第九十一話 最後の座標
【注意事項】
本作品には自殺や精神的に重いテーマが含まれています。
読む際にはご自身の心身の状態を十分にご考慮ください。
心の不調を感じた場合は、無理に読み進めず、専門機関や信頼できる人に相談されることをおすすめします。
※この作品はフィクションです。登場人物・団体・事件はすべて架空であり、現実の自殺や暴力を肯定・助長する意図はありません。
年始。
「――あけましておめでとうございます。」
請負人は玄関で軽く一礼した。
「……って、あれ?」
部屋の奥から、苦しそうな咳が聞こえる。
「大丈夫ですか?」
布団にくるまった連が、力なく片手を上げた。
「すまん……。」
額には濡れたタオル。
顔は真っ赤で、声にも力がない。
「しばらく手伝えそうにねぇ」
「初日の出を見に行ったら、高熱が出ちまってな。」
「帰ってきたら、このざまだ」
請負人は呆れたように肩をすくめる。
「全く……」
「新年早々、厄年か何かですか?、無茶は控えてください」
連は苦笑した。
「年に一度くらい、日の出を拝みたかっただけなんだ」
「結果がこれでは意味がありません」
請負人は薬袋を机の上へ置く。
「今日は私一人で向かいます」
「下手に事故でも起こされたら困りますからね」
連は小さく笑う。
「悪いな」
「帰ったら土産話でも聞かせてくれ」
請負人は帽子を深くかぶり直した。
「期待しないでください」
そう言い残し、静かに部屋を後にした。
赤林町。
正月とは思えないほど、人通りは少ない。
請負人は河川敷へ向かいながら周囲を見渡す。
ホームレスたちが焚き火を囲んでいる。
請負人は一人へ声を掛けた。
「すみません」
「この辺りで、あかしというホームレスをご存じありませんか?」
男は請負人を見る。
「婆さん、あかを探してんのか?」
「ええ」
「あかなら何か月も帰ってきてねぇ」
「俺たちも心配してる」
「そうですか」
「何か伝言でもあるのか?」
請負人は少しだけ考え、
「いえ、大した用ではありません」
とだけ答えた。
余計な情報は話さない。
それが請負人の流儀だった。
その足で、請負人はあかしのテントへ向かう。
風で入口が揺れている。
中は誰もいない。
生活していた痕跡だけが残っていた。
しかし――。
「あら?」
請負人の視線が止まる。
「……カバンがない」
黒いカバンだけが消えていた。
請負人は静かに携帯端末を取り出す。
特殊なアプリを起動する。
画面には、小さな点が一つ表示されていた。
「最後の通信記録……」
位置情報は、
黒林町。
それほど離れてはいない。
請負人は再生ボタンを押した。
スピーカーから雑音が流れる。
『……ざぁ……』
『…………』
『……ざぁ……』
途中で途切れている。
「何も録れていない……」
その瞬間。
携帯が震えた。
ピロン。
通知が一件。
続けて、もう一件。
請負人は画面を見つめる。
「……二件とも、黒林町?」
位置情報は、ほぼ同じ場所を示していた。
偶然とは思えない。
請負人の表情から笑みが消える。
「……まさか」
請負人は踵を返し、静かに歩き出した。
その足取りだけが、わずかに速くなっていた。
いつもご愛読賜りまして、誠にありがとうございます。
重く深いテーマに向き合いながらも、登場人物たちの物語はなお続いております。
彼らの心の揺れや選択の行く末を、これからも温かく見守っていただけますと幸いに存じます。
一歩ずつ前へ進む姿を、読者の皆様と共に感じられますことを心より願っております。
次回も変わらぬご厚情を賜りますよう、何卒よろしくお願い申し上げます。
次回もまた、どうぞよろしくお願いいたします。
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次回更新日: ―――――――――――――――――――――――――――――――――
次回更新日:8月15日(土)10時,14時,18時(社会情勢によって変動。)
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