第百十五話 残された証言
【注意事項】
本作品には自殺や精神的に重いテーマが含まれています。
読む際にはご自身の心身の状態を十分にご考慮ください。
心の不調を感じた場合は、無理に読み進めず、専門機関や信頼できる人に相談されることをおすすめします。
※この作品はフィクションです。登場人物・団体・事件はすべて架空であり、現実の自殺や暴力を肯定・助長する意図はありません。
報道陣は現場周辺に集まり、連日、取材合戦が繰り広げられていた。
カメラマンが三脚を立て、照明機材を設置する。
記者たちはスマートフォンやメモ帳を手に、情報の確認や関係者への連絡に追われていた。
一方、編集部でも慌ただしく作業が進められていた。
「今日のトップは左衛門の件で決まりだ。速報の準備はいいか?」
広いフロアに、編集長の声が響く。
ディレクターや編集者たちはモニターを見つめながら、見出しや本文の文言を何度もすり合わせていた。
「『幻だと思われていた自警団《左衛門》、まさかの実在か?』でいくか……もう少し柔らかい表現にしたほうがいいんじゃないか?」
「そうだな。過度に煽るなよ」
その頃、現場の記者・川端は、関係者へのアポイントを取るために奔走していた。
「親族が誰もいない?」
電話の向こうから返ってきた答えを、川端はメモ帳に書き込む。
「当時の状況を知りたいので、何か物音を聞いていないか、周囲にも聞き込みをお願いします」
電話を切る。
川端が現場から戻り、編集部へ入った直後だった。
「何か掴めた?」
別の記者が声をかけてくる。
「いや……むしろ、分からないことが増えた」
「どういうこと?」
川端は手元の資料へ目を落とした。
「現場には、何も残っていない」
「何も?」
「血痕も、遺留品も……人がいた形跡すらない」
記者は言葉を失った。
その頃、テレビではニュースキャスターが淡々と事件を報じていた。
『事件が発覚したのは、出火原因不明の山火事を受け、周辺住民から通報が入ったことがきっかけでした』
画面には、焼け焦げた山道と、規制線の張られた現場周辺が映し出される。
『また、事件現場とみられていた邸宅からは、血痕を含め、一切の痕跡が見つかっていません』
キャスターが一拍置く。
そして、次の原稿へ目を落とした。
『一方、事件が起きた深夜、「自分が左衛門のリーダーです」と名乗る青年が、近くの交番に出頭していたことが分かりました』
スタジオの空気が、わずかに変わる。
『しかし、青年の供述と現場で確認された事実には、いくつかの食い違いがあり、事件との因果関係については、現在も捜査が続けられています』
『警察は、左衛門と呼ばれる組織の実態についても調べを進めています』
テレビの画面が切り替わった。
――『幻の自警団《左衛門》』
――『相次ぐ失踪事件との関連は?』
――『リーダーを名乗る青年、突然の出頭』
様々な見出しが、次々と画面を埋め尽くしていく。
* * *
一方、僕は弁護士との接見に臨んでいた。
「どうも。辰緑さん、今回弁護を担当することになった、マーブル法律事務所の深山です。みやまと書いて、ふかやまと呼びます」
「同じく、マーブル法律事務所の明石です」
「……あかし?」
「明石です。『あかいし』と読みます」
「そうか」
明石が資料を開いた。
「では、まず事件当日のことを聞かせてください。何があったんですか?」
「その日は、燃える山の中から命からがら逃げ出したんです」
「一人で?」
「何人かと逃げ出したと思います。でも、その後、逸れてしまって」
「何人か、というのは?」
「……覚えていません」
明石は僕の表情をじっと見つめた。
僕は黙り込んだ。
「そうですか」
それ以上、明石は追及しなかった。
やがて面会時間を確認すると、資料を閉じる。
「今日はここまでにしましょう。また来ます」
「……ああ」
明石が部屋を出ていく。
残った深山は、しばらく僕を見つめていた。
そして、静かに口を開く。
「では、生い立ちを聞かせてもらえますか?」
「……え? 生い立ちですか」
「はい」
* * *
ダンナが戻ってきた時、陽は暮れ、外はすっかり暗くなっていた。
「ダンナ、終わったのか?」
「はい。終わりましたよ」
「彼女はどうだった?」
請負人は、少しだけ間を置いて答えた。
「安らかにいきましたよ」
「そうか」
請負人は静かに頷いた。
「紅石はどうです?」
「まだ寝てるよ」
「そうですか」
請負人は、少し考えるように黙り込んだ。
「最善手は打ちました。あとは、彼の気力次第でしょう」
「そうか」
「では、私は少し休みます。貴方は好きにしてください」
「了解、ダンナ」
「では」
請負人はそう言って、部屋へ戻っていった。
残された漣は、外へ目を向ける。
「じゃあ、少し早いが、墓参りでも行くとするか」
そう呟くと、漣は静かに歩き始めた。
いつもご愛読賜りまして、誠にありがとうございます。
重く深いテーマに向き合いながらも、登場人物たちの物語はなお続いております。
彼らの心の揺れや選択の行く末を、これからも温かく見守っていただけますと幸いに存じます。
一歩ずつ前へ進む姿を、読者の皆様と共に感じられますことを心より願っております。
次回も変わらぬご厚情を賜りますよう、何卒よろしくお願い申し上げます。
次回もまた、どうぞよろしくお願いいたします。
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次回更新日:8月31日 14時へへ,18時◀︎,22時◇(社会情勢によって変動。)




