第百十八話 選んだ先の痛み
【注意事項】
本作品には自殺や精神的に重いテーマが含まれています。
読む際にはご自身の心身の状態を十分にご考慮ください。
心の不調を感じた場合は、無理に読み進めず、専門機関や信頼できる人に相談されることをおすすめします。
※この作品はフィクションです。登場人物・団体・事件はすべて架空であり、現実の自殺や暴力を肯定・助長する意図はありません。
「大抵は動くことはない。その先生が余程の問題を起こさない限り」
「。。。そっか、お兄さんは似たような境遇だと言ってたけど、そういう時どうしてた?」
「私は諦めました」
「……諦めた?」
「ええ。家の中に引きこもっていました」
「どのくらい?」
「長かったですよ」
漣は少しだけ空を見る。
「年末になるたびに、その年を振り返るんです。でも、何も思い出せなかった」
「……」
「ただ時間だけが過ぎていたんです」
「生きてるのか、死んでるのかわかりませんでした」
「。。。」
「高三までの期間は空白なんです。。。辛かったです。本当に、中三の頃だったから、尚更。
おかげで、今も小、中学生の記憶は思い出せません」
「君もこうなりたいなら、止めはしません」
「。。。」
「でも行ったら、前の先生の記憶でムズムズする」
「……そうですね」
「だったら、行かないほうがいいのかな」
漣は少し黙った。
「私には、君にどちらが正しいかなんて言えません、どっちの痛みを取るかだと思います」
「……」
「学校へ行ったからって、痛みが消えるとは限らない」
「じゃあ。。。」
「でも、行かなくても、痛みが消えるとも限らない」
漣は少年を見る。
「消えるかもしれない痛みを先に受けきるか」
「あとになって、別の痛みを受けるのか」
「それを決められるのは、君自身ですよ」
「。。。わからない」
「それでいいんですよ」
「え?」
「今すぐ答えを出す必要なんてありません」
「ただ――」
「自分で選んだことだけは、誰かのせいにしないことです」
少年が呟いた。
「勉強って必要なの?」
「どうして?」
「国語や数学を勉強したって、どうやって危険から身を守るの?」
「言葉がわからなければ、伝えたいことを伝えにくくなる」
「じゃあ、数学は?」
「数学?」
「数学を勉強したら、危険から身を守れるの?」
「……直接的には、そうじゃないでしょうね」
「じゃあ、必要ないじゃん」
「そうとも限りませんよ」
「どうして?」
「計算ができれば、数字を疑えるからです」
「……数字を?」
「お金でも、時間でも、割合でも。知らないと、誰かに言われた数字をそのまま信じるしかないでしょう」
「。。。」
「勉強って、答えを覚えるためだけにあるものじゃないんですよ」
「。。。じゃあ、何のため?」
「自分で答えを探すため、じゃないですかね」
私は頷いた。
「世の中、理屈だけでは回っていません」
「好きにすればいいんです」
「俺が学校に行かなくても?」
「君の人生ですから」
私は肩をすくめた。
「君が学校へ行こうが行くまいが、私が困るわけじゃない」
「ただ――」
少年を見る。
「自分で決めたことなら、その分の結果も自分に返ってくる。それだけです」
いつもご愛読賜りまして、誠にありがとうございます。
重く深いテーマに向き合いながらも、登場人物たちの物語はなお続いております。
彼らの心の揺れや選択の行く末を、これからも温かく見守っていただけますと幸いに存じます。
一歩ずつ前へ進む姿を、読者の皆様と共に感じられますことを心より願っております。
次回も変わらぬご厚情を賜りますよう、何卒よろしくお願い申し上げます。
次回もまた、どうぞよろしくお願いいたします。
―――――――――――――――――――――――――――――――――
次回更新日:8月31日 18時へへ,22時◇




