の階級章。
任務の合間に聞いた話では五度の滅妖作戦に従事の上で一度は滅妖を果たしていると随分と慎ましく言っていた。
「尉官候補試験中に気楽なものだな」
立葵班長だけでなく全員がビクッと肩を震わせ即座に敬礼。
「大瀑斎連隊長!! 失礼いたしました!!」
違幣大瀑斎忠剛へ立葵班長がガチガチの敬礼のままに言う。と言うか全員が石像のように固まって敬礼してた。
「構わん。むしろ褒めておるわ。戦場で常に気を張る事は不可能。規律を乱すのならば鉄拳をくれてやるところだがな。適度な弛緩は必要よ」
それだけ言って。
「さて立葵班長が言おうとしていた様だが妖が発見された。種別は機動力の高い輪入道の可能性が高い。これは最低でも補足しておかねば極めて危険だ。
故に貴官等の小隊は剣衛のみ抽出し、儂が直下とする三小隊構成の中隊の一隊とし先行。剣衛を集めた中隊で推定輪入道を発見監視し可能であればこれを討つ」
全員が敬礼する。
「これには同練度の剣衛中隊二部隊を交代要員兼補助として指揮下に入れる。また砲列陣地の構成と砲兵護衛中隊を展開の予定だ。輪入道か確認の上でその場で排除可能となれば砲撃を用いて誘引し撃滅する」
要は、だ。
妖を探し出して倒せるか判断。倒せそうなら砲撃地点まで誘因の上で砲撃を喰らわせる。そうすると妖は大砲陣地に向かってくるから皆んなでタコ殴りという事。
クソみたいな森の中から引き摺り出して比較的マシな森の中に連れてきてブッコロそうって話。
ドゥルルルルルと38式二輪車黒鉄が大森林の中を進む。その中の一台を操る世成が通信機に手を当てて。
「感有り! 10時方向! 1.5キロメートル先地面! 11時方向へ進行中!」
《班長了解。連隊長に報告。班員が敵関知。10時方向! 1.5キロメートル先地面。11時方向進行中》
《連隊長了解。中隊に命令。速度上げよ。目視可能範囲まで急ぐ》
バイクの群れが畝る根を避けて潜って速度を上げた。
《輪入道を関知。全員反転せよ》
「反転了解」
違幣大瀑斎忠剛 の通信が聞こえ立葵班長が答えれば全員が来た道へバイクを向ける。
「飛鶴尉官候補生、大きさは分かるかい?」
「は! 凡そ7㍍程の個体です立葵班長!」
「随分おっきいなぁ……」
目視は出来ていないが大森林の中に轟音が永遠と流れていた。余りに重い殴りつける様な音と木を破砕する様な音が不規則に続く。既に世成の感覚では5㍍程のバカでけぇタイヤが樹々を破砕しながら進んでいるのがわかる。
輪入道は推定ダンゴムシ的な何かが妖化した物だ。ただ丸まった状態だと遠目には超大型ダンプトラックのタイヤの様な形になる。しかもそれは鋼の装甲の様な質感で鎧を重ねた様な作りだ。
教科書では大抵は脚部が異形化しており肥大化した人の足の様な形状で、爪の部分が顔の様であり丸まると七つの歪な顔が円を描く、控えめに言ってゲロクソきしょきしょモンスターであった。
「連隊長より直下中隊へ通達。輪入道を確認しに行く。立葵班は続け。また中結班と祇園守班は周辺警戒を」
違幣大瀑斎忠剛の命令が静かに行き渡たりバイクの横に立っていた剣衛達が消えた。そうして即座に枝の上に飛び跳ねた彼らは輪入道のいる地点へ枝を蹴って進む。
すると激しい爆音が更に大きくなっていき衝撃まで伝わってくる。更に進めば大森林の巨大な木々を薙ぎ倒して、一条の跡のみを残しながらタイヤの化け物が我が物顔で走っていた。そんな輪入道を見た違幣大瀑斎忠剛は顔を顰めて。
