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界傷の祓い人  作者: 安曇 東成


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22/24

天文台

 翌朝、俺たちは朝食を取りながら、天文台の調査計画を確認した。


 *


 朝食の席には、四人分の膳が並んでいた。朔の前には膳がない。


「朔。食べてください」


 こよりが白飯を差し出す。


「必要ない」


「食べないなら、今日の調査には参加させません」


 朔はしばらくこよりを見た後、黙って茶碗を受け取った。


 九衛門さんは、天文台の地下に直径十二メートルほどの円形空間があると説明した。階段は現在の図面から削除されている。蓮司によれば、図面の改訂時期は和昌が調査に入った頃と近かった。


「父が調べた記録は残っていません」


「正式な記録はな。わしが封じた。あの場所には、知識そのものに食いつく幽禍がおった」


 九衛門さんが古い木箱から真鍮の円盤を取り出した。星図に見えるが、俺の眼には、星々から三枝神社へ伸びる黒い線が見えた。


「天文台は空ではなく、界傷(かいしょう)と地下の反応を観測していた」


 朔が円盤を覗き込む。


「別の勢力は、地下のものが反応する時刻と場所を測っている。器を置く場所を決めるためだ」


「器とは、人間か?」


「人間でも、封使(ふうし)でも、場所でも、記録でもいい。守る者がいる存在ほど、幽禍(ゆうか)を定着させる芯になる」


 昨夜の声が蘇る。——あなたたちの大切なものを器にする。


「私を危険物のように扱わないでください」


 こよりが言った。


「危険物だと言っている」


「では、なおさら本人に判断させてください。天文台へ行きます。誰も一人で動かないことを条件に」


 蓮司が手帳を閉じた。


「無畏(むい)は昨日の治癒で消耗している。今日の戦闘では、使用回数を制限する」

「お前も朔も、勝手に死ぬなよ」

「死ぬ予定はない」

「予定がある奴は、普通そう言わない」


 こよりの口元が、わずかに緩んだ。


 *


 日が落ちるまで、俺たちはそれぞれ準備に追われた。


 こよりは札を選び、朔は玄武の損傷を確かめ、蓮司は図面を整理した。俺がこよりに無理をするなと言うと、彼女は札から顔を上げた。


「無理はしています。ですが、あなたも同じでしょう」

「俺は主人公だから」

「根拠になっていません」


 それでも、こよりは少しだけ笑った。父親の死を知ったばかりなのに、俺たちの前では立っている。だが、その背負い方を一人にさせてはいけない。


「誰も一人で動かない。約束だ」


 俺たちは、それぞれ頷いた。


 *


 旧市立天文台へ向かう山道には、街灯がほとんどなかった。


 俺たちは阿伽(あか)の風で移動速度を補いながら、木々の間を進んだ。先頭は朔。次にこより、蓮司、最後尾が俺だ。


「どうして俺が最後なんだよ」

「お前は後ろを見ていない」


 朔が振り返らずに言った。反論しようとした時、こよりが手を上げた。


「止まってください」


 全員が足を止めた。


 木々の向こうに、天文台の白いドームが見えていた。


 廃墟というほど崩れてはいない。だが、外壁は黒ずみ、窓は何枚か割れている。ドームの頂点には、かつて避雷針だったらしい鉄柱が突き出ていた。


 俺の眼には、建物の周囲を走る界傷が見えた。


 黒い線が、地面から壁へ、壁からドームへ伸びている。


 その線は五本あった。


 五芒星の頂点から集まった術式が、天文台の中央で束ねられている。


「……ここが中心じゃない」


 俺が言うと、朔がこちらを見る。


「何がだ」

「五本の線が、ドームの下で一つに集まってる。でも、そこで終わってない。地下へ向かってる」

