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ガチ強ジジイ

「ハァ、ハァ、ハァ……」


 喘鳴が漏れる。世成(せな)はヒリヒリと痛み灼熱に炙られたようだ。実際に体温は上がり筋肉という筋肉が熱を持って痛みを増やしている。伝う雨と汗が鬱陶しいが拭う余裕さえありはしない。ただただ走った。

 木々の、いや根っこの間に滑り込む。蛸壺と呼ばれる即席の穴。泥臭く足元には水。


「もう無理。普通に無理。うんこ!」

「あ?! ウンコしたいなら外行けバカ!!」


 蛸壺の壁に沿ってぐったりと休憩していた小乃字(しょうのじ)小三治(こさんじ)が起き上がって言った。


「ああ、すまん。イライラして、ハァ、言っただけ」

「あ? ったく……外は?」

「無理だな。ありゃ雨でどうしようもない。増水しすぎて普通に死ねるわ。避難訓練って名前止めるべきだろ」

「同感だな。司令部壊滅演習って渾名の方が正鵠を得てやがる。キッツいぜ」


 世成(せな)小乃字(しょうのじ)小三治(こさんじ)が地図を見た。今回の演習は妖の攻撃によって司令部が全滅した想定の状況演習。初めて事なので鎮護府までの距離は短いがバイクでも数日はかかる。

 現在は撤退開始判断を下し妖役の教官から逃げて戦場を離れたところ。一時的な小休止を取るが川向こうに別部隊が居た筈の場所である事が判明。世成(せな)達は合流または回収が可能かの判断を要する状況だった。


「僕でも無理かい?」


 笹竜胆(ささりんどう)黎明(れいめい)が溜息か深呼吸か、眼鏡をクイってしながら問うてきて世成(せな)は首を横に振る。


「まぁ個人で行くまでは難しくない。ただ帰って来るのはおそらく無理だろうな。増水の仕方がハンパなくて寧ろ酷くなりそうだ。

 距離を考えりゃあバイクが通れなきゃ合流もクソもない。負傷者なんかがいりゃあもう如何しようもねぇ感じだったよ。

 俺も確認くらいはしたいが特に黎明には戦力的に体力は温存しておいて貰わねぇと困る。まぁ気分は良くないが向こうにも剣衛がいる筈だから信じよう」

「……そうか」


 司令部壊滅に加え戦闘と豪雨による通信機の破損が理由の通信途絶。そう言う状況でなければやりようがあったが無理な物は無理。

 寧ろ状況通達が出来ない事態となれば早急な撤退をした上で上層部への情報伝達が重要だった。増援を送るか偵察隊を送るか何にせよ先ず判断を下す為の情報が無ければ判断を下せない。指示を出す側が暗中模索で感情任せに動くなどあってはならない事である。

