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七章 第二話

 イセリとキリクが逃走劇を開始したころ、体調を崩したイセリが寝ているはずの部屋の前で、落ち着かない表情をしたアリハルがいた。


「イセリ姫の様子はどうだ」


 扉横のイスに座っている女中に問いかけるアリハル。


「あ、アリハル様!イセリ姫は、その、少し前に飲み物を所望されたほかは、まだ体調が良くならないようで、まだしばらく休ませて欲しいとおっしゃられて」


 アリハルに驚いて、急いで立ち上がり説明する女中。


「ふむ、そうか。よし、少し声をかけて、欲しい物はないか聞いてみよう」


 そう言って扉を開けようとするアリハルに、驚いて扉の前に立ちふさがる女中。


「いけません!」


「なぜだ?」


 少しいらついた顔をしてしまうアリハル。


「実は先ほど少しもどされたようで、それで飲み物を所望されまして、その、気分が悪いのともどしたことで、部屋にだれも入れないで欲しいと」


 普段の柔和なイメージではなく、少し語気を強めるアリハルに女中が怯え気味に言う。


「そうか。しかしいつまでもというわけには」


「イセリ様はあと半刻ほどは休まれたいとおっしゃられていました」


「……わかった。ではそれまで待つとしよう」


 そう言ってアリハルは少し不審に思いながらも広間の方へ戻ってく。


 実はアリハルは朝から違和感を感じていた。イセリに付ける女中をハリティアが選び、船に乗ったはいいが、すぐに気持ち悪くなり、戻って部屋に籠もってしまった。


「何かがおかしい」


 そう思って部屋に入って問いただすことも考えたが、自分の勘違いで終わったとき、イセリにどう思われるか考えると動けずにいた。


「ふむ、そろそろ半刻になるが」


 アリハルは広間のソファから、イセリが籠もっている部屋の扉を見るが、開いて外に出てくる気配もない。


 アリハルは仕方が無いというようにソファから立ち上がると、もう一度イセリの部屋の前に立ち、女中に声をかける。


「イセリ姫の様子はどうか」


「先ほどお声をかけさせていただいたのですが、今はお休みになられているのか、反応がありませんでした」


「う〜む、ちょっとお前、覗いてみてはくれまいか」


 アリハルが女中の背中を押す。自分が覗いて見つかったときに怒られるのが怖いのだ。


「わかりました」女中が扉の前で深呼吸する。


「イセリ様、入りますよ」


 少し大きめの声で宣言するように声を出し、女中が扉をゆっくりと開けて中に入っていく。アリハルはその女中の肩越しに少し中をうかがう。


「イセリ様、お加減はいかがですか?」


 そう言ってそろそろと伺うように中に入っていく女中。ベッドの布団の中に頭からすっぽりと入っているような、膨らみがある。


「イセリ様?」女中が布団に手をかける。


 後ろで様子を伺っていたアリハルが、女中を押し退けるように前に出て布団をはぐ。


「これは!」


 ベッドの上に置かれていたのは、ちょうどイセリの体に合わせたように、細長く丸められた毛布だった。


「イセリ姫はどこへ行った!」


 語気も強く女中を問いつめるアリハル。


「わ、わかりません、へ、部屋からも出られていません」


 アリハルの強い語調に怯え、その場にへたりこむ女中。


 アリハルは、感じていた違和感の正体を探るため、自らの記憶を遡って考えを始める。


 最初の違和感は、イセリを誘いに行ったときだった。ハリティアがまたキリクを誘ったと聞いて出向き話を切りだした時、普通に乗り気だった事だ。しかもまた船釣りがしたいという。前回失敗したと思っていたアリハルは、この予想外の反応に喜びもしたが、驚いたのを覚えていた。


 次の違和感は、ハリティアからイセリと仲が良いからと紹介された女中だった。人見知りの気があるイセリ姫が、ただの女中を気にするだろうかと思ったが、少しでも気分良く過ごしてもらおうと、受け入れた。


 そして今朝。船を出す前になぜか小屋に寄ることを希望し、そこで時間をかけ着替えをした。その後船を出すと、半刻も経たずに気分が悪いから小屋にもどして欲しいと、休ませて欲しいと言ったのだ。


(前から計画されていた?)


 その考えに至ったとき、イセリの向かう先がアリハルに見えてきていた。


 アリハルは急いで小屋を飛び出し、繋がれていた馬に飛び乗ると、共の者二人を引き連れて少し離れた丘の上を目指す。


 イセリが一人で逃げ出すはずはないのだ。だとするなら、誰と逃げる?当然キリクだ。ではどうやって?今日この瞬間の逃走劇に手を貸した人物は?


「姉上、なぜなのです」


 アリハルはハリティアの元へ馬を飛ばす。

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