「地下の円形空間か」


 蓮司が手帳を開いた。


「入口はどこだ?」


「主観測棟の中です」


 こよりが建物を指した。


「古い記録では、観測機器の搬入口が地下資料庫へ通じていたはずです」

「詳しいな」

「父の調査記録を読んだことがあります」

「さっき、記録は残ってないって」

「正式な記録はありません。父が書いた個人的なメモだけです」


 こよりは一枚の折り畳まれた紙を取り出した。


 紙の端には、和昌の文字らしい走り書きがある。俺には読めない。だが、こよりはそれを見た瞬間、わずかに息を詰めた。


「何て書いてある?」

「……『星は、下を見ている』」


 朔の顔色が変わった。


「その下に何か続いているか」

「いいえ。そこだけです」

「母さんが言っていた言葉と同じだ」

「吹雪さんが?」

「昔、あの夜の前に言っていた。天文台で観測しているのは空ではない。地面の下から、星を見上げている何かだと」


 木々の間を、冷たい風が抜けた。


 風の音に混じって、金属を擦るような音が聞こえる。


 ドームの方からだ。


 こよりが札を構えた。


「来ます」


 次の瞬間、天文台の窓が一斉に内側から割れた。


 黒いものが、窓枠を突き破って飛び出してくる。


 それは人の形をしていた。だが、頭部がない。首から上の代わりに、天体望遠鏡の筒のような白い円柱が伸びている。腕は四本あり、それぞれの先端に、星形の刃がついていた。


 その背後から、同じ形のものが二体、さらに現れる。


「幽禍(ゆうか)です」


 こよりの声が響いた。


「三上さん、右。蓮司さん、中央。朔さんは左をお願いします」

「了解」

「命令するな」

「では、左を担当してください」

「……了解」


 朔が玄武を展開した。


 青黒い甲羅の盾が、木々の間いっぱいに広がる。星形の刃が盾に叩きつけられ、耳障りな音を立てた。


 こよりはすでに走っていた。


 韋天(いてん)の力で地面を蹴り、白衣の袖を翻しながら、一体の懐へ潜り込む。拳が幽禍(ゆうか)の胴体にめり込み、白い外殻が砕けた。


 だが、砕けた破片が空中で星形に並び替わり、こよりの背中へ飛ぶ。


「こより、後ろ!」


 俺は阿伽(あか)の風で飛び出した。


 界喰(かいばみ)を抜く。


 見えた。


 幽禍(ゆうか)の身体ではない。


 頭部の筒から伸びた黒い線。その先が、天文台のドームの奥へ繋がっている。こいつらは建物から生えた手足にすぎない。


 俺はその線へ刀を振った。


 刃が触れた瞬間、黒い線が悲鳴のように震えた。


 界喰(かいばみ)が、繋がりを喰う。


 幽禍(ゆうか)の一体が、動きを止めた。


「今です!」


 こよりの札が、その胸へ貼りつく。


 白い光が弾け、幽禍の身体が内側から崩れた。


「やった!」


 叫んだ直後、別の刃が俺の肩を掠めた。


「やってない!」


 蓮司の六角棒が横から飛んできて、幽禍(ゆうか)の腕を叩き折った。


「気を抜くな。敵は三体ではない」


 蓮司の言葉に、俺は周囲を見た。


 天文台の屋根。壊れた窓。地面の亀裂。


 黒い線が、全部で十二本ある。


 窓の奥から、さらに白い円柱がいくつも伸びていた。


「おい、蓮司。三体じゃないって、何体だよ!」

「確認できる範囲では、十六体」

「増えてるじゃねえか!」

「敵が出てきているからな」

「見ればわかる!」


 こよりが一体を蹴り飛ばしながら叫ぶ。


「数を数えている暇があるなら、術式の起点を探してください!」

「それをやってる!」

「なら、見つけてください!」


 無茶な注文だ。


 だが、俺の眼には、少しずつ別のものが見え始めていた。


 黒い線の一本一本の奥に、薄い銀色の文字が浮かんでいる。文字というより、意味の断片だ。