 だからこそ兵達は情報を持って帰って知らせるのが重要。生き残らせたければ見捨てるのが正解だった。


「なぁ小三治。俺は川に沿うような形で上流に行こうと思うんだが。どのみち渡河は必要だし上流なら渡れる可能性もあるだろ?」

「そうだな。ウチの班は黎明がいる。最終偵察情報じゃ少し危ねぇって話だが(妖役)との戦闘も多少は可能だろ」

「任せてくれ先生」


 世成(せな)は頷いて。


「三蔵は如何思う?」


 問われれば三階菱(さんかいびし)三蔵(さんぞう)も厳しい顔を一度外に向けてから頷いて。


「少し雨が気になるけど良いと思う。たぶん他の班や部隊もそうすると思うよ。なにせ渡河の必要性も、バイクが生命線なのも変わらないから」

「よし! じゃあ改めて川に沿って移動。途上で他班および部隊と合流した場合は合流。進めるだけ進んで大休止は出来れば渡河後、無理なら上流で取ろう。

 ただ三蔵の言う通りこの雨だからな。スリップだけ気を付けねぇとな」


 世成(せな)の言葉に三人は頷いて蛸壺から出てバイクに乗った。時にはバイクを背負い根っこや段差を登り進んでいく。豪雨の勢いは増すばかりであった。


「洒落にならねぇな……大休、ん。別部隊が居たぞ!! 合流する!!」


 豪雨が激しくなった為に大休止の判断を下そうとしたが世成(せな)は気配を感じ取る。


「合流、了解!!」


 世成(せな)に続いてた三階菱(さんかいびし)三蔵(さんぞう)返答した。


世成(せな)くん!」


 向こうの部隊から声。


青海波(せいがいは)さんか! おんなじ方向に逃げてたんだな。状況は?」

杏葉(ぎょうよう)ちゃんの班と合流してから、ここで砲兵分隊と合流したんだけど軽傷者(負傷者役)がいるの」

「ああ、そりゃあ仕方ねぇ。俺らは渡河するために上流に向かってる途中だ。大休止を取って飯にするつもりなんだけど合流と打ち合わせしない?」

「うん。そうだね。こっち。杏葉(ぎょうよう)ちゃん! 万里(ばんり) ちゃん! 世成(せな)くんの班だったよ! 四目結(よつめゆい)分隊長!」


 青海波(せいがいは)乙姫(おとひめ)が雨に負けないように大きく手を振ればザ・委員長な杏葉(ぎょうよう)二頭波(にとうなみ)万里(ばんり)、更に砲兵候補生だろう同世代だろう四目結(よつめゆい)と呼ばれた男性が寄ってくる。

 全員が敬礼してからザ・委員長な杏葉(ぎょうよう)が。


「飛鶴くん。状況は?」


 世成(せな)も答礼し。


「通信途絶。つーか通信機破損(そう言う想定)で撤退を急いでた感じ。俺らは飯を食おうと思うんだけど」

「私達もそうするわ。どう? 二頭波(にとうなみ)さんと四目結(よつめゆい)分隊長は構いませんか?」

「構わないよ。私らもお腹が空いてたところだから。言ってくれて助かったね」

「私もです。怪我人役の奴も拘束がキツくて辛そうだ。そろそろ休ませてやりたくて具申する積りでした」


 世成(せな)は頷き。


「じゃあ見張と負傷者の対応をよろしく。蛸壺は俺らが。四目結(よつめゆい)分隊長、負傷者は?」

「軽傷で歩けないだです。まぁトラックは無いので私達自体が足手纏いなのですが。申し訳ないがこんな場所(森林)じゃあ如何しようもない」

「そりゃあしゃーないですよ。じゃあ2ケツ(二人乗り)……いや、妖が出た場合が不味いか? もう一班剣衛がいればな……。

 しゃあねぇ。剣衛はダッシュだ。速度は落ちるけどまぁ何とか。それと通信ができるんなら杏葉(ぎょうよう)さんが指揮を取ってくれないか?

 あとは戦闘になった時用に黎明には体力を残しておいて貰いたいから女子班で3台出して欲しいんだけど」

「いや、それなら一班で2台づつにした方が良くないかい?」


 二頭波(にとうなみ)万里(ばんり)が言えば杏葉(ぎょうよう)も頷き。


「そうですね。それに無理を言いますが指揮もできれば飛鶴くんに取って貰いたです。探知範囲も広いし私より実績があるもの」

「分かった。四目結(よつめゆい)分隊長は構いませんか?」

「お願いします」

二頭波(にとうなみ)さんは?」

「意義ないね」

「分かりました。撤退統合小隊指揮を引き受けます。じゃあ事前相談の通りに剣衛は見張を出してください。ただ余裕のある人を両班一人出して貰います。砲兵分隊の方々は負傷者対応を」

「こっちも蛸壺の制作を手伝おうと思うのですが」

「ありがとう御座います。では負傷者の移動や最低限の警戒の為に六人ほど出せますか?」

「分かりました」

「じゃあ状況開始」


 世成(せな)の命令に従い三人が応じて動き出した。世成(せな)は負傷者砲兵から通信機を借り受ける。蛸壺の外に陣取って缶詰からそのまま味噌漬けを食べて出発。

 剣衛の身体能力であればバイクよりも速度は出る。だが当然それは馬とチーターを比べる様な話、時給的にはバイクに乗るべきで瞬間的な話で長続きはしない。故にトラックと言う足の無くなった砲兵にはバイクを貸して剣衛は走った。

 だがその甲斐あってか渡河が可能そうな地点を発見する。世成(せな)は一旦地勢を見て気配を探り。


「感有り!! 五時方向!! 1キロメートル先地面!! 防御!!!」


 遠くでカッと光った。世成(せな)は慌てて行術を発動させる。置楯行術と呼ばれる防御系統の行術の一つ。ゴっと周囲の木々から木柱が世成(せな)の前で伸びる。更にそれが左右に広がった。まるで木そのものが波の様に競り上がっていく。城壁と見紛う。

