初ガチバトル
ロングノーズに丸い二つのライト。タイヤには非常に厚みがあり衛戍府や鎮護府の中央に大正ロマンと言う印象を覚えた世成の知見では違和感がない六輪トラック。タイヤなど細部を除けばパッと見で昭和頃の九四式六輪自動化車に似たそれが五台。
討鬼10年製の十式自動車。トラックであるが貨車ではなく車とされているのは荷台部分を取り替える事で汎用性と生産性を確保した為だ。と、言うかコレ以外の車は走ってないと言って良い。
2台は大砲を牽引し、1台はタンクと荷台、1台は普通のトラックだった。
「我等剣衛は三角を作り先陣を務める!! だが訓練兵である君達はトラックの後ろに追従すれば良い!! 警戒は怠るな!!」
雁金分隊長がバイクの横に並んだ訓練兵へ向かって声を張る。彼女の横には穏健そうな目尻でありながら古傷まみれの男が静かに立っていた。スラリとした出立ちだが力強さと存在感がある。
「小隊長殿!!」
雁金分隊長が身体を回転させ敬礼すれば古傷男は穏やかに頷いた。少尉の階級章と良業物の階級章が輝く。
「訓練兵諸君。剣衛の誇りを忘れるな。そして心してくれ。
後は、そうだな。死にたくなければ妻の指示に良く従う様に。また逃げる事は恥では無いが逃げ方を間違えるな。
危機こそ慎重に、だ。まぁ私達も直ぐに駆けつける。落ち着いていこう」
訓練兵達が答礼を返すと頷いてから自身のバイクへ跨がり通信機器の確認を行い。
「任務開始!!」
先頭のバイクの群れが進発し後を追うようにトラックが続いた。
「出発!!」
そして雁金分隊長の号令で20台のバイクが走り出す。1時間程かけて目的地に到着して訓練兵は警戒と回収に別れて行動を開始した。世成は第2班班長として回収作業だ。
「……色々違うけどポストアポカリプス? 的な光景ではあるんだなぁ」
この世界に唐突に攫われ苔むしたビルの森林を見た。自然に取り込まれたその光景に圧倒されたのが遠い昔のようだ。衛戍府に保護され大正ロマンなどと言う言葉が浮かんだ物だが今では日常である。
まぁナーロッパなどと言う語感の良い言葉も無いので実際は一般人が何となく漠然と思い浮かべる大正ロマン世界の様な光景。
そして世成はまた現代が自然に取り込まれた様な光景を目にしていた。それは壊滅した地方都市が苔や大木に飲み込まれた様な光景だ。
「さて、と。金属探せ金属。コレとかそれっぽいんだけどな」
まぁそれはそれとして班長として指示を出し作業を始める。世成は赤茶色に錆きった装輪車の残骸らしき物。作戦資料で特に改修を推奨されていた降光災害頃の兵器の一つに近寄った。
「黎明。息合わせて切るぞ」
「分かった」
二人は刀を抜く。見てくれだけなら軍刀を握った将校にも見えるだろう。腰を軽く下げて一振り。
「おら」
「ふっ」
二人が刀を軽く振って装甲を切っていき鉄板に。ある程度バラしてから皆でタイヤなども適宜運びやすい様に切った。それらをトラックへ運び込む。
「お」
「ん? どうした三蔵!」
「三五式十五糎牽引高射砲だ」
「マジ!? おーい!! 手ェ空いてるヤツ手伝ってくれ」
世成が手を振ればちょうど工兵と共にトラックへ赤錆まみれの砲身を積んでいた女の子が。
「あ、私手伝います!」
琥珀に似た綺麗な長髪に大きな目。背丈は普通の範疇だが少々高く、豊満という意味でスタイルが良い。正味、軍服を着て尚ベルトによって目のやり場に困る程度には。
そんな訓練兵が駆け寄ってきて世成は軽く手を上げる。同班に配属された子であり普通に話す程度の関係は築いた。