 観測。


 固定。


 転写。


 そして、器。


 四つ目の文字だけが、すべての線の中心に集まっている。


「……器が、起点じゃない」


 俺は叫んだ。


「こいつらは幽禍を作ってるんじゃない! 何かを測って、その結果を地下へ送ってる!」

「送っている先は?」


 朔が盾越しに問う。


「ドームの中心。望遠鏡の下だ!」

「なら、そこを壊す」

「簡単に言うなよ!」

「簡単ではない。だから、お前が道を作れ」


 朔が玄武を前へ押し出した。


 盾が軋み、幽禍の群れをまとめて押し返す。こよりがその隙間を駆け抜け、蓮司が左右から迫る刃を六角棒で弾き落とす。


 四人の動きが、初めて同時に噛み合った。


 俺は風に乗って屋根へ飛び、ドームの頂点へ着地する。


 白い外壁に、五芒星の術式が刻まれていた。


 その中心には、目のような黒い円。


 昨夜、神社に現れた札と同じ印だ。


「見つけた」


 界喰(かいばみ)を構える。


 だが、黒い円の中心に、人の顔が浮かんだ。


 知らない女だった。


 いや、顔そのものではない。誰かの記憶を切り取ったような輪郭。長い髪。疲れた目。白い手が、胸元で何かを握っている。


 こよりの顔が、脳裏をよぎった。


「……和昌さん」


 朔の声が下から聞こえた。


 その顔が、こよりの父親なのかどうか、俺にはわからない。だが、朔がそう呼んだ瞬間、術式が大きく脈打った。


 顔が笑う。


『器は、記憶から作る』


 女の声が、天文台全体に響いた。


『大切にされているものほど、よく馴染む』


 俺は界喰(かいばみ)を振り下ろした。


 刃が黒い円の縁に食い込み、術式が弾ける。


 空間が大きく歪んだ。


 見えない力が、俺の手から界喰(かいばみ)を引き抜こうとする。


 名前を喰われる。


 帰り道を喰われる。


 その感覚が、柄を通して腕に這い上がってきた。


「阿伽(あか)!」


 『御意』


 風が背中を押した。


 同時に、下から玄武の盾が伸びてきて、俺と術式の間へ割り込む。


「離れろ!」


「まだだ!」


 俺は界喰をさらに押し込んだ。


 黒い円の奥に、一本だけ違う線が見える。


 五芒星から地下へ向かう線ではない。


 天文台から、どこか別の場所へ伸びる細い糸。


 その先にあるのは、三枝神社ではなかった。


 街の中心。大きな病院の屋上。


 そして、その屋上には、見覚えのある霊力の輪郭があった。


「……誰かいる」


 俺が呟いた直後、術式が崩れた。


 白いドームが内側から膨らみ、爆発する。


 俺は空劫(くうごう)を呼び出し、輪郭を薄れさせた。飛び散った金属片が身体をすり抜け、屋根の向こうへ落ちていく。


 地上では、こよりが最後の幽禍を吸印札へ封じていた。


 朔は片膝をついている。玄武の盾には大きな亀裂が走っていた。


 蓮司は六角棒を杖のように使い、肩で息をしている。


「全員、生きてるか?」


 俺が屋根から声をかけると、こよりが顔を上げた。


「三上さんが一番危険な場所にいること以外は」

「俺も生きてる」

「それは結果です。行動の評価ではありません」


 俺は屋根から飛び降りた。


 着地した瞬間、膝が笑った。格好よく着地したつもりだったが、実際には転びかけてこよりに襟首を掴まれた。


「……無茶をするなと言ったはずです」

「俺は必要なことをした」

「その判断を、一人で行ったことが問題です」

「朔が盾を出しただろ」

「朔さんは、あなたを助けるために玄武を損耗させています」


 見ると、玄武の盾の亀裂が、ゆっくりと広がっていた。


 朔は立ち上がろうとしたが、片足が崩れた。


「朔!」


 こよりが支える。


「触るな」

「立てますか」

