第百七話 盲点
【注意事項】
本作品には自殺や精神的に重いテーマが含まれています。
読む際にはご自身の心身の状態を十分にご考慮ください。
心の不調を感じた場合は、無理に読み進めず、専門機関や信頼できる人に相談されることをおすすめします。
※この作品はフィクションです。登場人物・団体・事件はすべて架空であり、現実の自殺や暴力を肯定・助長する意図はありません。
卓郎が読み上げる。
Case No.02 選ばれなかった学生
発生場所:地方大学
被害者:男性
分類:
教育機関における評価紛争
概要
実習参加の可否を決める最終選考。
実習担当教員への聞き取りでは、
事前指導は実質的に合格者を対象とした最終調整の場であったことが確認された。
ある学生は、十分な準備を重ねていた。
毎日のように相談室へ通い、
資料を作り直し、
夜遅くまで修正を繰り返していた。
相談室の教員の一人は、彼をこう呼んでいた。
「彼はうちの希望の秀才ですよ」
と周囲に語っていた。
相談室の教員は彼へ言った。
「ここまでやったんだから、大丈夫。」
彼は安心したように笑い、
「ありがとうございます。」
と頭を下げた。
教員たちからも期待され、
周囲からは将来を嘱望される存在だった。
また、教授から「資料を作るのが上手だ」とも評価されていた。
経過
しかし、教授との間でトラブルがあったとの証言が残されている。
トラブル後から評価や態度が急に変わった。
合格者一覧に、彼の名前だけがなかった。
理由は、
「評価点が基準に届かなかったため」
周囲に、講義中に眠り未完成の資料で発表する学生も存在したが、彼らに指摘はなく――指摘は彼に集中していた。
評価基準は開示されず、
採点表も公開されなかった。
本人による異議申し立ては受理されなかった。
やがて学生は大学へ姿を見せなくなる。
調査結果
休学届も、
退学届も提出されていない。
関係者に事情を尋ねても、
「分からない」
という答えしか返ってこなかった。
噂では、
「他大学へ進学した」
とも言われていた。
しかし、その事実を確認できた者はいない。
依頼人
被害者に相談をしていた学生
依頼理由
依頼人は、資料の最後にこう記していた。
「彼は私の恩人だった。」
「もう自分では声を上げられない。」
「だから、今度は私が彼の代わりになる。」
備考──
同講義では、複数の学生に評価のばらつきが確認されている。
いずれも担当教員の裁量範囲内。
法的問題──確認されず。
たけしが読み上げる。
Case No.03 切り取られた映像
分類: SNS上の誹謗中傷・名誉毀損事案
発生場所: 地方都市
被害者: 男性(大学生)
概要
被害者は地方大学へ通う学生。
成績は平均的。
生活態度にも問題はなく、大学からの懲戒歴も確認されていない。
発端
駅構内で口論となる様子を撮影した約二十秒の動画が、SNSへ投稿された。
動画には、被害者が相手へ声を荒らげる場面だけが映されていた。
しかし、後に回収された元動画では、被害者は投稿前から相手に執拗な挑発を受けており、その経緯は編集により削除されていた。
投稿から約六時間で再生回数は五万回を超える。
翌日には複数のまとめサイトや動画転載アカウントが取り上げ、拡散は加速した。
匿名アカウントによる投稿が相次ぎ、
「危険人物」
「大学は何をしている」
「こんな人間を野放しにするな」
などの書き込みが短時間に集中した。
その後、
被害者の氏名、
大学名、
顔写真、
住所とされる情報、
家族に関する情報までがSNS上へ投稿され、
大学や家族へ抗議・問い合わせが相次いだ。
被害状況
被害者はSNS上で事実と異なる内容を否定した。
しかし投稿は拡散を続け、
本人の投稿はほとんど閲覧されなかった。
数日後、
被害者は大学へ登校しなくなる。
一週間後、
自宅で死亡しているのが発見された。
警察は現場の状況などから、自殺と判断した。
添付資料
被害者のスマートフォン。
最後に表示されていた画面。
動画再生回数──128,436回
コメント欄。
「消えろ」
「謝罪しろ」
「なんで生きてるんだ」
その下に残されていた投稿。
「違います。」
投稿者──本人。
返信──なし。
調査結果
拡散の起点となった複数の匿名アカウントは確認された。
しかし、
いずれも事件後に削除。
登録情報は偽名。
発信元は海外事業者のサービスを経由していた。
保存期間経過により契約情報は取得できなかった。
動画編集者および拡散を主導した人物との直接的な関連性は立証できず、
刑事事件としての立件は見送られた。
結果
刑事──投稿者の特定に至らず立件なし
民事──提訴なし
法的手続──終了
依頼人
被害者と同じ大学に通っていた学生。
事件当日から相談を受けていた。
被害者の死亡後、大学を休学。
依頼理由
依頼人は、資料の最後にこう記していた。
「彼は最後まで、『違います』と言い続けていました。」
「でも、その声は誰にも届きませんでした。」
「画面の向こうには大勢の人がいたのに、誰一人として彼の話を聞こうとはしませんでした。」
「動画は消えても、彼は戻りません。」
「私には、この事実を残すことしかできません。」
「どうか、彼が存在したことだけは、誰にも消さないでください。」
ページを閉じる音。 静かすぎて、やけに重く響いた。
「……これらが、“無罪”だとよ」 辰緑は笑った。
いつもご愛読賜りまして、誠にありがとうございます。
重く深いテーマに向き合いながらも、登場人物たちの物語はなお続いております。
彼らの心の揺れや選択の行く末を、これからも温かく見守っていただけますと幸いに存じます。
一歩ずつ前へ進む姿を、読者の皆様と共に感じられますことを心より願っております。
次回も変わらぬご厚情を賜りますよう、何卒よろしくお願い申し上げます。
次回もまた、どうぞよろしくお願いいたします。
―――――――――――――――――――――――――――――――――
次回更新日:8月23日(日)16時(閲覧注意、グロ描写あり),18時,22時(社会情勢によって変動。)
18/25
お詫び:投稿曜日について
8月16日に掲載した「次回更新日」の曜日を勘違いしており、投稿日時を誤って案内しておりました。
【誤】8月23日(土)
【正】8月23日(日)
楽しみにしてくださっていた方、また、誤った案内によって混乱させてしまった方には、本当に申し訳ありません。
正しい投稿曜日は、**8月23日(日)**となります。
今後はこのようなことがないよう、投稿予定をしっかり確認したうえでお知らせするよう努めてまいります。
この度はご迷惑をおかけしてしまい、申し訳ありませんでした。
そして、いつも作品を読んでくださって、本当にありがとうございます。
文責 マイライト