「青海波さん。助かるわ。これトラックの所まで運ぶから後ろから押してくんね?」
「分かりました飛鶴班長」
「有り難う。三蔵は一緒に引っ張ってくれ」
「任せてよ」
そんなこんなで鋼材やコンクリートなどを満載して最後に、見つけた亡骸から認識票を一枚取り集め穴を掘って埋葬する。
「南無三」
世成が班長として黙祷を捧げて弔いとした。祓滅作戦において戦友の為に死んだ先達達だ。また気を抜けばこうなるという訓練兵への戒めである。
それが終われば交代時間になり世成達は見張を始めた。高所にいた班と入れ替わり五人で背合わせの円陣を作り周辺警戒。
「で、さ。パスタ馬鹿ウメェのマジで。ありゃ一回食ってほしいね」
世成は周辺を睨み見ながら浪々と言葉を流す。現状は気配さえ感じない為に少々の弛緩した空気だ。ずっと緊張を続けるのは難しい。
青海波は非常に真面目に見張に取り組んでいたがちょっと涎垂れてた。
「凄く興味があります。班長、飛行場前の駅でしたね」
「そうそう。カフェオッティモ。洋食を美味いって思えるなら間違い無いよ。な? 黎明」
笹竜胆黎明は警戒中ゆえに頷きこそしなかったが心底同意して。
「ああ。違いない。相当な腕だよ」
四大貴族のお墨付きに青海波は絶対に行くと決心した。時間を潰しつつ大型化した妖などの報告を行なっていたが。
「あ?」
世成の感覚に大きな気配。立ち上がり腰の通信機に手を添える。
「第五地点監視部隊より報告! 感有り! 方向四時! 接近中! 以上!」
『報告了解。直ぐに向かう。以上』
世成の目が動く物を捉えた。
「抜刀!!」
四人全員が刀を抜き立ち上がる。世成はまた報告した。
「第五地点監視部隊より再度報告! 形態は異形化! 繰り返す! 形態は異形化! 分類は人面!!」
『なに?! 報告了解!! 訓練兵は撤収準備だ!! 逃げれそうなら逃げろ!! 剣衛、は第五地点へ急げ!!』
建物を薙ぎ倒しながら走ってくるのは狛犬の様にも見える人面の獣。マスカレードの仮面の様な目元に裂けた口を持ち立髪は渦巻く様だった。肩から伸びて地を支える前足は人の腕の様な形状をしている。マントの様な尾を伸ばし一直線に向かってきていた。
仮面の様な顔の奥。紅い水晶の様な目が世成達に向けられている。悲鳴と喉を鳴らす音。
『此方、砲兵!! 誘引射撃の指示を!!』
『許可する!! 第五監視部隊!! 砲撃の後に雁金軍曹と合流しろ!!』
「第五監視部隊了解!」
ドゥンと遠くから腹底に響く音。砲弾が放物線を描いて妖の肩に着弾。音と煙のある方を睨む妖。
見れば大砲を放置して剣衛のいる方へトラックが走り出していた。
「退くぞ!!」
世成の絶叫で逃げ走る。
「待って世成! 第四監視班と合流しよう! その方が安全だ!」
同時に三階菱三蔵が背中に投げかけてきた。言われて気付くが少し向こうに杏葉が率いる第四監視班が見えた。
「そうだな! よく気付いたな!」
世成は言いながら通信機器に手を添えて。
「第四監視班! 此方第五監視班! 後ろを追従する!」
「第四監視班了解!」
遠くで妖との戦闘が始まったらしく斬撃やら何やらが轟音と咆哮の合間に立ち昇る。それから逃げる様に訓練兵は雁金分隊長の元に集合した。
「バイクに乗りなさい! 直ぐに撤退よ!」
バイクに跨った雁金分隊長がそう言って刀を抜く。
「羽王鎖王」
刀が消え雁金分隊長の周りに長い鎖が漂った。片方の先端に羽の様な刃が付いて逆の端には分銅。
「行くわよ!!」
ボォンとバイクを唸らせ剣衛が進発した。即座に集まった補給分隊や砲兵補給の訓練兵がトラック乗ったトラックが続く。そして世成はハッとし。
