第百十三話 黒夜夢
【注意事項】
本作品には自殺や精神的に重いテーマが含まれています。
読む際にはご自身の心身の状態を十分にご考慮ください。
心の不調を感じた場合は、無理に読み進めず、専門機関や信頼できる人に相談されることをおすすめします。
※この作品はフィクションです。登場人物・団体・事件はすべて架空であり、現実の自殺や暴力を肯定・助長する意図はありません。
消防車とパトカーが迫ってきている。
「左衛門の連中も車で孤島へ向かっている」
ハンドルを握る手に力が入る。
その時だった。
木々の向こうで、一台の車が勢いよく段差を駆け上がった。
次の瞬間――
宙へ躍り出る。
車体は走っていた山道を飛び越え、そのさらに二段下を走る山道へと着地した。
土煙を巻き上げながら、そのまま速度を落とすことなく走り去っていく。
「しっかり捕まってろ、いいな」
アクセルを踏み込んだ。車は一気に加速した。
そして、そのまま全速力で、山道を飛び越えた。
車体が浮いた。
一瞬――
世界から音が消えたような感覚に陥る。
窓の外。
流れていたはずの木々が止まる。
下には暗闇に沈んだ山道。
その先には深い谷。
車体は重力に引かれ、落下を始める。
ガンッ。
タイヤが地面を噛み、サスペンションが悲鳴を上げた。
車体は大きく跳ね、横へ流れる。
「ぐっ……!」
ハンドルを握り直す。
一度は谷側へ吸い寄せられそうになるが――
「戻れぇぇ!」
タイヤが土を噛み、ようやく車体は前を向いた。
後ろから聞こえるのは、遠ざかるサイレン。
消防車。
パトカー。
そこから少し走り、山道を抜けた先にある人気のない駐車場へ車を止めた。
「ここまで来れば、大丈夫だろう。だが念の為、外には出るな」
通信が入る。
「黒林第五駐車場ですか?」
「ああ、そうだ。紅石は分からないが、それ以外は無事だ」
「そうですか、五分くらいで着きますから、お待ちを」
「了解、ダンナ」
ツーツー
「なあ、なんで喜多川さんまで連れてきたんだ?もしかして依頼人なのか?アンタたちの?」
「たまたまだよ、私が紅石を連れてきた時に、ついてきただけだよ、だから気にするな」
「……そうか」
「?」
「いや、もしかして、むか……」
「良いんじゃねえか、そのままで。思い出は酒みたいなものだ。綺麗に熟した記憶ほど、甘く酔わせる。だから、人は何度でも縋りたくなる。まあ、俺が言うのもなんだが」
「それもそうかな」
コンコン
「お、ダンナ」
ガチャ
「とりあえず、紅石の手当てをします」
医療器具が並べられる。
傷口を確認し、止血。
室内には緊張した空気だけが流れる。
誰も口を開かなかった。
十数分後――
「出来るだけの処置はしました。窮地は脱したと言って良いでしょう。しかし、安心はできません。
幸運だったのは、彼の胸ポケットに入っていた、竹のストラップが銃弾の衝撃を軽減したようで、なければ致命傷だったでしょう」
僕は深くお辞儀をした。
「兄さん、喜多川さんを頼みます。色々とありがとうございました、じゃあ、僕行ってきます。」
請負人は言う。
「お任せください」
覆面の男は少し遅れていう。
「・・・なあ、彼女起こそうか?」
僕は言う。
「いや、良いよ。彼女には残された時間で感じられる幸せを大切にしてほしいから」
「そうか」
請負人は言う。
「私たちのことは忘れてください」
僕は言う。
「もちろん、忘れるよ」
「そうですか」
そして、車を降りた。
次に僕が振り返ると、
その車は影も形もなくなっていた。
「まるで夢を見ているみたいだったな」
——そう思いながら、僕は交番へ向かって歩き出した。
いつもご愛読賜りまして、誠にありがとうございます。
重く深いテーマに向き合いながらも、登場人物たちの物語はなお続いております。
彼らの心の揺れや選択の行く末を、これからも温かく見守っていただけますと幸いに存じます。
一歩ずつ前へ進む姿を、読者の皆様と共に感じられますことを心より願っております。
次回も変わらぬご厚情を賜りますよう、何卒よろしくお願い申し上げます。
次回もまた、どうぞよろしくお願いいたします。
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次回更新日:8月30日(土)22時(社会情勢によって変動。)
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