「立てる」

「質問に答えてください」

「……少し、難しい」

「では、支えます」


 朔は反論しなかった。


 蓮司が俺の肩を見た。


「出血している」

「掠っただけだ」

「治す」

「お前は霊力を温存するんじゃなかったのか?」

「傷が浅いなら、治癒に必要な量も少ない」

「本当か?」

「本当だ」

「なんか今日のお前、妙に頼もしいな。明日あたり死ぬんじゃねえか?」


 蓮司は無表情で俺を見た。


「縁起でもないことを言うな」

「いや、言い出したのはお前だろ。お前が無茶をするから——」

「俺は無茶をしていない」

「朔と同じこと言ってるぞ」


 蓮司の無畏が肩の傷を塞いだ。


 指先から伝わる熱が消えた後、蓮司の顔色が少し悪くなった。


「蓮司?」

「問題ない。帰るぞ」


 その指がわずかに震えていたが、今は追及できなかった。


 *


 神社へ戻ったのは、日付が変わる少し前だった。


 俺たちは社務所の広間に集まり、天文台で見たものを九衛門さんに報告した。


 こよりは回収した術式の破片を畳の上に並べ、蓮司は図面を書き起こし、朔は玄武の損傷を確認している。


「病院の屋上に、別の反応があった」


 俺が言うと、九衛門さんの眉が動いた。


「病院とな」

「誰かがいた。霊力の輪郭だけだけど、俺は見たことがある気がする」

「誰じゃ?」

「わからない。ただ、敵は天文台で測った結果を、病院へ送っていた」


 蓮司が図面を広げた。


「天文台と病院を結ぶ直線上に、古い送電線がある。現在は使われていないが、地下の共同溝を通っている」

「街の地下に、五芒星とは別の経路があるということか」


 こよりが尋ねた。


「そうじゃ。五芒星が表の陣なら、共同溝は裏の導線じゃろう」


 朔が術式の破片を見た。


「天文台は、器を作る場所ではなかった」

「測る場所だった」


 俺が続ける。


「そして、測った結果を病院に送ってた。あそこには、何かを置くつもりなんだ」

「何か、ではない」


 朔が言った。


「誰かだ」


 広間が静まり返った。


「敵は、すでに器を選んでいる」

「病院に入院している人間か?」


 こよりの声が硬くなった。


「あるいは、病院そのものかもしれない」


 九衛門さんが目を閉じる。


「大切なものを器にする、か。奴らは人間の情そのものを利用するつもりじゃ」

「なら、明日にでも病院を調べます」


 こよりが言った。


「待て」


 朔が遮った。


「病院には人が多い。敵がそこを選んだなら、幽禍を隠すには最適だ。正面から入れば、こちらの動きも読まれる」

「では、どうしますか」

「俺が先に行く」

「却下です」

「なぜだ」

「単独行動は禁止したはずです」

「俺は偵察を——」

「却下です」


 こよりは同じ言葉を、今度は少し強く言った。


 朔は黙った。


 俺は思わず笑ってしまった。


「何がおかしい」

「いや。昨日まで敵だった奴が、今日はこよりに単独行動を禁止されてるのが、なんか面白くて」

「笑うところではありません」

「わかってる。でも、少しだけ安心した」


 こよりが俺を見る。


「何がですか」

「朔が、もう一人で行く奴として扱われてないから」


 朔の目が細くなった。


「俺は、まだ仮加入だ」

「仮でも何でも、飯を食って、怪我をして、作戦会議に出てる。もう十分こっち側だろ」

「勝手に決めるな」

「こより、どうなんだ?」

「……仮加入です」

「そこは変わらないのかよ」

「ですが、仮加入者を一人で死なせるつもりはありません」


 朔は何も言わなかった。


 代わりに、玄武の亀裂へ手を置いた。


「……わかった。次からは、勝手に行かない」

「次から、ということは、今までは勝手に行っていたと認めるんだな」


 蓮司が手帳に書き込んだ。