「分隊長!! 前!!」
「な……ッグ」
咄嗟であった。だが割り込む様に入ってきた妖にバイクが殴り払われる。雁金分隊長諸共だ。
「更にデカい。もう一匹……」
カロロロロ、と獣の唸り声の様な音、裂けた口から牙を覗かせ。
「黎明!! 三蔵!! 小三治!!」
世成に呼ばれた三人が共にバイクを降りる。
「悪いが一緒に時間稼ぎだ。杏葉さん!! 報告と撤退指揮を頼む!!」
「わ、分かったわ」
「さて……」
世成もバイクから降りて刀を抜いてたった。
「わ、私も!!」
青海波の声。世成は息を吐き。
「行くぞ!!」
世成は人面の前に走り出た。それと同時に走行音と報告の声。
人面が裂けた口をフクロウナギの様に開き青い炎を吐き広げてきた。飛び跳ね避けて顔に一太刀叩き込むが殴りつけられ飛ばされる。幸いな事に壁がありそれを一枚貫通して止まった。
ヒビ割れた壁から飛び上がり頭を振って。
「クソが!!」
怪我一つない。即座に穴から飛び出る。行術や突撃する事で牽制を行い笹竜胆黎明が斬撃を叩き込む。
「ギィアアアアアアアアアアアアアアア!!」
人の悲鳴の様な鳴き声と共に人面の仮面と横腹に走っていた斬撃跡がみるみる埋まっていく。
「飛鶴!! 僕と君しかダメージを与えられないぞ!! 三蔵は何とか受け止められる!!」
「分かった!! 三蔵!! 俺と一緒に奴の前で注意を引くぞ!! 小三治と|青海波さんは行術で牽制!! 黎明は切れるだけ切ってくれ!! 全員絶対に無茶すんなよ!!!」
全員が了解と返す。人面は前足を振り回し炎を吐いて纏わりつく様に動く三階菱三蔵を狙う。刀で受けて大柄な体躯で止める。
世成は即座に踏み込み飛んで空中で体諸共を回し背中を切り進む。放物線を描いて着地し即座に進めば背中に風圧。着地地点には人面の拳が突き刺さっていた。
人面は更なる追撃を放とうとして顔に水弾が二発。小乃字小三治と青海波の水行術。チラリと其方に赤水晶の目を向けて。
「ハアアアアアアアアアアアアアアア!!!」
その隙に笹竜胆黎明の渾身の一振りを横腹に受けた。
「ギィイイイイイイイイイイイイイイイ!!」
また不愉快な人の悲鳴の様な鳴き声。大きな斬撃跡がみるみる埋まっていく。
「クッソ千日手かよ!!」
小乃字小三治が叫んだ。外套の様な尾が振りまわされ、前腕を叩きつけられ、炎が広がり迸る。跳ね避け逸らして斬撃と行術で応じるが勢いは収まらない。世成も怒りが湧くのに似た感覚で酷く焦れていく自覚があった。
その焦れが僅かに連携をずらし間隙が出来て人面が急に走り出す。その先に偶々いたのは青海波。
「え?」
「拙い!!」
世成は咄嗟に駆けつけて前に立ち塞がるがギザギザの牙が生える巨大な口が大開口。
死。
ズララララっと音。そしてギャキっと。目を開ければ背中。
「ごめんなさい。遅くなったわね」
「軍曹!!」
雁金分隊長の鎖が地面から伸びて人面を縛っていた。
「長くは持たないわ。悪いのだけど手伝ってちょうだいね。せめて祓わないと」
「分かりました」
雁金分隊長の足止めが加わり、また鎖の刃が蜻蛉の様に飛び回って人面を切り裂く。ダメージは低いが着実に重ねていった。そして漸く人面に水の槍が降り注いだ。
「すまん!! 遅れた!!」
そして傷の増えた小隊長が降ってきた。刀の形状はそのままだが刀身が水となっている。人面が逃げようとするが雁金分隊長が身を縛り小隊長が刀を上段。
水の刃を巨大化させ振り下ろした。
連続更新はここ迄です。お読み頂き有難うございました。