「きもちわる……」
ジジイまじ凄い嫌そうに言う。確かにキモかった。と言うか皆んなキモいと思ってる。でも今じゃ無くね? とは誰もが思った。
「アレは倒せそうだからでは無く倒さねばならんな。大きさも速度も衛戍府の方に来ては洒落にならんぞ」
そんな空気を無視して敢えて聞こえるように言う。既に過ぎ去っていったゲロクソきしょきしょモンスターは元より特に討伐の必要の高い妖であった。陸上なら何処でも転がり数が増えると衛戍府に突っ込んでくる個体が出てくるのだ。
故に尉官訓練として衛戍府の戦力を増強した上で、サバイバルの真似事を行いながら遠方に出向き、定期的な間引きをしなければならない厄介な存在。
そんなのの特段にデカい個体を発見して仕舞えば討ち取らざる終えない。
「連隊長より全隊に通達。7㍍級輪入道を発見。撃滅の必要有り。陣地準備は」
《陣地設営終了》
「了解。これより誘引作戦を行う。直下中隊はバイクまで戻れ。補助中隊も同じくだ。事前説明通り誘引を開始する」
バイクの元まで戻った中隊は違幣大瀑斎忠剛以外がバイクに跨る。連隊長たる老軍人は静かに唸るバイクの音を静かに掻き消す重い声で。
「連隊長より全軍に通達。戦術級行術を行使する」
剛腕の先の掌の上に水が渦を作って集まる。
「行術発動。数形三線」
ゴ、と渦の中心の水球が膨張して三つに分かれて違幣大瀑斎忠剛の周りに三つ。頭と双肩の上で球の形状のまま内に吸い込まれる様に。
「発つ」
音が消え三つの柱が発生する。水であるがまるで水晶の様に透明なソレ。大森林の巨木達を飲み込むばかりの巨大さで削り抉って進んで行く。
「誘引開始!!」
こうして鬼ごっこが始まった。即座に輪入道が迫る。三つの水柱が削った大森林の奥から迫る鉄のタイヤ。地響きに混ぜて十四の嘲笑に似た音が迫る。
行術の攻撃によって小隊単位で入れ替わり立ち替わり牽引役を引き受けて縦横無尽。幹と根っこを縫う様にバイクを走らせて目的地を目指す。その後ろを猛然と進む輪入道は全てを砕き潰して追った。
逃走を続けて1時間ほど。地盤沈下によって断崖となった地点が見えてきた。剣刀士や工兵によって邪魔な木は軒並み撤去され断崖の前は広場の様。
「やっと着いた!! 超コエェんだけど!!」
囮役を務めていた小隊の心情を世成が代弁、いや思いっきり絶叫しながらその広場へ。速度を上げに上げてギリギリのところでハンドルを切りドリフトの様に滑って停車し輪入道を見る。巨木をボーリングのピンの様に弾いて現れたソレ。
「退避!!!」
違幣大瀑斎忠剛の号令に待ってましたと言わんばかりバイクが唸り脇目も降らず前進。そのバイクのあった場所を通り過ぎ断崖に鉄のタイヤが追突。即座に連隊長として。
「撃て」
三方向から届く鈍く重い音。砲弾の雨が輪入道に降り注いだ。轟音と衝撃が天地を揺らすが無傷。しかしすかさず。
「連隊長より全軍に通達。戦術級行術を行使する。土行。行術発動。数形三壁。発つ」
違幣大瀑斎忠剛が言うと断崖程では無いにせよ高い土壁が三つ競りあがり囲う。
更に。
「雷行。行術発動。数形一槍。発つ」
雷の槍が貫いた。輪入道は丸まっていた体を伸ばして違幣大瀑斎忠剛の方へ顔を向ける。威嚇なのか何なのかギチギチと音をたてた。
「討伐開始じゃあ!!」
違幣大瀑斎忠剛が大地に仁王立ち命令を下した。