「記録した」

「破れ」

「破らない」

「お前たちは、本当に緊張感がないな」


 九衛門さんが深いため息をついた。


「緊張感がないのではない。緊張しておるからこそ、くだらぬことを言えるのじゃ」


 その言葉に、誰も返事をしなかった。


 たぶん、全員が理解していた。

 病院に誰かがいる。

 敵は、その誰かを器にしようとしている。

 そして、俺たちはまだ、その人物が誰なのかを知らない。

 こよりが、畳の上の術式片を見つめた。


「明日の朝、病院の記録と、天文台から伸びていた導線を調べます。患者、職員、建物の改修履歴。誰が器に選ばれたのかを特定します」

「病院を敵に回すことになるぞ」


 朔が言った。


「すでに、敵は病院を使っています」


 こよりは顔を上げた。


「なら、そこにいる人たちを巻き込ませないために、私たちが先に動きます」


 こよりの瞳に、迷いはなかった。


 父親の死を知ったばかりで、昨日は泣いていた。今日も身体は重く、韋天(いてん)の反動は残っている。それでも彼女は立っている。


 守られたことを理由に、一人で背負うのではなく。


 今度は、俺たち四人で。


「決まりだな」


 俺は界喰の柄に手を置いた。


「明日は病院だ」

「三上さん」

「何だよ」

「その前に、傷の確認と睡眠です」

「作戦会議は?」

「終わりました」

「俺の格好いい決め台詞は?」

「ありません」


 蓮司が立ち上がった。


「俺は記録を整理してから寝る」

「お前も寝ろ」

「必要な分だけ寝る」

「また変な死亡フラグを——」

「言うな」


 蓮司が珍しく、俺の言葉を途中で遮った。


 冗談を言っただけのつもりだった。

 なのに、彼の声は思ったより低く、真剣だった。


 俺は口を閉じた。


 蓮司は何事もなかったように手帳を開いた。


「……明日の行動予定を書いておく」


「はいはい」


 こよりが立ち上がり、朔へ視線を向けた。


「朔さん。あなたは玄武の回復を優先してください」

「必要ない」

「必要です」

「俺は戦える」

「戦えるかどうかではなく、戦い続けられるかどうかを聞いています」


 朔は黙り、やがて小さく頷いた。


「……わかった」


 その返事を聞いて、俺は少し驚いた。

 朔は、誰かの言うことを聞く男ではなかった。少なくとも、俺たちの前ではそうだった。

 だが、こよりの言葉だけは、少しずつ届き始めている。

 それが仲間というものなのかは、まだわからない。

 ただ、社務所の灯りの下で、俺たちは同じ地図を見ていた。

 地図の上には、五芒星と、そこから外へ伸びる一本の線。

 線の先には、病院がある。

 敵が大切なものを器にするというなら、俺たちはその大切なものを、誰の手にも渡さない。

 そのために、明日もまた戦う。

 できれば、朝飯を食ってから。

 できれば、誰も死なずに。

 できれば、蓮司にも余計なことを言わせずに。


 まあ、最後の一つは、たぶん無理だろう。


 社殿の地下から、また低い振動が伝わってきた。

 昨日よりも近い。

 地面の下で、何かがこちらの足音を聞いている。

 俺は窓の外を見た。

 暗い境内の向こう、山の方角に、白いドームの残骸が浮かんでいる。

 そのさらに先で、街の明かりが一つだけ消えた。


 病院の屋上だ。


 俺の眼には、そこから伸びた黒い糸が見えた。

 糸は夜空を横切り、三枝神社の地下へと繋がっている。

 そして、その途中に、赤い点が一つ灯った。

 まるで、誰かの心臓が、遠くで脈打ったように。


 敵は、もう器を用意している。

 俺たちは翌朝、四人で病院へ向かう。誰も一人で行かないために。


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