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灰色の段階  作者: 星野レイ
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Brilliant twilight

ベランダから戻って、冷凍庫から凍らせておいた食パンを2枚取り出してトースターに入れた。

食パンが焼きあがるのを待つ間、コーヒーを淹れることにした。

ミネは最近、師匠の影響でコーヒーに凝っているらしくて、この間、数種類のコーヒー豆と、小さなコーヒーメーカーを買ってきた。

ミネはいつもキリシマとかいう師匠の愚痴をこぼしてるけど、本当はキリシマに憧れてるんだと思う。

ぼくは台所に置きっぱなしになっているコーヒー豆袋を手に取った。

ガテマラ、という種類の豆が入っているらしい。

その袋にはマスキングテープが貼ってあり、マジックで朝用、と書いてある。

計量カップでその豆を図り、コーヒーメーカーに入れた。

コーヒーが低い唸り声のような音を上げた後、豆が粉砕されていった。

コーヒーの香ばしい匂いが部屋に漂いだすと、その匂いに反応したようにミネが目を覚まして起きてきた。

汗で前髪が額にべっとりと張り付いてしまっている。

「おはよう、アスカちゃん。あれ、コーヒー淹れてくれてるの?」

「うん、いつもミネに朝ごはん作ってもらってるから、たまには、ぼくがやろうと思って。」

ミネは、そんなこと気にしなくても良いのに、と言った後、ぼくに抱きついた。

甘い匂いが漂ってくる。その匂いはテーブルの上にある梨の皮からではなく、ミネの体から発せられる匂いだった。ミネはぼくの胸を触るのをやめ、Tシャツから手を出し、ぼくの腰に手を回した。

甘い匂いが漂ってくる。

その匂いはテーブルの上にある梨の皮からではなく、ミネの体から発せられる匂いだった。


テレビの中のアナウンサーが深刻そうな表情をして喋っている。

近年、人身事故の件数が増え続けています。鉄道会社への被害も大きく、一日たりともダイヤが乱れない日が無いと言った状況です。このダイヤの乱れによる鉄道会社への損害は年に数十億円とも言われております。

画面が切り替わり、数年前まで野球選手として活躍していた男がアップになった。

引退してからコメンテーターとして活動しているらしい。腕を組み、スカしたような顔をしている。

大体ね、こんなところで自殺をするような奴は、想像力が足りないんですよ。ここで自殺したら、ダイヤが乱れて大量の人に迷惑がかかるってことが想像できてないんです。そんな奴だから、会社とかでも上手く立ち回れずに、自殺なんかしちゃうとこまで自分を追い込んでしまうんだよ。最近、みんなスマホばっかりつついて、自分の世界に浸かっちゃう。だから、外の世界に対する想像力がないんですよ。これは、僕が現役だった頃から感じてることでね、入ってくる若い選手はみんな想像力が足りないと感じてたんですよ。

ミネが、パンに苺のジャムを塗りながら言った。

「今晩、写真家の人との食事会があるんだ。遅くなりそうだから、先に寝てていいからね。」

テレビの画面が、元野球選手のコメンテーターから、別の学者らしい女に切り替わった。

SNSが普及して、集団で生きていくことの美徳が消えて、個人の時代になったわけですよ。その弊害がこういうところに現れてるんだと思いますね。

「ぼくも、今日は夜遅くまでバンドのみんなとスタジオで練習して、明日は朝からリハなの。だから多分稽古場にある仮眠室で寝ることになると思う。」

そうなんだ、と言ってミネはジャムを塗るのをやめ、リモコンを手に取ってテレビを消した。

リモコンを置いたミネは、そうだ、と言って机の下に置いてある自分のカバンをゴソゴソと漁り、一枚の紙切れを取り出して、これ、と言ってぼくに手渡した。

その紙切れを見てぼくは驚いた。ぼくの明日のコンサートのチケットだった。

「私、アスカに内緒で最新シングルの初回盤買ったんだ。それに入ってるシリアルコードでチケットの最速先行に応募したら、当たったの。だから、明日の夜、見にいくからね。」

ミネは照れたように笑った。

ミネの長い髪が、エアコンの暖房の風に当たってひらひらと揺れる。

「言ってくれたら、チケット用意したのに。」

「前にアスカのライブ行った時、私めちゃくちゃ感動したの。だから、近くで見たいなと思ってさ。関係者席って、大体遠いでしょう?この前も2階席だったし。だから自力で取った。」

ぼくは、ミネにキスをした。

キス以外にこの嬉しさを表現する方法がわからなかった。自然とキスしたくなるって、こんな時なんだな、とか思った。

ミネはまるで子供をあやすみたいに、ぼくの体を掴んで左右にゆらゆら揺らした。

ぼくがミネの肩を掴むとミネの体も一緒に揺れて、ぼくたちはへらへら笑った。

それからしばらくの間、何かの糸が切れたみたいに、バカップルみたいなことをしていたから、せっかく入れたコーヒーが冷めてしまった。

ミネが淹れなおしてくれたコーヒーは、ぼくが淹れたコーヒーより何倍も香りとか深みとかがある様な気がした。

先に食事を終えたミネは、ぼくがパンを食べたりスマホをつついたりしているのを、嬉しそうにカメラで撮っていた。



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