 その壁が自分達の頭を少し過ぎたと同時に光と熱が覆った。土の壁に熱光の屋根の下で思わず。


「あ、ぶねぇ」


 思わず無用な言葉が出たが直ぐに。


「黎明!!!」

「分かった!!!」


 世成(せな)に応えて笹竜胆(ささりんどう)黎明(れいめい)が前に。


「水行」


 一方で世成(せな)は手に水球を発生させ。


「行術発動!! 数形一線!! 発つ!!」


 世成(せな) の突き出した掌の先から笹竜胆(ささりんどう)黎明(れいめい)の僅か横を過ぎ先程の攻撃以上の水柱が進んでいく。枝も幹も易く削るソレをそのまま世成(せな) は通信機に手を被せ。


「三蔵は怪我人の運搬!! 小三治はその護衛だ!! 指揮権は杏葉(ぎょうよう)さんに委譲!! 俺と黎明が引き付ける!!」

「了解!! 総員即座に戦場を離脱!!」


 世成(せな) は刀を抜き走る。


「さて、直ぐに行ってくれたから良いが。俺らがどれだけ持つか」


 迫る行術を防ぎ避けながら進めば直ぐに笹竜胆(ささりんどう)黎明(れいめい)が行術の合間を縫って刀を振るっている光景が目に入る。だが即座にバキバキの剛腕で殴り叩きつけられた。ヌっと山の様な体躯が立ち獣の様な笑み。


「ほぅ……たった二人で此の違幣(ちがいへい)大瀑斎だいばくさい忠剛(ただたけ)を足止めか」


 言うやいなや手を伸ばす事もなく周辺に火球。それは此の雨の中で行われて良い技術では無い。世成(せな) は思わず身構える。


「……」


 だが違幣(ちがいへい)大瀑斎だいばくさい忠剛(ただたけ)は動かない。


「いかん。しもうた。妖役なのに喋ってしもうた……」


 世成(せな) は不覚にも『これ答えた方がいいかな……』と僅かに動きを止めてしまった。それは隙であり戦場で最も忌むべき愚行、岩山の様なゴリゴリジジイが消え、豪腕を振りかぶって目の前に。


「拙……ゴヴォオオオオオ!!?」


 エグいボディブローが叩き込まれ直角にブチ飛び木の幹に叩き埋めつけられた。笹竜胆(ささりんどう)黎明(れいめい)の方は追撃を防ごうと進んではいるが着弾して広がる火球で間に合わない。気合いで目を開けた世成(せな) の目には二つの拳を組んで大きく振りかぶったジジイ。


「ッそガァッ!!!」


 咄嗟であった。体が埋まる根っこから飛び出す様に頭突き。ゴチっと激痛。


「ヌ」


 胸部に頭突きをくらい拳を外した。それだけの事。だが違幣(ちがいへい)大瀑斎だいばくさい忠剛(ただたけ)は笑う。流石は剣衛武功徽章を授けられた事はあると嬉しくなってしまった。喜びで力み義足がミシと音を立てる。


 世成(せな)はその音にハッとして行術を発動した。地面から生えた二つの石槍に貫かれて義足が砕け一本足で直立する違幣(ちがいへい)大瀑斎だいばくさい忠剛(ただたけ)。即座にその一本で大きく跳躍し後退。

 入れ替わる様に笹竜胆(ささりんどう)黎明(れいめい)が現れ上段の一太刀が降ってくる。それを見ながら非常に嬉しそうな笑顔で枝を掴み次の瞬間には消えていた。


「ハァァァァ……助かったぜ黎明。あーエッグぃ。何アレまじで」

「いや、僕の方こそ。思った以上に役立てなかった。すまない」

「いやいや。何謝ってんのお前。あんなん如何しようもねぇって。寧ろ良く俺が到着するまで持ったなって話だろ。

 そもそもンな事言ったら二人で足止めとかって選択がアホだったわ。全滅よりはって話になるが普通に散開しての逃走一択だったぜ。人面の事も考えりゃ余計にだ。

 ……つーか、アレで義足っておかしく無い? 妖より妖してるよ大瀑斎だいばくさい教官。砲弾みたいにブチ飛ばされたけど俺」

「まぁ剣豪じゃ無いから詳しくは無いけど五、六十年戦って来られ方だ。それに斎号を名乗れる方だしね。強くて当たり前さ。……行術での話だけど」

「いや体術だろって。グーだぞ? 戦い方」

「それはまぁ、うん。……あ」

「おお、晴れてきたな。ちょっと休もう。そっから合流」

「良いね。賛成だ。流石に疲れた」


 世成(せな)笹竜胆(ささりんどう)黎明(れいめい)は確りと休みを取って移動を開始し他部隊と合流の上で撤退を完遂。


 始めての避難訓練を終えた。

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