第百二十一話 扉の向こうへ
【注意事項】
本作品には自殺や精神的に重いテーマが含まれています。
読む際にはご自身の心身の状態を十分にご考慮ください。
心の不調を感じた場合は、無理に読み進めず、専門機関や信頼できる人に相談されることをおすすめします。
※この作品はフィクションです。登場人物・団体・事件はすべて架空であり、現実の自殺や暴力を肯定・助長する意図はありません。
ーーーーーーー翌朝ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
アラーム音で、僕は目覚めた。
「う~ん、眠い。。。」
布団の中で、しばらく天井を眺める。
カーテンの隙間から、朝の光が差し込んでいた。
朝。
いつもなら、もう一度眠るところだ。
けれど――今日は違った。
「。。。学校」
その言葉を口にしただけで、胸が重くなる。
昨日までなら、そのまま布団に潜り込んでいた。
けれど、昨夜のことを思い出す。
暗い商店街。
看板の裏。
そして、あのお兄さん。
自販機の前で止められたこと。
「……変な人だったな」
思わず笑ってしまう。
でも、不思議だった。
あの人と話している間だけは、学校のことを考えても、少しだけ怖くなかった。
そのとき――
コンコン
部屋の扉が叩かれた。
「隆盛、起きてる?」
母の声だった。
「。。。起きてる」
「朝ご飯できてるわよ」
「。。。うん」
返事をしたものの、身体が動かない。
学校へ行く。
その言葉が頭の中をぐるぐる回る。
「。。。やっぱり、無理かも」
小さく呟いた。
すると、扉の向こうから母の声がした。
「今日は……どうする?」
その一言に、僕は黙った。
「学校、行く?」
責めるような声ではなかった。
だからこそ、答えに困った。
「。。。わからない」
「そっか」
それだけだった。
母は、それ以上何も言わなかった。
しばらくして、足音が遠ざかっていく。
僕はベッドから起き上がった。
机の上には、宿題が置かれている。
開きかけの数学の問題集。
途中で止まった国語のプリント。
見るだけで嫌になる。
「。。。勉強、嫌いだな、担任とも馬が合わないし。。。」
そう呟いてから、昨日の言葉を思い出した。
――一回やって、できなかった。それだけです。
「。。。一回だけ、か」
僕は数学の問題集を手に取った。
一問目を見る。
わからない。
「。。。やっぱりわかんない」
問題集を閉じようとして――
手が止まった。
「。。。質問すればいいのか」
誰に?
先生。
その言葉を思い浮かべただけで、少し怖くなる。
でも。
昨日のお兄さんは言っていた。
――「わからないことを認められる人は、強いですよ」
「。。。言えるかな」
時計を見る。
家を出る時間まで、まだ少しある。
僕は問題集を開いた。
そして、わからない問題の横に、小さく印をつけた。
「。。。これ、今日、時間があったら、先生に聞いてみよう」
それだけだった。
それだけなのに――
昨日までとは、ほんの少しだけ違って見えた。
僕は制服に着替えた。
部屋を出る。
階段を降りると、母が驚いた顔でこちらを見る。
「隆盛……?」
「。。。行ってみる、はやく起きられたから」
「学校に?」
「うん」
母は何も言わなかった。
ただ、少しだけ笑った。
「そっか」
僕は玄関に向かう。
靴を履く。
ドアノブに手をかける。
怖い。
今だって、帰りたい。
それでも――
「。。。行ってきます」
玄関の扉を開けた。
朝の日差しが、目に飛び込んできた。
眩しくて、僕は目を細める。
そして、一歩。
外へ出た。
昨日までとは違う一歩だった。
いつもご愛読賜りまして、誠にありがとうございます。
重く深いテーマに向き合いながらも、登場人物たちの物語はなお続いております。
彼らの心の揺れや選択の行く末を、これからも温かく見守っていただけますと幸いに存じます。
一歩ずつ前へ進む姿を、読者の皆様と共に感じられますことを心より願っております。
次回も変わらぬご厚情を賜りますよう、何卒よろしくお願い申し上げます。
次回もまた、どうぞよろしくお願いいたします。
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次回更新日:8月31日 22時◀︎




